ディーナの過去~後編~
ハオウの部下の軍人が"マリー"の大群が押し寄せていると"リンドウ"協会から要請があったと報告した。
ハオウは報告を聞くとすぐにナイフを鞘に納め軍人の方へと向かい「場所は?"マリー"の軍勢は近いのか?"マリー"の種類は?」
詳細を聞くと軍人は額に当てていた手を下げて「ここより比較的近い近隣の街です。"リンドウ"協会よりも軍の方が近いため、依頼がこちらに届きました。
軍勢は獣型であり狼のような鋭い牙と爪を有しています、速度に関しても残り一時間余りで街を襲撃する程の速さです。ディアル隊長、指示を」
ハオウは考える間もなく「第一部隊と第二部隊を集結させよ。準備は早急にしろ、ガトリングを装着している車を出せ。殲滅させるにはもってこいだ。全ての準備が済みしだい、"マリー"の軍勢に突撃する。急げよ」「ハッ!」再び額に手を当てた後にハオウの伝令を軍に伝えるため走っていった。
ハオウは走って行った軍人を見届けた後にディーナ元に行き「早速だが任務だ。お前も同行しろ」今回の依頼に部隊と一緒にディーナも同行させるようだ。
「まぁ"マリー"を討伐するのが"リンドウ"の役目だし、行かされるとは思ったけど…」ハオウから目を逸らし明後日の方向へ目を向けた。
「なんだ、文句でもあるのか?」歯切れの悪いディーナに緊急事態でもあるためハオウは少し厳しく話した。
「…言いたいことはあるけど、急いでいるんでしょ?準備が済んで現場に向かう時にでも言うよ」まずは準備が先だと言うのはディーナでも分かっていた。今すぐ言うことでもないため後でハオウに伝えるつもりだった。
「だったらお前も準備しろ。属性を全て扱えるとは言え、事前準備も無しでは力は引き出せないだろ。私も軍の様子を見る、早くしろよ」と、言ってディーナから振り返って小走りでその場を後にしたハオウ。
一人になったディーナは顔を上げて天井を見た後に、ハオウから譲り受けたナイフを肩に装着してある鞘に納めると、握りこぶしをした後に手を開くと複数個の属性弾が掌にあった。その属性弾をズボンのポケット入れた後にボソリと「聞いた限りじゃそこまで強そうな"マリー"には見えない。なのに二部隊も用意する必要あるの?そこそこ強い"リンドウ"だったら一人でも充分、それこそ私一人でもいいのに。過剰戦力なんかで上手くまとめられるの?」と、言ってディーナもその場を後にした。
ただ、ハオウに対しては実力はともかく戦術はそこまでと思ってしまった…今はだが。
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少ししてからグラウンドには一部隊三十人が集い計六十人の軍人達が各々銃やナイフを持ち、防弾ジョッキを装着して綺麗に整列していた。
その軍人達の目の前に立ったハオウ。「全員揃っているな」「はいっ!」「これより"マリー"の軍勢を討伐する任務を行う。"マリー"は軍を率いて街に向かっている。これをほおっておけば被害は甚大になってしまう。我々"リンドウ"軍隊であれば"マリー"等おそるるに足らず、弱きを守るためにこの鍛えられし力を振るうぞ!」「はいっ!」
ハオウの激励による鼓舞により軍人達の士気は上がり軍人達は車に乗り救助衣類がある場所へと向かうのだった。
その光景をまたしても脇目で見ていたディーナは軍人達が一斉に現場に向かうのを見届けたハオウに近づいて「ちょっとちょっと、車ってここ森に囲まれてるのにどうやって行くのよ?」木々が生い茂る中で車を出すなんて不可能だと思っていたディーナ。
「既に整備された道を確保してある。それに森の中での運転を想定した訓練を終えている部隊を集めているんだ、お前が心配する必要は無い」森の中というのは分かっている、なんの対策もなくこの基地を建てた訳ではないハオウは車等が通れる用に森を整備してあり、運転の技術力は必要だが森の中でも走れるようにしていた。
すると、ハオウの隣から軍人がやってきて「隊長、準備が整いました」と、言って敬礼した。
「ああご苦労。ついてこい、ディーナ」言われるがままにハオウについて行くディーナ。
ついて行った先にあったのは、サイドカーが側方についたバイクだった。黒を基調にしたバイクに少し魅了されたディーナは思わず「おぉ…!」と、声に出してしまった。
「乗れ、私の運転で現場に向かうぞ」と、言ってバイクに跨ったハオウ。「ちょっと楽しみね」ウキウキしながらサイドカーに乗るディーナ。
「お気をつけください隊長」基地に残った軍人達は全員では無いが数人がハオウを見送るように敬礼していた。
「留守は任せたぞ」バイクのグリップを回して数回吹かせた後に猛スピードで走らせ森に突っ込んで行った。
そのスピードに初めてバイクに乗車したディーナは「速っ!でも、ちょっと風が心地よいかも」普通であればこのスピードで走られれば恐怖を感じる程のスピードで森を駆け抜けるが、ディーナは風を感じていた。
バイクを走らせる中でハオウは「で、さっき言いかけた事はなんだ?不満でもあるのか?」ハオウは何か言いたげだったディーナに再度その心の内を聞こうとしていた。
サイドカーに乗っている以上逃げ出すことも無理だったディーナは大人しく口にすることに。
「不満と言うか、ただ人員が多すぎると思っただけ。"リンドウ"軍隊って言うぐらいだから精鋭達が集まってる訳でしょ?だったらここまで戦力を増やす必要があるのかどうかが分からなくてね、戦いにおいて数を積めばいいって訳じゃないでしょ?」自分が思うことを洗いざらい口にしたディーナ。
ハオウは少しだけ声のトーンを落として「精鋭、か…ああ、確かに精鋭だ。だがそれはあくまで一般人から見ればだ。この軍に集まる軍人全員は、属性などあってないような物だ」驚くことを口にしたハオウにディーナは「それって…」驚きながらハオウの方を向いた。
「"リンドウ"は"マリー"から世界を守るためにいる。だが誰しもが"リンドウ"になれる訳ではない。志がどれだけ高くても、体格がどれだけ恵まれようとも、生まれついての属性が弱ければ"リンドウ"になる道は絶たれる。
理不尽ではあるが、それが世の理。受け入れるしかないんだ。
だがそれでも、誰がために"マリー"と戦う者もいる。理由は各々が持つが、"マリー"に対抗すべき想いを持つ奴らを私は無下にしたくなかった。だからこそ"リンドウ"の名を借り、軍を結成した。ただ属性だけではなく、心·技·体全てが揃えば"リンドウ"に劣らない事を証明するために。
弱き力が強くなり、弱き者を守るために」
"リンドウ"軍隊とは、言わば"リンドウ"に求められる属性が持てなかった女性達の集まりだった。"マリー"と戦うために"リンドウ"に志願する女性は世の中に少なくはなかった。しかし"リンドウ"は狭き門であり、簡単になれるものではない。
その最低条件が一般よりも強力な属性を持っていること。「使える」ではなく、自由自在に扱い"マリー"を討伐出来る程の属性ではなければ"リンドウ"にはなれない。
ハオウは"リンドウ"になれなかった女性達を集めた。同じく世界を守るために戦いたい、立派な志だが属性が強くない。それだけで門前払いされる女性達に戦う術を教え、共に"マリー"と戦うハオウ。自分達に希望を与えてくれたハオウに尊敬の眼差しを送るのも当然である。
そんな集まりの中、唯一無二と言われる属性を持つディーナ。条件付きではあるが全ての属性を扱え、さらに属性全ては"リンドウ"になるためには充分過ぎる程強力。
恵まれた属性を持つ自分がここにいるのはあまりにも場違い。ディーナは属性弾を生み出す自分の掌を見つめた、自分にとっては当たり前だと思っていた属性も、ただ「使える」だけの属性を持つ人から見れば喉から手が出る程欲しい属性だった。
「ディーナ、お前には素質がある。あの短時間で一瞬でも私に本気を出させたんだ。"リンドウ"としての実力もあるはずだ。
だからこそその力を自分を守るためだけではなく、他者、弱き者を守るために使え。何故お前にその属性が与えられたかを考えろ。金などのために、全ての属性が与えられたと思うな。ここにいる奴ら皆、守るべき存在がいるからこそ戦える。お前には、お前にしか守れない存在がいるはずだ」
ディーナはその言葉に心を突き動かされた感覚があった。
昨日の夜まではただお金があればそれでいい、そう思っていたディーナだが、ハオウや軍隊の人々は金なんかではなくただ"マリー"から守るためだけに戦う道を選んでいる。自分よりも到底弱い属性なのに。それでも"マリー"に挑む事が出来るのは、守るべき人がいるからこそ。
そう考えれば、突然自分が情けなくなってきたディーナ。金のため人を助けていた。そんな理由でこの軍隊に無理やりと言う形ではあったが入隊しているのだから。
「私の…守る存在…」バイクの音でディーナの声はかき消されていたが、確かにそう呟いたディーナらただ遠くを見つめる瞳は昨夜とは全く別の物に変わっていた。
バイクを走らせ森を抜けたハオウとディーナはそこからさらに加速し現場まで来た。そこは近くの街よりも少し離れた場所であり豊かな草原が広がる中、既に"マリー"との交戦が始まっていた。
"マリー"は狼のような姿をした全身が黒く染っていた。軍勢と報告にあった通り群れを成した"マリー"達。その数は現場に派遣した軍人達程の数だった。
軍人達の部隊は自分達の腰ぐらいの高さの鉄のバリケードを張り巡らしており、バリケードの隙間からアサルトライフルや拳銃を発砲し"マリー"達を撃退していた。
ガトリングを装着してある車に乗り込み銃弾が無くなるまで撃ち続ける軍人もいた。
数には数で応戦するように街に向かい走る"マリー"達を行かせる訳には行かずに近づかれないように撃ち続ける。
ハオウとディーナはバイクから降りて、すぐに部隊と合流し「銃撃の手を休めるな。一匹足りとも街には近づけさせるな、守り通すぞ!」「はい!」隊長が来たことによりさらに士気が上がる軍人達。
しかし、やはり相手は"マリー"。普通の銃弾では当たっても中々討伐までは行かずにただ足止めにしかならない。複数箇所風穴が空いた"マリー"であれば倒れ込み討伐が確認出来るが、"マリー"も流石に学習しており、銃弾を回避し始める"マリー"も出てきていた。
「隊長、このままでは埒が明かきません!銃弾も徐々にではありますが無くなりつつあります!奴らも学習を始め、マシンガンですら回避し始めています!!」軍人達もこのままでは"マリー"に突破されてしまうことを分かっていた。
数は減っていたがまだ十五匹以上はいる。一つの街を壊滅させるには充分な数だ。
するとハオウは部隊の全員に「銃撃を止めろ!さらにバリケードの数を増やし守りを固めろ、私が前に出る」ハオウの言葉により一斉に銃撃の手を止めた軍人達。そして、バリケードを飛び越え単身で"マリー"の軍勢に向かった。
ディーナはたった一人で対抗しようとするハオウに守りを固めようとしていた一人の軍人に「いいの、一人で戦わせて?」と、聞くと「私達はディアル隊長を信じている、それに迂闊に近づけは私達も危険な目に合ってしまう」手助けするつもりはなさそうだった。「ハオウ、やっぱり貴方…」
突如一人でこちらに向かう人間に動揺してしまったのか進む足を止めていた"マリー"達。しかしたった一人の人間が来ただけだと分かった三匹の"マリー"は同時にハオウに襲いかかった。
ハオウはこちらに向かう"マリー"に対して、少し顔を俯けてナイフの柄を掴み鞘から抜き逆手に持った。そして、顔を上げると目の前に鋭い牙で首元を噛み付こうとしていた"マリー"の首辺りを死角をついて手で掴みその勢いのまま地面にねじ伏せた。間髪入れずに逆手に持つナイフで掴んだ首の一箇所を突き刺した。
突き刺された"マリー"は声を上げることも無く即死した。
瞬時に一匹の"マリー"を討伐したハオウだがもう一匹"マリー"が突撃していた。突き刺したナイフを"マリー"から抜き突撃しこちらに飛びかかった"マリー"の喉元を斬り裂いた。斬り裂かれた"マリー"も地面に激突してこちらも即死だった。
さらにもう一匹噛み付くことが不可能だと判断した"マリー"は研ぎ澄まされた爪でハオウを斬り裂こうとしていたが、見え見えの引っ掻きにハオウは"マリー"の攻撃を弾き返し、よろめいた"マリー"の喉元を突き刺した。
勢いよく"マリー"からナイフを抜くとすぐさま"マリー"は倒れ息絶えた。
たった一人によって三匹の仲間が殺られたことによって走り出すことをせずに警戒していた"マリー"。
ハオウは一度ナイフを軽く上空に投げて再度逆手に掴むと「貴様らの弱点はその首か。軽く斬りつけただけでこの有様だからな、銃弾を耐え抜く強靭な肉体だが、どこを斬りつければいいかが分かれば大した事ない。私の目から逃れると思うな」
ハオウは腰を低く構えて"マリー"達の襲撃に備えていた時だった。「隊長、後ろです!」一人の軍人が叫んだ。
咄嗟に後ろを振り返ると、二匹の"マリー"がハオウに襲いかかろうとしていた。「小癪な!」即座に振り返り"マリー"の首元をナイフで貫こうとしたその時だった。
二発の銃弾が"マリー"の頭に命中した瞬間に頭が氷に覆われた。顔が凍ったまま地面に激突した二匹の"マリー"は顔ごと砕け散った。
一瞬何が起こったか分からなかったハオウだが、冷静に考えれば正確に頭に命中して属性が込められた銃弾を扱う人間など、この場には一人しかいなかった。
「一人で戦うって、寂しくないの?」"マリー"を撃った、ディーナがハオウの元に来ていた。
「お前、助けられた事には感謝する。だがどういう風の吹き回しだ?」ディーナに助けらるとは思っていなかったハオウは何か裏があるのではないかと探った。
「貴方に言われたことを考えて、それで出た答えよ」と、言ってハオウの背中に回って銃を構えたディーナは「守る存在、私にはそんな人居なかった。けど、だったら作ればいい。
貴方が軍隊を守るのだったら、貴方の背中は私が守ってあげる。余計なお世話かもしれないけど、それを教えてくれた人を守るのも悪くないでしょ?後ろを安心して、私が守ってあげるから、ハオウ隊長」そう言って笑みを浮かべたディーナの表情は昨日までの金が目当ての表情ではなく、初めて居場所出来て、その人達を守るために戦う"リンドウ"の一人に成った瞬間だった。
ハオウはディーナの嘘偽りの無い言葉に少し驚く表情を浮かべた後に、ディーナに対して初めて微笑みを浮かべて「そうか、だったらついてこい。私を守るのであれば相応の活躍をしてみろ!」どこか満足気な様子のハオウはまだ立ち止まっている"マリー"達に突っ込んでいく。
「ええ、言われなくてもね!」
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数分後、残る獣型の"マリー"を蹴散らした二人。背中を気にする必要が無くなったハオウはさらに攻撃を過激になりより素早く"マリー"を討伐していった。さらに苛烈になった事により多少なりとも注意力が散漫になっていたハオウだったがその背中を守るようにディーナが援護射撃を行い"マリー"を討伐していった。
初めてコンビを組む二人だったがその息の合い方は長年一緒に戦ってきた戦友のような程、無駄が無い動きだった。
ハオウは全てを討伐したと確信しナイフを何度か手の内で回した後に鞘に納めた。ディーナもハオウが臨戦態勢を解いた事を見ると銃を懐に納めた。
ハオウはずっと背中を守ってくれていたディーナの方に振り返り「さすが、伊達に"リンドウ"としての名を挙げいるだけはあるな」「それはどうも。実力だけだったら二つ名"リンドウ"と遜色ないって誰かさんが言ってたからね」ディーナの実力は認めざるを得ないハオウ。
「それに、なんだが清々しくてね。貴方と訓練を受けた時もどっかで幸福感があったの。お金じゃ満たされなかった感情だった。
それで何となく分かった。私ってただ同じ土俵に立てる仲間が欲しかったんだって。一緒に戦った時、一人だけじゃ味わえない満足感。貴方と一緒なら私の守りたい事を分かる気がするよ。
だから、これからよろしく」
共に戦える仲間、ディーナにはそんな人は居なかった。ヴァレアは言わば上司と言う立場、一緒に戦ったことなんてない。他にも何度か同じ依頼を受けた"リンドウ"はいるが誰もかもがディーナとは実力の差がありすぎて離れていく。
そんな中でハオウと言う人間は実力は同じかそれ以上、そんな人と共に共闘したディーナはどこか満たされていた。金を使った娯楽以上に、人間の温かみ、ようやくそれを知れたディーナ。
手を差し出し握手を要求していたディーナの表情は優しく微笑んでいた。ハオウも昨夜とは心境が何もかもが変わったディーナの手を握り「ああ、お前と戦えるのなら、私も全力で"マリー"と立ち向かえる。改めて言おう、"リンドウ"軍隊にお前を歓迎する」ディーナの優しい微笑みにつられてか、ハオウも軍人と言う立場を忘れて、一人の仲間を迎えられたことによる喜びが勝り、ディーナと同じ笑っていた。
握手を交わしていた二人に「隊長、それと…」軍人達がやってきて自分達を率いる隊長と肩を並べて戦ったもう一人の事が気になって仕方がなかった。
「ディーナだ、今日よりこの軍に加わった実力者だ」「よろしくね~」「私達は無事だ、"マリー"は全て討伐した。帰還するぞ、今日は新たな仲間と無事に任務を遂行した祝いとして宴をする。戻って準備するぞ」「は、はい!」
と、言って軍人達はバリケード等を撤去して基地に戻る準備を始めた。
「訓練はいいの?」「気を張りすぎても仕方ない。今日ぐらいは肩の荷を下ろす。さて、アイツらを手伝うぞ、ディーナ」「りょーかい、隊長」
こうして、晴れて軍の一員となったディーナ。過去の自分とは別れて新たな道を進み始めたより一層人生が楽しくなってきていた…だが、それもずっと続く事はなかったのだった。




