周期の変動
シスイとディーナに昔話をしている中、ヴァレアは再びラゴンの街中にいた。行きかう人々の中で誰かを探しているようにも見えるヴァレアは「いや、見間違いか…」どこか物思いにふける様子のヴァレア。
すると「おーいヴァレアくーん」後ろから声がして振り返るとナデシコが手を振りながらヴァレアに近づいていた。
「探したよ。街中にいるのは予想の範疇から外れていたが見つけられてよかったよ」どうやらナデシコはヴァレアを探していたようだ。
「何か用か?」「君が最近街中の様子を伺っている事を聞いてね、私も私なりに調査をしていたんだ。何か異変がないかをね」ヴァレアが何故街の様子を見ているのかが気になったナデシコはディーナには属性の研究のためと言って出ていったが実際はラゴンに何かあるのではないかと思い調査を個人的に進めていた。
「私はこの街に来たのは久しぶりだった、少し観光していただけだが?」ナデシコには特に何もしていないと伝えたが「そうか、なら私も少し調べたんだ。超大型"マリー"の出現周期についてねぇ」ヴァレアは表情を変えナデシコに「それ、は…」「君もさすがにおかしいと思わないか?数十年に一度程の頻度の低さの超大型"マリー"がこんなにも早くに二回も姿を見せているんだ。異変があると断言してもいい」あまりにも早すぎる出現頻度に疑問を抱かずにはいられなかったナデシコ。だがこれはヴァレアも同じことを思っていた。
「その原因が分かると言うのか?」ナデシコの口ぶりに的に何かを知っているように思えたヴァレア。
「あくまでも仮説に過ぎない。確証のないことでも聞くかい?」集めた情報だけでは足りないがある程度の仮説は立証出来るナデシコだが真実では無い事も含まれているため誤情報を与えてしまう事を念頭におくようにヴァレアに伝えた。
ヴァレアは頷き「ああ、聞かせてくれ。そのために探していたんだろ?」「その通りさ。その前に場所を変えよう、ここでは人目につきすぎる」誰かに聞かれるためヴァレアとナデシコは人目につかない場所に移動した。
ラゴンの路地裏に来た二人は辺りを見渡し誰もいない事を確認するとナデシコは話を進めた。
「超大型"マリー"の周期の変動は奴らの住処が失った可能性がある」「住処が失った?」「生物の大半は無意識の内に住処を、縄張りを作るものだ。それは"マリー"でも例外ではない。縄張り争いに負けて彷徨っている"マリー"は新たな縄張りを求めて人間の住む町を襲うこともある。ここまでは君も知ってるだろ?」
口元に手を当て少し考える素振りを見せた後にヴァレアはある事に気が付き「超大型"マリー"が縄張り争いに負けて彷徨っていると言うのか?」周期の変動、それは超大型"マリー"が縄張り争いに負け新たな縄張りを探している可能性が出てきた。
「その可能性もある」「だが現実的に考えれば超大型"マリー"が縄張り争いに負けるなんてありえないだろ」二つ名"リンドウ"が複数人いてようやく相手出来る超大型”マリー”がただの”マリー”相手に縄張り争いに負けるなんて基本的にはありえない。
「それに関しては同意見だ。超大型”マリー”が追い出されるなんて考えられない。だが、出ていかねばならない状況に陥ってしまったら、どうなる?」「…住処を探しに動く、だから邪魔な街や人間を襲う」「そういうことさ」論理的に考えを見せるナデシコ。
だがヴァレアにはもう一つ疑問があった。「住処がなくなるということは何者かが超大型”マリー”の住処を失わせた……まさか、奴らが?」あの存在に気が付き始めたヴァレア。「”アフィシャル”、奴らが関与している可能性が高い。さすがに奴らも超大型”マリー”を屈服させることは出来ないだろう。だが奴らの縄張りを荒らすことは出来る。何の目的かは分からないが、ろくでもない研究でもしているんだろう」
全ては考察の余地が出ないが超大型”マリー”の周期の変動は”アフィシャル”が関与している可能性がある。「あくまでこれは可能性だ。全ては空想に過ぎない。信じるかどうかは君次第だが」「いやありがとう。超大型”マリー”の周期を変動させる存在がいる、この可能性が出来ただけでも私達は優位に進められる。感謝する、ナデシコ」属性研究員だが短期間でここまでの考察を練られるナデシコを評価しないわけなかった。
「私もこの街が好きなんでねぇ。互いに守る対象が同じであれば協力していこうではないか」密にナデシコもラゴンの街並は気に入っており街を守るためにもヴァレアや”リンドウ”には協力を惜しまなかった。
「後はこのことを彼女達に共有をして…」「いやあいつらにはこのことは隠しておく」少し理解のできないことを言ったヴァレアにナデシコは「えっ」ときょとんとした顔になった。
「余計な情報を与えて困惑させる訳にはいかない。超大型”マリー”戦に向けて万全を尽くしてもらうためにも私達だけで留めておく。討滅に完了した時にこのことは伝える」一筋縄ではいかない超大型”マリー”討滅戦に少しでも負担をかけさせたくないヴァレアは共有すれば心配事を増やしてしまうおそれがあり集中出来なくなってしまうため共有はしない判断とした。この判断にナデシコは納得し「なるほど、すまない考えなしの発言だった」理解してヴァレアに謝罪した。
ナデシコはヴァレアから振り返り「私からの情報はここまでだ。また何かあれば伝えるよ」「ああ…」ヴァレアの顔を見ると何かを考えている表情が見えたナデシコは「まだ何かあるのかい?」と質問をすると「…いや、ただの私の勘ではあるが、超大型”マリー”以外に大きな敵が動いている気がするんだ。ほんの僅かではあるがラゴンの周囲から地響きがあるんだ、誰しもが気が付かない程度ではあるが」ナデシコや”リンドウ”ですらない僅かな地響き、ヴァレアしか感じない違和感にナデシコは右手で顎に触れ「ふむ、それは興味深い。君しか感じない違和感。だがあまり気にし過ぎるのもよくない。もし最悪の想定が起こってしまえば君が”マリー”と対峙しなければならないんだ」討滅に向かうのは四人の”リンドウ”だがヴァレアにも戦闘の可能性があると伝えた。
「分かっている。だが勝つさ、あいつらなら」自信に満ち溢れた表情にナデシコはほくそ笑み「ふっそうだねぇ。彼女達は負けないか。私は先に戻っているよ」ヴァレアに手を振ってヒガンの家に帰っていった。そのままヴァレアも歩き出し超大型”マリー”の調査と探索を進めた。
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それから二日が経ち一向に超大型”マリー”が姿を見せない中シスイとソニア以外はヒガンの家にいた。ディーナはテーブルに複数のマガジンを並べ創り出した属性弾をマガジンに込めていた。フェリスとクロカはナデシコから勉強を教わりヴァレアは日々の疲れからか家にあるソファに座りながら仮眠をとっていた。
ヒガンはディーナの隣に座り属性弾を創っては込めている姿を見て「掌に込めて創り出すのか、間近で見ても摩訶不思議な属性じゃ。わっちもそのような属性は見たこともないのう」改めて見ても不可思議な属性に興味津々のヒガン。
「属性は多種多様ではあるけど私の属性は変わってるって自分でも思うよ」「じゃがそれに相応しい二つ名を持っておる」「”奇術の属性弾”は個人的に気に入っているよ。私にしか出来ないんだったら私がやるだけだからね」「ふふっ良き心がけじゃ」
全てのマガジンに属性弾を込め終わったディーナはマガジンを懐に閉まっていると「そういえば貴方の属性は何?まだ知らなかったよ」ヒガンの属性は明かしていなかった。ディーナはヒガンの属性を聞いた。「あぁそういえば言ってなかったのう。わっちの属性は操奴と同じで…」ヒガンが明かそうとしたその時家の扉が勢いよく開いた。ヴァレアも起きて一斉に扉の方を見るとそこにはシスイがいた。
シスイはかなり焦っている様子で全員に聞こえる声で「皆様、超大型”マリー”が現れました!急ぎ合流を!!」とうとう姿を見せた超大型”マリー”。ディーナとヒガンは立ち上がりシスイの元に行き「やっと姿を見せたわね、シスイ、急いで案内して」「わっちらの準備を万全じゃ」
この時に向けて既に準備万全の二人。
「現状、ソニア様が一人超大型”マリー”の動向を確認中です。このままではたった一人で超大型”マリー”に挑んでしまいます!」それを聞いたヴァレアも立ち上がり「シスイ、急げ。二人を早く案内するんだ。ソニア一人では勝てない相手だ」二つ名を持つ”リンドウ”でも相手が強大過ぎる。たった一人では勝ち目はない。
ディーナはフェリスに振り返り「すぐ戻るから、待ってて。必ず勝ってくるよ」心配そうに見つめるフェリスだがディーナの顔を見ると少し安心して「うん、お姉ちゃん頑張って!」と、応援した。「わっちも行く、帰った際は祝勝会でケーキでも作ろうかのう」「ヒガンなら勝てる。ケーキを楽しみに待ってるの!」”リンドウ”達の勝利しか見ていないクロカはフェリスと同じく笑顔で見送ることに。
「それではこちらです!」シスイは先に出て、ディーナとヒガンも急ぎシスイの後をついて行った。
残された四人。見送った後も少し不安そうにするフェリス。そんなフェリスを見てナデシコは肩に手を置き「大丈夫さ、何度も死闘を潜りぬけてきたディーナ君だ。今回もきっと無事に戻ってくるさ」フィリスの不安を解消するべく優しい言葉をかけた。「うん、きっと大丈夫」一ヶ月位以上一緒にいるナデシコの言葉にもとても安心を持てるフィリスの不安は解消される。
「二つ名”リンドウ”が四人、それに皇帝のヒガンさんもいる。無事に…」何かを言おうとしたその時ヴァレアの表情が変わった。「この感覚…属性が破られた…まさかっ!」ヴァレアはナデシコに「二人を頼む、確かめたいことがある」そう言ってヴァレアは家から飛び出していった。
「ヴァレアさん?」突然出て行ったヴァレアに不思議そうな顔をするフェリス。「ふぅむ、君の勘が当たったのか?」昨日の話の最中の勘、表情からして超大型”マリー”以外の危機が迫っているかもしれなかった。




