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カエデ  作者: アザレア
過去の崩壊
78/86

滅日と"カレン"

「七百年前の滅日の再現……本当に?」ディーナは"アフィシャル"の目的の可能性、滅日に過度に驚いていた。


「あくまでも可能性だ、それにこの可能性は低い。奴らが"マリー"を捕らえている理由は分からないが滅日と紐づける事が出来ない。どんな理由でも止める事には変わりないがな」それを聞いたディーナはホッと一息つき「なんだ、おどかさないでよ」


すると、一人何もついてこれないフェリスが「めつびって何?」と、またしてもナデシコの裾を引っ張り聞いた。


「滅日、それは約七百年前に起こったとされる世界が消失された日だ。世界各国に突如としてありとあらゆる災害が引き起こり世界の文明も何もかもが滅んだ。

御伽噺の説もあるが生き残った人々が残した記録は御伽噺にしてはあまりにも記録が多すぎる。断定は出来ないが起こった可能性はある。

今の世界は滅日よりも後の世界、滅びから生まれた世界と言うことさ」

ナデシコは簡潔にではあるが滅日に関して説明をした。


「ずっと昔の話だし、本当にそんな大規模な災害が一夜にして起こったなんて信じない人もいる。実際私も半信半疑だからね。でももし本当に滅日が事実だったら私達は本気で止めないと。世界を守るために」

滅日の詳細に関しては未だに分かっていない事が多い。そもそも何故そんな大災害が世界各国に怒ったのかも、何が原因だったのかすらも分からないままである。


フェリスはナデシコとディーナから聞いた滅日だったが知らない単語も多かったため、まだふわっとしか分からなかったが「さいがいって何?」恐らく重要な意味の災害の意味を聞いた。


「災害は自然が起こす現象さ。大雨の中風が人をも吹き飛ばすような事を台風、山が突然火を噴く事を噴火、人から人に移り瞬時に病が蔓延する事を感染症。等の自然が生み出した人には抗う事が難しい現象を災害と言うのさ。

滅日に起こった災害は、至る所に火が起こり逃げ場すらも無くなった火災、ありとあらゆる生物を飲み込んだ洪水、空から神が怒り狂ったように堕ちて来るいかづち、通った後は草木すらも消し去る竜巻、氷河期でも来たかのような冷気により凍りつく寒波。この災害が世界に同時に来るんだ、滅んでもおかしくない」

ナデシコが滅日の書物を何冊も読んできたが全てこの五つの災害が記載されていた。内容の違いは多少あったものの大まかには同じ事が書かれていた。


「そんなの本当だったら、みんないなくなっちゃうよ…」言っていることの半分程は理解出来ていないフェリスだったが分かる言葉を想像しただけでも恐ろしい事が分かる。皆がいなくなる瞬間を考えただけでも涙が溢れてくるフェリス。


「とは言え全ては仮説に過ぎない。本気で重く受け止める必要は無い。昔にそういった事があった、それだけ覚えていれば大丈夫さ。実際そんな事が今すぐ起こるなんて事はまずない」

過去の事は目には見えないため資料を見て憶測でしかない。だが現代であれば化学や属性の研究も進んでいる、もし滅日のような大規模な災害起ころうとしても確実に事前に警告されるはずだ。


「奴らの目的はまだはっきりとしていない。"マリー"を捕らえる理由も。だが奴らはその"マリー"の中でも上位の存在を積極的に捕らえている?あの”マリー”を捕らえるなんて困難が過ぎる。はたから見れば自殺行為だ」

ヴァレアは”アフィシャル”について再び話始めたがディーナは何気なく言ったヴァレアの発言に目を見開き驚いていた。


「えっ…ヴァレア奴らのこと知ってるの?」「奴ら…まさか”カレン”と対峙したのか、ディーナ」「"カレン"?」

聞き馴染みの無い言葉に反応するディーナだが"カレン"と、聞いたシスイは驚く表情を見せ「ディーナ様、まさか"カレン"と戦っていたなんて…さすがですね~」驚く表情をした後にいつもの笑顔に戻った。


「ディーナ君"カレン"とも戦っていたなんてねぇ。あの研究所にいた頃から"カレン"がいると噂を聞いていたが目の当たりにした事はなかったな。誰かが逃がしたかもしくは討伐したかのどちらかだった、ディーナ君が討伐したんだろ?」ナデシコも"カレン"と言う存在を知っているようだった。


だが一人状況を全く理解出来ていない当事者ディーナは「ちょ、ちょっと待って皆。"カレン"って何?私は何と戦っていたの?」"カレン"の存在を知らなかったディーナにその場にいたフェリス以外は驚き言葉を失っていた。


「えっ、そんなに当たり前の事なの?」驚いている全員に逆にディーナも困惑してしまった。

するとナデシコはため息をつき「君さぁ、もう少し"マリー"に興味を持つってことをしないのかい?自由に気ままなのは良いことだが敵の事を知るのも"リンドウ"の役割だろ?」呆れ気味のナデシコ。


「そんな有名なの"カレン"って。皆がこぞって知ってるんだから有名なんでしょうけど、悪いけど教えてくれない?その"カレン"を」自分だけが知らない存在の"カレン"。逆に気になってきてしまいヴァレアに少しだけ頭を下げて上目遣いで"カレン"の事を聞いた。


ヴァレアはうなじを少し触った後に「まぁお前は元々そういう事に興味が無かったからな、知らなくても不思議じゃなかったか。驚いても仕方ないな」ディーナの性格上興味の無いことにはとことん興味が無く知ろうともしないため知らなくても当然だと改めて分かったヴァレア。自分のことを分かりきっているように見えたディーナは「なんかムカつく」


「"カレン"は"マリー"の中でも特別な存在、上位の存在と言った方がいいか。"カレン"は他の"マリー"とは明らかに違う。二つ名の"リンドウ"と同等かそれ以上の属性の力を持つ世界が危険視する"マリー"だ。

生態は他の"マリー"とは比べれば情報が少なすぎて分からない。だが奴らの特徴は無闇には人間を襲わない。その理由は分からないがな。さらに言うと人間との会話も容易だ、知識においても"カレン"は人間と同等レベル。

だからこそ謎が多すぎる。"マリー"との近縁種なのかあるいは全く別の存在なのか」


"カレン"。世界の敵"マリー"の中でも上位種とも呼ばれている存在が"カレン"。"カレン"の特徴は強大すぎる属性を持ち"カレン"一匹でも超大型"マリー"と遜色が無い程の被害規模を誇る。戦闘能力も一線を覆し歴戦の"リンドウ"をも手玉に取る程の戦闘知識を持つ。

ひとたび"カレン"が暴れ始めれば一般の"リンドウ"では手に負えないが"カレン"の被害報告や目撃情報は少ない。これは意図的に"カレン"が人間を襲っていないのかそれともただ単純に身を潜めているのか、未だに謎は多い。


「二つ名"リンドウ"一人でも"カレン"を相手にするのは無謀。協会に"カレン"関係の依頼が入れば私は絶対に一人では行かせない。私の手が空いていれば私が出向くだけだがな。そうじゃない場合は無理だけはさせない」

"リンドウ"の事を信用しているヴァレアでさえも"カレン"相手には必ず最低限の行動だけで抑えろと言っている。それだけ"カレン"が強大な存在であることが分かる。


「えっ…じゃあ私相当無理したって事になるよね?多分だけど私、"カレン"を一人で討伐したし。なんなら最近"カレン"って思う程強い"マリー"と戦ったから」その時の行動を振り返るディーナは確かに運に助けられた場面が多く自分の実力だけで勝てたかと言われればかなり微妙な所である。現に強欲の"マリー"とは決着がつかなかった。


独り言のように小さく呟いたディーナにヴァレアは唖然とした顔になりため息をつき「はぁ…お前な、勇敢と無謀は全く別だぞ。実力は確かに"カレン"を退ける程はあるかもしれないが”カレン”の属性は未知なんだぞ。自分の命をもっと大切にしろ」

ヴァレアは強大の”カレン”を一人で戦ったディーナに説教をした。フェリスのこともあり自分一人の命ではないことも相まって少し厳しく声をかけた。


「うぅ、ごめんなさい。今後は”カレン”と戦うときは無理はしない」命しらずの行動に反省するディーナ。

「まぁ結果オーライではあるだろう。何せその”カレン”を単身で討伐しているんだ。彼女の実力の高さとその強運を称賛しようではないか。現に”アフィシャル”支部内に”カレン”が残っていたのなら脱出も困難になっていたはずだ」

ここでナデシコがディーナをフォローに入った。”アフィシャル”の支部で全員が無事に出られたのも”カレン”を討伐したディーナの功績も大きい。無理をしてまであの場で戦った事は称賛されるべきだとナデシコは言った。


「”アフィシャル”支部内?まさか”アフィシャル”の関係者なのか?」まだ信用しきれていないナデシコが”アフィシャル”の関係者だった場合たとえディーナの知り合いだろうと警戒せざる負えない。


「あの愚かな組織の関係者なわけがないだろう。私はただの属性研究員の一人さ」「ナデシコは"アフィシャル"に捕まった一人でね。この子の属性はちょっと人と変わってるから研究の対象にされそうになってたの。まぁ属性が強いから大丈夫だったけど」


ヴァレアは少しだけ驚いた表情を浮かべた後に「"アフィシャル"に捕まった一人だったのか、すまない。辛い事を思い出させてしまって」"アフィシャル"が実験体を使いしてきた事を知っているヴァレアはナデシコに謝った。


「いや、謝る必要はないさ。私も奴らの目的を探ろうとしていたからねぇ。結果的に哀れさが増しただけ。私はただ知りたいだけさ、私の中に眠る属性の可能性をねぇ」少し狂気的な笑みを浮かべるナデシコ。

「属性研究員か。探究心は人一倍らしいな」ヴァレアがそう言うと続けざまにシスイは「セラ様も医学に対しての探究心は人一倍ですからね~属性研究員の方はそういった方が多いかもしれませんね~」と、口を滑らせた。


少しだけ驚いた顔をするディーナはすぐに「えっセラって属性研究員だったの?医療の事しか興味無いと思ってたけどそういう研究してるんだ」

ディーナはセラが研究員だと知らなかったため意外な顔をしているがヴァレアはため息をつきネルルも「シスイ~?」と、少し皮肉交じりに名前を言った。


シスイも少ししてから自分が言った事がとんでもないことと分かり笑顔であったが冷や汗をかき「あれれ~わたくしまさか言ってはいけないことを……」


ディーナは王国サイドの三人が困惑しているのに「えっセラってそんなに重要な人なの?」ディーナもどう反応すればいいか分からず困惑したが。


そんな中今日一番の驚いた顔を見せていたのはナデシコだった。「セラ…君?」ボソリとセラの名前を口にしたその時、小屋の扉が開き開いたと同時にある資料の紙を手に持ちネルルに対して手を突き出した女性が入ってきた。


女性は開口一番に「王宮に居ないと思えばやはりここか。探す手間を考えてくれ面倒だからな。頼まれた研究の結果を渡し…に……」女性は文句を言いながらある研究結果を渡しに来た。だが女性はふとナデシコを見ると固まってしまった。


ナデシコは入ってきた女性と目が合った。そしてナデシコは満面の笑みを浮かべながら女性に小走りで向かっていき「セラく~ん!久しぶりだねぇ!!」

握手を交わそうと手を握ろうとしたナデシコの手を咄嗟に払い除け「おい、なんでこいつがここにいる!」


「なんだい久しぶりの再開だと言うのにそんなに照れ隠しする必要はないだろう」「お前のご立派な観察眼は廃れたか?目が悪いのなら私が診てやろう。少し痛い治療になりそうだがな」不機嫌そうに話す彼女は黒いマスクを着用しているセラだった。


「セラ!なんでここに?後、ナデシコと知り合いだったの?」ネルルはセラがここに来たことを珍しそうにしていた。それと同時にナデシコとの関係を聞いた。

「言っただろ。王宮に居なかったから私がここに来たと。おかげで面倒な奴と会う羽目になったがな」そう言ってセラは大きなため息をついた。


「なんだいつれないねぇ。まぁ君は元々馴れ合いはそこまで好きじゃないからそういった対応にもなるか。君がいいなら私から君との関係性を話そうか?」「勝手にしろ」


「私はセラ君とは属性研究員の同期でねぇ。お互いが知識の探求者とのこともあって意気投合してねぇ、しばらくは共に学びあった仲なのさ。それからは私は属性の旅に出掛けてからそれっきりだった、まさかここで再開出来るとは巡り合わせとは不思議なものだねぇ。

だが彼女の医学や医療においての知識は全世界においても彼女以外どこにもいないさ」

セラの医学知識においては間違いなく世界最高、幾度の失敗を重ねてきたセラだがその分多くの命を救ってきている。ナデシコは近くで見てきて彼女以上の医者は今までもこれからも出てこないと確信していた。


「こいつの事はどうでもいい。ネルル、頼まれた研究成果だ」改めてセラはネルルにある資料を手渡した。

「ありがとう」一言感謝を伝えてネルルは資料に目を通ししばらく見た後に表情が険しくなり「これ、やっぱりそうだったの?」と、資料を作ったセラに聞いた。


「ああ、"マリー"の解剖は何十回も行ってきた私だからすぐに分かる。以前ルムロを襲った二体の"マリー"、あいつらは人工的に作られた"マリー"だ」

セラの調査は"マリー"の解剖、"マリー"の解剖その正体は人の手によって作られた人工"マリー"だっ。


「二体の"マリー"って私が倒した雷と風の"マリー"?」以前ルムロを襲った二体の"マリー"の事を聞いたディーナ。「その通りよ。ディーナが倒した一体はあのクレーターの中を探すのが困難だったから諦めたけどもう一体のチハツが倒してくれた方は回収出来たから解剖をお願いしたの」


するとセラは「いいのか?私との関係を話して?」「ちょっと前にバレちゃったしもう隠す理由も無いよ。

セラとはちょっとした契約をしててね。属性研究員のセラの研究資料とか今回の"マリー"解剖を頼んだりしてるの。その代わりに居住地の提供とか資金とかは私達が請け負ってるの。たまに何に使ったか分からない莫大なお金を請求されるけど…」「研究の一環だ」


ここでディーナはある疑問を「なんで隠してたの?別に言っても問題ないように思うけど?」聞いていた内容からして特別隠すようなことでは無いと思った。


「属性研究員との契約を結ぶこと自体は隠す必要はないよ。でも属性研究員は"アフィシャル"にとってはよく思っていない存在。ルムロが大きな国なのは分かってる、それだけ標的にされる。だから協力者のセラの存在を大きく知られるのはセラ自身が危険な目にあっちゃう。

表向きは街のお医者さんだけど裏向きは私達に協力してくれる属性研究員だよ」

ネルルはセラが医者兼属性研究員と知った瞬間、資金の提供の代わりに属性の情報共有を提案した。医療においての軍資金の提供はセラにとっても好都合だったためこの契約を成立させた。

今回の"マリー"解剖もネルルがセラに頼んでいた。ヴァレアに王集会議当日に"マリー"が来襲してきたのは少し違和感があると言った時からセラに解剖を頼んでいた。すぐに分かることではなかったがセラは何度も"マリー"の肉体を解剖してきた。今回の解剖結果は"マリー"は人工"マリー"だった。


「でもいつからルムロに拠点を置いていたんだい?つい先日の事でもないだろ?」ナデシコはいつからいるのかを聞いた。「三年半前ぐらいか」「三年半って私と別れてすぐじゃないか」「お前と違って居住地が必要だったんだ。ここなら大国だ、私の医学の進歩に有益になるはずだからな。ここに拠点を置いてすぐにネルルからの提案だった。私としては都合が良かっただけさ。大金をただの情報提供で貰えるんだからな……フフっ」

不気味な笑顔を浮かべるセラにナデシコは「そういえば君ってお金にはがめつい性格だったねぇ」


ディーナは腕を組み「まぁおおよその事情は分かったしあの"マリー"も"アフィシャル"が作った人工"マリー"なら"アフィシャル"が大きく動くのもそう遠くはないってことね。セラの事も絶対に話さないから安心して」ここで話した内容を他言しないと約束した。


ディーナはヴァレアの方を向いて「ヴァレア」と、声をかけた。ヴァレアもディーナの方を向いた。

「"アフィシャル"の事でも"カレン"の事でも何でも言ってちょうだい。滅日の再現じゃないとしても"アフィシャル"は止めなくちゃいけない組織だから」"アフィシャル"に対して改めて覚悟を決めたディーナ。それは世界を守るのと大切な友人や家族を守るためであった。


目つきから勇敢になったディーナにヴァレアは少しだけ微笑んだ。

「ああ、頼りにしている。そこでだが早速……」ヴァレアが何かを伝えようとした時、またしても小屋の扉が開いた。


その場にいた全員が一斉に扉の方を見ると息を切らし呼吸を整えるケイの姿だった。

突然のケイの登場にネルルは「け、ケイ……」名前を呟き目を泳がしていた。人差し指同士を何度も付けて言い訳を考えている様子だった。

と言うのも無断で王宮から出ていってしまったため怒られてしまうと思っているため少しでも怒りを収めるように考えていた。


ケイは呼吸を整えた後に無言でネルルに近づいていく。冷や汗をかくネルル。目の前まで来たケイにネルルは「ケイ、その、これは……皆に伝えなきゃいけない事があって、決して、えっと、黙って出ていったのはその……」

上手く言葉が纏まらないネルルはケイの目を見れずにいた。


だがケイが開口一番に伝えたのは「そんなことはいいです。ネルル様、大型"マリー"がルムロに接近中です。それもかなり近くまで来ています」

それはここにいた全員を驚愕させる事実だった。


ネルルは瞬時に頭を切りかえ「ケイ、それ本当に?」「はい、観察班からの情報によればその"マリー"は左目を負傷しておますが屈強の腕をしており見た目から恐らく"カレン"と近しい力を持つ可能性があります」

"カレン"に近い実力を持つ"マリー"と聞き驚く表情を見せるネルル。


だがここでディーナは「左目を負傷……ねえケイ、その"マリー"って肌とかって焼け焦げた色だった?」心当たりのある"マリー"の可能性が高かった。


「は、はい……ってディーナさん!?それに皆さんお揃いでどうしたのですか?」錚々たる面子に驚くケイ。

「事情は後で説明する。それでどうだったの?」「確かに焼け焦げ何やら明確な殺意を持っていると報告を受けています」


そう聞いて確信を持ったディーナはローゼンを取り出し「どうやら私のお客さんのようね」臨戦態勢に入り先日の強欲の"マリー"だと分かった。


「どういうことだディーナ?」ヴァレアは臨戦態勢に入るディーナだがまずは説明を求めた。

「昨日"マリー"討伐の依頼が入ってね。退けることは出来たけど討伐は出来なかった。その時に因縁を持たれちゃって私の痕跡を辿ってきたようね。こんなに早く決着をつけるとは思わなかったけど」どこかで決着をつける戦いが起こると思っていたが想定よりもずっと早かった。


「ケイ、緊急速報よ。国民達に避難を呼びかけて。なるべく"カレン"だって分からないように"マリー"って伝えて。あまり不安を呼ぶような真似はしないで。ここには"リンドウ"や貴方がいる。必ず討伐してくれるから。急いで!」まずは国民の安全を優先させるため避難を呼びかけるように伝えたネルル。


「御意!」胸元に手を置き敬礼するポーズをとった。

ケイは小屋から出ていこうと全員に振り返ったが立ち去る前に「ディーナ様、ヴァレア様…お願いします!」二人に"マリー"を託して小屋を後にした。


「私も王宮に戻るわ。緊急事態で皆もパニックになってると思うから私が統率を取らないと」だがディーナは「戻るってまた街中を歩くの?状況的にバレたらまずんじゃ……」"マリー"がルムロに近づいている中で仮に正体がバレてしまえばさらに混乱を招いてしまう。ディーナは危惧していた。


すると「ご安心ください~」と、シスイがネルルの隣に立った。ネルルはシスイの袖を掴み「それじゃあ先に戻ってるね。ヴァレア、ディーナ、ルムロをお願い。貴方達ならきっと勝てるよ」"マリー"討伐を二人に頼んだネルルは、そよ風が吹いた途端にシスイと共に瞬時に消えた。


シスイの属性で王宮に帰ったのだと理解したディーナは「便利ねシスイの属性って」利便性が高い属性を少し羨ましく思っていた。


「私も戻る。後は"リンドウ"の仕事だろ。怪我でもなんでもしたら私の元に来い。医者として面倒をみてやる。重症であればあるほど私は喜ばしいがな」と、言ってセラも出ていった。「彼女らしいが、少しだけサイコな所はどうかしてるねぇ」


「ヴァレア、今回もフェリスをお願い出来る?ナデシコもいるから安心だと思うけどね。その"マリー"に用があるのは私だからね」ディーナも"マリー"との因縁を終わらせるようだ。


「分かった、私達も王宮で待機しておく。終わったら王宮に来てくれ。私からも頼み事があるからな」今回もディーナに"マリー"を任せるつもりのヴァレア。


「フェリスも待ってて、すぐに戻るからね」「うん、お姉ちゃん頑張ってね。フェリス待ってるから、ずっと」健気に待ってくれるフェリスに優しい笑みを浮かべるディーナ。


ディーナはローゼンを手に部屋から出ていこうとしたその時、突然その足を止めた。

意気揚々だった様子から突然足を止めた事に「どうした?」と、ヴァレアが言った。


ディーナはヴァレアに振り返りほんの一瞬の無言の後にその口を開けた。

「ヴァレアには……伝えなきゃいけないことがあるの」「そんなの後でいいだろ。今は……」「今から戦う"マリー"は……ドレアちゃんを殺した」

あまりにも突然過ぎる告白にヴァレアはどう反応すればいいか分からずに静かに「…………えっ」声にならない声だったがその現実をまだ受け入れられずにいた。


「昨日私に依頼が入ってね。依頼主はフクちゃんでフクちゃんに仇を取って欲しいって依頼だったの。

討伐は出来なかったけど撃退には成功した。けれど私が戻ってきた時には、フクちゃんは自分から命を……」

ディーナも伝える事も苦しかった。自分の知らない所で自分の弟子とその親友が死んでしまったことを聞くのはどれだけの苦痛なのかを。


ヴァレアはディーナの言葉は決して嘘では無いことを分かっていた。ただ無言を貫くヴァレアだったがその拳からは悔しさと怒りを込み上げ震えていた。


「ごめんヴァレア、フクちゃんの命は絶対に助けられた。私がもっとあの子の心を動かせていたら……」ヴァレアに謝罪しフクの死は自分のせいだと言ったディーナだが、ヴァレアは歩み出していた。小屋の扉に向かって歩き出しディーナとすれ違う瞬間にディーナの肩に手を置き「ありがとう、後は任せろ」耳元で呟いたヴァレアの表情を見たディーナ。その顔はどこか穏やかで優しく笑っていた。


小屋を後にしたヴァレア。ディーナはどこかホッと安心してその場にへたれこんだ。「お姉ちゃん!?」ディーナに駆け寄るフェリス。肩の重荷が取れたように感じたディーナは小屋の扉に向かって一言「決着は貴方に任せるよ」


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ディーナに左目を潰された"マリー"の目の前には王国ルムロがある。

「こんな場所に逃げ込みやがって。言っただろ必ず殺すと。貴様の命はここまでだと」ディーナの足跡や匂いを辿りこの場に来た"マリー"。その復讐心は治まることはなく、憎悪に満ち溢れていた。


ルムロにどんどんと歩を進ませる"マリー"だが、目の前にはある一人の女性が立っていた。

女性の正体はディーナが討伐に向かったのではなく、小屋から出ていったヴァレアだった。

ヴァレアは目つきは真っ直ぐ"マリー"を捉えておりその目からは強い殺意が感じ取れる。


"マリー"は目の前に立つヴァレアを見て歩みを止め「邪魔だ、殺されたくないなら今すぐに消え失せろ」ヴァレアの殺意には一切臆せずただディーナの憎しみだけが"マリー"を動かしていた。


ヴァレア腰に差していた刀の鞘を左手に持った。鯉口を切りいつでも抜刀出来る状態となった。

自身の邪魔をするヴァレアに怒り狂う"マリー"は「邪魔だと言ってるだろ!!もういい貴様から先に血祭りに上げてやろうぉぉぉ!!!」血管が「ブチッ」と切れる音がした。


そんな"マリー"にヴァレアは冷静だったが静かな怒りは治まっておらず"マリー"に対して「ドレア、フク、私が終わらせてやる。見ててくれ、師の戦いを」天国にいる二人に捧げる戦いが始まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マリーとヴァレア。二人の戦いはどうなるのか気になります。ハラハラドキドキの展開となりますが、頑張ってください!
[良い点] 見事な展開です!これからの物語を楽しみにしています! 戦いの行方を期待しています!
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