上位種 強欲の"マリー"
ドレアの形見を奪い取った"マリー"に対し交戦体制に入ったディーナ。するとディーナはキョロキョロと見渡した後にニヤリと笑った。
この場で笑うと言うことは嘲笑に捉えた"マリー"は「貴様、何を笑う?」真っ赤な眼をディーナに睨みつけた。
「こんな場所で戦ってもいいの?お前の大事なコレクションがこんなにもある中で私と戦ってみなよ、ドレアちゃんの宝石以外は全部砕け散るわよ」
この財宝の山も恐らくは全て奪ったもの。本来持ち主に返したい気持ちはあるが特定も出来なければ生きている可能性も分からない。
「ごめんね。これが私に出来る貴方達に精一杯の報いよ。返すことは出来ないけど、送ってあげることは出来る。"マリー"なんかに囚われた大切な宝物を解放はさせてあげるよ」大半は"マリー"から奪われた誰かの物、殺された人だっているはず。ディーナはここで壊すことで"マリー"から解放させ安らかに眠らせる、ドレアの形見を取り戻すのと理由は一緒だった。
だが"マリー"は不気味な笑みを浮かべると突然両手の拳を合わせた。「馬鹿か貴様は?生きているなら殺ってやろう」警戒をさらに強めるディーナ。
"マリー"は右手の拳を勢いよく地面に叩きつけた。その衝撃はすさまじく地響きと共にディーナが立つ地面が瞬く間に崩れていった。
「嘘でしょ!?」これにはさすがのディーナも驚いていた。コンクリート程の硬さの地面を軽く叩き割る馬鹿力、生身の状態でまともに喰らえば命の保証は無い。
ディーナはすぐさま手をぎゅっと握ると属性弾を完成させローゼンのマガジンを瞬時に取り替えるとまだ地面が見えない真下に発砲した。
数秒後、真下から突風が吹き込み落下の速度を和らげた。ぷかぷかと浮かびながらゆっくりと降っていく。
洞窟と真下、真っ暗な空間かと思えば所々にライトが着いており肉眼でも辺りを確認できる。
そして地上に降りたディーナは上空から見えた景色からある形状になっていたことを気がついた。
「これ、コロシアム?その真ん中に私が立っている。悪趣味なものね、人を殺した英雄になったつもり?」ディーナが降りた場所はコロシアムと呼ばれる円形型の闘技場によく似た場所だった。岩を丁寧に削り観客席が一つ一つあるように見せてあった。
ディーナがコロシアムを見渡していると上空から"マリー"が降ってきた。今度は岩を落とすことはなくディーナの目の前に勢いよく降りた。
「よくあの高さから落下し死なないものだな。だが死なぬのなら我に殺されると言うことだ。少しは楽しませてくれよ、久方振りに滾りたいものでな」"マリー"は右手の指を折り曲げ力を震わせていた。
「お前が作ったの?このコロシアム」自然にこんな形が出来るはずがないコロシアムは"マリー"が作ったのかと聞くと「ああ、よく出来ているだろ?我が根城に侵入した不届き者にはこの場で制裁を与える。見せしめにはいい舞台だと思わないか?客がいると思えば歓声に包まれる、心地よいものだ」ディーナの予想は的中し"マリー"が自身の快楽のために人を殺す舞台を作っていた。
ディーナは確かに見えた、拭き取られてはいるが微かに残る血の跡が無数にあることを。
「良かったわ」低く小さな声を呟いた。「なんだと?」その声を聞こえていた"マリー"。
「これで思い残すことなくお前を討伐出来るわ。地獄で後悔することね、この場で私に出会ったことを」そう言ったディーナはローゼンの銃口を向け属性弾を撃った。
電撃の属性弾でありローゼンが撃つ属性弾の中でもかなり強力な部類に入る程の威力だった。
突然撃たれた"マリー"だったが焦ることはなく当たる直前に属性弾を右手で掴んだ。「小賢しい真似を」"マリー"にとって放たれる銃弾の速度はゆっくり進んでいると同じだった。
だが掴んだ属性弾は掴まれた手から電撃が襲いかかり"マリー"の身体を痺れさせた。「これは…!」落下したディーナの見ていた"マリー"は完全にディーナの属性が風だと判断していたため不意打ちでもある電撃の属性弾に驚きと衝撃が同時に与えられた。
間髪入れずディーナは痺れる"マリー"の顔近くまで飛びローゼンの銃口を向け「まずはそのうるさい口を閉ざすわね」ローゼンが撃てる最大出力の雷の属性弾を打ち込もうとしていた。
「終わりよ」トリガーを引き電撃を纏った属性弾が近距離で放たれた。だが、"マリー"はすかさずしゃがみ属性弾を避けた。
「なっ、この距離を避けれるっていうの!?」ディーナと"マリー"の距離感はほぼゼロに等しく属性弾を撃てば確実に当てれる距離であった。ましてや弾速も早いローゼンの属性弾、身体がまだ麻痺している状態、ディーナであれば避けられるなどまずありえない。
だが避けられた、それは同時にローゼンの属性弾の弾速よりも俊敏に動けることを暗示させることだった。
属性弾を避けた"マリー"はすぐに立ち上がりまだ空中にいるディーナに向かって殴りかかった。「今度は貴様の顔面の番だ」"マリー"はディーナの顔面に目掛けて殴りかかろうとしていた。
地面を軽く叩き割る程の力で殴られれば結末は分かっている。その未来にさせないためにディーナはローゼンの属性弾を"マリー"の拳目掛けて撃つとディーナの目の前に氷の分厚い壁が出現した。
氷の壁はディーナの守り"マリー"のストレートパンチを身代わりに受けた。身代わりとなった氷の壁は砕け散り粉々になったが、その隙にディーナは地上に降り少し距離を置いた後にローゼンの銃口を向け完全に臨戦態勢に入った。
「ほう、貴様中々面白い属性ではないか。風も操れば雷をも操れる、さらには氷とはな。その様子では全ての属性を操れると見た。これは面白そうだな」一気に三つの属性を見せてしまった事によりディーナの属性を見破られてしまった。
「不意打ちは失敗。それに私の属性がバレたわね。さてここからは探り合いね。下手には動き回ることは出来ない、まずは属性を分からないと」手の内を見破られたディーナは相手の属性が分からない以上は徹底して動き回らないことを戦法にすることに。
「では、まずはこうだ!」"マリー"が突然ディーナに突っ込んでいき目の前に現れた。目にも留まらぬスピードで近づかれたディーナは反射的にバック転をしその場から離れた。その判断は正しく、"マリー"はディーナがさっき居た場に殴りかかり地面に拳がめり込んだ。あのままでは間違いなくディーナは殴り飛ばされていた。
「勘が働いて良かったわ」少しだけホッとするディーナだが"マリー"はまたしても近づき今度はディーナの胴体に目掛けてローキックを繰り出した。バック転から着地したばかりのディーナはすぐにローキックが向かってくる左側にローゼンを撃つと氷の壁が出現した。
氷の壁を盾にしてローキックを防いだ。だが氷の壁はその衝撃に耐えきれずに砕けてしまった。
砕け散ってもローキックの勢いは衰えずにディーナに向かっていく。何もせずに蹴られる訳にはいかないためか少しでも衝撃を和らげるために胴体の代わりに腕を蹴られる対象にした。
"マリー"のローキックはディーナを吹き飛ばすには充分な威力をしており腕を盾替わりにしたディーナを軽く吹き飛ばしてしまった。
吹き飛ばされたディーナはコロシアム状の壁に激突した。激突した瞬間に壁は一面ひび割れてしまった。特にディーナに面した壁はあと少しでも衝撃が加われば倒壊してしまう恐れがあるほどである。
ディーナは全身に打撲以上のダメージが入り額から血が流れた。流れた血を手の甲で拭って手を振り血を飛ばし、気持ちを切り替える意味で一息を吐いた。
「氷を出してなきゃもっと痛かったかも。私の判断は間違っていなかった」ローキックを喰らったとは言え属性弾を撃っていなければさらに深手を負っていた事を考えればポジティブに捉えた。
「それにしてもなんだろう、違和感がすごい。あいつ属性を使っていないはずなのにまるであいつが属性を使って戦っている感覚がすごいある。気のせいだとは思うけど…」
全ての属性を使えるディーナだからこそ分かる違和感、属性同士がぶつかり合う攻撃はよく分かる。何故その感覚に襲われるのかは分からないが。
「我が一撃を喰らい耐えるか。ハッハッハッ!良かろう、ならば次だ」ディーナが耐えたことに喜び機嫌が良くなる"マリー"は突然片足を足踏みした。
少し地響きがするほどの勢いであった。足踏みが意味するのは、上空から巨大な岩が落ちてきた。"マリー"の目の前に岩が落ちて、手を鳴らす"マリー"は不気味な笑みを浮かべる"マリー"は「さぁ、どう対処する?」手を鳴らした"マリー"は岩をぶん殴ると真っ直ぐディーナに向かっていく岩。
その勢いはディーナをペシャンコにするには充分過ぎるほどの勢いと速度だった。何もせずに棒立ちになるほどディーナも馬鹿ではない。落ち着いてすぐにローゼンのマガジンを取り替え銃口をこちらに向かう岩に向けた。
銃口から発砲した属性弾は炎の属性弾であり光線の属性弾は向かってくる岩を貫通した。貫通した岩は瞬時にひび割れ破裂するように崩壊し崩れていく岩。だが岩が崩れていく中でディーナは岩の奥から来る”マリー”を見逃さなかった。
岩を対処することは分かっていたようだった”マリー”は崩れてディーナの視界が悪くなった隙を狙い”マリー”は突っ込んで来ていた。
だがディーナはそれも予期していたようでローゼンの狙いを”マリー”に定めて崩れる岩の間を通り抜け属性弾を撃ち込んだ。”マリー”の胴体に命中した属性弾は瞬く間に”マリー”の全身を氷漬けにした。
「とりあえずは頭を冷やしなさい。全部終わらせてあげっ…」次の属性弾を撃ち込もうとしたその時、”マリー”は氷漬けとなっていたが既に氷にはひびが入っておりディーナが気が付いたころには”マリー”は氷を自力で破り勢いが落ちずに向かってきていた。
予想外の展開にディーナも焦りを見せ”マリー”に照準を合わせただけで狙いを定めずに属性弾を撃った。だが炎を纏った属性弾はこちらに向かう”マリー”に素手で掴まれ握りつぶされてしまった。
強力な属性弾のはずだったがいとも簡単に無効化されてしまった衝撃に一瞬動揺してしまい「噓でしょ…」少し状況を整理をするため、気持ちを落ち着かせるために目を閉じた。ほんの数秒、体感では一秒にも満たないほどではあったが目を開けると目の前には”マリー”が拳を振りかざしディーナの顔面目掛けてストレートパンチを繰り出していた。避ける手段も防ぐ手段も思いつくには時間が無く、ディーナは”マリー”の渾身の一撃喰らってしまった。
少しでも衝撃が加われば壁は崩れる程の強度しかなかったディーナが激突した壁は”マリー”の一撃と一撃を与えられたディーナの衝突により壁は倒壊し、ディーナは瓦礫に巻き込まれ下敷きになってしまった。ディーナをぶん殴った”マリー”は腕を下ろし手を振るった。
一部コロシアムは倒壊し土煙が辺りを覆った。土煙を払うように顔の前で手を左右に振った”マリー”は「所詮はこんなものか、期待した我が愚かだった」ディーナの生死を確認するまでもなくこちらの勝ちを確信していた。仮に生きていたとしても戦意は喪失しており体も満足に動かすことはできるはずがなかった。
倒壊したコロシアムを見た”マリー”は「やりすぎてしまったな。修繕のために岩を持ってくるとするか」再びコロシアムを再建するため資材を持ってこようとディーナから振り返り背を向けた。だがその瞬間、凄まじい殺気を感じた。背筋が凍りいつからか感じていなかった恐怖が襲い掛かった。
焦りを感じすぐさま振り返った”マリー”の目に映ったのは、まだ土煙が舞い視界不良の中でも分かる、瓦礫の上に立っていたディーナの姿だった。
「貴様、我が一撃を喰らい何故生きている!」今まで自身の渾身の一撃を与えて生きていた人間はいなかった。驚きと動揺を隠せなかった”マリー”。
ディーナは額や口からおびただしい血を流し、体もボロボロとなっていたが真っ直ぐ”マリー”を見つめていた。その視線はどんな相手も凍り付かせるような冷たい視線だった。
血が目に入るためコートで額の血とついでに口元の血を拭い血反吐を吐いた後に少し離れた”マリー”に分かるように笑って「あれで死ぬと思ったなんておめでたい頭ね。私しぶとくてね、お前の一撃で死ぬような女じゃないのよ」ディーナが笑ったのは余裕を見せるためだった。
そしてディーナは確信した。「お前の属性はその化け物みたな機動力や馬鹿力、圧倒的なフィジカルってところね。闇属性に身体強化系統があるのは嫌と言うほど分かってたけどその類とはね」
”マリー”の属性、それは常人で考えられない力や機動力等の身体強化。一般人はもちろん並の”リンドウ”であっても一撃で葬る力を持つ”マリー”の属性は特殊な属性の力は無いものの、数多ある闇属性の中でも超強力な属性であることは変わりない。
ディーナが感じて違和感の正体は既に扱っていた属性を見破ることが出来なかったためである。
”マリー”の属性が判明した事により”マリー”は突然大声で笑いだし「ハッハッハっ!よく我が属性が分かったな。貴様の言う通り我が属性は力の増幅、下級生物共を蹂躙するため与えられた属性よ!貴様が初めてだ、我が属性を見破った者はな」属性が判明されたことにより”マリー”も自身の属性の正体を明かした。
「だが我が属性を知ったところで何になる?貴様の死が少し遠くなっただけだぞ」”マリー”の言う通りであり、現時点で劣勢なのは明らかにディーナの方である。傷の影響で動きが鈍くなっている。
「ええその通りね。私がこのままじゃ負ける。でも簡単には終わらせないよ」ディーナが掌の中にギュッと握りある属性弾を創っていた。
それと同時にあることが分かった。「こいつ人の言葉を普通に話している。それに知識も豊富なようね。ドレアちゃんが負けた理由も分かった。あの時、研究所で戦った”マリー”と同種、上位種の一匹のようね」ドレアが負けた理由は実力の格差。氷結の”マリー”と同じ実力の”マリー”であることを確定させた。
掌を開けて一発の属性弾をローゼンのマガジンに込めた。警戒する”マリー”だがディーナは「あんまり使いたくなかったけど仕方ないか。ドレアちゃんの仇のためにも負けるわけにはいかないからね」そう思いつつ一呼吸置いた後にディーナはローゼンの銃口を左肩に向けたと思いきや、そのままトリガーを引き自身の肩を打ち抜いた。
苦痛の表情を浮かべるディーナに”マリー”は「馬鹿め自傷とはな!諦めが早い奴だなっ!」と言って諦めたディーナにトドメを刺すため突っ込んでいく。
ディーナはローゼンを向けるのではなく、何故か懐に納めた。そして殴り掛かる”マリー”の拳を右手を開けて受け止めた。先程と威力は変わっていないが簡単に受け止められた。
「な、なに…」明らかに何かが変わって一撃を止められた”マリー”は驚愕していた。驚愕する”マリー”の顔面まで飛んだディーナはそのまま”マリー”顔を蹴り飛ばした。本来のディーナであれば”マリー”を蹴り飛ばすことは不可能だが、何かしらの属性弾を撃ち込んだことによって大幅な身体強化を手に入れたディーナは瓦礫の山に”マリー”をお見舞いした。
勢いよく瓦礫の山に吹っ飛ばされた”マリー”は瓦礫に激突し一部の瓦礫は粉々に吹っ飛んだ。さらなる強化として炎の篭手と具足、グロリオサを纏ったディーナは左手を口元よりほんの少し離れた場所に置いて、膝を曲げ独自の構えを見せ「さて、第二ラウンドよ。前座は楽しめた?ここからが本番よ」ディーナは全力を”マリー”に見せた瞬間だった。




