若き国長
スイレン・メリアージュと彼女は名乗った。
スイレンの容姿は水色の髪で長い髪を後ろで結んでいる所謂ポニーテール。目元には泣きぼくろもある。
右腕には籠手が装着されて"マリー"の攻撃を防ぐために付けられたものだろうか。
そして"マリー"を斬り裂いた武器は両剣と呼ばれる武器であり、柄の両端に刃が付いてある扱いが難しい武器の一つである。
ディーナは名前を聞いて「スイレン・メリアージュ・・・あぁ!私も名前は聞いたことあるよ」どうやら面識は無いが名前は知っているようだ。
「それは光栄ですね。有名な"リンドウ"の方に名前を覚えてもらえるのは私も"リンドウ"として力を付けてきたようで、嬉しいです」
喜びを露にして笑顔になるスイレン。
「ヴァレアってば名前は知ってるんだから言ってくれたらいいのに。確か属性は水、さっきの見れば分かるけど。そして二つ名が"マリー"を水を自在に操り可憐に倒す姿を"遊宴の水演舞"だったよね」
スイレンの属性は水属性。水属性の一般人は基本的にお風呂に水を貯める、飲水として提供する等の活用砲がある。一般的にはどこでも水を出せる便利な属性だが反面、六つの基本属性の中でも戦闘には不向きな部類に入る。
具体例としては"リンドウ"は強力な属性力を持ち、炎であれば"マリー"を焼いたり、雷であれば落雷を直撃させたりと用途は様々であるが"マリー"を瞬時に討伐出来る力を持つ(瞬時に討伐は"リンドウ"の中でも僅かではあるが)。
その属性の中でも水は違い"マリー"は水浸しにすると言う"マリー"を討伐すると言う直接的な事には関わることは少ない。水を浸らせ雷を通りやすくさせたりと主にサポートに回ることも多い。
最も扱い次第では他の属性とも負けず劣らずの力を見せることも出来るが属性の使い手により大きく実力が変わる属性でもある。
「私の属性や二つ名も知ってるなんて、勉強熱心ですね。私の名は調べないと出てこないぐらいの知名度しかないので嬉しい限りです。私も感心しないと、しっかりと知識も付けないと"マリー"相手に翻弄されてしまいますから」
どんどんと目を輝かせていくスイレン。ディーナに興味を持ってもらえるのが単純に嬉しいのだろう。
その輝いている目に困惑するディーナ。「あはは、確かにヴァレアが言った通り私とは真逆の人かも」
有名人の"リンドウ"に覚えられて嬉しいスイレン、"リンドウ"であろうと自分と関係の無い人に覚えられても興味のないディーナ。正しく対比と呼べる二人である。
初対面の二人は話していると何人かの武装をしている兵士が来た。
「民間人の皆さん避難してください!"マリー"はすぐ近くに来ています、我々にお任せ下さい!」
大声で呼びかけ住民の避難を促す兵士達。"リンドウ"の二人に近づいて行き「君達も早く避難を!"マリー"に襲われ・・・ってその手に持つのは武器ですか?」
流石に武器を持つ民間人は一般人では無いと分かった兵士。
「兵士の皆様、ここは大丈夫です。国に侵入した"マリー"は討伐しました、私は"リンドウ"のスイレン・メリアージュです。ここにいる彼女も志同じくする"リンドウ"の一人ディーナさんです」
志同じくに口にはしなかったが「同じかな?彼女が"マリー"に対してどう思ってるかは分からないけど、まぁ広く捉えたらそうなるのかな?」同じ"リンドウ"だからと言って目的が一緒では無い。そもそも目的が一致するのはごく稀である。
「おぉ"リンドウ"の御二方でしたか。これは失敬、住民を避難させるのに必死で御二方には気が付きませんでした」
「まずは一般人を最優先に守ろうとする姿勢は素晴らしいです。誰彼構わずに避難を誘導する事は兵士の皆さんだけで"マリー"に迎え撃つということ。"リンドウ"でも無い人達が"マリー"に挑むのは無謀ですがそれ以上に勇敢です」
スイレンの褒め言葉に身に染みる兵士。「ありがたき幸せ。"リンドウ"であるスイレン様にそのようなお言葉は我々には勿体ないです」
「スイレン様だなんてかしこまりすぎですよ。呼び捨てでも構いません」
「いえ、国を守るお方達に粗相は出来ませんので。どうぞ本部の方へ国長がお待ちです。今の状況をお知らせします」そう言って兵士とスイレンは本部の方に向かった。
スイレンと兵士のやり取りを見たディーナは「律儀だねぇ私も見習いたいぐらい。純粋な気持ちで話していた。
でもどう考えてもあの兵士達じゃ"マリー"の討伐はせいぜい一匹二匹が限界。まだ詳しく国の状況を知らないけど"マリー"が頻繁に現れるにしてもちょっと無理がある人数ね。
そもそも国の防衛って兵士達がやってる?もう少し兵の数はいると思うけど国の陥落は時間の問題、"マリー"は手を休めてはくれないだろうし。
う~ん、少し調査は必要かな。後で国の外の近辺を調べよ」
ディーナはディーナなりの見解をしていた。どう考えても兵士達では"マリー"に勝てない。それなのに今まで国の防衛は兵士達に任せていた。乗り切れないのに。
「ディーナさん、行きましょう!ヴァレアさんに報告もしなくてはいけないので」スイレンが大声でディーナを呼んだ。
それに応えるように「はーい、今行きまーす」と、あまり大きな声ではないが返事した。
スイレンに追いつくように小走りで向かうディーナ。
その途中にこんなことを「スイレンは兵士達をべた褒めしてたけどヴァレアに言ったら怒られるだろうね」
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本部に着いたディーナとスイレンは既に本部の中に入っていたフェリスとヴァレアと合流した。作戦会議室と言う部屋で大きなテーブルの上にエニー地域の地図が広げられて、もう一人の女性の国長もここにいた。
「"リンドウ"の皆様、よくこの国に参られました。私はタイム、この国の長です。えっと、今回"リンドウ"の皆様に依頼したのは他でもない"マリー"の撃退と調査です。何故最近になって"マリー"が頻繁に現れるのか、本題はここにありますが」
タイムと呼ばれる女性。客人を招き入れた事がないのか不慣れで言葉遣いもよそよそしい。国長と言う割にはあまり威厳もなく若い。国長にしてはあまり頼りない印象のディーナとスイレン。
ディーナはタイムの姿を見て「国長って年齢じゃないでしょ?だって私よりも若いでしょ」これに続いてスイレンも「確かに、事前にエニーの事を調べたのですが国長はタイムさんよりももっと歳上の女性の写真を見たのですが」
タイムは若すぎると指摘する二人。「それは・・・私は先代と数日前に国長と代わったので歳が若いのは代わるタイミングが早かったせいでもあります。スイレンさんが見た写真の人は恐らく先代かと思います」
"マリー"が連日襲撃してくると言うのに国長を交代する国を守る気がないとも捉えることが出来る。明らかに何かあるかと思いディーナはさらに聞こうとするとヴァレアが口を開いた。
「先代はタイムの母親だ。一週間前、"マリー"の襲撃により亡くなった。国長の知識や威厳も無いのも仕方ないことだ、十八の歳で一国を突然まとめあげるなんて無理に等しい。まだ国長になって数日、"マリー"の襲撃の対応だけでも精一杯の状況だ」
"マリー"の対応が遅れてしまったせいか先代であるタイムの母は亡くなっていた。
タイムはこの話を聞いているとどんどん俯いていき、座り込んでしまった。母の連日の多忙をそのまま娘のタイム渡してしまったようなものでもある、"マリー"の対応も遅れてしまうのも無理もなかった。
タイムは俯きながら「・・・母は皆を避難を誘導しながら大越で呼びかけて皆を守っていました。国民を第一に考える人でした、"マリー"からどうやったら安全に守れるかを試行錯誤しながら毎日寝ずに頑張っていました。
私の憧れでもあった母でしたが、逃げ遅れた国民を守ろうと自分の身を犠牲に庇いました。私はこの本部にいて母の帰りを待ちました。帰ってきた母は既に息をしていませんでした」
落ち込むタイムではあったが自身の膝を叩いて立ち上がり「ですが落ち込む暇はありません。未熟な私ですが国を守る気持ちは母と同じです。どうかこの国をお救ください」そう言って頭を下げた。
国長の事情を聞いてスイレンは「そのような経緯があったのですね、先程の無礼をお許しください。そして偉大なる先代の方にご冥福を」こちらも頭を下げた。
「堅苦しいのはもう終わり。若いのに偉いね、普通なら娘でも断るでしょ。責任重大だし国民の命も背負うってことだし。"マリー"は任せて。私やスイレン、ヴァレアだっているんだから"マリー"なんて取るに足らないよ」
重苦しい雰囲気だった場を和ますようにディーナは笑顔だった。
顔を上げたタイムは「皆さん、ありがとうございます」この場で初めての笑顔を見せた。スイレンも顔を上げて微笑みを見せていた。
「それでは作戦会議と言いたい所ですが、もう夕方です。ここの"マリー"は一度出てくるとその日は一切出てこない習性を持っています。なので、明日の早朝に作戦会議を開こうと思います。宿は準備しておりますのでそちらでお休みください。今日はエニーを楽しんでください」
時刻はもう夕方、作戦会議は長引く可能性が高いためタイムは長旅の皆に休息を与えるために早朝に作戦会議を開こうとした。
これについては三人も「そうね、今から色々聞いた所で実行には移せないんだし、今日は解散でいいかもね」
「同意見です。最高のパフォーマンスをするのにはしっかりと休息も必要ですから」
「仕方ないか。明日に本格的な調査を始める、お前達寝坊するなよ」
すると、一人の兵士がやって来て「それでは宿にご案内します。私についてきてください」
「皆さん、"マリー"打倒に向けて頑張りましょう!」三人が部屋から出ていく時にタイムが鼓舞する意味で言うと、ディーナは手を振り、スイレンは一礼し、ヴァレアは何も言わなかったが満更ではなかったようだ。
部屋を出ていく一瞬で物陰にずっと隠れていたフェリスが小動物のように素早くディーナの元に行き、ディーナの裾を引っ張りながらついて行った。
兵士について行く途中で「そう言えばスイレン、お前いつから来たんだ?依頼で遅れるとは聞いていたが随分と早かったな」「先程ですね。依頼が思った以上に早く終わったので早めに来たまでです。エニーに入ってくる途中に"マリー"を侵入して来たのでタイミング的には良かったです。最もディーナさんがいたので御安心でしたが」
「なるほどな、ディーナの性格に難アリと言うのは伝わったはずだろ?」
「貴方だったのね?余計な情報を入れ込んだのは。て言うかもう一人の"リンドウ"って普通にスイレンって言ってくれればいいのに、名前は知ってるよ」
「私もディーナさんの名は知らされていなかったので驚きました、何故隠されていたのですか?」
「ただのサプライズだが、良かっただろ?」
この発言に、二人は苦笑いだった。
こうしてエニーの調査が明日になり色々と情報交換をしたり談笑してディーナとスイレンがヴァレアの想定外に仲良くなったのは別の話。