第四次中東戦争って知ってる?
本日2回目の更新です。
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──第四次中東戦争って知ってる?
攻撃が始まった。
1個飛竜騎兵大隊と2個重竜騎兵中隊は死を覚悟して陽動に向かう。
残る部隊は陽動に使った部隊からの通信を待つ。
「通信です。敵と交戦状態に突入せりとのこと」
「よし。部隊を動かせ。攻撃を開始するぞ」
「了解」
第601飛竜騎兵師団、第602飛竜騎兵師団、そして第10歩兵師団が動く。
飛竜騎兵は編隊を組んで高空を飛行し、敵からの探知を避けようとする。
だが、死神はそう簡単に彼らを見逃してはくれなかった。
密集陣形となっている飛竜騎兵に向けて地上から対空砲が打ち上げられる。飛竜騎兵は一瞬で消滅し、肉片になって落下していく。地上からの対空火砲は激しく、飛竜騎兵兵部隊は瞬く間にその数を減らしていく。
「既に2個大隊が壊滅です!」
「どうなっている! 司令部の情報では敵の対空部隊は2個大隊に過ぎないと──」
飛竜騎兵たちはさらに高空を飛び散開するが、対空火砲は追いかけてくる。
実際のところ、確かに対空砲部隊は2個大隊だけだった。
だが、ここになって新手が投入された。
ZSU-23-4シルカ自走対空砲を装備した1個小隊6両の自走対空砲部隊。それがソーコルイ・タクティカルによって運用されていた。
実際のところ、彼らは攻撃の兆候をバイラクタルTB2無人偵察機の情報と、レーダーが捉えた大規模な飛竜騎兵の動きから掴んでいたのだ。
ZSU-23-4シルカ自走対空砲も歴史が長い兵器で、昔は第四次中東戦争で敵の地対空ミサイルを避けて低空飛行するイスラエル軍機を撃墜したりと戦果を上げている。ソ連によるアフガニスタン侵攻にも使用され、その砲の俯角の高さから、山岳ゲリラへの機銃掃射にも使われていた。
第77独立装甲猟兵大隊に随伴する自走対空砲がテクニカルでは不安であるとの鮫浦の提案から1個小隊分6両をシャリアーデが購入することを決意し、ソーコルイ・タクティカルが訓練中であったが、攻撃の気配を察知して投入された。
敵の狙いが倉庫であることは飛竜騎兵の動きから分かっていた。
地対空ミサイルも掻き集められ、攻撃に使用される。
次々に飛竜騎兵が撃墜されるが敵は攻撃を止めようとしない。撤退する気配はない。まるで神風攻撃を仕掛ける大日本帝国軍のパイロットのようだ。
地上からの対空砲火が一時的に弾切れで終わるが、そこでソーコルイ・タクティカルの戦闘機部隊が乱入する。
『アーチャー・リードより全機。トカゲ狩りだ。食い荒らせ』
『ウィルコ』
アーチャー編隊、バーサーカー編隊、チャリオット編隊、ドルイド編隊は次々に短距離空対空ミサイルを放ち、飛竜騎兵を次々に撃墜していく。
12機のMiG-29戦闘機から放たれた計96発の空対空ミサイルは飛竜騎兵たちを八つ裂きにし、次は機関砲でのドッグファイトに入る。
機関砲によって七面鳥撃ちよろしく敵の飛竜騎兵が落ちていく。
飛竜騎兵は戦闘機に応戦せず、というよりもできず、そのまま倉庫に向けて全力で飛行する。だが、その時に生き残っていたのはたったの1個中隊だけだった。
7個大隊の航空戦力が壊滅し、たった1個中隊だけが残った。
「攻撃、攻撃、攻撃!」
目標の倉庫が見えた。ブレスの射程までもう少し──。
そこで倉庫から出てきたものがその希望を打ち砕いた。
在庫の1両のZSU-23-4シルカ自走対空砲。
それが1個中隊の飛竜騎兵を文字通り薙ぎ払った。
『上空クリア』
『アーチャー・リードよりコントロール。こちらでも敵機は確認できない』
『了解』
それから飛竜騎兵からの通信が途絶えた状況で大規模魔術攻撃が始まる。本来ならば、弾着観測を行う飛竜騎兵を残すはずだったが、それはソーコルイ・タクティカルの戦闘機によって撃墜されている。
仕方なく彼らは大体の座標に向かって攻撃を放とうとする。
そこに152ミリ榴弾砲が火を噴いた。
大規模魔術攻撃陣地が大爆発を起こし、きのこ雲が立ち上る。バイラクタルTB2に観測された射撃によって大規模魔術攻撃陣地は次々に潰され、ついには壊滅した。
「危機は去ったー!」
「危ないところでしたね」
地対空ミサイルを構えた天竜とサイードが言う。
「マジでやばかったな。敵の物量はおかしい。だが、これで敵も大打撃を受けたはずだ。あの量のワイバーンをお空から叩き落としてやったんだからな。敵も参っただろう。暫くはこの倉庫に攻撃は仕掛けられないはずだ。しかし!」
鮫浦が木製の倉庫を見る。
「念のためにここをコンクリートで覆ってバンカーにしておこう。敵のワイバーンのブレスがまぐれ当たりして炎上してゲートが閉じたりしたら洒落にならん。しっかりとした防護が必要だな」
「そうですねー。こっちに取り残されるのは勘弁してほしいです」
「うむ。全くだ。というわけで、ソーコルイ・タクティカルの工兵を雇う。鉄筋コンクリート製にしておきたい。魔術師に任せるとただのコンクリート製バンカーになるから少し不安だ」
「ソーコルイ・タクティカルって工兵までいるんですか?」
「いるぞ。自分たちで航空基地を整備することもあるんだ。それに後方の工兵ってのは要は土建屋だからな」
平時には普通にウクライナや欧州で建築業やってるぞと鮫浦が言う。
そのころドラゴニア帝国陸軍の基地では悲痛な空気が流れていた。
飛竜騎兵は1体も帰還しなかった。大規模魔術攻撃は攻撃を実行する前に陣地が吹き飛ばされた。これではどうしようもない。
東部航空軍団は文字通り全滅。
第601飛竜騎兵師団師団長のムリースは喉を短刀で突いて自害し、第602飛竜騎兵師団師団長は軍医が精神に異常をきたしたと診断して解任された。
タイラーも帝国中央に説明を求められて帰還し、東部の防空網に大きな穴が開いた。
それからはスターライン王国抵抗運動のやりたい放題だった。
バイラクタルTB2無人偵察機は我が物顔で陣地上空を飛び回り砲撃を誘導する。
MiG-29戦闘機は兵舎に爆弾を次々に投下し、第501重竜騎兵旅団も大打撃を受ける。
兵士たちは常に塹壕で寝泊まりしなければならなくなり、士気はどんどん落ちていく。精鋭である第501重竜騎兵旅団も余りの損害を前に動揺し、どうしていいのか分からず、とにかく後方に下がった。
「攻撃準備は完了した」
無人偵察機の最新の映像を基に作成された地図を前に鮫浦が告げる。
「敵の装甲機動部隊は後退。前線兵士の士気は最低だ。俺たちが昼夜を問わず爆弾を落として、砲撃を加えているんだからな」
事実、ドラゴニア帝国陸軍の士気はドラゴニア帝国陸軍だからこそ維持されているというレベルであり、最低にまで落ちていた。彼らは塹壕のぬめった泥の中で過ごし、塹壕足に苦しみ、眠りを妨げる砲撃を恨み、戦闘機の爆撃に怯えていた。
「女王陛下。今をおいて攻撃のチャンスはありません。是非とも攻撃のご命令を」
鮫浦が背後を振り返って女王シャリアーデにそう言う。
「成功は確実ですか?」
「戦に百戦百勝はないと言いますが、今回は間違いなく勝てます。負ける要素がありません。敵の2個歩兵師団を制圧し、勝利へと導きましょう」
地図に記された攻撃前進の終点は山岳地帯の間にぽっかりと穿たれた谷。そこを塞げば敵は大規模な戦力を送り込むために今や機械化されたスターライン王国抵抗運動の戦線を突破しなければならない。
その地点の地図上での名称は404地点。
スターライン王国抵抗運動は敵2個師団を相手に攻撃を仕掛け、砲爆撃によって敵歩兵師団に打撃を与えると同時に機甲部隊、機械化歩兵部隊、自動車化歩兵部隊を以てして敵陣地を制圧。そのまま前進を継続し404地点にまで達する。
「いいでしょう。始めてください」
「畏まりました、女王陛下」
いよいよ抵抗運動の逆襲が始まる。
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