ゲリラ狩り、ゲリラ狩り、ゲリラ狩り
本日2回目の更新です。
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──ゲリラ狩り、ゲリラ狩り、ゲリラ狩り
ドラゴニア帝国陸軍の作戦方針は一時的にだが変更された。
敵主力と戦っても勝ち目がないことは第10歩兵師団と第21歩兵師団の壊滅を以てして理解された。今は飛竜騎兵のエアカバーもなく、あったとしても航空優勢は取れない。
ならば、敵の弱点を狙うのみである。
帝国中央に移送されたイーデンたちが言うにはトラックという馬車を動かすだけでも、敵は相当な燃料と予備部品を必要とするという。ならば、敵陣地に浸透し、破壊工作を行えば、敵の作戦行動は著しく低下するはずである。
そういう作戦方針からドラゴニア帝国陸軍はゲリラ戦へと作戦をシフトした。
少数の部隊を敵地に浸透させ、破壊工作を行う。
そのためには山岳を越えなくてはならないが、その山岳越えこそがこの作戦の肝だった。敵の移動手段は不整地の突破に向くものと向かないものがある。そのうち向くものでも、大きすぎて山岳を覆う森林地帯は突破できないと見ていた。
確かに山岳地帯と森林地帯で戦車や装甲車を運用するのはあまり上策とは言えない。ドラゴニア帝国陸軍は短い時間でそれに気づき、作戦を開始したのである。
だが、どういうわけか成功の報告を聞かない。
生きて帰ったものの話によれば、敵の航空戦力に先に発見されていた可能性があるとのことだった。しかし、移動は夜間で、昼間は森の中に隠れているのにどうやって見つけるというのだろうかと東部征伐軍司令部は困惑した。
答えは単純。その航空戦力バイラクタルTB2にサーマルセンサーが搭載されているからである。熱源を探知するこのセンサーによって夜間に移動する敵は不審者としてマークされ、第7山岳猟兵大隊が対応に当たっていた。
このMi-24攻撃ヘリにもサーマルセンサーが搭載されている。
『間もなく目標上空。目標は発見できず』
パイロットの声にティノとシャリアーデが露骨にがっかりする。
『友軍を発見。第7山岳猟兵大隊だ』
「おお! これだけで分かるのか!?」
サーマルセンサーには点滅するストロボを装備した兵士たちが映っていた。
「はい。ストロボという装備を着用している兵士は友軍で間違いありません。また民間人の誤射防止のためにも、山岳地帯への侵入は制限させていただいています」
「ええ。私が許可しました。一時的な処置として受け入れてもらっています」
サーマルセンサーの映像だけでは兵士か民間人かは分かりにくい。
そこで入山規制をかけてもらい、民間人を排除していた。また慎重に慎重を期すために、侵入者は無人偵察機で追跡し、不審な行動を取ったものだけを目標としている。
夜間に移動する。昼間は隠れている。そういう行動を取っているものはマークされている。だから、このMi-24攻撃ヘリを完全な人狩り機として活用できるのである。
『目標を捕捉。警告射撃を実施』
「おお。あれがドラゴニア帝国軍の兵士か」
サーマルセンサーが昼間に隠れるようにして壕を掘って潜んでいる人影を捕捉した。熱源は白く表示され、本人たちは隠れているつもりでも、こちらからは丸わかりである。
『警告射撃実施……。クロスボウを向けてきた。敵で間違いない』
ガンナーがそう言い、20ミリ機関砲F2の砲口を敵に向ける。
『射撃開始』
『射撃開始』
機関砲が火を噴き、放たれた20ミリ機関砲弾がドラゴニア帝国陸軍の兵士の命を狩り取る。敵は為す術もなく撃破され、人体が散らばる様子がサーマルセンサーに捉えられる。6名の敵兵士は一瞬にして全滅した。
『クリア』
『このまま哨戒飛行を実施する』
ヘリは山岳地帯上空をスムーズに飛んでいく。
「先ほどの精密な攻撃といい、この飛竜騎兵すら追いつけない速度といい、驚くべきことばかりですな、鮫浦殿!」
「気に入っていただけたようで何よりです、カリスト子爵閣下」
笑顔のティノに鮫浦が笑みを浮かべて答える。
「この兵器は夜間も飛行できるのですか?」
「もちろんです。夜間飛行も可能です。ソーコルイ・タクティカルのコントラクターたちは訓練されておりますので。難なく任務を遂行するでしょう。よろしければ、夜間飛行もご覧に入れましょうか?」
「いえ。私は鮫浦殿を信頼しています。しかし、この兵器と1個大隊を輸送可能な輸送ヘリがあれば……」
上空から一気に敵陣地を夜間に制圧し、同じく夜間戦闘可能な機械化部隊と合同で瞬く間に谷間を突破できるのはではないかとシャリアーデは考えていた。
彼女は正しい。敵の行動が低調になる夜間に攻撃を仕掛ければ、それも空からの奇襲であれば、この世界の軍隊では陣地を守り切れない。敵から攻撃をほとんど受けることなく、敵陣地を制圧することすら可能であろう。
機械化された歩兵部隊にはクロスボウの矢どころか飛竜騎兵や重竜騎兵のブレスも通用しないし、そもそもそこまでの間合いに入られる前に撃破できることをシャリアーデは知っている。
自走対空砲、ガントラック。そういう兵器も空からの攻撃から地上を守り、さらには戦闘機が上空援護に回る。敵であるドラゴニア帝国陸軍にはサーマルセンサーなどという便利な装備はなく、友軍誤射を恐れて夜間はほとんど攻撃できない。その点でも今のスターライン王国抵抗運動は敵に勝っている。
絶対的な航空優勢と夜間戦闘能力。それだけでも驚異的なのに、この攻撃ヘリの破壊力の凄まじさはもはや表現のしようがない。
『目標捕捉』
『警告射撃実施』
それから32名のドラゴニア帝国陸軍の兵士が為す術もなく壊滅した。
ティノはひたすら興奮しており、もっと攻撃する場面が見たいと言った。シャリアーデは自分たちが手にした力を吟味している。
少なくとも山岳ゲリラはこの攻撃ヘリで迎撃できることが判明した。
後はここからどう動くかだ。
目標としたいのは王都テルス奪還。これは譲れない。
だが、砲爆撃を都市に対して実行してしまうと、ドラゴニア帝国陸軍と同時にスターライン王国臣民まで傷つくことになる。やるならば緻密に計画を立てて、迅速かつ、ピンポイントで敵を攻撃してしまいたい。
鮫浦は魔法のような兵器をいくつも提供してくれていたが、それが可能だろうかとシャリアーデは悩む。できるならばお願いしたい。だが、できないのであれば頭を回らせるしかない。いくら優秀な兵器が揃っていても指揮や作戦計画が疎かでは無意味。
「我々のプランとしましては」
鮫浦がそんなシャリアーデの心を読んだかのようにして語る。
「まず王都テルスに通じる山岳地帯から出た都市。エウロパを攻略したいと考えています。徐々に戦線を押し上げていかなければ砲兵の支援が受けられませんし、エウロパを落とせば、ドラゴニア帝国軍は重要な補給拠点を失うことになります」
「そのプランで王都テルス奪還の際の予行演習をするのですね?」
「そういう意味でもあります。ご心配なのでしょう。民間人を巻き込むのではないかと。その心配は確かに完全には払拭できません。ですが、犠牲を最小限に抑えることはできなくありません」
「では、そのように」
「畏まりました」
そして、中規模都市エウロパ攻略作戦がスターライン王国抵抗運動指導部とソーコルイ・タクティカルのコントラクターたちの手によって立案された。
実行は7日後。
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