湖の"マリー"
湖の"マリー"はトカゲのような形をしていると情報を聞いたディーナとスイレン。
「湖の中であれば私のテリトリーです。"マリー"が水の中に潜んでも私であれば討伐出来ます」今回の討伐戦には少し自信があるようなスイレン。
「水属性って水の中で息出来るの?あんまりそんなこと聞いた事ないけど」「普通は出来ないですよ。ですが私の水属性であれば水中でも地上とほとんど変わらない程の空気が充満しているみたいなものですので」
水属性であっても体内で水を放出出来たりするのだがあくまで一般的にはそれぐらいであり、水中で息を吸うことは不可能である。
しかしスイレンは二つ名を持つ"リンドウ"、他の水属性とは訳が違う。水中の微かな空気でも吸えば地上と変わらない酸素量を確保することが出来る。無駄なく水中でも空気を取り込む事が出来る数少ない水属性の使い手である。
「それは頼もしいわね。貴方の水の中の動きは間近で見たから分かる。水の抵抗を感じずにあのスピードで"マリー"を討伐に貢献出来るんだったらこれ以上に無いほどの私達は有利ね」過去に自ら水を張りその中に飛び込み常人では考えられないスピードで動き"マリー"を斬り落とした事を思い出したディーナ、水中であれば常時あのスピードで動けると考えれば水中内であれば間違いなく自分よりも強いと確信していた。
「私の人選の選択に間違いはなかったようだな。スイレンよ、頼りにしているぞ」今回"リンドウ"に依頼を任せられたのはハオウであり、今現在で活躍しているスイレンの名を見て彼女に依頼を送ったのだ。
「そういえばハオウってここの隊長ってことよね?近衛大将とかはよく分からないけど」「その認識で間違いはない」「他の部下達に任せたりしないの?貴方が訓練を見てあげているんだから、普通の"マリー"なら討伐出来るんじゃないの?まぁ今回は相手が大型"マリー"だと思うからちょっと荷が重いけどね」
ハオウが隊長を任せられているのであれば一般人でも"マリー"討伐は夢では無い。ましてやグラトと言う都市国家、手練の兵士が居ない訳がない。
「それはお前の言う通りだ。我が兵士達は"マリー"にも戦える力を持つ。だが、"リンドウ"ですら手に余る大型"マリー"討伐となれば二つ名"リンドウ"に依頼を任せるのも当然ではないか?
助けを求めるのに、プライドなどいらないだろ」その言葉は、軍を失った彼女が言うからこそ深い意味を持つ。
「それもそうね。貴方が手塩にかけて育てた兵士を失う訳にはいかないもんね」"マリー"討伐は"リンドウ"の仕事であり使命でもあった。
「よし、それでは現場に向かうぞ。お前達もその目で直接見る方が早いだろ」湖や"マリー"の情報を教えたハオウは次は湖に二人を連れていくようだ。二人は頷いて、ハオウの後に続いて現場である湖に向かった。
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ハオウに案内され湖に到着した"リンドウ"の二人。湖は普段は観光名所としてあるようで色々な人が来た痕跡があるように所々に足跡やゴミ等があった。
透き通る程の水面だっただろうが、血が澱んだ後もあり今では綺麗とは言えないほど濁ってしまっている。
過去の湖から見る影もなくなってしまい、ゴミも辺りに散らばってしまい観光名所では無くなっていた。現に今は三人以外は誰も寄り付かなくなっていた。
現状に湖にディーナは「もっと綺麗な状態で見たかったなぁ。"マリー"のせいでこんな濁っちゃって」少し曇った顔をした。
「私も目で見て分かります。この淀みは人の血です。水の中で"マリー"によって…許さない。人や綺麗な湖を汚すなんて、絶対に討伐します」水の属性を持つスイレンは水に潜み人間が自由には動けない水中に引きずり込む卑劣なやり方にスイレンは許すことは出来なかった。
「"マリー"はこの湖にいるはずだ。だが、私の直にこの目で見たわけではない。ここからは慎重に進め。"マリー"がいつ出てくるかは分からないからな」
警戒を強めるハオウ。ここらは"マリー"のテリトリー、何が起きてもおかしくは無い。
三人は湖の水面に近づきディーナは覗き込んだ。水面に映るのは自分自身だったが少し淀んだ水面に移る自分は何か嫌な感じだった。
「やっぱここの"マリー"は討伐に限るね。私達に目をつけられた事を運の尽きだと思いなよ」かつての美しさの水面を見られないようにした"マリー"。一目でも見たかった景色を汚された罪や今まで襲われた人達への罪をディーナは"マリー"に精算させるつもりだった。
「さて、ここからどうしますか?私であれば水の中でも偵察に行けますが」「いや、単身で調査に向かうのはリスキーだ。たとえ水の中で自由に動ける属性の持ち主でも相手の姿が分からなければこちらが圧倒的に不利だ。ここは水中でも使えるカメラがある。それを偵察代わりに見ればなんとか姿形は見えるはずだ」
そう言ってハオウはビデオカメラのような物を取り出した。
「へぇ便利な物もあるのね、水中カメラって"マリー"相手でも大丈夫なの?」「"マリー"がどんな姿であろうとこのカメラの強度は例え十階建ての家から落とそうと無傷だ」「それは凄い。貴方が作ったの?」「強度の部分はな。カメラの性能はその手の者に任せれば良い」
ハオウはカメラを紐に繋ぎ投げ込もうとしていた。「何か映り込めばいいがな。湖の中がどれだけ濁っているかは分からない。」「それでは、そのカメラの映像を確認してから討伐準備を進めましょう。どこから投げ入れたら…」
スイレンが水面を覗き込んだその時、カメレオンのような細長い舌のような物が水面から飛び出した。舌は人間のような赤い色ではなく、毒々しい紫のような色だった。舌は瞬時にスイレンの体にまとわりついた。
一瞬の事に三人は瞬時に反応することが出来なかった。それでもディーナは気がついた一瞬でローゼンを取り出し舌に発砲しようと構えた。
「何あれ!?」戸惑いつつも今はスイレンを助けることを優先したディーナは舌に目掛けて発砲した。咄嗟の銃弾は属性が込められいなかった。
スイレンもなんとか解こうともがいたがローゼンの銃弾が当たることはなく、舌はスイレンの一緒に湖の中に引きずり込まれてしまった。
「スイレン!!」すぐにスイレンが居た場に駆け込みしゃがんで水面を覗き込んだディーナ。
ローゼンを水面に構えて狙いを定めたが濁った水と引きずり込まれたスイレンの水しぶきによりまともに水中の中を見ることが出来なかった。
「見えない、ここから狙うのは無理があるわね」遠くの的を軽くローゼンで当てられる事が出来るディーナの動体視力でも濁った水の中を見ることは不可能とだった。
「ハオウ、今のがこの湖の"マリー"であることに間違いない?」ディーナは引きずり込まれたスイレンをすぐに助けに行くのではなく冷静に"マリー"の仕業かをハオウに確認した。
ハオウも冷静で右手を口元に触れながら「湖に引きずり込まれるが目撃情報を極端に少ない…なるほどこれが理由か。あの速度や視界には入りずらい長いムチのような舌、あれでは対抗策も何も出来ないのも納得だ」
大型"マリー"であればその特徴的な行動や見た目によりすぐに発見出来るが、今回はかなり目撃例が少なかった。
ましてや観光地だった湖、多くの観光客が居たはずなのにほとんど何も見えなかった理由が一瞬の速さで連れて行かれる。対策も出来なかったのも全て理解出来た。
「スイレンを助けに行かないと。食べられてなきゃいいけど」仲間が連れていかれているのにも関わらず少し軽い発言をするディーナにハオウは少し睨みつけて「お前、仲間が"マリー"の手によって命が散らすかもしれないんだぞ。発言には気をつけろ仲間を失う辛さは…」
「数年でお固くなっちゃった?大丈夫、あの子は強いよ。"マリー"に連れていかれただけで音を上げるような"リンドウ"じゃない。仲間を信じるのが私達じゃなかったの?」ディーナは少し微笑んでいた。その表情は五年前の幼さが残る顔つきではなく、ただ一人の"リンドウ"を信じている余裕を持った二つ名"リンドウ"だった。
少しだけ間があった後にハオウもディーナに後に続いて「ふっ、そうだったな。二つ名を持つ"リンドウ"であり今名を上げている"リンドウ"がそう簡単には殺られないか」
ハオウも依頼を送った相手は手練だったことを思い出した。
すると、湖の中から勢いよく誰かが飛び出した。水しぶきが飛び交う中出てきたのは右手に両剣のロータスを持ったスイレンだった。
スイレンはディーナの隣に着地した。衝撃を和らげるために左手と右膝を地に置いた。
ディーナは「スイレン、無事だった?今から助けに行こうと思ってたけどその感じなら無用な心配だったわね」見る限りでは一切傷を負っておらず息をも切らしていないスイレン。
スイレンは立ち上がり「水中でしたから。得意分野で負ける訳にはいきませんよ。討伐まではいけませんでしたが、この目で姿を捕らえる事は出来ました」得意気な顔をするスイレン。
「それで"マリー"はどんな見た目だったの?」「私を連れていったのは間違いなく"マリー"の舌でした。引きずり込まれた先に見えたのは、何とも形容しがたい見た目でした。水中でも呼吸出来ているのは間違いありませんが魚ではなく四肢がありました。地上に降り経てば四足で歩くようでした。舌が解かれた後に私に噛み付ことしましたがその隙にロータスで斬りつけて地上に戻ってきました。
爬虫類、見た目で言うとその類のものでしょう。"マリー"であることには変わりありませんが」
強力な水の属性を持つスイレンだからこそ地上に戻ってこれたが、普通の人間が引き込まれれば水中で身動きもまともに取れない状態で舌で巻き付かれた後に噛み殺されてしまう。
「"マリー"にとっては水中に引き込めばテリトリー。普通の人ならそれで殺せたでしょうけど相手はスイレン。油断したわね」"マリー"側も斬られるなんて思いもよらない行動をされたために反撃出来ず見逃してしまったと仮説を立てたディーナ。でなければわざわざ捕まえた獲物を逃がす真似なんてしない。
「けれど正体が分かった以上、臆することはありません。必ずこの場で討伐します」自ら引き込んだ"マリー"を見つけ逃がすことはせずにここで討伐すると、真剣な眼差しで答えたスイレン。
二つ名を与えられてすぐだった頃に比べれば見違える程逞しくなったスイレン。
「その心意気、もう立派な二つ名持ちねスイレン。だったら私もその心意気乗っかろうじゃない」
そう言ってディーナはローゼンのマガジンを切り替えたと同時に上空に発砲した。
すると、ディーナの頭上から大きな水の玉が降ってきた。水の玉はディーナに直撃すると、ディーナの顔が水の玉にすっぽりとハマってしまった。
驚くスイレンは「でぃ、ディーナさん、それは一体?」一見すると水の玉の中、水中のため息が出来るはずがなかったが「すごいでしょ?私の水の属性弾でこの水の玉の中に入れば水中でも息が出来ちゃうのよ。まぁでも水中で体は俊敏には動けないし、この水の玉も時間制限付きだからあくまで一定時間水中でも息が出来るだけだよ」
「それでも凄いですよ。水中で息が出来るなんて水の属性を持つ人でも簡単には出来ないですよ」数多いる水の属性を持つ女性達ですら水中呼吸は出来る属性はほんのひと握りしかいない。
「芸達者になったものだな。まぁ二つ名を与えられていれば属性も柔軟に扱いこなせるようになるか。流石は"奇術の属性弾"だな」五年前よりも遥かに属性を使いこなせるようになっているディーナにハオウはかつての部下が成長しているのに喜ぶように微笑みを見せていた。
「私も色々と変わっていったのよ。昔と違って守る人達も増えたからね、強くもなっていかないと」またしても哀愁漂う表情をするディーナ。
戦いを楽しむためにも強くなるのは必須。それは失う辛さを知っているディーナ自身が一番分かっていた。
「それじゃあ行こっかスイレン。ここに愚かにも住みつく"マリー"を倒しにね」「はい、ディーナさんといればどんな"マリー"でも討伐出来ます!」
ディーナと共に赴けるのが楽しみなのか張り切るスイレン。
ディーナとスイレンは湖の際に立った。ディーナの後ろ姿を眺めるハオウは「ディーナ、死ぬなよ。部下が目の前で死ぬのは、もう懲り懲りなんだ」失う辛さを知っているのはハオウも同じだった。
するとディーナは右手を上げて左右に振った後に顔だけ振り返り「任せて必ず戻るよ、ハオウ隊長」と、伝えた後に二人は湖の飛び込んだ。
一人残り周りに誰も来ないように見張りをするハオウ。そして、ディーナの一言に「そうだったな。お前が言った守る人達の中には、私も入っているんだな」
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湖の飛び込んだディーナとスイレン。泳ぎはそれなり出来るディーナだがそれでも地上に比べれれば身体の自由は効かない。一方のスイレンは地上と変わらない速度で動き、泳ぐ姿は濁って視界が悪い中でも人魚のように優雅に動けている事がディーナの目からでも分かる。
「水中もやっぱり澱んでるね。魚も一匹も見当たらない」「生物が居た痕跡は見当たりますが姿を消していると言うことは、"マリー"がここの生物を食い荒らした可能性が高いです」水中をよく見ると魚の骨や背鰭等が揺蕩っているのが分かる。それも至る所にあるため、全て"マリー"の仕業だと考えるのが自然である。
しばらく二人で周りを警戒しながらどんどんと湖の奥へと進んでいく。徐々に太陽の光が届かない距離まで泳いで辺りも暗くなってきていた。
そんな中でも何気なしに進んでいくスイレンだがディーナは「スイレンちょっと待って。前が見づらくなってきちゃった。ここからより慎重に進まないと」ディーナにはほとんど真っ暗な状態で進んでいるがスイレンは浅瀬とほとんど変わらない視界で進んでいる。
「すみません、でしたらここからは私と手を繋ぎながら進み…ッ!」突然スイレンはディーナに向かって猛突進した。
「スイレン!?」鬼気迫る表情でディーナの手を掴みその場から離れた。
ディーナには何が起こっているかは分からなかったが微かにだが「シュルルルルッ…」何か動いている音がした。蛇が舌を納める時の音に似ていた事から気がついた。
「ありがとうスイレン。多分後ろを取られたんだね。あのままだったら食べられちゃってた」"マリー"は音も立てずにディーナの背後に忍び寄り長い舌でディーナを捕らえようとしていたと推測した。
「その通りです。まさか"マリー"がここまで深くいるとは。恐らく人間の生態も分かっています、ここまで来れば自分の姿を消せると」スイレンはディーナを連れて少しだけ上昇したが"マリー"が追ってきているのか再び下降してさらに深くまで来てしまった。
「これではイタチごっこですね、だったら!」スイレンは泳ぐの止めて、ディーナの手を離し背に装着してある両剣、ロータスを構えた。
「ディーナさん、"マリー"は今私達の周りを動いています。私に任せてください。必ずディーナさんも守り"マリー"も討伐します」
状況が飲み込めず真っ暗な空間の中で"マリー"の音だけが聞こえているディーナもローゼンを取り出し「頼りにしてるよ。こういう状況で戦うのは初めてね。私の戦闘経験のためにも、ここでお前は湖の藻屑になる」目では見えずに音しか聞こえない中でディーナはスイレンと共に湖の"マリー"を討伐に挑む。




