クーデターが起きそうです
本日1回目の更新です。
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──クーデターが起きそうです
「凄いぞ! 重竜騎兵より凄い!」
「サラマンダーなんて目じゃないぞ!」
スターライン王国抵抗運動の兵士たちは現れた4両のT-72MIZ主力戦車に大興奮の様子だった。地球ではすっかりやられメカの異名を拝命しているT-72主力戦車も異世界では強力な武器だ。何せ対抗相手が存在しないのだから。
「この86式歩兵戦闘車ってのは中に乗れるみたいだぞ」
「便利なものばかりが届くなあ」
一先ず機甲戦力はアウディス・デア・イオ少佐にして伯爵の指揮下にある第77独立猟兵大隊に預けられることになった。独立猟兵大隊というのは、要は猟師だった市民などを募り結成した民兵部隊だ。だが、今では立派な戦力となっている。
早速後方で2個中隊の機械化部隊による戦闘訓練が始まり、火力投射と迅速な展開が訓練される。T-72主力戦車も参加し、総合的な機甲戦力による戦闘準備が行われる。目標はドラゴニア帝国地上軍2個師団及び航空戦力2個師団だ。
「しかし、よかったのか、カリスト子爵。君が一番にこういうものに興味を示していたと思うのだが。私などは君たちに言われてようやく有用性に気づいたところだ。銃による戦闘は分かる。だが、それ以外のことについては君たちの方が詳しいのでは?」
第77独立猟兵大隊は第77独立装甲猟兵大隊として再編成される予定だ。もっとも、装甲化されているのは2個中隊で残り1個中隊はトラックを利用することになるが。
そのウラル-4320トラックには銃座が作られ、自衛用のDShK38重機関銃が据え付けられている。だが、他の歩兵大隊の戦力は自動車化されたものの、その手の自衛火器を装備していない。鮫浦はその危険性を一応指摘しておいた。
「俺はヘリという装備が到着するのを待っています、イオ伯閣下。ヘリによる上空からの奇襲攻撃。これによって敵の司令部を制圧してしまうことも不可能ではありません。そして、ドラゴニア帝国は指揮系統がしっかりしているからこそ、司令部を制圧すれば敵に大打撃を強いることができます」
「だから、私には機械化部隊を、というわけか。納得した。必ず戦力化しよう。だが、聞いているか。古参貴族たちは我々のことを疎んでいるようだ」
「そうでしょうね。ですが、兵士たちは我々の味方です。彼らは戦場で鮫浦殿たちが提供してくれる兵器の強さを実感している。間違いなく兵士たちに裏切られることはありません。イオ伯閣下もご自身の周りは常に兵士で固めておいてください」
「うむ。そうしよう」
イオやティノ、ハーサンといった若手貴族が兵士たちの支持を受けている反面、古参貴族たちには兵士たちは反感を持っている。兵士たちは祖国を取り戻したいのであり、魔術の権威を守るために現代兵器抜きで戦争をするなどごめんなのだ。
だが、古参貴族たちは魔術の優位が崩れれば、平民たちが貴族に反乱を起こすと思っている。そのため現代兵器を与えることに消極的である。
「今や我々スターライン王国は危機的な状況にある」
秘密の会合が森の中で開かれ、古参貴族たちが集まる。
「あの自動小銃という武器や機関銃という武器。それに戦闘機や戦車。あれらはあってはならないものだ。あれらは平民たちの増長を招き、貴族社会を崩壊させかねない! 魔術こそが戦いの主役でなくてはならないのだ」
そう述べるのはイーデンだ。
「もっともです」
「その通りだ」
古参貴族たちの多くが賛同する。
「しかし、あれらの兵器なくしてどうドラゴニア帝国と戦うつもりだ?」
そこでひとりの古参貴族がそう尋ねた。
「魔術で戦えばいい。平民はいつものように後方からクロスボウでも撃っていればいいのだ。連中が戦いの主役になるなどあってはならない」
「その魔術で戦って我々は負け、この南東の森に逃げ込んだのだぞ。それも殲滅される寸前のところだった。あのまま魔術で戦っていれば、我々は敗北を喫していただろう。それも致命的な敗北だ」
文字通り国が亡ぶと古参貴族のひとりが言う。
「貴公は惑わされている。確かにあの武器商人の武器は派手に見えるが、魔術の方がもっと優美で効果的。平民には使えないという貴族らしさがある」
「そんなもの。儂の時代は平民も貴族もともに畑で働いた。農地を開墾するのに魔法を使い、農民たちは農民たちしか持てない勤勉さと計算高さで作物を育てた。今もそうだ。塹壕の水はけが悪く、泥が貯まるというので、排水溝をつけてやり、土を固めてやれば兵士たちは喜ぶ。そして、兵士たちは数という利点を活かして戦うのだ」
古参貴族は土魔術の使い手だった。ハーサンと同じように今は戦闘工兵大隊で活躍しているほか、各地の陣地の整備を行なっていた。
「ふん。土魔術だけではないか。戦闘には役に立たず、そういうことしかできないのは。他の魔術は違う。魔術こそが主役だ」
「そうでもない。兵士たちが銃声があまりにも煩いというので風魔術で銃声を抑えてやったところ、大変喜んでいた。兵士たちは敬意を以て自分に接しておりましたぞ。魔術で戦闘、戦闘と仰るが、メテオール侯は前線には立たれぬではありませんか」
「そ、それは私は王国宰相であり、相応しい立場として相応しい場所にいなければならないからである」
「女王陛下は頻繁に前線の視察に来られますぞ。主君が危険な戦場に赴くというのに、メテオール侯は安全な場所にいなければならないと?」
「そうだ。女王陛下に万が一のことがあった場合に備えてだな」
「メテオール侯は王権を握るおつもりか!」
古参貴族のひとりが叫ぶ。
「女王陛下が判断を誤るならば、それを正すのは臣下の務めだろう。王権を握るなどとは口聞き悪い。私は女王陛下に今からでも正しい判断をしてもらうつもりだ。そのためにはあの武器商人を排除しなければならない」
イーデンの殺意は鮫浦に向けられている。
「女王陛下については落ち着かれるまで静養していただき、我々はスターライン王国の秩序を取り戻す。武器商人については大逆人として死刑。ティノ・デア・カリスト子爵及びハーサン・デア・マース子爵も同罪とする」
古参貴族たちは頷いている。
「しかし、兵士は納得しませんぞ」
「あの銃という武器は弾が切れれば使い物にならない。我々の魔術はいくらでも行使できる。武器商人さえ死刑にしてしまえばこっちのものだ」
「そうですか」
そして、古参貴族たちの会合は終わった。
反対していたふたりの古参貴族たちは仲間と別れると、真っすぐある方向を目指した。女王シャリアーデのいるバンカーだ。そこには相談役として鮫浦がおり、護衛として天竜とサイードが控えていた。
「ほれ。持ってきましたぞ」
「どれどれ」
古参貴族が持ってきたのはスマートフォンだった。この地域にアンテナは立っていないので通信はできないが、その代わり録画と録音はできる。スマートフォンは古参貴族の秘密の会合の様子を録画していた。
「ということです、女王陛下。我々はどうやら狙われているようですね」
「そのようです。メテオール侯がここまで愚かな男だったことは残念です。彼もいずれは鮫浦殿の兵器について理解すると思っていましたが。このようなことを企てるならば、先手を打つべきかもしれませんね」
「いえいえ。ここは向こうが手出ししてくるのを待ちましょう。下手にこちらから叩いて粛清を行なったと思われても面倒でありますし、向こうが蜂起すれば賛同したものたちを全員特定できます」
「なるほど。そうですね。彼らだけとは限らないのですね」
「そうです。ここは根こそぎ、と行きましょう」
そう言って鮫浦はにやりと笑った。
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