道標
ソニアの二つ名"可憐の雷霆姫"の名の通り彼女の属性は雷属性、瞬時に"マリー"を討伐出来るだけの実力と技量を持ち合わせていた。
「お見事、さすが二つ名"リンドウ"ね」初めてソニアの属性を目の当たりにしたディーナは素直に褒めたがソニアは「賞賛は必要ありません。この程度"リンドウ"であれば当然です」当たり前の事だと言った。ソニアは弓のミズバを強く握るとミズバは電流が流れたと同時に蜃気楼のように消えた。
ソニアは一息ついた後に「興が冷めました。付近に超大型"マリー"の影も姿も無し、今は安全と判断致します。私は帰路につかせて頂きます」超大型"マリー"は現状ではこの付近に居ないと分かったソニアはラゴンに戻ることにし、ディーナ達を追い越し一人街に戻って行った。
一人帰っていくソニアにディーナは「まだ心は開いてくれないね、でも心強い味方なのは変わらなそうで良かったよ」必要以上の会話はしないソニア。そんなソニアの心を開いて親しい仲間になろうと思っていた。
「私達も帰ろうか」「そうですね~」ディーナとシスイもヒガンの家に帰ろうとソニア続いて歩いていった。だがディーナはふとこんなことを考えていた。「”マリー”あれだけだったのかな?人型は集団で行動しているのが多いけど…まぁ考えても仕方ないか。終わったことだし早くフェリスに会いに行こ」群れで動く傾向がある人型"マリー"だが少し数が少ないと思ったディーナだがあまり気にせずにいた。
だが、少しディーナ達とは離れた場所に座り煙管を吸っていたヒガンは煙を吐くと「さすがじゃソニア。あの距離から寸分たがわず"マリー"の急所を射止めるとは、よき活躍を期待しておるぞ」ソニアの弓術を見ていたようで技量は一級品に超大型"マリー"の期待を持っていた。
ヒガンは立ち上がり「さてわっちも帰るとするか。久方ぶりの実践じゃ、感覚を取り戻すには絶好じゃったな。礼を言うぞ、最初で最後のな」ヒガンが椅子がわりにしていたのは無数の人型"マリー"の屍の上だった。”マリー”は何かの属性によってヒガンに討伐されたらしいのだが目立った外傷はなかった。
煙管を一度吸って吐いた後に吸い殻を”マリー”の上に捨てた後にヒガンはその場から立ち去った。
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それから数日が経ち、あの集団の人型”マリー”の襲撃以来”マリー”の気配はなく、超大型”マリー”の影も形も見当たらなかった。
ディーナやフェリス、ナデシコはヒガンとクロカに連日ラゴンの街を案内してもらっていた。前回は来たが観光もできずに帰ってしまったため超大型”マリー”討滅戦に向けてちょっとした息抜きをしていた。幻想的な街並のラゴンの観光はディーナ達をとても楽しんでいた。
特にフェリスとクロカは友達同士毎日楽しくお話や遊んで笑顔の二人を毎日見るようになっていた。
観光を楽しむディーナ達だがシスイは超大型”マリー”の動向を確認しており、いつどこで超大型”マリー”が出現するかは分からないため警戒を怠っていなかった。ソニアは超大型”マリー”の様子や他の”マリー”の偵察を夜遅くまで見回っていた。息抜きも必要とディーナが言ったがあまり聞く耳を持たなかった。ヴァレアは日々の業務やラゴンの街並の様子を見ていた。ヴァレアにとってはこの街もかなり思い入れがある街らしく懐かしさに浸りながら業務と息抜きを交互にしていた。
そんな日々を繰り返す中でもう一人の昔話を聞くことにした。
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昼下がり、超大型マリー”が姿を現さない中ディーナは一人ヒガンの家にいた。ある程度観光でラゴンを見終わったディーナは家でゆっくりとしており、フィリスとクロカとヒガンは三人で出かけておりナデシコは研究のため一人外に。ヴァレア達は超大型”マリー”の偵察に向かっていた。
ディーナは二つ愛銃、ローゼンとフォーリーの手入れをしていると家の扉が開いた。ディーナが顔を上げるとそこには偵察に行ったはずのシスイが。
「あれ、今日は行かないの?」毎日赴いていたため少し不思議な顔をするディーナにシスイはいつもの笑顔で「本日はヴァレア様が変わりに見張りをしてくださいます~。毎日では気が張ってしまうとのことで本日は休日です~ヴァレア様は本当にお優しいです~」そう言いながらディーナの隣に座った。
「ディーナ様は銃のお手入れですか~?」「まぁね。いつ"マリー"がくるかなんて分からないから。手入れは万全にしておかないと、チハツにも怒られちゃうしね」どんな属性弾をも耐える二つの銃を自分の宝として、大切に扱うと心に決めたディーナ。
銃の手入れを続けるディーナはシスイに「貴方の短刀もチハツに作ってもらったの?」二つ名"リンドウ"の持つ武器はチハツが作っているものが多くシスイの短刀もチハツに作ってもらったかと聞くとシスイは首を横に振り「いいえ~私のこの刀は先祖代々より受け継がれる家宝なのです~この子のお名前は"フリージア"と言います~」シスイはフリージアは机に置いた。「まぁ、私が持って良いものなのかは分かりませんが」少し悲しそうな表情を浮かべた。
その表情を見逃さなかったディーナは「シスイはなんであんなにもヴァレアを慕ってるの?」悲しい表情から少し驚く表情に変え「なんでと申されましても、ヴァレア様だからとしか言えませんよ~」
「いやそれはそうなんだけどね。そのきっかけを知りたいと思ってね。シスイと二人きりになることなんてあんまり無かったからシスイの事を聞きたいと思ってね」
ヴァレアに対しての忠誠心はいつから芽生えたのかが気になったディーナ。
少しだけ沈黙となった空間にシスイは口を開けて「……私は暗殺一家、リア家の娘として産まれました」「暗殺一家?」「はい、暗殺者と言えば真っ先に名前が上がる程の裏社会では知名度が高い一家です。先祖代々暗殺を仕事にしておりました。私もその血が流れいずれは暗殺者として生きていく宿命でした」
机の上に置いたフリージアを優しく撫で「幼少の頃から暗殺術を仕込まれ、人を殺める術を身につけていきました。私は属性と才能は暗殺にとっては天才と称されました。そして、私は十歳の時にフリージアを手渡され初めてこの手で人を殺めました」あまりに若すぎることディーナは「そんなにも早くに…」それ以上の言葉が出てこなかった。
「初めては人と”マリー”の見分けもつかないほど人を殺めてきた人だったので戸惑いはなかったですが、今でも覚えています。この刀で冷たくなっていく人の感覚を」シスイは自分の手をじっと見つめて「それからは仕事として、暗躍する悪い人を暗殺していきました。最初は恐怖も感じていましたが、気づけば悪人を裁くことに何の感情も湧かなくなりました。その仕事ぶりに次期当主とも言われました」
シスイは手を下ろしてもの想いにふける中で「ですが、どうしても、私は一般の方を手にかけるのはどうしても出来ませんでした」「…どうして?」「私は罪の無い人を殺めたくはない。当主からは仕事だと割り切れと言われましたが、一般の方の暗殺は断り続けました」シスイは当時から優しい感情はありその感情から暗殺はあくまで悪人だけと心のどこかで誓っていた。
「それから数年が経ち私の元にある仕事が入りました。”最強のリンドウ”を殺せと」「えっヴァレアの暗殺の依頼が入ったの!?」これにはディーナも驚きを隠せなかった。
「はい、ヴァレア様をよく思っていない人からの依頼でした。人々守る”リンドウ”の暗殺はしたくありません。ですが当主から直々に申された私は断ることが出来ずにヴァレア様の暗殺を決行しました。
ですが結果は私は惨敗に終わりました。最強と呼ばれる”リンドウ”に敵うはずがありませんでした。初めて敗北して初めて失敗をしました。自分の中で奢りがあったのでしょう。暗殺の失敗は死を意味します、自らの運命を受け入れヴァレア様に殺されるのを待っていましたがヴァレア様は私殺すことはせずに見逃しました」
シスイは目を閉じ当時のことを思い返していた。目を閉じながら「見逃され無様に生き残った私に待っていたのは叱責と失望でした。数多の罵声を浴びせられました。そして名誉挽回の最後のチャンスとして今度はネルル様の暗殺を命じられました」まだ話している最中だったがディーナは「ねぇシスイ。もしかしてだけでもうシスイには…」あることに気が付いたディーナ。
目を開けたシスイは「そうです、私は既に用済みということです。一家からすれば殺しに人を選び暗殺を失敗に終わった私に戻る場所はなく、ネルル様の暗殺か心中するかの二択を与えられました。
どちらにせよ死ぬのならヴァレア様に斬られたいと思った私はヴァレア様とネルル様が親しい関係という情報を獲て、二人しかいない日を狙いました…」
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決行日であった二年前、シスイはルムロの王宮に忍び玉座の間の部屋に侵入した。ありとあらゆる厳重な警備をかいくぐりようやくたどり着いた玉座の間、だが違和感としては大国にしては警備が手薄ではないかと思っていたシスイだがそんな事を考える余裕はなく、身を隠しその眼には玉座に座るネルルとヴァレアの二人がいる。
シスイはフリージアを逆手に少し息遣いを荒くし「もういい、ネルルは狙いません。無様な最後でもいです、私を殺してくれれば…!」元よりネルルを殺すつもりはなくヴァレアに立ち向かって殺されようとしていたシスイは意を決して自身の属性で姿を消してヴァレアの背後に回り心臓部を突き刺そうとそたが、その目の前には刀の矛先は眉間に向けるヴァレアが振り返っていた。
こちらの思惑などお見通しだったヴァレア。シスイはフリージアを地面に落としそのまま座り込み「やはり、敵いませんか。どうぞ、すきにしてください」死を覚悟したシスイだがどこか安らぎの表情を浮かべた。
だがヴァレアは刀を鞘に納め「シスイ・リアだな」突然知るはずもない自分の名前を呼ばれたシスイは「ど、どうして私の名前を?」驚き固まるシスイ。ヴァレアは「私を殺そうとした奴はいるがお前は違う。私に対する明確な殺意がなかった。そこで少し調べさせてもらったがリア家の人間だったとはな」
ここでネルルが立ち上がり座り込むシスイの前に立ち「貴様の一家が私を暗殺するという情報は掴んでいた。こちらも早急に手を打たせてもらった、ここにいるヴァレアが先ほど一家を壊滅させたところだ」信じられない発言をしたネルル。唖然とするシスイは考える思考もなかった。
「リア家が行ってきた悪行は目に余る。一般人ですら平然と手にかける一家を野放しにすることは出来なかった。そしてネルル暗殺の情報、これ以上の被害を増やさないためにも私が引導を渡した」「あく、ぎょう…?」「貴様は知らないようだがリア家は金で雇えばたとえ子供であろうと関係なしに暗殺をする危険すぎる一家だった。私とヴァレアはこの極悪非道の行いを止めるべくリア家をヴァレアが暗殺する手段をとった。もはやそれしか方法がなかった」
数々の新事実を聞かされるシスイは情緒がおかしくなる一歩手前だった。仮にヴァレアとネルルの暗殺に成功したとしても帰る場所は無くなっていた。生きていても何も残るものはなかった。
絶望するシスイだがヴァレアは「だが、お前は一度も民間人を手にかけたことがないことも知っている」うつむいているシスイはこの言葉で顔を上げヴァレアを見上げた。
「警備が少し手薄にしたとは言え王宮の包囲網を突破したのは見事だ。そして民間人を殺さない精神、リア家でもお前は違う」そう言ってヴァレアはネルルが落としたフリージアを手に取り柄をシスイに向けて「その力を”リンドウ”のために、ルムロのために、世界のために使わないか?その力と心を失うのはあまりに惜しい」続けてネルルも「汚れ仕事には変わらないがこの”マリー”がはびこる世界には”マリー”を利用する”リンドウ”もおる、そんな奴らの粛清も必要なんだ」
全く予期していなかった新しい道への提示、同じ暗殺でもそれは世界を守るための暗殺。誰かを守るためになんて考えたこともなかった。
行き止まりだった道に道標を作りだしてくれたヴァレアにシスイは立ち上がる手渡されたフリージアを逆手に持ち「…私に道を示してくださりありがとうございます。それに応じるべくここより貴方様の命を最優先にさせていただきます。なんなりと申し付けてください、ヴァレア様」この日より、シスイは”リンドウ”となり同時にルムロ専属の暗殺者となった。
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ディーナにあらいざらい自分の過去を話したシスイ。ディーナはシスイに「そんな過去があったんだね。貴方も辛い思いをしていたんだね」リア家の葛藤などシスイにも辛い過去があった事を知った。
「ヴァレア様に出会うまで生きた心地がしませんでした。ですが、今はディーナ様やソニア様など多くのお仲間が出来ました。皆様とても心優しい人ばかりです。私は今とても幸せものです~」リア家で暗殺していたころよりも今の方が生を実感し何より幸せを感じていた。今ほど充実した生活は考えられなかった。
シスイがフリージアを腰に戻すと同時に家の扉が開くとフェリス達が帰ってきた。フェリスはシスイを見ると「あれ、シスイさん今日は行かないの?」「はい~本日は休日をもらいました~せっかくですから皆様と遊びます~」と言って椅子から立ち上がりフィリス達の方へと歩いて行ったシスイ。ディーナはそんなシスイの背中を見て「ヴァレアに会えてよかったわね。その優しさがヴァレアにも伝わったのかな?」と心の中でつぶやいた。




