あれは一体なんだ!?
本日1回目の更新です。
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──あれはいったいなんだ!?
ドラゴニア帝国陸軍第10歩兵師団。前線の塹壕。
嫌がらせの砲撃は今日は止まっていた。
久しぶりに兵士たちはゆっくりと休み、士気を養おうとしていた。
だが、そこに聞きなれない音が響いてきた。
「なんだ、この音は……?」
「分かりません。斥候を派遣しますか?」
「いや。嫌な予感がする。休憩は中止だ。全ての兵士に戦闘準備させろ」
中隊長の命令でクロスボウを構える兵士たちが並び、近づいてくる音に備える。
「あ、あれは……!?」
現れたのは鋼鉄の獣。
T-72主力戦車であった。
主砲を前方に向けて構え、塹壕に向けて進んでくる。
「て、鉄の象か!? ここにはああいう生き物が生息していたのか!?」
「あ、ありえません! あんな生き物など! 口も目もないではありませんか!」
「そ、そうだな。では、ではあれは人の手によって作られた武器……?」
そこで塹壕に砲撃が降り注ぎ始めた。122ミリ榴弾砲の砲撃だ。
「畜生。これでは顔が出せん!」
砲撃は激しく、塹壕が潰れ、兵士が生き埋めになる。ドラゴニア帝国陸軍のドクトリンでも防衛用の塹壕は横に一筋であった。そこに砲撃が無数に降り注ぐ。大規模魔術攻撃に対する防護手段としての塹壕だったが、この猛砲撃を前にしてはどうしようもない。
兵士たちは次々にやられていき、戦車は迫る。
『シェパードよりムーンベース。砲撃中止を要請』
『ムーンベース、了解』
そして、砲撃が止まったところに戦車が押し寄せた。
口径125ミリの主砲が塹壕に残る兵士を吹き飛ばし、PKT同軸機銃が兵士たちを薙ぎ払う。そして戦車が援護する中、歩兵戦闘車が前に出て、制圧射撃を実行すると同時に、歩兵たちを下ろしていく。
第77独立装甲猟兵大隊の初陣だ。
兵士たちは86式歩兵戦闘車に援護されながら、塹壕内に突入し、敵歩兵と交戦する。銃剣をつけた56式自動小銃を手に、ドラゴニア帝国陸軍の兵士に射撃を浴びせ、銃剣を突き立て、混乱したままのドラゴニア帝国陸軍の兵士たちを排除していく。
「うおおおおっ!」
一部の兵士たちが剣を抜いて襲い掛かろうとするのに銃弾を浴びせて倒したのは象徴的な一幕だろう。彼らは銃の圧倒的優位性を示したのだ。
第77独立装甲猟兵大隊はそのまま塹壕を制圧し、前進。突破口を開いた。
その突破口に向けて後ろから自動車化された歩兵大隊──第13独立猟兵大隊、第7山岳猟兵大隊、第9戦闘工兵大隊が殺到し、突破口を拡大する。戦線全体に渡って砲撃が行われ、敵が動けない中、3個戦闘大隊は敵を制圧した。
第77独立装甲猟兵大隊は前進を継続し、後方の予備戦力と交戦。
ここには130ミリ榴弾砲が投入され、長射程の砲撃が後方の予備戦力を粉砕する。
予備戦力も第77独立装甲猟兵大隊によって撃破され、第77独立装甲猟兵大隊に続いて進んできた3個戦闘大隊によって完全に制圧される。
第10歩兵師団がもはや崩壊寸前だという知らせは直ちにシリナ・ツー・マークグラフ中将に知らされた。各地から上がってくる悲鳴染みた報告に彼はぞっとする。
報告によれば敵戦力は真っすぐ司令部を目指して進んでいるのだ。
「師団長閣下! 今すぐ退避されるべきです!」
「だが、それでは指揮系統が一時的にマヒしてしまうではないか!」
「我々にできることは何もありません! ここに残っても捕虜になるだけです!」
「くっ……! 通信参謀! 通信機材を移動させながら後退できるか!?」
作戦参謀が叫ぶのに、シリナが通信参謀に呼びかける。
「後退速度は遅くなりますが、不可能ではありません!」
「では、指揮通信を行いながら司令部能力を後退させる! 前線の兵士には可能な限りの足止めを命じよ。死守は命じない。これ以上、部下に死んでこいと言えるか」
魔術連隊は損害を覚悟で攻撃して、撃破された。
このスターライン王国戦線ではあまりにも死を必要とする作戦が多すぎた。これは知性と理性の牙城であるドラゴニア帝国軍部にとってあるまじきことである。
兵士を死ぬ覚悟で向かわせるのは結構。だが、死が確定する作戦に投入するのは統帥の邪道。あってはならぬことである。兵士たちには養わなければならない家族がおり、何より皇帝陛下の臣民なのだ。
それを無思慮に死なせるなどあってはならない。
頭を回らせ、可能な限り兵士を生き残らせる策を考えるのが司令官の役目だ。
「東部征伐軍司令部に連絡! 我、敵の大攻勢を受ける! 戦線は崩壊! 第21師団とともに撤退し戦線を立て直すことを提案する!」
馬車に魔道具である通信機を積み込み、馬車内で地図を広げてシリナが叫ぶ。
「撤退許可でました! 404地点まで撤退し、防衛に専念せよとのこと!」
「あそこさえ押さえておけば……」
ドラゴニア帝国も404地点の重要性は理解していた。山岳地に穿たれた谷の唯一の出口であるそこさえ押さえておけば将来援軍を送り込み、戦線を立て直せると踏んだのである。東部征伐軍司令士官ヴァルカ・ツー・ダコタ上級大将の狙いはそれであった。
だが、彼らが考えなければならなかったのは敵の速度だ。
機械化、自動車化されている敵部隊の進軍速度はこの世界の常識を塗り替えている。
今、既に第21歩兵師団の後方が襲撃を受け、司令部が陥落したことをシリナはまだ知っていない。第21歩兵師団の師団長は東部征伐軍司令部と通信を行う暇もなく敵に拘束され、司令部を失った第21歩兵師団は指揮系統を喪失し、混乱状態の中、陣地から動けないように砲撃を受けていた。
仮に彼らが動けたとしても、86式歩兵戦闘車とBTR-70装甲兵員輸送車、ウラル-4320トラックで機動する4個戦闘大隊に追いつけるはずもなく。
第21歩兵師団との連絡が取れないことに東部征伐軍司令部が気づき、命令が変更される。404地点を押さえつつ、敵高速部隊の側面に対して第501重竜騎兵旅団を全力投入するという選択である。
確かに第77独立装甲猟兵大隊を先頭に突き進むスターライン王国抵抗運動の車列は長くなり、その機械化部隊の後方には無防備な敵の自動車化部隊が存在する。
それに打撃を与えることができればというのを、この短い時間で導き出したドラゴニア帝国陸軍の参謀たちの能力は素晴らしいものがある。
第501重竜騎兵旅団が全力で投入され、敵主力と思われる第77独立装甲猟兵大隊との交戦を避けながらその後方に回る。
ドラゴニア帝国陸軍の参謀たちの発想は素晴らしかったが、彼らは空から見張られているということを考えていなかった。
バイラクタルTB2無人偵察機が第501重竜騎兵旅団の動きを掴み、そのことを報告する。直ちに爆装したMiG-29戦闘機が離陸し、敵の重竜騎兵に向かう。
近接航空支援のために積んだ武装は複数。
まずは低空飛行で侵入したMiG-29戦闘機によりS-8ロケット弾が火を噴く。80ミリのロケット弾が重竜騎兵たちを呆気なく八つ裂きにしていき、地上に炎が吹きあがる。まるで見たことのない規模の破壊力を前に第501重竜騎兵旅団の動きが鈍る。
さらにそこにZAB-500ナパーム弾が投下される。地上は火の海になり、第501重竜騎兵旅団の動きがさらに鈍り、その数を大きく減らす。
それでも第501重竜騎兵旅団は猛々しく前進を続けた。
既に数個大隊の仲間を失った。それでも前進する。任務を果たし、友軍を助ける。
第501重竜騎兵旅団はちょうど第13独立猟兵大隊の移動しているトラックに向けて突き進みつつあった。
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