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邪教のマリア  作者: 豚しゃぶポン酢
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野営の一幕

前回のあらすじ


邪教と異端の街

 ウェスレー近郊に傭兵たちの野営が広がっている。というのも、そこへ向かった宣教師二人と異端審問官が十数日前に行方知れずとなったからだ。異端異教が広まっているのは知られていたので、それによって拿捕(だほ)、あるいは殺害されたものと思われた。

 なので軍を編成、派遣し彼らの捜索とそれらの排除を行おうとなったのだ。当然ながら戦闘が予想されるのだが、彼らの表情はまるで暗さを感じない。元々ウェスレーは辺境であり、大した産業も人口も無かったためだ。


「ったく、よりによって何でこんな山奥に…」

「まあ半月しないうちに帰れるだろ」


 野営の端にある焚火(たきび)がパチパチと音を立て、それを囲む三人のうち二人から笑い声が上がった。片方は顔の四角い巨漢、もう片方は頬のやせた小男だ。常備軍(じょうびぐん)の無いこの時代とは言え、何度も戦争に駆り出された傭兵(ようへい)たちには脅威にも思えないのだろう。

 そんな中に一人、暗く険しい面持ちの兵士がいる。カジミール・バロー。今回が初めての実戦となる新兵だ。まだ若々しい顔つきで、首にぐにゃりと曲がった粘土製のロザリオを下げている。


「カジミール、なんか顔暗いぞ?」

「ビビッてんのか?」


 茶化す二人とは対照的に、彼に反応は無い。表情は暗いものの、その顔は恐れや緊張とはまた違う顔だった。無視された兵士たちは訳が分からず首を傾げあう。少々不快に思ったのかもしれない。


「親父さんがあそこに行ったんだよ」


 そうした彼らのもとに一人の男が来た。傭兵団の団長、エリク・レアンドルだ。団長と言っても歳はカジミールと変わらないように見える。


「審問官やってる人でな、個人的に探したいそうだ」

「審問官ってこたぁつまり、あのクソ真面目なセバスチャン・バローのことか」


 巨漢の兵士が言い放った言葉にカジミールは露骨に不快感を表した。父親嫌いでない限り当然の反応だろう。ただし、言った当人には悪気などない様子だ。


「わ、悪かった」

「ブルーノ、親父さんには俺もずいぶん世話になったんだ。口に気をつけろよ」


 団長にまで怒られたのが効いたのか、彼の巨体が縮こまってしまった。小男の方は少し呆れながらも笑っている。


「で、レアンドル団長。何か用ですか?」


 ばつが悪そうにブルーノが質問すると、エリクは思い出したような表情をした。


「ああ、そうだそうだ。ハイネスの隊を先行させるんだが、お前らも同行してくれ」

「つってもこんな山奥の村ですよ? 俺たちだけでいいと思いますけどね」


 小男の兵士が首を傾げながら疑問を呈する。確かに防衛陣地ならともかく、村一つであれば中隊一つで事足りる。本当にただの村ならの話だが。


「マルセロ、それは間違っちゃいないんだが……あの妙な吹雪のこともあるしな」


 エリクが山の方を差すと、ウェスレーを囲むように吹雪が吹いているのが見える。どう見ても正常な気象ではない。


「色々調べたが、あんな現象は無かった。異常と言うほかない」

「魔女でもいるんですかねぇ?」


 マルセロが笑いながら茶化した。冗談のつもりだったのだろう。しかし、誰も笑いはしなかった。実際、魔法のような異常気象といっても差し支えない。


「まあ調査も兼ねてってことだ。それとカジミール、お前も同行しろ」


 そう言われた彼が驚いたように顔を上げる。意外だったのだろう。


「ハイネスには説明してある。お前らは大丈夫か?」

「団長命令とあらば従いますよ。新兵の教育にもなりますし」


 エリクが確認を取ると、ブルーノは即答し頷いた。マルセロもそれに続くように小さな頭を縦に振る。


「要件は以上だ。後は好きにしてくれ」

「そうっすか。なら明日は早くなりそうなんで寝ます」


 ブルーノとマルセロはその場を立ち、談笑しながら野営のテントへ去っていった。


「僕は少し訓練してから寝る」


 ようやく口を開いたカジミールが立ち上がり、その場を離れようとした。しかし、次の言葉は疑念に満ちたものだった。


「なあ、おかしくないか?」

「……何が?」


 彼の疑問にエリクが聞き返す。


「ここに来るまでリスの子一匹見なかった。それに虫の声一つしない。山全体が空き家みたいな静けさをしてる」


 言われて耳を澄ませると、野犬や狼の遠吠えどころか虫の音すら聞こえてこない。焚火の音がただパチパチと響いているだけだ。


「この山……いや、あの村にはいったい何が居るんだ?」


 そう言い彼はその場を離れた。あとに残されたエリクは険しい顔で立っている。そこから少しして、彼は焚火を消した。彼の去った後には不気味な静寂ばかりが漂うばかりだった。

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異端の怪物たち

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