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カエデ  作者: アザレア
過去の崩壊
72/86

雲の上の君へ

女の子からの依頼は親友を殺した"マリー"の討伐依頼だった。「とりあえず外で立ち話もあれだし、中に入って」

「は、はい」ディーナは女の子を事務所に招き入れた。


ディーナは招き入れた後に自分の椅子に座った。依頼主の前のためかデスクに足をかけるような事はしなかった。女の子はキョロキョロと事務所を見渡していると「ど、どどどうぞ…」フェリスが依頼主のために椅子を両手で持ちディーナのデスクの前に椅子を置いた。


「あ、ありがとうございます」突然姿を見せた目隠しの少女に戸惑いながらも用意してくれた椅子に座った。

フェリスはディーナの隣に立ち「お姉ちゃん、お客さんに椅子を用意したよ」「うん、ありがとね」フェリスの人見知り克服のために依頼に来た客人に椅子を用意させる等初対面の人にある程度の施しをさせているディーナ。

徐々にではあるがフェリスの人見知りも改善されていっている。フェリスの将来のためにも、頑張るディーナ。


「あの、ディーナさんの従業員の方達ですか?ディーナさんは一人で切り盛りしていると聞いていたので…」世間的には事務所に目隠し少女と居候がいることなんて知れ渡っていないため、ディーナ以外に人がいたことに驚いていたようだ。


「従業員って訳じゃないよ。この子は家族でそっちの子は居候って感じかな」女の子はソファに座るナデシコの方を振り向くと「あぁ気にしないでくれたまえ。ただいるだけだよ」と、言って再び小説を読み始めた。


「まずは名前を聞こうか」「はい、私はフクと言います」

「フクちゃんね。親友が殺されたって言ったね、どうして殺されたの?」フクと言った女の子、年齢は十八歳程でタイムの同年代の子だと分かった。


親友が殺されたと悲惨な現実だがディーナは心の内では「まぁ、仇討ちは珍しくない依頼ね。こんな年齢の子が来ることは初めてだけど、家族や親友の仇を討ってくれって言われるのは何十回も聞いている。今回もその類かな」

仇討ちに関しての依頼はかなりの数を受けている。"マリー"を討伐するのに理由はいらない。仇討ちをした後に送られるのは感謝の言葉と亡くなった人の別れの言葉、ディーナは想いの言葉を聞くと寂しい気持ちになってしまう。二度と会えない人に伝える言葉を聞いて、何も感じない訳がなかった。


「まぁどうあれ、討伐する事には変わらない。この子の想いを踏みにじる事は出来ないからね」人を殺すような"マリー"を野放しする選択はなかったディーナは今回もきっと寂しい気持ちになってしまうが、討伐に臨むようだ。


フクは重い口を開けて詳細を話した。「…ドレアは私達の町を守る"リンドウ"でした。頼もしくて町を襲ってくる"マリー"なんてドレアにかかれば難なく勝利出来ていました。それに…」ズボンを掴む手をギュッと握り「もう少し…あと少しで、二つ名を貰えるはずだった、ヴァレアさんが、そう言った……」涙ぐむ声に震える手。フクの中で思い返された記憶が辛い思い出を蘇らせた。


ディーナも少し驚いていた。「二つ名をもう少しで与えられる"リンドウ"、実力は申し分無い"リンドウ"が"マリー"に殺られた、それに…」涙ぐむフクに罪悪感はあったが「今、ヴァレアって言った?」何故かヴァレアの名前が出てきた事を聞いた。


フクは涙を手で拭った後に「はい、ドレアはヴァレアさんに直々に稽古を受けてもらっていました。

二年前、町を"マリー"から守ってくれたヴァレアさんにドレアは強くなりたいと言いました。"リンドウ"として多忙なヴァレアさんは時間を見つけてはドレアに戦いの術を教えていました。見ている私も痛々しくなるほど傷つき、倒れ伏せる厳しい稽古でした。それでもドレアは何度も立ち上がって立ち上がってヴァレアさんに立ち向かいました。

それから半年程でドレアは"マリー"を一人でも討伐出来る実力がつきました。初めて"マリー"を討伐したドレアの笑顔を一生忘れることは出来ません」さっきまで涙を堪えていたフクだがドレアの話を進めると嬉々と話していた。


「よっぽどドレアって子が好きだったんだね。気持ちは分かるけどね」自分もフェリスの事を話す時は彼女のように喜びながら話すんだと思うとどこか微笑ましく思ってしまう。


「そして、ヴァレアさんから正式に"リンドウ"に任命されてからは町に襲撃する"マリー"を討伐しました。町の英雄となったドレアを私は誇らしいかった。私の友達が皆を守る人になって、嬉しかった。本当に自分事のように

大型"マリー"を討伐出来るほどの実力を持ったドレアの功績が認められてヴァレアさんからも二つ名を与えられるだけの実力を持ったと…そんなある日、"マリー"討伐から帰ってきたドレアは変わり果てた姿でした。夥しい程の傷と血、何度も呼びかけても目を開ける事のない顔…もう、二度と会えない人になっちゃったんだって分かったら…」


ずっと堪えていた感情が溢れかえり、その目からは親友を失った悲しみをもう一度思い出してしまった涙を流していた。

フクの自分では何も出来ない悲しみや苦しみ、無力な自分ではどうしよも無い感情を感じたフェリスも何故か涙が溢れてしまった。


二人のすすり泣く声が事務所に流れる音楽を通り越して聞こえてくる。ディーナはフクの涙やその感情を理解したフェリスの涙に意を決した。

ディーナは立ち上がりデスクの上に置いてあるローゼンとフォーリーを手に取りった。


「いいわよ、貴方の依頼を受けてあげる。案内して、貴方の町に。ドレアちゃんが命をかけてまで守った町を"マリー"に襲わさせる訳にはいかないからね」

突然やる気になったディーナにフクの流れる涙は止まった。


「えっ…まだ何も、報酬とかも用意してあります。何も見ずに…」「いらないよ。その想いに応えてあげたい私のわがままだよ。強いて言うなら貴方の目に映ったドレアちゃんの武勇伝を聞かせて。"リンドウ"の活躍を聞けるのだったら私は満足だよ」


驚く表情をするフクは懐からある袋を取り出した。

「そんなのダメです。ディーナさんはお金が好きって聞いたことがあります。少ないですが私なりに集めたお金です。どうかこれだけでも…」自分の良心が無償で動こうとするディーナを止めようと袋に入ったお金を渡そうとした。


しかしディーナは首を振って「それは自分のために使って。これは依頼じゃなくていい、私は通りすがりの"リンドウ"さんってだけでいい。それに…」ディーナはフクの目線までしゃがんでまだ零れる涙を手で優しく拭って「泣いてる女の子からお金を巻き上げる程、私は腐っていない。必ず勝つよ。ヴァレアの代わりに仇は打つ」


ディーナは立ち上がりナデシコへと顔を向けると「それじゃあ留守はお願い。フェリスの事もよろしくね」ナデシコは本を閉じて「君ならこの依頼を受けると思っていたが無償とはねぇ。行ってきたまえ、この家の留守と彼女の安全は任せたまえ」ディーナが無償で現場に向かう姿は初めて見たナデシコは改めてディーナの人の良さが垣間見えた瞬間だった。


今度はフェリスの方を向いて「フェリスも、もう泣かないの。フクの気持ちになって感情的になるのはいいこと。大丈夫、私は必ずフクを笑顔にさせて戻ってくるから。ナデシコとちょっとだけ留守を任せるよ」

フェリスは頬を伝った涙を拭って「うん…お姉ちゃん、頑張ってね、必ず、"マリー"を倒してきてね」珍しかった。フェリスから"マリー"を倒してきてと言われたのが。それほど今回の"マリー"が許せなかったのだろう、フクの気持ちを理解すれば許せるはずがないのだが。


気持ちを顕にしたフェリスに微笑みを見せたディーナは「うん、待っててね。それじゃあフクちゃん、行こうか」ディーナはフェリスに手を振った後に事務所の扉から外に出ていった。


外を出た後に続けてフクも出てきて「あの、ディーナさん」「ん?まだ報酬の話?もうそれはいいって、それよりも…」「いえ、確かにドレアの仇を討ってくれるのはとても嬉しいです。けれどそれともう一つお願いがあるんです」


ディーナはキョトンとした顔になり「えっ…まぁそっか。突発的に動いたのは私だもんね。時間も無駄にする訳にはいかないから歩きながら聞くね」フクの話を最後まで聞かずに飛び出したのは自分。まだ依頼内容の全容を聞いていなかったと分かり少し反省するディーナ。


ディーナとフクは並んで歩きながらフクが住む町に向かっていた。すると、フクはある写真をディーナに渡した。

写真を手に取ったディーナが見るとそこにはフクとドレアと思われる女の子が映った写真だった。


「この子がドレアちゃん?」「はい、ついこの間撮ったばかりなんですけどね」ショートカットで活発的な女の子でありディーナの目から見れば「可愛らしい子ね。誰とでも仲良くなれそう」笑顔が明るく隣にいるフクもつられて笑顔になっている。


「そうですね。人見知りも一切しなかったので、自慢の友達でした…」またしても友達を失った感情に戻ってしまったフクにディーナは「それで、もう一つのお願いって?この写真もドレアちゃんを見せるために渡したわけじゃないでしょ?」ドレアの話題を少しだけ変えて依頼内容の続きを聞くことにした。


「あっ…はい。実はドレアの首元を見てもらったら分かるんですが、ドレアはネックレスをしているのが見えますか?」そう言われて再度写真を見ると確かにドレアはあるネックレスをしているのが分かった。ネックレスはチェーンの先に青色に輝く宝石のような石がはめ込まれていた。


「見えるけど、これがどうしかしたの?」「それは、ヴァレアさんから受け取ったネックレスなのです。ヴァレアさんはドレアが"リンドウ"になった時に渡してくれました。

唯一のヴァレアさんから受け取った大切なネックレスでしたが…亡くなったドレアを見てもこのネックレスがどこにもありませんでした。探しに行こうにも今は危険すぎると止められました。"マリー"との戦闘で何処かにいってしまった可能性もありますが、出来る範囲でいいのでこのネックレスを探してきてもらってもいいですか?ドレアの墓前にせめて返してあげたいので」


フクの依頼内容の全容はドレアを殺した"マリー"の討伐とドレアの形見のネックレスの捜索であった。


「大切な思い出を取り戻してあげたいのね。貴方って本当に友達想いね」「そ、そうですか?」「そうよ。そうじゃないと自分の身を省みずに危険な場所に行ったりなんてしないもん。貴方は間違ってなんかいない」フクが取り戻そうとしていたネックレスは"マリー"が近辺に潜む可能性がある、自殺行為に等しい行動だがディーナは全てはドレアの形見を戻てあげたいその一心だったフクに注意ではなく肯定の言葉を伝えた。


フクは自分が向かって無事に帰ってきたが周りからはかなり怒られてしまった。だがディーナは自分の行動を肯定してくれた。否定ばかりの言葉だったが、どこか心が落ち着く感じがした。


「でもヴァレアも粋なことをするね。自分の師匠からの贈り物なんだから大切するよね」「ディーナさんはヴァレアさんと仲が良いんですか?」「まぁ付き合いは長いからね。仲が良いかって言われたらちょっと微妙なところがあるけど」


「そうなんですね、ドレアはヴァレアさんの事を…」フクがドレアの事を話そうとした時に「あぁごめん。一つだけ聞いてもいい?」話を割って何か聞きたい事があった。


「なんでしょうか?」「ドレアちゃんって町を守る以外に依頼とかきてた?」「そうですね、ドレアの実力は徐々に広まっていきましたから。依頼は来て大型"マリー"を討伐したお話をよく聞きました」


「そう…ごめんね話の続きを聞かせて」「は、はい。ヴァレアさんはこの前来た時に…」フクが話し始めている時にディーナはある事を考えていた。

「聞いた限りドレアちゃんは二つ名"リンドウ"と遜色ない。それにヴァレアが忖度することは無いと考えれば相当な実力者だった。そんな"リンドウ"が負けてしまった…ただの"マリー"じゃなさそう、ちょっと嫌な予感がするわね」

ディーナは直感的に普通の"マリー"では無さそうと判断していた。この嫌な予感は遠からず当たっていることになってしまう。

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