ディーナの過去~前編~
今より五年程前、"リンドウ"協会の依頼を終わらせ協会まで足を運ぶ一人の"リンドウ"がいた。"リンドウ"は受付にいる女性と話していた。
「はい、これにて依頼完了。報酬は弾んでくれるんでしょ?そっちから私に頼んできたんだから、元ある報酬からそれなりに多くは貰わなきゃ」と、言って受付の机に依頼書を置いて報酬の欄を指で叩いていた。
依頼を終え戻ってきたのは今とは違っていたディーナだった。当時のディーナは髪を長く伸ばして金髪の髪を束ねていた。
ディーナの向かいにいる受付の女性は依頼書を手に取り一通り目を通して「これでも報酬は元より上げている方だ。たった一つの依頼にこれ以上報酬を引き上げるのは無理があるぞ」と、言って依頼書を再度机に依頼書を置いた。
彼女はヴァレア、今は長髪だが五年前はセミロング程の長さで今も昔も髪を編み込んでいた。
まだ十代ではあるがその実力や頭の回転の速さにより既に"最強のリンドウ"としての二つ名を有し"リンドウ"協会会長となっていた。
ディーナはため息を吐いて「はぁ…この依頼でどれだけの人が助かったと思うのよ。私はまだ二つ名をもらってないけど実力と属性はその人達と同等レベル、この依頼は本来二つ名を持つ人達しか受けれない依頼でしょ?それでも私を頼ったってことは、手に負えるのは私ぐらいだったってこと。そんな英雄に満足に報酬も渡せないってこと?」
ディーナがこなした依頼は本来であれば二つ名を持つ"リンドウ"がこなすような危険度の高い依頼。一つの街を襲う"マリー"の強さは並大抵の"リンドウ"では歯が立たない。
そこでたまたま手が空いていたディーナを派遣させ"マリー"の討伐を任せたヴァレア。やはり六属性を操るディーナは当時から名声を上げて実力もそれなりにある。充分二つ名を所持するのに活躍はしている。だがこの通り、報酬金次第で依頼を受けているディーナ。金にうるさく、活躍次第ではさらに上乗せを要求する等、とにかく金を出せば"リンドウ"として力を出す。それ以外では頑なに動くことは無かった。
実力はあるが人間性はまだ立派では無いディーナに二つ名を与える訳にはいかなかったヴァレア。名声で二つ名を持てるが、世間一般でもディーナの金遣いの荒さが目立ってしまいヴァレアから止められている状況であった。
報酬金を上乗せしないと"リンドウ"を辞めてしまう可能性もあるため今度はヴァレアがため息を吐いて、袋に入った金を取り出しその中に金を増やして増量した。
「今回は依頼主からこれしか貰っていない。私が持っている金を足しておいた。これで満足だろ」
ディーナは袋を手に取り「ご贔屓ありがと。それじゃ私は行くから、またいつでも呼んでよ。報酬次第でこの属性を持つ私が行くから」金を手に取り後は用済みのようにヴァレアに背を向けて手を振りながら協会を後にしたディーナ。
その後ろ姿を見送ったヴァレア。前かがみになっていた体を椅子にもたれて「あいつは、まだ分かっていないだけ、失うのが怖い存在がいないだけ。人を守る心はあるがそれも本物かどうかも分からない。
やはり、彼女に頼むべきか…」目を閉じディーナを更生させるにはどうするかを考えていたヴァレア。
すると「オルヴェア様、連れて参りました」協会の受付の一人がある女性をヴァレアの元に連れてきた。
ヴァレアは女性を目にすると椅子から立ち上がり「忙しい中来てくれて感謝します。詳細は伝えてある通りです」敬語で接するヴァレアに女性は「いや、"リンドウ"協会の会長からの頼みであれば断るのは申し訳がたたない。しかし本当によろしいのか?ディーナと言う"リンドウ"を強引にでも我が軍隊に招き入れても」
「はい、彼女の実力は私が保証します、足でまといにはならない。貴方の指導があればディーナは変わることが出来るはず。お願いします、"リンドウ"軍隊の総指揮を務める貴方に全てお任せします」ヴァレアは頭を下げた。
「了解した。このハオウ、責務を全うしよう」
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数時間後、貰った報酬により豪遊を楽しんでいたディーナ。高級レストランでディナーを楽しんだ後色々と遊び尽くし一晩で報酬の半分ほどを消し飛ぶ程の金遣いが荒かった。
「さてと、今日泊まるホテルはどうしようかな…?まだ報酬はあるから結構良いホテルに泊まれるね。今日の依頼で溜まった疲れが取れるマッサージがあるホテルでも探そうかな。高くてもまた"マリー"を討伐してお金を稼げばそれでいいし」歩いて高級ホテルを探すディーナ。
ほとんどの生活をホテルで過ごすディーナだがとにかく良いホテル以外には泊まらないらしく、最高級の食事を提供が最低条件。それだけでも宿泊費は重なる一方でありホテル代だけでも依頼を一つこなさないと払えない程である。
上機嫌に鼻歌を歌いながらホテルを探すディーナ。すると「お前が"リンドウ"ディーナだな。」ディーナの目の前に一人の女性が立ちはだかった。
黒み帯びた紅の髪色で片方だけ髪を上げた短髪で軍人のような格好をしており、ズボンは迷彩柄でベレー帽を被っていた。左肩に持ち手が逆さまの状態で鞘に納めているナイフを装着していた。
初対面の相手に止められたディーナは上機嫌から一変して「なに?止めるってことはそれ相応な理由があるんでしょ?」依頼を終わらせ後は自由だった時間を止められ不機嫌になった。自分の時間を奪われるのが何よりも嫌っていたディーナ。それはどんな状況でもだ。
「"リンドウ"協会会長からの命令だ。お前を我が軍に所属させる。拒否権は無い、六つの属性を扱うお前の力はこの世界に有意義だ。だがお前のその金による執着は世界にとっては不必要、私がお前の面倒を見てやろう。"リンドウ"とは何かを教えてやろう」
突然目の前に現れた女性に諭されるディーナは「何言ってんの?入るわけないでしょ。人を助けてるのよ、その見返りに報酬がある。持ちつ持たれつの関係なのに何が不満なのよ。
さっさとどいて。じゃないと正当防衛で撃つわよ?」そう言って銃を取り出し銃口を女性に向けた。
銃口を向けられた女性はディーナから目を離さずにナイフの取っ手に手を掴み鞘から抜くと、ナイフをほんの少し上空に投げる動作をしてナイフから手を離して、再び掴みナイフを逆手に持った。その瞬間、彼女の目は鋭く、輝いていた
「私に銃を向けるとはな。覚悟は出来ているだろうな」腰を低くし逆手に持つナイフの手の甲を口元に軽く当て、瞬時に臨戦態勢に入り殺気立つ女性。
威嚇のつもりで構えた銃だったが逆に女性を挑発するようにしてしまい逆撫でさせてしまった。その殺気に「な、何よ、本気でやるって言うのなら相手になってやるわよ」余裕そうな笑みを浮かべるディーナだが
「やってられないわよ、どうやって撒くかを考えないと」そんな余裕は何も無くいかにここから逃げるかを考えていた。
「とにかく発砲ね。銃弾の速度についていける人なんていないはずよ」ディーナは周りの事も一応は考え属性弾では無い普通の弾丸を女性に撃った。
一発の弾丸を静かに見つめ避ける動作をしない女性に「あ、当たるわよ!」元より傷をつけるつもりはなかったディーナは焦りを見せた。
だが女性は弾丸が当たる一歩手前で一瞬の速度でサイドに避けていた。目にも留まらぬ速度だったのかディーナは残像のような蜃気楼が見えた。
「人間の動き?」驚くディーナだが女性はさらにディーナの元までさらに速く動きいつの間にかディーナの懐まで忍び込んでいた。
咄嗟にディーナも銃口を向けたが銃を持つ手首を捕まれ手を捻られてしまった。「痛っ!」痛みで銃を手放してしまった。捻られた手首を振りほどく事が出来ないディーナ、女性は為す術がないディーナの首元にナイフの刃を突き付けた。
一瞬の出来事で何が起こったか分からないディーナだがもし本気で殺しにかかってきていたなら既に殺されている事を考えれば背筋が凍り冷や汗をかいた。
「弾丸の軌道は良いが接近戦は論外の一言だ。いいか、生きるか死ぬかの戦いにおいて敵に情けの言葉をかけるな」女性はディーナの手を離し首元のナイフを離し器用に手でナイフを回転させて持ち手を変えて肩に装着している鞘に納めた。
「どうするまだやるか?強引にでも連れて行けと指示が出ている。お前を気絶させる事も出来る。素直に応じるのであればこれ以上危害は加える気は無い。お前とて我が軍に入隊する身だ、手荒な真似は私も避けたいのでな」
ディーナは目線を下にして考えた。
「本気で戦っても絶対に負ける。痛い目に合うのは嫌だけどほぼ確定事項のようね。何をやらされるのかは分からないけど、ここは素直に従った方がいいね。ヴァレアには後で追加報酬を要求するけど」今の自分の技量では彼女には勝てることは不可能。逃げ出すのもあの俊敏性では無理。打つ手がないディーナは諦めた。
「分かったわよ。貴方について行くそれでいい?」両手を上げて降参した。
「聞き分けが早くて助かる。我が部隊への入隊を歓迎しよう、よろしく頼むぞ」女性はディーナに手を差し出した。とりあえず応じるようにディーナも手を差し出して握手した二人。「とりあえず行ってすぐに抜け出してやるわよ」元から真面目に入隊する気は無いディーナはこの時点でどうやって逃げ出すかを考えていた。
握手から手を離しディーナは「そう言えば貴方名前は?これから貴方の軍に入る人間が貴方の名前を知らなくてどうするのよ」一応は入隊する形であるため名前は聞いておくようだ。
「私はハオウ・ディアル。"リンドウ"軍隊を率いいる隊長だ」名前を聞いたディーナは小声で「ハオウね…大層な名前ね」「聞こえているぞ、どうでもいいがな」
何も気にしていなかったハオウはディーナから背を向けて「ついてこい、我が訓練所へ案内する」と言って歩き出した。
背を向けているため逃げられるチャンスかと思ったが彼女は軍人、足音も頼りにしている可能性もあるためついて行くしか選択肢は無かった。
「"リンドウ"軍隊、よく分からないけどほとんど私には関係ないわ。さっさとことを済ましていつも通りの日常に戻らないとね」真面目に取り組む気が無かったディーナだが、ハオウとの出会いが運命を大きく変えていくことになる。




