パーティータイム
本日2回目の更新です。
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──パーティータイム
古参貴族たちの計画は内通者を通じて判明した。
シャリアーデがバンカーにいる時に襲撃を仕掛け、シャリアーデを監禁。同時に鮫浦を襲撃し、殺害。ティノとハーサンについてはシャリアーデからの処刑命令をでっち上げて、公式に処刑する。
古参貴族の内通者は実行予定日を知らせ、そのままシャリアーデ側に戻った。
そして、計画の予定日。
古参貴族たちは兵士が従わないことを予想して自分たちだけで襲撃を仕掛けることにした。イーデンは成功の連絡を待ち、シャリアーデとは別のバンカーに籠る。
古参貴族たちがシャリアーデのいるバンカーに近づいた時だ。
「はいはい。お遊戯はそこまでですよ、お爺ちゃんたち」
突然何かがすり抜けたかと思うと、古参貴族たちが首から血を流して倒れる。
「へへっ。天竜ちゃんは今宵血に飢えているのですよー」
コンバットナイフとHK45自動拳銃を持った天竜だった。
彼女はサプレッサー付きのHK45自動拳銃で古参貴族たちを撃ち抜き、肉薄して頸動脈を切り裂き、心臓を潰し、腎臓を滅多刺しにする。
「ははっ! ふへへっ! どうしましたー? 魔法が強いんじゃなかったんですかー? 魔法を使ってくださいよ、魔法をー!」
血塗れになりながら古参貴族たちを八つ裂きにしていく天竜に古参貴族たちが恐れおののく。運が悪いことに、天竜を押さえられるだろう土魔術が使える古参貴族たちは全員がシャリアーデの側についており、押さえられない。
「炎を受けよ!」
火魔術の使い手たちが火の玉を放つが、天竜はステップを踏んで、それを回避し、お返しに45口径の拳銃弾を古参貴族たちの頭に叩き込んでいく。
「はははっ! 全然当たらないじゃないですかー! 手品より出来が悪いっ!」
天竜が狼狽える古参貴族の懐に潜り込み、腎臓、心臓、頸動脈を一瞬で引き裂く。
「さあさあさあっ! 皆殺しになっちゃいますよー!」
その天竜の暴れ振りをシャリアーデのバンカーから鮫浦とサイード、そしてグッドリックとマクミランが眺めていた。
「イカれてる」
「あいつ、日本情報軍時代に東南アジアに配属されてな。そこで軍閥に囲まれ、ライフル弾が尽きて、拳銃とナイフしかない状態で15分間即応部隊を待たなくちゃいけないとき、敵に突っ込んだんだよ。そして、ナイフだけで1個中隊の完全武装の敵の歩兵部隊を壊滅させたんだ」
グッドリックが思わず呟くのに、鮫浦がそう言う。
「凄まじいものだったらしい。救出されたときは全身から血が滴っていたとか。でも、あいつは笑っていたそうだ。それでついたあだ名が“切り裂き天竜”。そっちのお国のジャック・ザ・リッパーの御親戚だ」
「俺たちの出る幕はなさそうだな」
「いや。あいつ、いきなり電池切れになるから、その時は助けに行ってやってくれ」
グッドリックが言うのに、鮫浦がそう言う。
「あーあ。天竜ちゃんは相手がやる気なさ過ぎてもう飽きちゃったのです。残りはお願いしまーす」
「そら来た。叩き潰せ」
半数以上の古参貴族が屍となっている状態で、離脱した天竜の代わりにHK416自動小銃で武装したグッドリックたちが出る。
彼らは残る古参貴族たちに一方的に銃弾を浴びせかけて、殲滅に追い込む。
「敵が逃げるぞ、中佐」
「足は用意した。使ってくれ」
「LSVか丁度いい」
鮫浦が用意したのはLSV──Light Strike Vehicleだ。アメリカ軍の非装甲車両で、特殊作戦部隊などで使用される車両である。軽量で輸送が容易で、機動性がある。ただし、装甲は全くないので偵察か奇襲のためにしか使えない。
グッドリック、マクミラン、サイードはLSVに乗り込み、逃げる古参貴族たちを追撃する。馬に乗って逃げようとする古参貴族を銃撃して撃破し、生き残りを皆殺しにしていく。この凶報は直ちに真っ先に逃げた古参貴族によってイーデンに伝えられた。
「に、逃げるぞ! 殺されてたまるか!」
「で、ですが、どこにっ!?」
「……ドラゴニア帝国に亡命する」
「祖国を見捨てられるのですのか!?」
「ええい! もう我々の知るスターライン王国は滅亡した! 今あるのは偽りの王国だ! そこから去って何が悪い! ついてこないのならばついてこないでいい!」
イーデンはそう言って馬を走らせて、防衛線の隙間を抜け、ドラゴニア帝国の陣地に向けて逃亡していった。
「中佐。何名か取り逃した」
『大丈夫だ。もうほとんど片づけた。これでもう奴らは手出しできまい』
グッドリックが報告するのに鮫浦がそう返す。
「だとさ」
「仕事は終わりだな」
そう言い合って、グッドリックたちはシャリアーデのバンカーに戻った。
「おう。お帰り。逃げたのはイーデン辺りか?」
「だろう。死体の中に奴はいなかった」
「まあ、奴が俺たちの扱う兵器を理解している様子はなかったし問題はない」
そもそも連中の技術力ではこちらの武器にアドバンテージを得ることは絶対に不可能と鮫浦は断じた。
「社長。このLSVは?」
「そいつは売りものじゃないが……。ソーコルイ・タクティカルの連中も使わないしな。向こうは普通のピックアップトラックで十分だと。いるのか?」
「あれば便利かと」
「じゃあ、買ってもらえるか交渉してみる」
鮫浦はそう言ってシャリアーデの下に戻った。
「女王陛下。逆賊たちはほぼ一掃されました。首魁であるイーデン・デア・メテオールについては取り逃しましたが、ドラゴニア帝国に我々の情報が渡っても、向こうは何もできないことを保証いたしましょう」
「多くの貴族が死にましたね」
「やむを得ない犠牲です。彼らは敗北への道を選ぼうとしたのです。スターライン王国のためには彼らには死んでもらうしかなかったかと」
「そうですね。穴を塞ぐために若手貴族の登用と同時に平民からも功績著しいものたちを登用しましょう。その選抜はあなた方にお任せします、鮫浦殿」
「我々がですか? そういうことはこちら側の古参貴族たちに任せた方がいいのでは? 外国人に政治を任せると、また不満が溜まるかと」
「いいえ。あなた方にお任せしなければなりません。我々はあなた方の兵器について理解できていない。どの人材を登用すべきか分からない。それを理解したものは前線に立っており、私の傍にはいません。古参貴族たちも理解できていません」
「そうですか。それでしたら」
とりあえずフロック辺りは鮫浦たちとの取引に前向きだし、採用したいところだと鮫浦は思った。
しかし、これからは人事もやることになるのかと思うと鮫浦は些かげっそりした。その代わりLSVは女王シャリアーデ直属の護衛であるグッドリックとマクミランのために購入されたので良しとする。
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本日の更新はこれで終了です。
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