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カエデ  作者: アザレア
過去の崩壊
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暗殺者

三人の"アフィシャル"に雇われた"リンドウ"を瞬時に仕留めたのはシスイだった。ディーナとシスイはお互いいるはずのない場所にいた時のように無言で目を合わせて静止していた。


驚いていたディーナはおそるおそる口を開けて「シスイ、やっぱり貴方…」どうやらディーナはシスイがここに居たことに驚いているだけで”リンドウ”を殺めたことにはさほど驚いてはいなかったようだ。


「でぃ、ディーナ様、どうしてここに、まさか貴方も”アフィシャル”の関係者なのですか?」シスイも”アフィシャル”の事を知っているようでディーナがここにいると言う事は"アフィシャル"の関係者だと思っているシスイ。


「待ってシスイ、私もこの"リンドウ"達を追ってただけで"アフィシャル"の関係者って訳じゃないよ」誤解を解くためにまずは自分がここにいる理由を言ったディーナだが「それは言い訳に過ぎません。偶然貴方がいる理由はやはりあの組織に関係している…申し訳ございませんディーナ様」一度謝罪をしたシスイだが、短刀を逆手にディーナに矛を向け「疑いがある者には罰を、この場で貴方を手にかけることなるなんて、残念です」


落ち込む顔を見せた後にシスイは蜃気楼のように姿を消した。ディーナは姿が消えたシスイに「シスイ、違う私は……っ!」ディーナの呼び掛けには応じずにディーナの背後に姿を現したシスイはディーナの頸動脈を狙い短刀を振りかざした。


だがディーナは微かに風の動きと背後から人の気配を感じ咄嗟に携帯しているナイフを手に取り、振りかざす短刀をナイフで交わし何とか凌ぐ事に成功した。


「この感じ…本気で私を殺しにかかってきている。私も応戦したいけどルムロで発砲なんかしたらそれこそ大騒ぎになっちゃう。それに、仲間同士で殺し合いなんて絶対にごめんよ。なんとかシスイに誤解を解く方法を探さないと…」

シスイの一撃を受け止めただけで分かったがシスイはディーナの息の根を止めようとしていた。"アフィシャル"の関係者の可能性があるためか、それとも自分の本当の姿を見られたためか、理由はどうあれシスイの誤解を解かないといけなかった。


だがあちらが本気であればディーナも本気で応戦しなければならない。ローゼンとフォーリーはこの場では使えないとは言えまだグロリオサとナイフがある。無防備で戦う訳では無いが得意の銃が使えなければ一瞬の隙に殺られる。


シスイは鋭い目付きをディーナに向けていた。穏やかでほんわかしていたシスイとは全くの別人。標的を捉え必ず仕留める、その姿はまさに暗殺者。


"マリー"との戦いにおいても余裕を持つディーナだがいつぶりかの緊張が走る。完全に臨戦態勢に入ったディーナはナイフを構えた。

ディーナが本気になったことが分かったシスイも全霊をもってディーナと戦うことを決心し体に目に見える風を纏わせディーナに突っ込もうとしたその時「シスイ待て!!」大声でシスイを呼び止めた女性。


気配もなく突如として現れた女性に二人は声を揃えて「ヴァレア?」「ヴァレア様?」ディーナを呼んだ超本人、ヴァレアがそこにはいた。


「ヴァレア様、ディーナ様がこの場に……」ディーナに襲いかかろうとしていたことを少し言い訳のように伝えようとしたが「シスイ、焦る気持ちも分かるが落ち着け。今から確認すればいいだけの話だ」と、言ってディーナに近づいていくヴァレア。


真っ直ぐディーナの目を見るヴァレア。その目を逸らさずに見るディーナにヴァレアは「ディーナ、一つ質問だ。お前は"アフィシャル"の仲間か?」"アフィシャル"の仲間かどうかを聞いたヴァレア。


だがディーナは即答で「違う」それ以上何かを言う事もなくただ否定をした。

無言の時間が続く中でヴァレアは微笑みを見せ「ふっ、シスイ"フリージア"を納めろ。ディーナは"アフィシャル"の仲間ではない」長年の付き合いでもあるディーナの目を見れば彼女が嘘を言っていない事が分かったヴァレアはシスイに矛を納めろと言った。


シスイは俯き少し静止した後に短刀を鞘に納め両手を合わせて深く頭を下げて「ディーナ様申し訳ございません~。わたくしも冷静になれなくて、焦ってしまいました~」ディーナ達が知っているシスイに戻ったように語尾を伸ばし、頭を上げたシスイの雰囲気はいつも通りになっていた。


シスイのギャップに驚きつつもすぐに切り替えてヴァレアに「ヴァレアこれはどういうこと?この人達はいったい…?」未だに状況が飲み込めないディーナにヴァレアは「ここでは人目に付く可能性がある。ついてこい、後始末は騎士達に任せればいい」そう言ってヴァレアは振り返って路地裏を抜けるため歩き出した。シスイもヴァレアについて行った。


「待ってヴァレア。フェリスも来てるから一緒に連れてくるから……」「大丈夫だ。予めフェリスには会っている。フェリスと共に居た女性はよく分からんが、二人揃って空き家に案内している」用意周到過ぎるヴァレアの行動に「貴方予知でも出来るの?」と驚きを通り越して恐怖を感じていた。


----------


ヴァレアとシスイについてきたディーナが来たのは一軒の家だった。都市外から少し離れた場所にあり家というよりかは小屋に近かった。


「ここだ」ヴァレアが先に入りその次にシスイが入った。二人に続いてディーナも入ると、何も無い小屋にフェリスとナデシコが座って待っていたようだ。

ディーナを見かけたフェリスは立ち上がり「お姉ちゃん!」すぐにディーナに駆け寄った。


「フェリス。ごめんね突然離れちゃったりして」「ううん、ナデシコさんもいたしヴァレアさんも来てくれたから大丈夫だったよ」すると、ナデシコもディーナに近づき「驚いたよ。まさかあの"最強のリンドウ"から声をかけられるなんてねぇ」「まぁ普通はないよね。フェリスもヴァレアの事を知ってるからね。私に気をつかってくれたんだよ」


「それよりも誰だ?フェリスの共にしていたようだが」ナデシコと初対面のヴァレアは彼女が誰かは分からなかった。

「ナデシコ・カミトさ。縁あってディーナ君の住まいに居候中なんだよ。よろしく頼むよ、ヴァレア君」目をじっと見るヴァレアは「危害を加える事は無さそうだな。ディーナがフェリスを任せているのが証拠か」

フェリスと会った時、ディーナ以外の大人と一緒にいること自体に驚いていたヴァレア。それだけ彼女がディーナにとって信頼に足る人物と言うのが分かる。


「それで君は?お初にお目にかけるねぇ。ディーナ君達のお仲間かい?」「はい~わたくしはシスイ・リアと申します~。ナデシコ様ですね~仲良くしてくれたら嬉しいです~」いつもの調子のシスイとなっておりナデシコに挨拶をした。

「ああ。私も仲良くしてくれれば嬉しいよ。ヴァレア君と一緒だった、君はそれ相応の立場と言うのが分かるよ」


「お互いの自己紹介も終わっしそろそろ教えてくれない?私を呼んだ理由を」本題に移るディーナ。「まずは…」ディーナが質問をしようしたとき「待て、まだ一人来ていない」「えっまだ誰か呼んでるの?」ヴァレアが事情を説明する前にまだ誰かを待っていたようだ。


すると、小屋の扉が開き一人の女性が入ってきた。無地の

ローブを着てフードを深々と被り顔を見られないようにしているようだった。


「あっ皆集まってるね。ごめんね遅れて、目を盗んで来るの大変だったんだよ」「その声…まさかっ!」聞き覚えのある声を発した女性にディーナは驚いた。

フードを外し顔を見せた女性は笑顔を向けて「久しぶりディーナ、フェリス。また会えて嬉しいよ」「ネルル!」小屋に来たのはルムロの王女、ネルル・クラウンだった。


「ネルルなんでここに?王女がこんな場所にいたらダメなんじゃ」大国の王女が一人で来るのはかなり一大事なのではと心配したディーナ。

「まぁ今頃必死になって探してるんじゃないかな。私もなんだかんだこういう事結構やってるし、王宮の皆も慣れっこなんじゃないかな。特にケイは」


----------


一方の王宮ではネルルがいつの間にか居なくなっていることに気が付きすぐさま探索することになっていた。

鍛錬をしていたケイも一時中断して騎士を集めて「急ぎネルル様を探すのだ!王女が街中を護衛も無しで歩いていると分かれば一大事だ、早急に見つけ出すぞ!」「ハッ!」ケイに一斉に敬礼した後にネルルを探し始める騎士達。


ケイは頭を抱え「どこにいるかは大方予想はついているから安心していいが国民に見られれば、ネルル様は国や国民を守るために自らを偽り悪女として振舞っている。

その姿しか知らない国民がネルル様と会えば大ブーイングとなってしまう。一刻も早く見つけないと」

国民からすればネルルは傍若無人。不満の声だって上がっている、そんなネルルが一人で見つかればただで済むとは思えない。


ケイは思い当たる節がある場所へと向かおうとした時「ケイ様」一人の騎士がケイを呼び止めた。

「どうかしたか?」「実はこの付近に……」その後の話は耳元で伝えた騎士。それを聞いたケイは「……分かった。急ぎ対応しよう」と、言って走り出した。だがその顔には余裕はなくなっていた。

「ネルル様に急ぎご報告を、またしてもルムロに危機が迫っています!」


---------


抜け出したことに関してはあまり気にしていない様子のネルルに少し苦笑いを浮かべるディーナ。


「これは驚いた、まさかルムロの姫君でもあるネルル王女が来るとは。それにディーナ君とも知った仲…フフっ君の縁はどこまでも広がっているねぇ」"最強のリンドウ"に続いてルムロの殿下であり王女、ネルルと対面したナデシコは驚きよりも少し興奮の方が勝っていた。


「ん?誰……って私!き、貴殿は、いやでも皆が見てる前で……」知らない人の前で素の自分を見せてしまった事によりテンパってしまうネルルはどっちつかずの性格となってしまう。


「ネルル、ナデシコは大丈夫だよ。世間に興味無い子だから。皆に言いふらすなんてしないよ」ディーナの言葉に落ち着きを取り戻したネルルだが不安が拭えず心配そうな顔でナデシコを見た。


「確かに噂に聞いていた姿とは違うが興味は無い。むしろ友人の前では自然体で良いと思うが?」ナデシコはネルルの性格が事前に聞いていた姿とは違っていたがそれはあくまで噂の域。実際の姿を見ていないのなら噂なんてどうでもよかった。


「まぁ同じ年なんだ。そう気負う事も無い。フラットな感じで接してくれ」ヴァレアも同い年のナデシコは同時にネルルとも同じ歳だった。

「一緒の年だったんだ。う~んディーナがそう言うんだったら信用出来るしいっか。それじゃあ改めてネルル・クラウンよ。えっとナデシコでよかった?」この場で本来の姿を不本意ではあるが見られてしまったがディーナの言葉を信用してナデシコに自己紹介をした。

「ああ、ナデシコ・カミトさ。よろしくね、ネルル君」


「役者は揃った。"アフィシャル"について私達が知る情報を伝える」今度こそヴァレアが本題に移った。

「ネルルも来たって事はネルルも"アフィシャル"については知っているようね」「うん。一般的には知らない人の方が多いけど既に私達やタイムのような国長のほとんどは知っている。人類の反乱組織"アフィシャル"。もう私達も見過ごすことが出来ないぐらい被害が増えてるの」


「それってやっぱり"リンドウ"の被害?」「それもあるけど、今は国に潜伏する”アフィシャル”が目立っている。ルムロに潜入したのは金で雇われた”リンドウ”即座にヴァレアとシスイが対応してくれて助かったよ」


ディーナはシスイの方を見て「ネルルが公認してんたんだね。私の見立ては間違ってなかった。やっぱり暗殺者。それも”マリー”じゃなくて人の暗殺者」驚いた顔をするシスイはディーナから目を逸らしたが誤魔化しがきかない所まで見られてしまっているため再度ディーナと目を合わせて「……そうです、わたくしは人を殺める暗殺者。正直に言えば”マリー”よりも人の方が殺めた回数は多いです」シスイは白状した。自分は元々暗殺者だったことを。


衝撃の発言をしたシスイだったがディーナは「なんとなくだけど分かってたから。貴方が普通の"リンドウ"じゃないことを」驚く様子はなくシスイが暗殺者だと言う事は薄々勘づいていたようだ。


するとフェリスはナデシコの裾を引っ張り「ナデシコさん、あんさつしゃって何?」と、言葉の意味を聞いた。

最近は言葉の意味が分からない時はディーナはではなくナデシコに聞いている。博識のナデシコはその意味を詳しく教えてくれるためフェリスも勉強に繋がっていた。自分が頼られなくなるのは少し寂しい気持ちになるディーナだが知識ではナデシコに絶対に勝てないためそこは息を飲むしかなかった。


「暗殺者ねぇ。一言で言えば、人を殺す仕事だよ」一切包み隠さずに本当の意味を伝えたナデシコ。フェリスは驚き声が出ずにシスイを見つめた。


「確かにシスイは暗殺者だ。だが全ては悪に堕ちた"リンドウ"や"アフィシャル"等の世界を狂わせる反逆者達を止めるためにその剣を振っているだけだ。闇雲に人を殺める事はシスイは絶対にしない」ヴァレアがシスイのフォローように全員に伝えた。


続けてネルルも「ヴァレアの言う通りでシスイはルムロの治安を乱す人達を止めている。ルムロ専属の暗殺者、ケイがルムロのヒーローならシスイも立派なヒーローだよ。シスイがいるからルムロの平和は保たれてる」ルムロにとってシスイはなくてはならない存在となっていた。


「ヴァ、ヴァレア様もネルル様も大袈裟に言い過ぎですよ……」褒められ慣れていないシスイは声を少し小さくして頬が赤く染まった顔を両手で抑えた。


「何かしらの理由があるのは分かってたから。無闇矢鱈に人を殺しはしない。シスイはそういう子でしょ?」ディーナもシスイの性格上、絶対に一般の人を殺しはしないと分かっていた。

ディーナはヴァレアとネルルを見ると二人共頷いていた。


「シスイの事は分かったけど"アフィシャル"がまさかルムロにまで牙を向けるなんてね。ヴァレア達は"アフィシャル"についてどこまで知ってるの?正直私も全く分かっていないから」シスイについては分かったが、"アフィシャル"についてはディーナもほとんど何も分かっていない。"マリー"を捕らえて研究している組織。その程度の情報しか頭に入ってなかった。


すると、ヴァレアは少しだけ黙った。「ヴァレア?」ヴァレアが沈黙したのは珍しかった。いつもならすぐに答えるはずだったが。そしてヴァレアが口を開き話したのはある仮説だった。


「……もし、奴らの目的が、七百年前の世界の何もかもが滅んだ日、滅日めつびの再現だったらどうする?」

ディーナは絶句していた。それは話を聞いていたナデシコも驚きを隠せなかった。

滅日、それは一つの世界が途端に終焉を迎えた日だった。

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