再開の喜び
"カレン"を討伐したのも束の間、ヴァレアから超大型"マリー"の到来を伝えられたディーナ。
驚きを隠せないディーナは「超大型"マリー"って二ヶ月前ぐらいにこの近くに来たばかりじゃん。数年に一回現れるかどうかの"マリー"がこんな頻繁に……」
超大型"マリー"の出現はディーナの言った通り稀であり、数年や数十年中に一度あるかないかである。前回の超大型"マリー"の出現も数年ぶりだった。この短期間で超大型"マリー"の襲来は異例である。
「異常事態であるのは確かだ。ここより離れた街、ラゴンにて目撃情報が絶えない。何を意味するか分かるだろ?」神妙な面持ちでディーナに語るヴァレア。
「このままじゃラゴンが襲われ壊滅しちゃうってことでしょ?」「そういうことだ」
するとナデシコが二人に近づき「超大型"マリー"ねぇ。数年単位で出現する"マリー"がほぼ同時に現れるなんて過去の観測を見ても前例が無い。最近の超大型"マリー"を討伐したのはディーナ君と言うのは知っているがこんなに早くもう一度討伐になるとは、君の苦労も中々大変だねぇ」ディーナの"マリー"討伐の過酷さに少し不気味な笑みを浮かべる。
「緊急事態だしね。私一人じゃ無理かもしれないけど心強い仲間が今回もいるんでしょ?」超大型"マリー"を自分一人で討伐する訳ないと分かっていたディーナはヴァレアの目をチラリと見た。
「当たり前だ。一人で行かせるなんて私が許すわけがないだろ」「ほらね。それで今回はどうするの?前みたいに"リンドウ"と軍隊の皆で討伐するの?」超大型"マリー"の作戦を聞くディーナ。
「いや、今回はディーナを含めた四人の"リンドウ"だけでの討伐を命じる。それ以外は誰もいない」今回は前回とは違い"リンドウ"だけで討伐せねばならなかった。だがヴァレアは少し浮かない表情だった。
その表情を見逃さなかったディーナは「どうしたの?何かあるの?」と聞くとヴァレアは「いや、前回の作戦は被害自体は最小限に抑えた。だがそれでも散っていった命がある。全ての命を救うなんて出来ないのは分かっているが、お前達の目の前で兵士と"リンドウ"が殺されたのは私の采配ミスだ。数を減らせば負担は増えるのは分かっているが、それでも、あんな思いをもうさせたくないんだ」
ヴァレアは超大型"マリー"の一戦において後悔していた。現場に赴いた兵士達と"リンドウ"は立ち向かえる程の実力はなかった。勇気だけではどうしようもなかった。生き残った兵士はいたが失った兵士もいる。それもディーナ達の目の前で。
仲間の死を目の前にするのは精神状態も危なくなってしまい、何よりも辛くなってしまう。そのため今回は"リンドウ"だけで討伐を考えていた。犠牲者を増やさないためにも。
後悔の言葉を吐いたヴァレアだがディーナは気にする様子もなく「別に貴方のせいじゃないでしょ。相手は未知の"マリー"、どんな事が起きるかなんて分からなくて当然よ。私だって頑張って訓練していたあの五人を失うのは辛かった。けれどその分"マリー"には報いを受けさせた。
うん、貴方の判断は正しいと思う。超大型"マリー"の実戦経験があるのはあの場にいた私とスイレンとシスイ。二つ名"リンドウ"でも苦戦する相手に私達以外を向かわせるのは私だって反対かな」
ディーナも心のどこかで助けられたのかもしれない命があったと後悔があった。超大型"マリー"は二つ名"リンドウ"ですら手を焼く存在。一般的な"リンドウ"や兵士では返り討ちにあうのは当然のこと。ヴァレアの判断には賛成の意見だった。
「すまないディーナ、負担をかけさせる事になる」「別にいいよ。それで、私以外の"リンドウ"はもう来てるの?」
同行する"リンドウ"を聞いたディーナ。
「ああ、一人だけだがな」「私でございます~」ディーナの後ろには突然姿を現したシスイがニコニコと笑みを浮かべながら後ろに手を組んでいた。
後ろにいたシスイに驚きながら振り返ったディーナ。
「うわぁ!し、シスイ。やめてよいきなり来るなんて」「うふふ、ディーナ様の驚く顔が見たかったので~。でも不思議ですね~私と相対した際は同じように背後を取ったと言うのにその時は気づかれたと言うのに」
「明確に殺意を持ってたらある程度は気配で分かるから。今回はただ驚かせたいと思って回り込んだだけでしょ?それは気づかないわよ」
敵意や殺意は感じ取る事が出来るディーナ。気配察知の能力は基本的にはこれらを察知する。そのため驚かすために姿を消すとディーナは気づくことはない。
少しだけ驚く表情を見せた後にシスイは「うふふ、やはりディーナ様はおかしなお人ですね~」口元に手を抑えて微笑みを見せた。
「それは良い意味って思うよ。でもシスイが来てくれるのなら心強いよ、超大型"マリー"討伐経験者だし実力は二つ名相当だし」二つ名は与えられていないシスイだがその実力は二つ名を持っている"リンドウ"とはそう違わない実力を持っている。
「それほどでもないですよ~皆様のお力があったおかげですよ~」相も変わらず謙遜的な態度をとるシスイ。「この子の裏表の切り替えはどうなってるのかな?」あまりにも暗殺者だった時と比べれば人が違いすぎるシスイに表情には出していないが戸惑っていた。
シスイが超大型"マリー"討伐戦に参加することが分かり話し合っていると部屋の扉が開いた。開いた先にいたのはネルルだった。
ネルルは部屋に踏み入りヴァレアに近づき「ヴァレア、お疲れ様。無事のようね」ルムロの危機を救ってくれたヴァレアに労いをかけた。
「でもまた超大型"マリー"の出現。ルムロに直接的な危険は今は無いとは思うけど、それでも世界の脅威になる存在を野放しにする訳ないよね」"カレン"の討伐からの超大型"マリー"の出現。ヴァレア達"リンドウ"が休む暇は無かった。
「今は危険が無いだけ、いずれはルムロにもこの地域にも侵攻する。未然に防ぐためにも私達"リンドウ"が出る、大丈夫だネルル。私達は必ず勝つ」超大型"マリー"の軌道は分からないが放っておけば世界各国に危機が迫りルムロにも危険が来る。討伐が早ければ早いほど危機はすぐに去る、そのために"リンドウ"がいる。
「私は止める権限なんて無いよ。気をつけてね」自分では力になれないネルルはせめて全員が無事でいられることを願った。
「それじゃあ行きましょうか。ラゴンってなったらちょっと遠いし早めに行った方がいいでしょ」ルムロからラゴンは数百kmは離れているため現地に向かうには今からでも出発しなければかなり遅れてしまう。
「フェリスももちろん行くよね?」「うん、クロカちゃんにも会いたいから」別れ際に友達になったクロカとまた再開したいフェリスもディーナについていく。
「もちろん私も同行させてもらうよ。ラゴンの景色は幻想的で素晴らしいからねぇ」ナデシコもついて行くことにディーナは頷いた。
「それじゃあねネルル。ちょっとバタバタしちゃったけどまたルムロに来るから、その時はもてなしを期待してるよ」「ええ、王国の随一のおもてなしを待っていてね」
ネルルはディーナに笑顔を向けた後にフェリスに「フェリスも今日は話せなかったけど今度はいっぱいおしゃべりしましょ」「は、はい!」声をかけられたフェリスは嬉しそうな声で返事をした。
「よし、行くか」ヴァレアの声により一斉に動き出す"リンドウ"と二人。
続々部屋から出ていき最後に残ったヴァレアも部屋から出ていこうとした時ネルルが「ヴァレア、あのね……」何かを伝えようとヴァレアを止めた。
「どうした?」ネルルの言葉を待つがほんの一瞬沈黙があった後に「……頑張ってね」と、一言伝えた。
「ああ?行ってくる」伝えたい事がある思っていたヴァレアだったが激励の一言だけだった事に少し驚いていたが、そこまで気にせずに部屋を後にした。
全員を見送り部屋に一人残されたネルルは俯いて顔を上げた後に「今、言うことじゃないよね。決心を鈍らせても仕方ないし。でも楽しかったなぁ、一緒の思い出は……」胸元をギュッと握ったネルル。その目からは何かを思い出したかのように一粒の涙が零れ落ちた。
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電車で一日かけてラゴンまで来た一同。夜しか来ない幻想的な街にナデシコは「やはりここは素晴らしい。太陽が届かずに街並みに光るライトはとても惹かれてしまうねぇ」ナデシコもラゴンの景色にはとても興味深く感動的なものらしい。
「ええ、私も二回目だけど一度目と変わらない感動ね」二度目の訪問だが改めてラゴンの景色に魅入られるディーナ。
「"リンドウ"は既に来ているはずだ。待ち合わせの場所はこっちだ」ヴァレアは先行して共に戦う"リンドウ"の元に向かった。ディーナ達もヴァレアの後に続いた。
周りの景色を見ながら歩いていく一同。と、ここでヴァレアが立ち止まり「ここだ」
ディーナ達は立ち止まり目的地を見ると「ここって、ヒガンの家?」"アフィシャル"崩壊の依頼を頼んだヒガン。ヒガンが住む家が目の前にあった。
困惑するディーナだがここでヒガンの家の扉が開いた。開いた先から「皆、待ってたの」そこには元気そうな姿のクロカが笑顔で迎えてくれた。
「クロカちゃん!もう腕は大丈夫?」ディーナが最後にクロカを見た時は"アフィシャル"に右腕を折られ厳重に包帯を巻いていたが今は軽く包帯を巻いている程度に落ち着いていた。
「ディーナ久しぶりなの。まだちょっと痛い時はあるけど大分回復したの。あともうちょっとで包帯も取れるの」大怪我ではあったが現在はかなり回復しており完治も時間の問題であった。
「フェリスも久しぶりなの。また会った時に遊ぶ約束をしてたけどまだ手が完全には治ってないからまだ遊べないの……でも会えて嬉しいの」フェリスと再開したらどこか出掛けると約束していたが怪我が完治していない中では遊びに行けないためクロカは少し罪悪感を感じていた。
だがフェリスはクロカの目の前に行き「ぜ、ぜんぜんいいよ。だって、フェリスもクロカちゃんと会えて嬉しいから」フェリスもクロカと遊べなくてもただ会えて嬉しかった。
「フェリス、ふふふっ」「ふふふっ」二人は再開の喜びからか嬉しそうに笑い合った。
「なにやら楽しそうな声が聞こえるのう」二人が微笑ましく笑い合っていると家の奥から家主のヒガンが来た。
片手には煙管を持っていたヒガンだったがフェリスを見た瞬間にすぐに振袖に入れた。
「おう、皆揃ってるのう。やる気に満ち溢れた討伐隊の面子じゃ。期待出来るものじゃ」ディーナとシスイの目を見た瞬間に期待出来る事を確信したヒガン。
「ヒガン、期待してるって後二人の"リンドウ"は?」辺りを見渡しても自分達以外の"リンドウ"が見当たらない。
「もう一人か?わっちの家にいるが」と言って家に振り返ったヒガンは「おお、言ってたら来たぞ」もう一人の"リンドウ"は既にヒガンの家におり、外の"リンドウ"達が来たことにより自分も顔を出すことに。
ヒガンは一歩前に出て外に出て"リンドウ"の道を開けた。家から出て、ディーナ達の目の前に現れたのは黒味を帯びた藍色の髪は長髪でサイドの髪は螺旋状に巻いた縦ロールの女性だ。
両手を前に揃えゆっくりとお辞儀をして、顔を上げ声を出した。「皆々様ご機嫌ようでございます。お目にかかれて嬉しく思います。私の名前はソニア・スチータスと申します。"リンドウ"の二つ名を所持しており二つ名は"可憐の雷霆姫"と呼ばれております。
この度超大型"マリー"討滅戦の重大なご任務を私に託していただきありがとうございます。皆様のお手を煩わせないよう心掛けて、私もお力を最大限活かしていきたいと思う所存でございます。よろしくお願いします」丁寧な言葉遣いで自己紹介をした彼女の名はソニア・スチータス。
あまりに落ち着いて丁寧な自己紹介に「え、ええ、よろしくね」と少し戸惑い気味のディーナ。
だがここでもう一つ気がついた。「あれ、あと一人は?」四人での討伐と聞かされていたがあともう一人足りない。
するとヴァレアは「何言ってるもういるだろ」「えっ?」
「ああ言い忘れておったのう。わっちも"リンドウ"なんじゃよ」衝撃の発言にディーナは「えぇ!?」と声を出して驚いていた。
「ならわっちも自己紹介じゃな。わっちは"リンドウ"のヒガン・ローリス。そちと同じ……"皇帝"の一人じゃよ」
「ヒガンが"皇帝"?」ディーナと会ったヒガンと言う女性は"リンドウ"の最高格の一人だった。




