突き動かす理由
フィグの湖に潜み人間を襲う"マリー"の討伐戦。"マリー"は自分達の周りを泳いでいるのかスイレンは辺りを見渡すようにキョロキョロとしていた。
しかし、ディーナは"マリー"どころかスイレンすらもまともに見ることは出来ずにほとんど目隠した状態で"マリー"を討伐しなければならない圧倒的不利である。
微かに"マリー"が泳ぐ際に動く水の音や"マリー"自身の音もある。目で見えない分、耳を研ぎ澄まされば"マリー"が何処にいるは分かる。
そのためディーナは敢えて何も見えない視界を遮り、目を閉じた。より音に集中するためには瞼の裏を見続けるのが一番良い。
「"マリー"の音もかきわければ何とか場所は分かると思うけど、いかんせん私も初めて目を閉じながら戦うからね。あんまりでしゃばらないほうが自分の身のためだし、水中戦が得意なスイレンに基本は任せた方がいいかな」
そもそも水中戦の経験自体少ないディーナは戦闘はの大部分をスイレンに任せる事にした。
「ディーナさん、私の声は聞こえますか?」「スイレンの声は聞こえるよ。それに、ちょっとだけど"マリー"の泳ぐ音も聞こえる。何とか音をたどっていれば"マリー"が動く場所が分かるかも」
そう言ったディーナはローゼンの銃口を右に向けて撃った。自分では目に見えて分かることではなかったが、水中を自在に見えるスイレンは驚いていた。
「掠った…それもピンポイントで。すごいです!やっぱりディーナさんは!」見えない状態で”マリー”の居場所が分かったディーナに戦闘中ではあるのの声も大きくして言った。
「それでも命中はしていないんだね。ここからまた探すってなったらちょっと苦労するかも」「確かに外れはしましたが、”マリー”先程の銃弾によってかなり警戒を強めています。ずっと近くをウロウロしていましたが、今は離れてこちらの様子を伺っているようです」
完全にディーナは見えていないと思っていた”マリー”だったが、威嚇射撃のように撃った銃弾に驚きディーナの出方を見ているようだ。
「さて、どこから来るか…」音を頼りにするディーナだが今はほぼ無音の状態が続きどこにいるかは分からなかった。
すると「ディーナさん来ます!」スイレンの声と共に徐々に水が流れてくる音と"マリー"のうめき声も聞こえてきた。
ディーナは冷静に耳を澄ませて「流れ変わってさらに声がする方向は…三時の方向。つまり避けるにはその逆を行けば」ディーナは急いで三時の方向とは逆の方向へ泳いだ。すると、さっきまでいた場所から突然激流が流れ始めた。
「ビンゴのようね。でも数秒間で動かないといつもよりも自由に動くなんて出来ない。瞬時の判断で動かないと圧倒間に餌食になっちゃうわね」上手くいったが今度はその補償はない。さらに研ぎ澄まさないと傷を負ってしまう。
ディーナが避けたことによる少しの気の緩みが"マリー"への隙を作ってしまった。ディーナは突然足首に何かを巻き付かれた感覚があった。
「この感じ、しまっ…!」下が巻き付かれた事に気が付き解こうとしたが勢いよく引っ張られるディーナ。
「ディーナさん!」スイレンがこっちに来ているのが分かったディーナだが引っ張られている方向にローゼンの銃口を向け発砲した。
雷を纏った銃弾が弾ける音と共に巻き付かれた舌も解け"マリー"の叫び声だけが聞こえた。
「効いたようね。事前に雷の弾を装填しておいた甲斐があった。湖の中で撃ったらどうなるかはちょっと心配だったけど当たってから内部で炸裂するんだったら問題ないでしょ?でも残念、この目じゃお前の黒焦げになる姿を拝められなくて」暗闇の中で聞こえる音は属性弾によって感電が響き渡る音しか聞こえていない。
"マリー"の声は聞こえているが、少し違和感を感じたディーナ。「…やけに長いわね。電撃がそんなに長く続くことあったかしら?そこまで強力な属性弾じゃなかったけど」
ディーナの目には見えていないが明らかに電撃の音が長く聞こえていた。電撃で黒焦げになる"マリー"は大抵は一瞬ではあるが、今回は一瞬どころか聞こえている範囲ではあるがかなり長い時間電撃の音が聞こえていた。
だがここで「ディーナさん!」スイレンが勢いよくディーナに飛びかかりその場から離れた。
突然の事に驚くディーナは「スイレン、どうしたの?」ディーナを抱えたまま泳ぐスイレンは「あの属性弾は確かに"マリー"の動きを止めました。ですがほとんど効いていなく、それどころか電撃の玉がディーナさん目掛けて飛ばしてきました」「飛ばしてって、"マリー"は感電も何もしなかったってこと?」
「はい、慌てたディーナさんを逃げていますが、今も尚"マリー"はこちらに向かってきています」
"マリー"は雷の属性弾によって黒焦げになどなっておらず、それどころか電撃の玉をディーナに向けて飛ばしてきたと伝えたスイレン。
「なるほどね、ありがとうねスイレン。あのままだったら私に直撃だったけど助けてくれて」「どうってことないですよ。何度も命の危機を救ってくれた事への恩返しでもありますから」
この台詞からディーナはスイレンの何かを感じてスイレンに「貴方自身の命を私のために投げ捨てる真似はしちゃダメよ」「…もちろんですよ。自分の命は自分で守りますよ」少しだけ間があった。ディーナにはスイレンの表情は見えていないが間があった瞬間のスイレンは恐らく驚いた表情を浮かべていたと思った。
「それよりも"マリー"はこちらを追ってきています。やはりディーナさんは地上に戻った方がいいです。この劣悪な環境下ではディーナさんの力を発揮するなんて不可能です。
なんとか私も浅瀬か地上に誘導します。その時までは力を温存しておいてください。私も二つ名を持つ"リンドウ"です、私に任せてください」
明らかに足でまといのディーナ。それは自分自身が分かっていた。水中戦ではスイレンの力になることは出来ない。考えても自分がいるだけで負担になるのであればディーナは「…分かった。貴方に任せるわ、無茶はしないでよね。もし少しでも厳しいって感じたら迷わず逃げて私達の元に帰ってきて、必ずよ」ディーナから見てスイレンの表情は分からなかっが勇敢な顔で少し笑っているように見えた。
「"マリー"の動きは止まっています。今が好機です、ディーナは地上を目指して上へと急いで泳いでください」スイレンは手を離した。「それじゃあまた後で…ゴフッ!」
手を離されたディーナはすぐに浮上していく。突然の事だったがスイレンの目に見えたのは「ディーナさん、水の玉が無くなってる!」ディーナの覆っていた水の玉が無くなりディーナは息が出来なくなっていた。
「しまった、完全に頭から抜けていた。呼吸が出来る水の玉は水圧が高ければたかいほど効果時間は短くなる。この暗闇の水圧だったら、この時間に無くなるのも当然ね…」
ディーナの作り出した水の玉での呼吸方法は時間制限付きだが、水圧が高いほどかかる圧も増えていく。水の玉は徐々に水圧により小さくなりいずれは消えてしまう。
ディーナは"マリー"との戦闘の最中この重要な要素を忘れてしまっていた。
急ぎ足で浮上していくディーナ。呼吸が出来ない状況になれば戦闘所ではなくなってしまい一瞬で死が来てしまう。
「でも何とかこの速度なら水面に上がれるわね、急がないと」息が続く限り泳げるが気を失えば"マリー"が水中を漂う中で無防備になり絶対絶命の危機になる。
「あのスピードなら何とかなりますね…」少し一安心しあスイレン。ディーナが浮上していく様子を見ていたが、それは"マリー"を野放しにしているのと同じだった。
身を潜めていた"マリー"は突如猛スピードでスイレンを通り過ぎディーナに一直線へと向かっていく。
「"マリー"!クッ!!」スイレンも速度を上げ"マリー"を追った。
ディーナは水面に上がることに必死で追ってくる"マリー"に気がついていなかった。ディーナの視界に入っていたのは微かに日が差す水面だった。
「後…ちょっと……」息もできない中で少し意識が朦朧とする中で何とか足を止めずに浮上していく。
だがその中で「ディーナさん!!」スイレンの呼びかける声が聞こえた。朦朧とする中でスイレンの声の方を見ると、暗闇で分からなかったが日が差す中であれば分かる、"マリー"の容姿が。
蛙ような顔だったが蛙には絶対に生えていないような鋭利な牙が無数に生えた口を開きディーナに噛み付こうとしていた。"マリー"の全速力の泳ぎはスイレンとほとんど同じ速度だった。
ディーナには反撃する考えは出来なかった。酸素の補給も無いまま数分泳げば思考もまとまらないのは当然である。
スイレンも何とかロータスを構え止めようとするが追いついた時は既に手遅れになるということだ。
武器ではなく属性を駆使しないと止めることは出来ないと判断したスイレンは右手を広げると右手に水流が流れ水がどんどんと集結していく。
だがそれでも「ダメだ、間に合わない」集める時間は数十秒だがその前にディーナは牙の餌食になってしまう。
「また、私は繰り返すのか…?」目の前で助けられない命が散ってしまう、絶望に叩き落とされた顔をするスイレン。
ディーナは目の前には牙を向け噛み殺そうとする"マリー"。ディーナの動きは止まり、ほんの数秒には噛まれる。銃を構えることはなく、起こることを受け入れる……等という選択肢は彼女の心には無かった。
頭ではなく本能で動いた体はチハツから受け取ったナイフの取っ手を握り鞘から抜き、噛み付こうとした"マリー"の頭部を真正面からではなく死角から突き刺した。
既に息が続かないディーナの限界はとっくに過ぎている。体の自由なんて聞くはずがない。それでも、目の前の"マリー"に「何もしないまま殺されるなんて絶対ごめんよ」この気持ちだけが彼女の体を動かしていた。
頭部を突き刺された"マリー"は悶えその場で暴れ回った。暴れ回る前にナイフを瞬時に抜いていたディーナは目線をスイレンに向けた。
ディーナの行動に圧巻するスイレンだったがディーナと目が合い、何かのアイコンタクトだと悟ったスイレンは「今度は、私が助けます!」右手には水を集結させた球が出来ており、球をディーナと"マリー"に向けて飛ばすと、上空へと舞い上がる激流が流れた。
その勢いは凄まじく、激流に巻き込まれたディーナと"マリー"は地上に向かって飛んでいってしまった。
スイレンもその後を追い急いで泳いだ。「ディーナさん、耐えてください!」
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時はほんの少しだけ遡り、ハオウは無事で戻ると約束したディーナ達を待ち、"マリー"がいつ出てきてもおかしくないように臨戦態勢に入る準備をしていた。
水面を覗き込むが濁り過ぎて全くその奥が見えなかった。「私の目ではこの水面から見ることは出来んか。私では水中で呼吸する方法を確立することは出来ない。奴らを信じて待つしかないか」
仮に二人が"マリー"の餌食になってしまえばその時は自分が相手をしなくてはならない。最悪の事態にも備えなくてはいけなかった。信じていることには変わりないが。
すると「なるほど、ここが湖。確かに過去には人々が集まっていた痕跡があるねぇ。"マリー"と言う生物がどれだけ被害をもたらしているのかが、目で見て分かる」
ハオウは振り返ると、そこにはナデシコとフェリスかいた。フェリスはナデシコの後ろに隠れて、裾を掴んでいた。
「ここは部外者は立ち入り禁止のはずだ。"マリー"はまだいるんだぞ、死にたいのか?」今や危険地帯となっている湖。属性の力を持たない一般人が立ち寄るのは危険すぎる、ハオウは威嚇をするように去る事を伝えた。
フェリスにとって容姿が少し怖かったハオウを見てナデシコの裾を掴む手を強くした。
「殺されるのはごめんだよ。安心したまえ、私も用心棒を務める身だ。そう簡単には殺されないよ」ハオウの威嚇にも動じずに余裕の笑みを浮かべるナデシコ。
ハオウは振り返り「ならば尚更ここから立ち去れ。フェリスの護衛なんだろ、危険地帯に連れてこないのも貴様の役目ではないのか?」
「残念だがこれはフェリス君の申し立てなんだ、彼女が見たいと言って来たんだ。"マリー"がもたらす災害、その成れの果てを彼女は自分自身の目で見たいと言ったんだ。綺麗事ばかりの世の中ではなく、現実と向き合う彼女を尊重しただけさ。
それに、ディーナ君がその中で交戦しているのだろ?姉を心配するのも当然だと思うが?」
ハオウはフェリスの目を見ると包帯のような黒い布で覆われていた。それでもこちらを認識して、湖の状態も分かっている様子を見る限りでは「属性による力か。私と同じ目に関与する属性」自分と同じ闇属性であり、目に宿す力を持っていると。
「貴様の言う通りかもしれんが、この場は後にしてもらおう。何せ大型"マリー"だ。どんな危害が待つかは分からんぞ」「その危害から守るのが私の役目さ」「いいからここから去れ。今すぐに」
是が非でもここから立ち去る事を伝えるハオウ。彼女の言い分は間違いないが、ナデシコは少し妙な感じもあった。
危険地帯とは言え今は二つ名"リンドウ"が"マリー"と交戦している。それにフェリスはディーナの妹とも知っている、家族を心配するのは当然でもある。その中でここまで遠ざける理由、一般人を危険な目に合わせたく無い。これも一つだろうがあるいはまた別の理由があるのではないかとナデシコは瞬時に考えた。
それに、何故かハオウはその場から一歩も動こうとはしなかった。湖の傍では巻き込まれてしまう可能性もあるのにだ。
以上の事を踏まえてナデシコはある質問をした。
「君、もしかしてだが"リンドウ"の二人を…」口にしたその時だった。湖から突然勢い良く何かが飛び出して来た。ナデシコの方を向いていたハオウも咄嗟に湖の方を振り返った。「なにっ!」「あれは…」
予期せぬ出来事に驚く三人。そして飛び出して宙を舞うのは大きな体で爬虫類のような見た目をした"マリー"と「お姉ちゃん?……お姉ちゃん!!」
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スイレンの属性の激流により水面より飛び出されたディーナと"マリー"。ようやく息が出来る地上に来たディーナだが長時間息が出来ない環境のため気を失ってしまっていた。
だが"マリー"は頭部を突き刺してもまだ息絶えずに、それどころか激痛を与えたディーナに怒り狂い空中でディーナを噛み付き噛み殺そうともしていた。
気を失い、抵抗の意思も見せないディーナ。だが「…ぇちゃん……お姉ちゃん!!」か細く小さな声の少女が咄嗟に出した精一杯の大声はディーナの耳にはしっかり聞こえた。
「フェリス!」無意識に言った名前と同時に目を開けたディーナの目の前は再び"マリー"に襲われる瞬間だった。
だがここは水中ではなく空中、息が出来る環境であれば思考は安定する。懐からローゼンを取り出し発砲した属性弾は風の属性弾。弾丸は"マリー"に当たると同時に突風が巻き起こり直接的なダメージは起こらなかったが、ディーナはその突風により吹き飛ばされナデシコ達がいる地上に降りていった。
"マリー"も吹き飛ばされるたが身体が大きい影響もありあまり吹き飛ばずに長い舌を駆使してディーナの足首を舌で掴もうとしていた。"マリー"の落ちる先は湖、もう一度捕まれば命の保証は無い。
"マリー"の容姿や長い舌に驚く前にまずは"マリー"をどうにかしなければいけないと判断したナデシコは左腕を"マリー"に突き出し指を鳴らすと"マリー"のそばで爆破を起こした。
爆破の衝撃により落下していく"マリー"は湖に叩き落とさたかのように落ちていき、とてつもない水しぶきが起こった。
地上に降りたディーナは膝をつき両手を地につけて「ガハッ…ゴホッゴホッ…ハァハァ…」口の中に入った水を吐き出しながら空気を吸い息を整えた。
「お姉ちゃん大丈夫!?」フェリスはすぐにディーナのそばに行き背中を優しくさすった。
「無事かディーナ君?まったく、生身で"マリー"が根城にする湖の中に飛び込むのは全ての属性を扱える君でも無謀だよ」ナデシコは安全を確認した後に水中でほとんど対策も無しに討伐に挑んだディーナに少し呆れていた。
息を整えた後に体制を変えて座り込んだディーナは「ふぅ…ありがとうフェリス。対策無しではなかったけど、ちょっと無理をしたのは否定出来ないかな。もうちょっと考えなくちゃね、少なくとももっと水中で自由に動けるようにならないとね」
突如の"マリー"討伐戦でもあり、行き当たりばったりの状態で討伐に赴いた自分に反省した。
ハオウは戻ってきたディーナに駆け寄ることはしなかった。それよりも"マリー"の動きを警戒する必要があった。それともう一つ、ある事に驚いていた。「まさか、奴は…」
すると、湖からもう一人飛び出して来たスイレンも地上に戻ってきて着地したと同時にディーナの元に駆け寄った。
「ディーナさん!」慌ただしく駆け寄るスイレンにディーナも見かけて「スイレン、ありがとね。貴方のおかげで助かったわ」あの場でスイレンの助けが無かったら間違いなく死んでいた事に感謝を伝えた。
「いえ、私が引き寄せておくと言ったのに、この体たらくは失態です。どうして私はもっと上手く出来ないの…?」
合わせる顔がないと言わんばかりに自分の顔に手を押えて、ディーナを危険な目に合わせたことよる自分自身に失望した。
「上手くいかないなんて当然、だって相手は"マリー"だもん。"マリー"との討伐戦において上手くいくなんて考えは頭から捨てた方がいいよ。それよりも、生き残ることが大切だからね。だから顔を上げて、よくやったよスイレン。
挽回なら今からしたらいいよ。どうせ生きてるしこっちに来るだろうからね」
ディーナの言葉にスイレンはグッと来て「ディーナさん…ありがとうございます」涙を堪えながらも押さえた手を離して顔を上げたスイレン。
「ですが"マリー"はまたしても水中に落とされたようですが、あれはディーナさんではなく貴方ですか、ナデシコさん?」「ああ、その通りだが悠長に話している場合ではなさそうだ」
ハオウがようやく湖から離れてこちらに近づいてくると「来るぞ、やはりあれでは討伐出来ていないようだ」ずっと湖の中にいる"マリー"の行動を見ていたハオウだがどうやらその目に映ったのはこちらに来る"マリー"のようだ。
ハオウが伝えたと同時に湖から飛び出しのは"マリー"だった。"マリー"は地上に降り立っていても平然としており四つ足で立っていた。頭部を刺された箇所からは黒い血を流していたが、真っ直ぐに見つめる先はディーナだった。
呼吸を確保し酸素も充分なディーナはずっと背中をさすってくれたフェリスにウィンクした後に立ち上がりローゼンのマガジンを確認して、銃口を向けた。
「ナデシコ、なんでここにいるかは後で聞くとして、フェリスを連れて離れて。ここからは戦場になるからね」
巻き込まれるとひとたまりもないフェリスをここから離すように頼んだ。
「私は手を貸さなくても大丈夫なのかい?」「もちろん欲しいけど、貴方は私じゃなくてフェリスの用心棒、でしょ?」
納得したナデシコはフェリスの手を掴み「了解したよ。ならばフェリス君ここから離れようか。今からは姉ではなく、"リンドウ"としてのディーナ君から」
フェリスから見ても明らかに事務所にいる時のディーナとは雰囲気も別人のように変わっているのが分かった。
「うん、お姉ちゃん。頑張ってね」フェリスの応援に一瞬だけ"マリー"との臨戦態勢を解除していつも通り優しい笑みで手を振ったディーナ。
そんなディーナに安心したかのように、フェリスも少し笑みが零れた。
ナデシコのフェリスがその場から離れていくのにも関わらずに"マリー"はその場に立ち止まったままだった。
「今は私にしか眼中に無い、か。いいわ、夢中のまま討伐してあげるわよ」再び臨戦態勢に入った。
スイレンもディーナの隣に立ちロータスを構え腰を低くした。「失態自ら取り戻します。今度こそ必ず!」「気合い入ってるね。空回りしないようね」
すると、ハオウもディーナの隣に立ちナイフを逆手に持っていた。ハオウも臨戦態勢に入り鋒を"マリー"に向けていた。「あら、貴方も?」「私が守護する街だからな。客人ばかりに苦労はかけさせられない」
「久しぶりね、貴方と一緒に戦うの。それじゃあ懐かしさにも浸りながら、楽しまさせてもらうわよ」
湖の"マリー"との決着をつけるため、三人は各々武器を構えた。




