君も抵抗運動で捕虜と握手!
本日2回目の更新です。
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──君も抵抗運動で捕虜と握手!
「うーん。捕虜ですか」
鮫浦は困った表情でシャリアーデの相談に乗っていた。
「そちらではどのような扱いを?」
「戦時国際法に則った人道的対応を。こちらでは?」
「捕虜は強制労働や弾除けに使われます」
「ううむ。そうですか」
シャリアーデは捕虜を数名得ていた。
これまでの戦いで、捕虜になる兵士はゼロではなかった。
墜落して生き残った飛竜騎兵。森で遭難した懲罰歩兵大隊の兵士。部隊が壊滅してどうしていいのか分からず、その場にとどまっていた第2親衛突撃師団の兵士。そして今回の重竜騎兵の兵士。
「ここはひとつ手を打ちましょう。そちらも相当な捕虜を取られていると考えますが」
「ええ。ドラゴニア帝国軍との緒戦の戦いでは我が方は大敗北を喫しました。そのためどれほどの兵士が捕虜になったか……」
「それでは捕虜を人道的に扱い、捕虜の交換を求めましょう。まあ、まだこの人数では相手も応じないでしょうが」
いるのは9名程度の捕虜だ。
「人道的に扱うことに反発を覚える兵士や貴族も出るでしょうが、何か策が?」
「ひとつ。我々の暮らす東方では捕虜は人道的に扱われると言いましたが、それは一部の国では適用されません。一部の国では拷問などが平気で行われています。そのようなことは短期的な利益を得ますが、長期的に考えるとマイナスです」
日本情報軍もテロリストとレッテルを貼った人間を拉致して拷問する、いわゆるブラックサイトを世界各地に持っていたけどなと鮫浦は思いながらも話を進める。
「では、どのように?」
「思想教育です。ドラゴニア帝国は悪いことをした。自分たちはそれを反省しなければいけないということを教育します。そうして思想教育を施した捕虜を帝国に返還すれば、いずれは時限爆弾になるでしょう」
「思想教育……」
「方法はこちらにお任せを。一応のノウハウがあります」
鮫浦はこれもお代のうちとしておいた。
「モデルケースをご覧に入れますので、それを見て学習なさってください。簡単なものです。人間の思想に異なる思想を植え付けるというのは」
日本情報軍のスリーパーエージェントの多くはアジアの戦争で得られた捕虜であることを鮫浦は知っているし、なんなら彼はそれに手を貸している。
「まず必要なのは餌です。捕虜への食事は」
「今ところ、それなりのものを」
「では、一部のスターライン王国に同情的な発言をしたものにはグレードを上げましょう。人は餌につられます。我々の暮らす東方ではリンゴひとつのために祖国を裏切る演説をした捕虜もいるのです」
「そのようなことが?」
「はい」
朝鮮戦争で捕虜になったアメリカ軍を含めた国連軍の兵士たちも、北朝鮮や中国で思想教育を施され、ラジオなどで友軍の士気を下げる演説を行なっていた。それこそリンゴひとつというもののために。
「捕虜同士を集めるのは食事の時と、教育のときだけです。それ以外は孤立させ、娯楽を可能な限り奪います。会話をさせるのは食事と教育のときだけ。娯楽も餌のひとつとなります。食事しか娯楽がなければ? 捕虜は食事の質を上げるために祖国を売るでしょう。間違いありません」
日本情報軍でスリーパーエージェントを育てる時にはもっといろいろとやったが基本はこれだ。娯楽を奪い、食事だけを娯楽にし、それを餌にする。
そして、友軍の前で祖国を売る発言をする。
そうすれば捕虜同士の亀裂が生まれ、やがては全員が引き返せなくなる。
祖国を売ったという事実が、彼らを引き返せなくする。彼らはもはや引けないとしればより苛烈に祖国を批判し、そしてより多くの報酬を得ようとする。リンゴひとつ、肉一切れ、白パン。そういうもののために。
それを記録しておき、彼らにそれを見せる。
彼らは完全に引き返せなくなったと知り、そこで思想教育はほぼ完了する。
後は捕虜を交換し、敵陣に爆薬を放り込むだけだ。
「まあ、まずは捕虜の収容施設から整備しましょう」
鮫浦は図面を描き、その図面に従って土魔術の使い手たちが収容所を作る。
「社長。捕虜に思想教育するんですか?」
「ああ。長期的には拷問して情報を吐かせるより利益になる。どうせ生き残りは下っ端ばかりだ。大した情報はない。下手をすると航空優勢を握って、敵の陣地をお空から眺めている俺たちの方が情報を持ってる」
「天竜ちゃんは戦時国際法とか気にしない悪い子なのでご命令があれば」
「今回はいい。問題は大物を捕えたときだ。そのときは」
「ふへへ」
日本情報軍は捕虜に対して非人道的な行為を行なっているという人権団体の調査は正しい。彼らが“事故”で死んだのは残念なことだ。日本情報軍は各地にブラックサイトを有し、捕虜を拷問している。グアンタナモがマシに見えるぐらいには。
「捕虜の思想教育が成功したら、スリーパーエージェントにもできるし、ちょっとしたサプライズプレゼントにも使える。まあ、抵抗運動の方針次第だな。短期決戦を挑むのならばサプライズプレゼントにしてやった方がいいだろう」
「捕虜はいろいろと使える便利な道具です。しみじみ」
そこでサイードがやってきた。
「サイード。どこに行ってたんだ?」
「指向性散弾を届けに。それから女王──陛下が、社長の構えた店が見たいと」
「いよいよ来たか」
どこからともなく武器がポップするのは抵抗運動には便利かもしれないが、ちょっとした恐怖にもなろう。いったい自分たちはどんな相手と取引をしているのだろうかと。
「丁重にご案内して差し上げろ。車で迎えに行け」
「了解」
「それからグッドリックたちに警戒を続けろと伝えてくれ」
「はい」
サイードもクーデターの気配を察しているのか慎重だ。
「いいんです、社長? 絶対怪しまれますよ?」
「そろそろここいらでネタバラししておいた方がいいだろう。今後の信用問題になる。俺たちが東方の民だって設定はそのままだ。その上でそことここが直接つながったということにしておく。実際に倉庫から出れば東南アジアだ。嘘は吐いてない」
「社長ってば悪い奴ですねー」
「その悪さのおかげで儲かってるんだ。感謝しろよ」
鮫浦はけらけらと笑い、倉庫に向かう。
「それこっちに持ってこい。見せつけておきたい」
「イエッサー。社長、戦車は?」
「倉庫を案内しながら見せる」
「買ってくれますかね?」
「買ってもらうんじゃない。買わせるんだ」
T-72主力戦車がピンクダイヤモンドに変わる。それは絶対だ。
「社長。お連れいたしました」
「ご苦労、サイード」
いずれ買わせる予定のGAZ-2330ティーグル装甲車でサイードがシャリアーデとイーデン、そしてティノとハーサンを連れて来た。
「ようこそ、女王陛下。こちらが我々の構えるM&M貿易の倉庫となります」
「ここにこのようなものが……?」
シャリアーデは明確に戸惑っている。
だが、武器商人というハイエナの前でそのような態度は見せてはいけない。貪り尽くされるだけになるのだから。
「ここにある素晴しい兵器をご紹介しましょう!」
そして、鮫浦は爽やかに笑った。
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本日の更新はこれで終了です。
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