動員、動員、総動員
本日1回目の更新です。
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──動員、動員、総動員
都市エウロパでの華々しい勝利ののちに、1個大隊分の志願兵は集まった。都市エウロパは元より、近隣の村々からも志願兵が集まった結果だ。
新たに第8独立装甲猟兵大隊を編成。BTR-70装甲兵員輸送車で機動する機械化部隊となった。第7山岳猟兵大隊とほぼ同じだが、第7山岳猟兵大隊が文字通り山岳戦のプロなのに対して、第8独立装甲猟兵大隊は民兵に毛の生えたような練度である。
それでも機械化部隊が増えるのは素直に嬉しいものだ。
第77独立装甲猟兵大隊も戦車部隊をついに戦車中隊とすることとし、13両のT-72主力戦車を装備する強力な部隊となったのであった。加えて今回の戦いの経験から隷下にMT-LB装甲牽引車に82ミリ榴弾砲を搭載した大隊本部隷下自走迫撃砲小隊を編成した。
その他、各戦闘大隊に連絡用及び偵察用車両としてGAZ-2330ティーグル装甲車が導入された。それに伴い各大隊に大隊本部隷下偵察小隊が編成される。
これで在庫がかなり綺麗になってきたというところで砲兵の増強も要請される。現在の122ミリ榴弾砲、130ミリ榴弾砲、152ミリ榴弾砲という火砲をそれぞれ1個中隊だったものを2個中隊に増強。これで砲兵戦力は2個大隊相当。
加えて前進観測班としてバイラクタルTB2無人偵察機を6機増強し12機体制にする。一部の無人偵察機は攻撃に使用することになり、司令部などをピンポイントで攻撃する役割も与えられる。
一先ずのところ、動員に伴う再編成はこの辺りである。
歩兵5個大隊となったスターライン王国抵抗運動はさらなる攻撃か、それとも敵の反応を見るかで意見が別れていた。
スターライン王国抵抗運動指導部は防衛を求めた。今は占領地の回復と物資の蓄積に努めるべきだと主張していた。確かに前線が前進したことで、補給線は伸び、倉庫から砲弾、銃弾、爆弾などを運ぶのにも苦労し始めている。
それに対してソーコルイ・タクティカルはまだ前進できると主張した。彼らは今の弾薬量でも20キロメートル先の都市トリトンまで前進できると主張した。
ソーコルイ・タクティカルが焦っていたのは無人偵察機の偵察映像に都市トリトンにて、布陣を始めるドラゴニア帝国陸軍第29歩兵師団を確認していたからだ。さらには彼らの工兵が飛竜騎兵のための厩舎などを設営しているのを確認していた。
これをこのまま放置すると都市エウロパが敵飛竜騎兵の作戦圏内に入り、都市に対する無差別攻撃も予想された。敵飛竜騎兵は倒すのは容易ではあるものの、数が多い。撃ち漏らした部隊が都市エウロパに火を放てば、今の戦勝ムードが破壊され、士気が落ちる。そのことをソーコルイ・タクティカルは気にしていた。
「前進しましょう」
これに対して女王シャリアーデはソーコルイ・タクティカルの前進を支持。
彼女も都市トリトンに飛竜騎兵の基地ができ、都市エウロパが攻撃されることを恐れていたのだ。今の盛り上がったムードも市街地に飛竜騎兵のブレスで火が放たれるようなことになれば一瞬で厭戦感情が高まるということが予想された。
ソーコルイ・タクティカルは直ちに都市トリトンの攻撃計画を策定。
これまでとは違い砲兵による嫌がらせはなしとし短期決戦を主眼に作戦計画は立案され、即座に実行されることになった。
攻撃時刻は夜間。
作戦開始の合図と同時にバイラクタルTB2がレーザー誘導爆弾で第29歩兵師団司令部を爆撃し、敵の指揮能力を奪う。
さらに第13独立空中機動猟兵大隊が都市トリトン広場に降下し、都市トリトンに敵が逃げ込む前に制圧を完了する。都市トリトンを物資集積所とし、後方にしていた第29歩兵師団はこの時点で大混乱に陥る。
それから砲爆撃が始まる。
増強された砲兵が敵を塹壕陣地に押し込め、大規模魔術攻撃陣地をMiG-29戦闘機が爆撃して破壊し、敵の戦闘力を削っていく。
そして、トドメとばかりに第77独立装甲猟兵大隊がT-72主力戦車を先頭に突き進んでくる。砲撃と機銃掃射を受けて敵の陣地は制圧され、戦車による突破を許してしまう。さらには86式歩兵戦闘車も投入され、戦線の穴を広げると同時に後方に機動する。
第77独立装甲猟兵大隊が第29歩兵師団予備戦力との交戦に突入するのに、これは不味いと考えた前線部隊が後退を図るも第8独立装甲猟兵大隊、第7山岳猟兵大隊を中核とする歩兵部隊と砲爆撃によってあっという間に前線部隊は壊滅する。
ここに来て、兵士たちは装甲部隊を使った戦闘を理解し始めていた。
すなわち、装甲戦力は機動することにより大きな戦果を挙げるということを。速度こそが敵を混乱させ、敵に打撃を与えることになるのだと。
第8独立装甲猟兵大隊には初陣の戦闘で、第8独立装甲猟兵大隊大隊長のボルト・デア・プルート少佐にして伯爵はそのことを学びつつあった。
敵と真正面から撃ち合いしていても、もちろん自動小銃対クロスボウまたは剣なので勝つのはスターライン王国抵抗運動だ。だが、この装甲兵員輸送車というもので塹壕を突破し、後方に回り込み、敵の後方連絡線を遮断すれば、敵は退路や補給線を失うことを知って大混乱に陥り、総崩れとなる。
そこを銃撃してやれば、さらに一方的に戦える。
「クソ! 矢を受けた!」
「抜くな! 出血が酷くなるぞ!」
だが、いくら兵器で勝っていようとも、人と人が戦う以上、死傷者はでるものだなとボルトは思う。今は治癒魔法の使える魔術師も少なく、治癒魔術よりも兵器とともに提供された医療キットの方が役に立っている。
そのうち、軍医なども動員して野戦病院を設営する準備も必要だなとボルトは考えていた。そして、彼は戦況を見渡す。
「敵歩兵、壊滅です、プルート少佐」
「うむ。我々の初陣としてはなかなかのものじゃないか」
敵歩兵はボルトの計画したように後方連絡線を遮断すると、司令部を喪失したこともあって混乱。後方への撤退を試みて、ボルトたちに阻止され、砲撃を浴びて大損害を出した末にスターライン王国抵抗運動に投降した。
第29歩兵師団はほとんど何の抵抗もできないままに壊滅。
都市トリトンの確保というソーコルイ・タクティカルの当初の目的も果たされ、さらには第29歩兵師団による飛竜騎兵基地設営も阻止できた。
ここから先はまた山林が広がる地域で、街道が数本通っている。
人狩り機仕様のMi-24攻撃ヘリが逃げるドラゴニア帝国陸軍の兵士を狩り尽くし、生きて友軍戦線に帰りつけた第29歩兵師団の兵士は10名足らず。残りは戦死するか、捕虜となり、スターライン王国抵抗運動は大規模な捕虜収容所を設営する必要に迫られた。
上位の将校なども捕虜にしており、彼らから情報を聞くということも行われた。必要があれば天竜たちが拷問も行い、高級将校たちから情報を取得した。
それによれば3個師団が順次スターライン王国戦線に投入されており、さらには1個飛竜騎旅団も投入されようとしているとのことであった。
「敵も本腰入れていたな」
「怠けちゃいられませんねー」
「そうだな。ばりばり兵器を売って戦ってもらおう」
敵の飛竜騎兵から機動部隊を守るために新たに第77独立装甲猟兵大隊にZSU-23-4シルカ自走対空砲1個小隊が購入され、85式対空砲も1個大隊分購入され、ガントラックなどに装備された。
また医療関係者から志願者を募り移動野戦病院を装備。軍団衛生大隊として組織。これにはソーコルイ・タクティカルの軍事医療関係のコントラクターからの技術支援もあり、軍医や看護師たちは現代の医療技術について学んだ。
そして、都市トリトンでも志願兵が募られる。
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