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カエデ  作者: アザレア
討滅戦~過ぎ去りし代償~
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亡国の王女


ヒガンは自らを皇帝と名乗った。「お前知らずにヒガンさんと接していたのか?流石に少し失礼だぞ」ヴァレアはため息混じりにディーナに伝えた。


「いやいや分かるわけないでしょ。確かに"アフィシャル"に単独で乗り込んで何も無かったって言うぐらいだから強いとは思ってたけど"リンドウ"でまさか皇帝なんて想像つかないでしょ」

「わっちも基本的には隠しておる。そもそも表立った行動というのは避けておるからのう」


このやり取りにシスイはニコニコと笑いソニアは黙って無表情だった。

だがここで「すまないが皇帝とはなんだい?"リンドウ"関連なのは分かるが聞き馴染みがなくてねぇ」ナデシコが皇帝の詳細を聞いた。


「そっかナデシコは分からないよね。"リンドウ"の界隈でしか出回っていない事だから。

えっと、私達は"リンドウ"でその"リンドウ"の中でも特に活躍した人には二つ名を貰える」

ナデシコは腕を組んで「そこまでは一般常識だが」と当たり前の発言をするディーナに一言添えた。


「でもここからさらに活躍したり名声を上げて誰も届かない雲の上の存在になった二つ名"リンドウ"には"リンドウ"のもう一個与えられる、最高格の称号"皇帝"が貰えるの。私も皇帝に会うのは二人目とかだからビックリしちゃったよ」

皇帝、それは"リンドウ"の最高格の存在であり全ての"リンドウ"が尊敬し敬う称号である。

一般的に知られる"リンドウ"の最高格は二つ名であるが皇帝は"リンドウ"の中でしか知られていない。皇帝はカリスマ性の人格や他を圧倒する属性や身体能力、人々の名声等全てを持った"リンドウ"が成れるほんのひと握りの称号である。


「ほう、それはまた興味深い。私ですら知らなかった皇帝の称号、世界に有数しか居ないのは分かる。だが君が会った一人目と言うのは分かる。彼女だろ?」ナデシコはそう言ってヴァレアの方に顔を向けた。

「正解。ヴァレアも皇帝の一人だよ。まぁヴァレアが皇帝になれなきゃ正直誰もなれないと思うけど」"最強のリンドウ"であるヴァレアも皇帝の称号を持つ一人である。


ヴァレアは向けられた目線に合わせることなく「私の身分なんてどうでもいい。それよりも超大型"マリー"の討伐会議だ。先に入ってるぞ」と、言ってヴァレアはヒガンの家に入っていた。


「ありゃりゃ、照れ隠し?」ディーナはヴァレアが照れているのを珍しがっていたが「いやぁわっちが作った菓子の匂いにつられて中に入ったのじゃろう。彼奴の食に対しての嗅覚は猛獣以上じゃからのう」大食漢のヴァレアはヒガンの作った菓子などの匂いにつられて入ったようだ。

「あぁそう。確かにちょっと早口だった」ヴァレアは食が絡むと早口になる傾向がある。


「外で話すのも何じゃ。家に入れ、けーきを用意してあるぞ」ヒガンは家に戻った。「ウチらも一緒にケーキを食べるの」「うん!」二人は手を繋ぎながら家に入った。

今までのやり取りを一切表情を変えず無表情で無言だったソニアも家に入った。


「私達も入りましょうか~」「そうするとしようか」ナデシコとシスイも家に入ろうと歩を進めたが唯一立ち止まったまま動かないディーナ。

「ディーナ君、どうしたんだい?」一歩も動こうとしないディーナに不思議に思ったナデシコは声をかけた。「……いえ、何でも」ボーッとしていたのではなく何か考え事をしていたようにも思えたナデシコだったが何も言及することはなかった。


ディーナも歩を進め家に入ろうとした時「どうやらあの子も訳ありのようね」と誰のも聞こえない声でボソッと話した。


----------


ヒガンが用意してあったケーキは3ホールで2つホールはヴァレア以外が全員で分けてヴァレアは一つのホールを一人で食べた。「どうじゃヴァレア、良い仕上がりじゃろ?」味の感想を聞いたヒガン。


食べ終わりハンカチで口元を拭いたヴァレアは「少し甘すぎる、さくらんぼの食感と味を合わせて砂糖を多く使ったのだろうがこれではさくらんぼの良さが半減する。後、自作のクリームの味は美味かったが固めに作った結果ケーキのスポンジとはあまり合わない、もう少し柔らかめに作ればより良いケーキなるだろうな」厳しい意見を伝えるヴァレアにヒガン「主を満足させるのはまだまだ先になりそうじゃのう」遠い目をするヒガンだがこの結果が見えていたようにも見えた。


「ちょっとヴァレア!ヒガンのケーキが美味しくないって言うの?ヒガンのケーキは世界一なの!」これに怒ったのはクロカ。

「味は美味かった。それに個人の意見だ、このケーキが一番美味しいと言う人もいる。まぁ私は舌が肥えている。私を満足させるケーキが出来ればその腕は確かと言うべきだろう」不敵な笑みを浮かべるヴァレアに「ぐぬぬぬぬ」納得のいっていないクロカ。


そのやり取りをそばで見ていたディーナは心の中で「完食しておいてどの立場で言ってるんだろ」いつも謙虚なヴァレアだが食に関しての自信はどこから湧いてくるのだろうか。


全員がケーキを食べ終えヒガンとクロカが皿を片付け終え全員が少し一息つけると「さて、腹ごしらえは済ませた。これより超大型"マリー"討伐計画を練るぞ」本格的な作戦会議が始まった。


「で、その超大型"マリー"の特徴は?」ディーナはまずその"マリー"の詳細を聞いた。

「そのことについてはわたくしが承ります~。目撃証言の情報収集等はわたくしの得意分野でございますので"マリー"の特徴はわたくしが担当しておりました~」ヴァレアに代わりシスイが"マリー"の目撃等の情報を集めていた。


「超大型"マリー"によってこの近辺の小さな町は壊滅に追い込まれてしまいました。なんとかラゴンに逃れた何人からお聞きしました。ですが語るのもはばかられる程脅えていました。勇気を振り絞りなんとかわたくしにお話してくださいました。

"マリー"は四足で歩き全身真っ黒。正面からは見られていませんでしたがその下顎から伸びるとても鋭利な牙はありとあらゆる物を噛み砕いていったそうです。それは……人間も同様に」いつも穏やかな口調で話すシスイだが事の重大さもあり真剣に言葉を使っていた。


既に超大型"マリー"の被害は出始めておりラゴン近辺の町が襲われ壊滅に追い込まれていた。シスイはなんとか生き残った町の人からの情報を集めていたが答えることも出来ない程の恐怖を植え付けられてしまっている人がほとんどだった。シスイ自身も聞くことも躊躇ってしまうがそれでも"マリー"討伐のためには必要な情報であり"マリー"を討伐するためである。


「今回も壮絶な戦いになりそうね。超大型"マリー"の行方は?」「ここより北の方角へと目撃がありましたがそれ以降はわたくしも情報を掴めておりません、申し訳ございません」そう言って頭を下げるシスイ。


頭を下げたシスイにディーナは穏やかな表情を浮かべ「謝ることじゃないでしょ。一人で情報を集めてるんだから大変でしょ。その情報だけでも充分よ」すると、表情が変わり「それにしても何もかもを食い散らかす"マリー"、人をも噛み砕く……許す訳にはいかないわね」"マリー"のした事に怒りがふつふつと湧き上がっていた。


「でも……」ここでフェリスが何かを伝えそうになっていたが声が小さく他の皆は気がついていなかった。

だがフェリスの声を聞き逃さないディーナは「どうしたのフェリス?何か気がついたことでもある?」

「えっ!ううん、あっでも……」変に発言してしまうと皆の迷惑になってしまうと感じたフェリスは口をもごもごさせていた。


「大丈夫よフェリス。誰も責めたりなんかしないから言ってみて」ここにいる皆はフェリスが言う事に納得してくれると思っていたディーナ。

フェリスも安心して「う、うん。あのね……」と、何かを伝えようとした時「子供の発言は何も得るものはありません。我々だけで会議を進めるべきです」ずっと無言だったソニアが突然フェリスの発言を止めた。


突然だったがディーナは「なんで?子供の発想力はとても参考になることが多いよ。私達だけでは気づかない事でも……」「戯言に過ぎません。"マリー"との戦闘、幾つかの修羅場、助けられなかった命、我々二つ名を持つ"リンドウ"であればこの経験はあるはずだと存じます。

この会議はお遊戯ではありません。この街の人々を守るためにわたくしはいます。これ以上の戯れを望むのであればわたくしは一人で情報を集めます」

冷徹で無表情のソニアは淡々とフェリスの発言は意味の無いものだとこの場にいる全員に伝えた。


難しい言葉でよく意味は分からなかったフェリスだが自分が何かを話してはいけないことは分かり目線を下にして黙り込んだ。

これに怒ったのはフェリスの友達のクロカだった。「そんな言い方ないんじゃないの!私だってまだ子供だけど"マリー"と戦ったことあるしフェリスだってディーナが"マリー"と戦ってる所を見たことあるだろうし、気づくことだってあるはずなの!」友達を馬鹿にされたように感じたクロカは怒りを顕にした。


しかし怒りを向けられたソニアだったが気にもせずに「程度が知れています。我々は死地を潜り抜けて生きています。口出しは無用です」聞く耳を持たずにクロカに反論した。


さらに反論しようとクロカは口を開けたが、ヒガンがクロカの肩に手を置いて「クロカ、残念じゃがこればかりはソニアの方が正しい。フェリスやクロカの意見もわっちらなら取り入れるがそれは知っている顔じゃからじゃ。"リンドウ"の会議において"リンドウ"以外は部外者になってしまう、じゃから一旦は怒りを収めるんじゃ」クロカの気持ちを理解出来るがソニアの立場で考えるなら"リンドウ"ではなくさらに子供の意見は求めることは出来ない。


ヒガンにそう言われてしまったクロカはやり場のない怒りを「ちょっと外出てくる」今はソニアの顔を見られないクロカは外に早足で出ていってしまった。


「く、クロカちゃん……」心配そうに出ていくクロカを見つめるフェリス。すると「フェリス、クロカちゃんについて行ってあげて。ちょっと一人だと心配だしね」フェリスがクロカを心配しているのが分かったディーナはついて行くように促した。


「私も同行するさ」フェリスの用心棒であるナデシコもクロカの様子を見に行くことに。「うん、お願い」「それに」横目でソニアを見て「どうやら私達は部外者のようだからねぇ」ソニアの言葉には少しナデシコも思うことがあったそうだ。


「う、うん。それじゃあ行ってくるね」フェリスはディーナに手を振った後にクロカの後を追って行った。ナデシコも続くように家から出ていった。


この場にいるのが"リンドウ"だけになり一切の表情を変えることはなかったソニアは「会議を続行致しましょう」落ち着いた様子で何事もなかったかのように振舞った。


だが"マリー"の会議を続行するのではなく口を開けたのはディーナだった。「貴方、昔に何かあったの?」あまりにも感情の起伏が無いソニアの過去を聞いた。

「昔語りは今は関係ありませんと思いますが?」素直に答えることも無く"マリー"関係では無い質問には答える気は無いようだ。


「これから一緒に戦う"リンドウ"の事を何も知らなかったらどうやって連携を取ればいいのか分からないでしょ。

まずはお互いを知ることからしないと……」交友関係を深めようと歩み寄ったディーナだがソニアは椅子から立ち上がり「これ以上は時間の無駄だと判断させていただきます。ラゴン周辺の様子を見ていきます」そう言ってソニアは家から出ていってしまった。


ディーナは腕を組み「気に障る事を言っちゃったかしら?気難しい子ね。見た限りでは合理的主義者、"マリー"討伐以外は今は目に入らないようね」"マリー"以外の話題は眼中に無く、会議がスムーズにいっても少しでも話題が逸れればソニアはこの家から出ていったであろう。


出ていったソニアを追うことはしない"リンドウ"達。ヴァレアもシスイもヒガンも彼女の性格をある程度は分かっているようだ。

だがそれでもディーナは腑に落ちずにヴァレアに「彼女、昔に何かあったの?私の勘だけど昔からあんな感じでもなさそうだけど」必ず過去に何かある事を確信しているディーナはヴァレアにソニアの過去を聞いた。


だが即答する事はなかったヴァレアは少しの沈黙の後に口を開けた。「……ソニアは、亡国の王女だ」予想だにしない言葉にディーナは「ッ!!」上手く言葉が見つからなかった。


「驚くのは当然だ。王女の立場だがソニアは"リンドウ"になり国を自ら守り、他国の救助要請にも率先して自分から向かい"マリー"を討伐していった」淡々と話すヴァレアにシスイもソニアについて話し始めた。

「ヴァレア様と国に赴いた際にはわたくし達にも親切にもてなしてくださりました。"マリー"の討伐現場を見させていただきましたがとてもお強く、王女の身でありながらも二つ名を所有する実力はソニア様にはあります」


シスイは目線を斜め下に向けて寂しい笑みを浮かべ「あの頃のソニア様は天真爛漫でした。分け隔てなくどんな人にでも優しく手を差し伸べるお人でした……」シスイの脳裏には過去のソニアが浮かび上がり今とは全くの別人のソニアを懐かしく思っていた。


「だが一年前のあの夜、ソニアの全てが失われた。ソニアが他国に遠征中一夜にしてソニアの国がある"マリー"によって壊滅した。甚大な被害、国に住む全国民を鏖殺した"マリー"。

国の状況を聞いたソニアはすぐに戻ったが時は遅かった。ただポツンとその"マリー"は人々の亡骸の上に立っていた。その姿は少女そのものだったらしい。

私は報告を受け急いでシスイと共に国に向かった。到着した私の目には見るも無残な人々の遺体。そして、降りしきる雨の中でうつ伏せ倒れていたソニアだった」

話をするのも辛くなる過去をソニアの代わりに話すヴァレアだったがあの時の状況を思い出すだけで息がしずらくなってしまう。


「ソニア様は生きているのが奇跡だった程に重症でした。わたくしはソニア様を抱えセラ様の元に向かいました。セラ様のお力によりなんとかソニア様は一命を取り留めました。ですが国に人々の中で唯一生き残ったのはソニア様たった一人でした。

受け入れ難い事実をヴァレア様より伝えられたソニア様はその日以来感情が無くなったかのようになりました。悪夢であってほしかったですが全ては現実、ソニア様の苦しさはわたくしでは想像することも出来ません」


ソニアの壮絶な過去を聞いたディーナは後悔していた。「軽はずみで聞いちゃいけなかった。あの子がこんなにも苦しい思いをしていたなんて……」過去を話したくない理由も分かってしまう。


顔を抑えて後悔と共に多大な反省をするディーナにヴァレアは「いや、お前はソニアに歩み寄ろうとした。今のソニアは誰とも関係を取ろうとしない。周りから見れば不気味にも見えてしまう。だからこそお前とソニアを共闘させることにした。少しでもソニアの心に響く事が出来ればいいと思ったがな」

ヴァレアは意図的に今回のメンバーを組んだ。ソニアは誰にも心を開けようとしない。コミュニケーションを取ろうとしない。そのため誰とでもすぐに親交深くなれるディーナであればソニアと仲良くなれると思ったヴァレアだったが失敗に終わってしまった。


だがディーナは顔から手を離して「いえ、まだ会ったばかりだし私からもっと声をかけていけばきっと心を開いてくれるわ。それに元々天真爛漫だったのなら、必ずその頃の感情はあるはずよ」ソニアに再度歩み寄ろうと決心するディーナ。


ディーナは椅子から立ち上がりヴァレア達から振り返り家の扉の前に立った。ドアノブに手を掛けた時シスイから「どこへ行かれるのですか?」と、声をかけた。

「ソニアを探してくる。あの子一人だとちょっと心配だからね。大丈夫、私なりにもっとコミュニケーションを取ろうと思うから。いいよねヴァレア?」会議の途中ではあるが当事者の"リンドウ"が不在なら会議は解散であるためディーナも出ていこうとしていた。


ヴァレアは少し微笑んで「ああ。ちゃんとソニアと話してきてくれ。会議はその後でもいい」ディーナも少し口角を上げて残った三人に軽く手を振った後に家から出ていった。


残されたヴァレアはヒガンに「すみませんヒガンさん。皆勝手をしてしまい」と、謝っていた。

「構わんさ。わっちもソニアの事は知っておる。ディーナの些細なことでも刺激になれば良い」


穏やかな表情だったヒガンだが一気に表情を変え「じゃがヴァレア、ソニアの話でわっちも知らん事があったのじゃが?」「なんですか?」「ソニアを一方的に制した"マリー"、何者じゃ?二つ名の"リンドウ"に重症を負わせるなんてそこらの"マリー"では無理だと思うんじゃが」

ソニアの過去は知っていたヒガンだが一つだけ気になることがあった。それはソニアに重症を負わせた"マリー"についてだった。


ヴァレアはヒガンの質問に「私にも詳しくは分かりません。その"マリー"は子供の姿だったと報告を受けています。ですが、一夜にして国を滅ぼす"マリー"……もしソニアの国を狙って滅ぼしたのか、もしくはただ単にソニアの国だったのか、いずれにせよまた現れるようでしたらその"マリー"に最重要警戒体制を取らなくてはまた大勢の命が失われてしまいます」国を襲った謎の"マリー"。ヴァレアの直感ではあるがその"マリー"は超大型"マリー"や"カレン"よりも強大な"マリー"である可能性があった。

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