世界の病と変異属性
女性が言った通り施設内が爆破が起こり辺りには地響きが鳴り始めた。突然過ぎる出来事にスワイ辺りを飛び回り「ちょっと!このままじゃウチらもこの崩壊に巻き込まれる、なんでもっと早くそういうのは言わないのよ!」慌てふためきながら女性に文句を言っていた。
「言える状況ではなかったからねぇ。理由を説明していれば爆破に彼女達巻き込まれていただろね」爆破が繰り返される中でも女性は平然としていた。
その様子を見たエーデルは「そこまで落ち着いているのなら脱出路はあるんだろうな。私達をここに連れてこさせたのは、その脱出路でここを抜け出せれると言うことだろ?」女性が急いで自分達を集めさせたのはこの爆破が起こる事と脱出路があるからと、意図を理解した。
「鋭いねぇ君は、もちろんは私が何の策も無くここを崩すような真似はしないさ」すると女性は指を鳴らすと、自分達がいる場所とは少し離れた壁付近が爆破した。
その爆破に驚くエーデル。「爆破、だと。炎の属性だけではあそこまで大規模な爆破は出来ないはずだ。それにこの施設を爆破したのは何かの機械ではなく、こいつ自身の属性だと言うのか…」一連の爆破は単なる時限爆弾等の機械を用いてしている事だと思っていたエーデルだが女性の属性だけで成り立っているのを知ると、一気に女性を危険認識した。
壁付近を爆破させると、壁が崩れて奥には上へと繋がる階段があった。女性は階段まで小走りで向かい「こっちだ、ここから地上に出られる」どうやら脱出口はあの階段のようだ。
まだ不信感が拭えない女性の言葉だがこの状況では女性の言葉を信じるしかなかったディーナとエーデル。ディーナはまだ動けずにいるクロカをお姫様抱っこのように抱えて「走って揺れるかもしれないけど我慢してね」と、クロカの耳元で囁いた。
エーデルも足元に亜空間を出現させ「おい鳥!いつまでも慌てるな、行くぞ!」「せめて名前を呼びなさいよ!」スワイを呼びかけて階段へと向かい一足先に階段を上がるエーデルとスワイ。
ディーナもクロカを抱えたまま後を追うように階段へと向かった。女性もディーナが階段に上がると同時に部屋に向かって指を鳴らした。鳴らすと部屋は大爆破を起こし部屋中が消し炭になるほどの威力だった。
女性も指を鳴らすと同時に階段を走り出し確認も何もしなかった。
階段を上がる中で後ろを走る女性にディーナは「ここを出たら貴方にはいっぱい聞きたいことがあるから、根掘り葉掘り聞かせてもらうわよ」謎が多すぎる女性を問い詰めようとしているディーナ。「ああ構わないとも。私も少しお願いがあるからねぇ」「お願い?」眉を上げて少し驚く表情をするディーナにニヤニヤと笑う女性。
階段を上がり続けると一筋の光明が照らし始めた。「もうすぐ出口だ、足を止めるなよ」「もちろんよ。まだ死にたくないからね」光が照らす先へと走り続け、たどり着いた先は"アフィシャル"第四支部の表向きの建物がある場所よりも少し離れた更地に来た。
先に到着していたエーデルは座り込んで少し息を切らしたようで深呼吸を繰り返していた。スワイも生きてここから出られた安堵で翼を広げて地上に降りたってぐったりとしていた。
ようやく危機から脱して一息ついてクロカを下ろして自分も座り込んだ。「はぁ…なんとかなったわね。一応は依頼完了かしらね」色々とツッコミたい箇所はあるが"アフィシャル"を潰すと言う目的は達した事に安心したディーナ。
女性も走った事かそれとも属性の使い過ぎなのか少し疲れた様子であった。全員が休息を取っていると、"アフィシャル"の建物が爆破して建物が崩れていくのが見えた。
「私の属性による爆破をあれで最後のようだ、これで"アフィシャル"第四支部の全ては空白になったということだ」最後の爆破は表向きの建物だったらしくこれで爆破は終わりのようだ。
ディーナは女性に聞きたいことが山ほどあるがまずはクロカだ。この戦いで疲弊しきってしまった体も心をなんとか治さないといけない。
ディーナは息を整えクロカの目線までしゃがんで「クロカちゃん、お疲れ様。結果は"アフィシャル"を潰れた、これでクロカちゃんも自由よ。けれど傷を負わせたちゃった、私が守るって言ったのにね…ごめん」少なくともディーナの身勝手な行動によりクロカは傷を負った。命は残ったとはいえそれでもとても痛い思いをさせてしまった事にディーナは謝罪した。
クロカは首を横に振ると俯きながら掠れるような声で「ディーナは悪くないの…ウチが弱かったから…ただ、それだけの事なの」ヒガンに戦いの術を教えてもらって自分でも戦えると思っていたクロカを支えていた心が折れてしまっているのが見て分かった。
「…でも、分かったの。あいつらは…ウチがいずれここに戻って来るのを分かっていたような言い方をしていたの。まるで…ウチが操られていたみたいだったの」
俯いて表情の分からないクロカだが、ディーナは続ける言葉と同時に大粒の涙を流すクロカだと分かった。
「ヒガンとの暮らしも…ディーナ達と出会いも…全部、全部あいつらの思った通りだったら…ウチの今までって、何だったの?何もしなくても、何もかも捨てても…ウチは、何にもならない大人になるのかな?だったらウチは……」
シラーが望んだ自分になっていくのが怖くなっていくクロカ。何もかもが信じられなくなってしまい、ヒガンの愛すらも受け入れられなくなってしまった。
止まらない涙を零すクロカにディーナは静かに肩に手を置いた。「クロカちゃん、前を向いてなんて私は言えないよ。けれどね、どれだけ歩みを止めても後ろに進んでも、私達は大人になっていくのよ」
慰めかあるいは現実を教えるのかディーナの言葉にクロカは少しだけ救われた気がした。生物はどれだけ何もしなくても大人になっていく。何かを成し遂げても、何もなさなくても、結果は絶対に変わらず、成長していく。
クロカはただ怖かった。自分が大人になる頃には空っぽの自分が出来上がってしまっているのが。誰からの愛情も受け入れられずに、ただの日々を過ごしていくだけの存在になるのではないかと心のどこかで思っていた。
「私だって大人になりたくなんてなかったよ。でも時間が進めばきっと大人になる。まるで世界中に広がる病気みたいね。
ここはもう何も無くなってクロカちゃんを帰りを待つ人は、もう一人しかいないわ。
その人ならクロカちゃんが立派な大人になるまで絶対に傍にいてくれる。だって、クロカちゃんの大好きな、たった一人のお母さんなんだからね。だから復讐劇はおしまい、ただ虚しくなるだけだからね」
ディーナがクロカにそう言った後に前を見ると、二人の人影が見えた。ディーナはクロカを後ろに振り返るように肩を二回トントンと優しく叩いて、指をさした。
それにつられてクロカは振り返ると、そこには迎えに来たようなヒガンとフェリスが来ていた。
クロカはヒガンを目にした瞬間に今まで縛られてきた呪縛から全て解き放たれたようで、腕の痛みも感じずにヒガンの元まで走っていきヒガンに抱きついた。
ヒガンも無事だったクロカに優しく微笑んで「お帰り、クロカ。よく頑張ったのう」ヒガンもクロカを抱きしめた。
「うん…ただいま……」精一杯の声を出してヒガンの元で泣きじゃくるクロカ。それは、一人の少女がようやく"アフィシャル"から解放された瞬間だった。
そんなクロカを見て自分の役目を終えたディーナも一安心して微笑んでいた。すると、ヒガンと一緒についてきていたフェリスもディーナの元まで駆け寄りディーナに抱きついた。
「お姉ちゃん、大丈夫?フェリス、とっても心配だったよ…」フェリスも少し泣き出しそうな声だった。よほどディーナの事を心配していたようだ。
「大丈夫、フェリスがそう想ってくれるだけで私は頑張れたからね。あぁそうだ、ただいま」「うん、お帰りなさい!」無事だったディーナに泣くのではなく笑顔で返したフェリスだった。
感動の再会に包まれる雰囲気の中でたった一人、ディーナのある発言に静かな怒りを見せていた。
「復讐が…虚しいだけ…?お前はその娘に言ったかもしれんがな、それは私にも向けて言ったのと一緒のことだぞ。私の目的を否定するって言うのか?」
ディーナを一点に見続ける、エーデル。エーデルは立ち上がりディーナに近づこうとしていた時「ちょいちょい、貴方何をしようとしてるのよ。貴方に言ったわけじゃないのよ、それは被害妄想が過ぎるわ」スワイがエーデルの心を理解してエーデルの目の前まで飛んできた。
スワイの言葉に我に返るようにハッとなったエーデルは頭を手で押さえて顔を横に振ると「何の話だ?私はフェリスに声をかけようとしただけだ。ディーナが娘に掛けた言葉なんかに興味は無いな」平常心を取り戻したエーデルはそのままディーナに近づいていった。
「再開に浸っているところ悪いが、お前も来ていたんだなフェリス。それもそうか、ディーナがお前を置いて来るわけがないか」突然知った声が聞こえたフェリスはディーナから離れて声のした方を見るとエーデルがいることに気が付き「エーデルさん!?どうしてここにいるの?」「あぁ、ここに用があった。そうしたらたまたまディーナ達に会っただけだ」
何事も無かったかのように振る舞うエーデルだが遠目で見るスワイは「…ウチが止めてなかったらエーデルはディーナちゃんに何をしたんだろう、血なまぐさい事は身内同士じゃごめんね」エーデルの殺気は本物だった。スワイが制止していなければディーナに刃を向けていたかもしれない。それほど、エーデルの心にあの言葉は影響を与えたのだろう。
スワイも飛んで行きフェリスと話をし始めた。ディーナはフェリスの話を止めずにいた。すると「可愛らしい御出迎えが来たものだねぇ。君にとって大切な人というのが目に見えて分かるよ」女性がディーナに話しかけた。
「それはもちろんよ。私にとってかけがえのない子だから」「それに君の言葉は他者の心を不安から和らげる効果があるらしい。興味深いねぇ、それは君の天性の才と言ってもいいだろう。有意義に使いたまえよ」
ディーナの優しい声やトーン、言動は傷ついた人の心を癒す力を持っていた。女性はそれをすぐに見抜いていた、有意義に使えば数々の人を救える事が出来るのだから。
「それはどうも。さて、それじゃあ質問タイムよ」「ああ、何でも聞いてくれたまえ。知ってる限りであれば答えよう」
"アフィシャル"にいた謎の属性を持つ女性についてディーナは「まずは名前と属性を聞かせて」まだ名前すら分からない女性に自己紹介を聞いた。
「おっと自己紹介が遅れてしまった。私はナデシコ・カミト 、属性は炎属性…と、言いたいとこだが少し違う。私はごく稀な存在、"変異属性"を持つ一人さ」変異属性と言う単語が出てきた瞬間、その場にいた全員はナデシコと名乗った女性の方を向いた。
フェリスと話していたはずのエーデルも女性の元に行き「変異属性だと?聞いたことが無いな。属性は六つに限られるはず、確かにお前の属性は他には無い特徴があるのは分かるがまさか新種だと言うのか?」
この世界の女性に限定された属性、しかしそれは広く捉えれば六つの属性に分けられる。それ以外の属性があるなんて聞いたことがなかったエーデルは女性の話に興味を持った。
「無理もない話さ。属性が六つ以外にあるのなら世間一般に知れ渡る話だからね。しかし世界は広いもの、君の知らない属性はある。もちろん私もね」
すると女性は突然指を鳴らした。鳴らすとまだ残骸が残る"アフィシャル"の建物が今度は跡形もなくなるほどの爆破が起こった。
ナデシコが起こしたであろう爆破を初めて見たフェリスは驚き、あまりの衝撃にその場で固まってしまっていた。一方のヒガンも爆破を見たが表情を変えることなく平然としていた。
「見てもらえれば分かる通りさ。私は炎属性が変異した属性、爆破属性を扱う人間だよ」ナデシコは自身の属性は爆破を扱う属性だと言った。
「爆破…?どうなんだディーナ、お前なら炎を扱うことが出来るだろ。炎があれば爆破は可能じゃないのか?」炎の属性を持たないエーデルは全ての属性を扱えるディーナに原理を聞いていた。
「う~んどうだろう。炎属性って一般的にライターの火を付けるぐらいの小さな炎しか出せない属性だけど、それが強力になれば辺り一面を焼き払えるぐらいの炎は出来る。私の炎の属性も他の人よりもずっと強い炎を銃弾に込められる。
けれど、炎を爆発させるのなら少なくとも他の要素が必要になる。それこそ氷の属性と合わせたりとかね。自発的に炎を爆破させるのは無理があるかな」
炎の属性はあくまで炎しか扱うことは出来ずそれは爆破とは少し違う。つまりは爆発させるのなら炎だけで自己完結は不可能である。
「まぁ厳密に言えば私は爆破させる固体微粒子、所謂粉塵を自主的に撒くことが出来る。その粉塵に何かしらの着火すれば爆破が起こる仕組みだよ。ここからは少し化学的な話になるからねぇ、割愛させてもらうよ」仕組み自体は分かるディーナとエーデルだがまだ疑問があった。
「着火って事は貴方はその起爆を出来る炎が出せるの?」その着火剤が無ければこの属性はほとんど意味のなさない属性になってしまう。「いや、私は好き勝手に炎を扱うことは出来ないさ。粉塵を扱う変わりに失った属性と言ってもいいかな」ナデシコは爆破の変異属性だがあくまで属性が変異し元の属性が無くなってしまったために炎属性の側面は無くなっていた。
「じゃあどうやって爆破させるの?」ナデシコは再度指を鳴らした。今度はディーナとエーデル二人の目の前で指を鳴らすと僅かに火花のような炎が起きていた。
「変異属性とは言えど元は炎らしい。その名残で私のフィンガースナップによる摩擦で火花が散る。それによって着火してると言う訳さ」大規模な炎は変異によって扱う事は出来ないがそれでも炎の属性である事は変わらずナデシコの指鳴らしによって火花が散る、炎属性の名残は残されていた。
「まぁこんな所だろう、全てを語るのはまた別の機会だ。他にも聞きたいことがあるんだろう?」「待て、私はまだ…」「君の質問ではなく、彼女の質問には答える。これは彼女との交換条件の提示でもあるからねぇ」あくまで走りながら会話していたディーナからの問い掛けにしか応じないナデシコ。「交換条件?そう言えば頼みたい事があるって聞いたけど…まぁ後でいっか」
「じゃあ次に、なんで"アフィシャル"に居たの?貴方は"アフィシャル"の何だったの?」属性の次は何故ナデシコが"アフィシャル"に居たのかであった。
「"アフィシャル"内部構造や隠し道を予め作っていた事を考えれば"アフィシャル"にしばらく滞在してたんでしょ?ここの研究者の一人だったの?」明らかに"アフィシャル"外部の人間ではない事は明白だった。そのため彼女のおかげで"アフィシャル"第四支部は壊滅したがまだ彼女が"アフィシャル"の一員の可能性は否定出来なかった。
「"アフィシャル"の研究者な訳がないだろう。彼女達の研究は人間を否定しているのと同じだからな。私がここに居たのは、実験体の一人として過ごしていたんだ」この発言に全員が驚いていた。
ヒガンに抱きついて離れなかったクロカもようやく落ち着きを取り戻して普段通りになり密かにディーナとナデシコの話を聞いていた。そこでナデシコも自分と同じ実験体の一人と言った事に反応してヒガンと手を繋ぎながらナデシコの近くに行き「それ、どういうことなの?」少し食い気味に聞いた。
「おや小さな"リンドウ"君。もう大丈夫なのかい?」元気を取り戻したクロカにナデシコは微笑みを向けた。
「うん。ディーナが励ましてくれて、ヒガンも来てくれたの。腕は痛いけどヒガンが治してくれたから大丈夫なの。
それにまだお礼を言ってなかったの。ありがとう、ナデシコがいてくれたから、ウチは生きてるの」命の恩人であるナデシコに感謝を伝えた。
「わっちからも礼を言う。我が娘を守ってくれて感謝する、主がいなければクロカが負った傷はもっと深かった。感謝してもしきれん」見ず知らずの相手ではあるがそれでも大切な娘を守ってくれたナデシコに親としてのお礼をした。
「なに、大したことはしてないさ。どの道奴らを葬る事には変わりなかった。それに目の前で子供が傷ついているのを何もしない女ではないからねぇ。
それでも回復して良かった。えっと…そういえば君達の名前を聞いていなかったね」ここで全員の名前を聞いていない事に気がついたナデシコ。
「ウチはクロカなの」「わっちはヒガンじゃ」親子の二人が自己紹介した。
「君達は?」「私はディーナ」いつの間にかディーナの裾を掴んで離さないフェリスがいた。「で、この子がフェリス。私の妹よ」自ら爆破を繰り出すナデシコに少し怯えてしまっているフェリスだが「ふぇ、フェリス、アスル、ロサです…よろしく、お願いし、します」と、しっかりと自分の口で挨拶をした。
「ディーナ…そうか君がディーナ君か。噂を聞いているさ、一般的に知られている六つの属性全てを扱える実に特有な"リンドウ"だと」「貴方の耳にも入っていたのね。まぁそれだけ私も有名になったって事だけどね」
実際"リンドウ"界隈の中では知らぬ人はいない程の知名度だったがココ最近の活躍や活動によりどんどんと世間一般にも知名度が広がっていき、ルムロを守った一人の"リンドウ"としての認識が強くなっていた。最も事務所の電話線は切っているため依頼が増えているわけではないが。
「そしてフェリス君だね。恐らくは属性で視界を補っている。目を隠しているのは何かしらの理由があるんだろうねぇ」「あ、あの…えっと…」
「おっと困らせるつもりはなかった。流してくれても構わないさ。君も私を受け入れてくれればいいのだが」意味深な言葉に口にしたナデシコだがまだ理由は分からなかったディーナ。
「後は摩訶不思議な鳥を使役させている君は?」「…エーデルだ。この鳥は私の属性によって勝手に生み出された鳥だ」「スワイよ。ウチも助けられたんだし、貴方には感謝してるわ」
「属性によって生み出された…君もなかなかに興味深い属性を持っているねぇ」あまりエーデルには無関心だったナデシコだったがスワイが属性によって生み出されたと聞いてエーデルに俄然興味を持った。
「詮索はやめろ見世物じゃないんだ。今のお前が相手にしているのはディーナだろ」極力自分の事は語りたくないエーデルはナデシコが今から何かを聞かれる事を未然に防ぐように釘を指した。
「それもそうか。さて、話の続きと行こうか。実験体と言ってもただそういう"てい"にしていた。私は"アフィシャル"を勝手に拠点としていただけさ」言っている意味が分からなかったクロカの頭には?が浮かんでいた。
「"アフィシャル"が実験体である"リンドウ"や身寄りのない子供を攫っているのは知ってるだろ?
その中でどこで情報を聞いたのかは知らないが、私の属性に目をつけた"アフィシャル"は私に話を持ちかけた。『研究を手伝いがしたい。私達の組織であれば設備は整っている、より研究が捗る。悪い話ではない』てね。
胡散臭い話であったが私の資金も底が尽きかけていてホテルでの宿泊を厳しくなっていた。そこを漬け込んで私に話を持ちかけたのかもしれんがねぇ」
「それでついて行ったの?」「ああ、連れてこられたのはここだった。
着いた瞬間に私を拘束しようとしていたがそんなのさせるわけがない。"アフィシャル"内部で少々暴れてしまってね。これ以上の被害は出せないと思ったのかここの支部長が、部屋を一つ貸して設備も使わせてくれる変わりに何もしないでくれ。と、頼まれてねぇ。
私が暴れた結果暫くは"アフィシャル"も活動出来ないと判断して、ここに住んだのさ。余計なことをすれば何時でもここを壊せるようにねぇ。まぁ"アフィシャル"の設備なんて使う訳がなかったけどね」
ディーナはここまでの話を聞いて「研究?ナデシコも何かを調べている?それに…」彼女の目的がまだ見えずにいたがどうやら何かの研究者だと言うのが分かった。
「それで一ヶ月ぐらいかな、ここに滞在して分かった。やはり"アフィシャル"とは私の何もかもにそぐわないって。
そろそろここを爆破させて壊そうと思っていた時に君達が来たんだ。偶然ではあったが好機だったよ。君達が各々暴れている間にスムーズに準備が出来たんだ、おかげで無事に全員脱出して跡形もなく壊せたんだけどね。
少しでもここの実験体にされた人々に報える事が出来たさ」そう言って優しく微笑むナデシコ。
その表情にディーナは「やっぱり、この人は人間想いが強いのね。見ず知らずのクロカや私達を助けたのもその想いのおかげなのね」
「これが"アフィシャル"に滞在していた理由さ。私が"アフィシャル"の一員ではないことが分かっただろ?むしろ敵対している方だからねぇ」
話を聞く限りではナデシコは"アフィシャル"側の人間ではないのがよく分かる。
「そうね、絶対に違うって言い切れる。それじゃあ最後の質問、貴方の研究って何?その目的はなんなの?」最後の質問はナデシコが何をやっている人なのか。間違いなく"リンドウ"ではないのが分かるがそれでも目的が全く見えていなかった。
「私は、何故自分がこの属性を持ってしまったのか、それが知りたくてね」「持ってしまった?」
「私の属性は他の人間よりも変わった変異属性を持つ。だが何故大多数の人間が一般の属性を持ち私のような変異属性はほんのひと握りしかいないのか」
目的を語りだしたナデシコは少し不気味な笑顔で「考えただけでもゾクゾクするじゃないか。他者よりもずっと変わった属性を持っているだなんて。
だからこそ興味が湧いてしまった、この属性は何故私に、何故他の人間は持っていないのか。分からない事は解明すればいい。そして人間は、私は進化する。これは人間が次の一歩へと進むための研究なんだよ。
"アフィシャル"を許せなかった。奴らは"マリー"の力を利用していたが、それは人間の全てを捨て、行き止まりの研究を進めていたんだ。相対する研究なんだよ、私と"アフィシャル"は」
ナデシコの研究、それは人間の可能性を引き出す事だった。属性は多種多様、区分されるが全く同じの属性はこの世には存在しない。
その中でも自分は特殊、変異した属性を持つ。変異は何故起きたのか、何かの条件があるのか、人によって変異すれば何が変わるのか…考え始めればキリが無い。
ナデシコはその全てを研究して解明したかった。人間の探究心、それだけでナデシコは生きる喜びを感じていた。無限と言える謎を解明する、それがナデシコ・カミトの人生の目的だった。
「壮大な研究で目的ね」「それだからこそ諦められないのさ。欲望と知識は人間の成長を促進させる最大の成長源だからねぇ」
一通りナデシコの質問が終わったディーナ。「まだ貴方の事は聞きたいけど、皆疲れちゃってるから。今日はここまでね、労い会を開きましょうか」ここにいるほとんどは壮絶な戦闘を終えた後、疲労が蓄積されている状態のためこの場を後にしようと言ったディーナ。
「その前に一ついいかい?」「なに?」「私のお願い聞いてくれるかい?」質問の条件に何かを提示しようとしていたナデシコ。
「さっきも言った通り私の資金は底をついている。ほとんど無一文状態だ。こればかりはどうしようもなくてね。
そこでディーナ君、君はDina's hideoutと言う事務所を経営しているね。私をしばらくそこで養ってくれないかな?」「えぇ!?」「えっ…?」
まさかのお願いにディーナは驚きフェリスも養うと言う意味はあまり分からなかったがナデシコが家に来るかもしれないと察した。
「う~~ん私の家ねぇ、フェリスも一緒だしこれ以上増えちゃったら…そんなに狭くないか。けれどね~」これには流石に二つ返事が出来ないディーナ。まだ会って数十分の女性を家に住ませるのは少し抵抗があった。
「もちろんタダと言う訳ではない。と言うのも"アフィシャル"は大規模な組織だ。ここは第四支部、他にも支部がある。つまり君達は"アフィシャル"に敵対してしまった。
これがどういうことかと言うと、"アフィシャル"の勢力が君達に牙を剥くようになる」
ナデシコの言葉にある事に気がついたディーナ。それは自分だけではなくフェリスにも危害が加えられる可能性が浮上してしまったのだ。自分のせいでフェリスの安全が脅かされてしまっている。それだけは絶対に避けなければならない。
「ディーナ君は"リンドウ"。"マリー"から人々を守るために尽力せねばならない。だがその時は恐らくフェリス君は一人であろう?見た限りではフェリス君ではまだ太刀打ちはきっと出来ない。
そんな時は私が守ろう。未来ある子供を奴らの手に渡す訳にはいかない。いわば私は君が留守の間の用心棒だと思ってくれ。どうだい、悪い条件ではないだろう?」
ナデシコの交換条件に少し考える素振りを見せるディーナ。「"アフィシャル"が私にだけ襲うのなら何も問題ない…けど、フェリスが"アフィシャル"に襲われる可能性が出てきている。ナデシコの力は相当な物、彼女であればフェリスを確実に守れる…」今後"アフィシャル"は脅威の存在になっていく、自分以外に誰かがフェリスを守れるのであればと考えたディーナは「分かったわ、貴方を私達の家に招くわ」
ディーナの判断にフェリスは驚いて「えっいいの?お家にこの人も済んでいいの?」さすがに不安になっているフェリス。いきなり知らない人が家に住むのだから不安になるのも仕方ない。
「何かあった時は私が何とかする。それに危害を加えるような人じゃないのも何となく分かるからね。フェリスも私以外の人の住んでみるの一つの経験になるよ」
「う、うん。お姉ちゃんがそう言うのだったら、フェリスも大丈夫だよ」フェリスも不安は拭えないがディーナが許可をした事にフェリスも賛同した。
二人の許可が下りてナデシコはディーナの傍にいるフェリスの目線でしゃがんで「受け入れてくれてありがとう。これからよろしく頼むよ、ディーナ君。フェリス君」
微笑ましい笑顔を向けたナデシコにフェリスも「は、はい。よろしく、お願いします」初対面の相手に人見知りをするが、フェリスもナデシコを迎える事にする心意気になっていた。
「さて、話がまとまったところ悪いのじゃが、ここに留まるのは少し危険だ。別の"アフィシャル"共が来る可能性もあるからのぅ。一度わっちの家に来い、わっちの知らん奴もいるからのぅ、挨拶してもらうぞ」
ヒガンはここにいる事を危険と察知して全員家に招くようだ。
「いや私は…」ここで断りを入れて単独行動に出ようとしているエーデルだが「主も疲労状態であろう。少し休息は必要だ、ここでもう一戦"アフィシャル"共とやり合うのは不都合だろう?」
真っ当なヒガンの意見にエーデルはため息を吐いて「分かったよ。さっさと案内しろ」観念してヒガンの家に行くことにした。
「それじゃあ、わっちについてこい。糖分ならこと足らん程用意してあるぞ」
----------
六人と一匹はヒガンの家に着いてそれぞれ休息していた。ヒガンが用意した大きなチョコケーキと人数分のサイダー、各々手を付けていた。
「うん、これは美味しい!チョコの甘さにさくらんぼの酸味と食感、それに透き通る程の飲みやすい炭酸飲料。ヒガン君はパティシエの才能があると言えるねぇ」ナデシコはケーキを食べて大絶賛していた。
「当然なの。ヒガンの作るケーキは世界一なの。このチョコケーキを超えるケーキなんてありえないの」クロカも右腕を包帯で巻いて処置しているが、痛みは無くなってヒガンのケーキを堪能していた。ちなみにクロカは左利きであるため飲み食いに関してはあまり不便にはなっていない。
「主は食べんのか?属性をかなり使っているのなら疲弊しているはず、食って補わんといけんぞ」ヒガンのケーキを口にしないエーデル。
「そうよエーデル。こんな美味しいのに食べないなんて損よ」ヒガンはスワイにもケーキを差し出しており、スワイも食べて絶賛していた。
「属性であるスワイも食える事には少々驚いたがその属性の張本人でもある主が食わん事には力も出んぞ」ヒガンにもエーデルの事と属性を聞いていた。クロカが憧れる属性だと言ってもてなしたい気持ちであった。
「いらないって言ってるだろ。そういう気分じゃないんだ」別段お腹も空いていないエーデルは食べる理由が無かった。
「まぁそう言うな。一口食えば気に入るかもしれんぞ?それに休息の場を与えたんだ、これぐらいは食ってもらわんとな」頼んでもいない休息の場だがそれについて行ったのは自分だと悟ったエーデル。
仕方なしにエーデルもケーキに手を付けて口に運んだ。すると、口に運ぶ手は止まらずに気がつけば一切れのケーキを完食していた。
完食した皿を見てヒガンは微笑んで「美味かったじゃろう?」エーデルはヒガンからそっぽ向いて「ふん、まぁまぁだ」と、口ではそう言ったが内心ではかなり美味しかったようだ。
ディーナとフェリスもケーキを食べていて、フェリスが食べきれない分はディーナが食べていた。
ヒガンはディーナの隣に座って「こんなに賑やかになるとはねぇ。主のおかげじゃ、感謝するぞ」そう言って見ていた目線はクロカだった。クロカの笑顔にとても満足気な表情を見せるヒガン。
「子供は笑顔が一番だからね。クロカちゃんをずっと縛っていた蟠りをようやく解き放てて良かった。でも最後は貴方がいてくれたから、やっぱり最後の感情は貴方しか動かせないわよ」
ディーナの言葉で心が軽くなったとは言え最後はヒガンが出迎えてくれたからこそクロカの感情は取り戻し以前よりもずっと成長した。だから今のクロカの笑顔があり過去からようやくサヨナラ出来た。
「わっちは何も出来んかった。けど…クロカの最後の答えがわっちじゃったのかのう。あの時初めてクロカが声を出して泣いた。泣き終えた後に見て満面の笑み、あれがずっと抑えていたクロカの感情じゃったのじゃな。今の笑顔を取り戻すのに時間がかかってしまった。
まさか主と会ってこんなにもすぐにクロカが感情を取り戻すとはな…ありがとうのう。我が娘を、今度こそ帰らせてくれて」
ヒガンの眼には零れ落ちそうな涙を拭った。ディーナは笑って依頼を達成させた。
「それで、貴方達はこれからどうするの?」目的を達したヒガンとクロカのこれからについて聞いた。
「主らと同じでクロカも"アフィシャル"に敵対してしまったからのう。しばらくは目立った行動は出来ん。もとよりわっちも目立つ行動は常に避けているからのう。
じゃが不安の芽は摘むに限る。わっちなりに奴らの情報を集めようと思う。何か分かり次第共有しよう。何かしでかす前に未然に止めなければいけないからのう」
どうやらヒガンは今後も"アフィシャル"を追うつもりらしい。本気で"アフィシャル"を止めようとしているヒガンに好感を持つディーナだが一言気になることがあった。
「不安の芽は摘む?"アフィシャル"の事かな、それともクロカちゃんのような子がこれ以上増えないように摘むって事なのかな?でもヒガンの考えだから悪い方にいかないと思うけど」あまり考えすぎもいけないと思ったディーナはこれ以上は深掘りはしなかった。
「主らはどうするんじゃ?いつも通りに"リンドウ"として活動するんか?」「そうね、警戒はするけど引きこもってばっかじゃいられないから。それにナデシコもいるからフェリスも安心だしね」
「そうか。まぁなんだ、同じ家族を持つ者同士じゃ。これからも良い関係を築いていこうじゃないかのう」そう言ってヒガンはディーナに手を差し出した。
ヒガンの手を握ったディーナ「えぇ。何かあったらまた連絡して。力になれるのなら手を貸すよ」「その時は電話を繋げるようにしておけよ」「うっ!ま、まぁ休業してなければ…」
ヒガンはディーナの隣にいるフェリスにも微笑みかけて「フェリスもクロカと仲良くしてやってくれんか?同年代の女子がこの辺りにはおらんくてのう」クロカも友達と言える人はいないため、初めての友達がフェリスであればヒガンも嬉しかった。
「はい、ヒガンさんも優しい。クロカちゃんとも一緒にケーキを食べたい。また来てもいい?」短い時間であったがヒガンと過ごした時間はとても心地よかったフェリス。ディーナの帰りを待つフェリスに気遣いながら優しく接したヒガンに優しい人だと認識していた。
「もちろんじゃ、いつでも歓迎するぞ」フェリスは笑顔を向けてヒガンも笑顔を向けた。
----------
少し時間が経ち、ヒガンの家から出ていこうとしているディーナ達。
「今回依頼を受けてくれてすまんな。脅威はまだ去っていないがそれでも皆無事じゃった。困ったならわっちらを頼ってくれ」友好的な関係を築いていきたいヒガン。
「もちろんよ。困った時はお互い様、また助け合おうね」
ディーナとヒガンが話している時クロカは「あ、あの。フェリス…」「う、うん…」友達になったとは言えまだぎこちない二人。そこでナデシコは「友達になったのだから遠慮はいらないさ。また何かしたいのだったら約束を結べばいい、そうすれば自ずと会えるからねぇ」
ナデシコの助言によりずっと何か言いたげだったクロカは「ウチは怪我しちゃったからまだ遊べないけど、怪我が治って今度会ったら、一緒に遊びに行かない?」首元を手を置き少し照れながら誘うクロカにフェリスは「も、もちろんだよ。フェリスもお友達と一緒に、遊びに行きたい」
お互い照れながらだったが今度再開したら遊ぶ約束をして、小指と小指を絡めた。その時の二人は年頃の女の子が遊ぶって約束した時のように笑顔だった。
「にしてもエーデルは早く行っちゃったね」ディーナ達よりも先に家から出ていったエーデル。
「やることがあると言っておった。忙しいやつじゃのう」急ぐような感じではなかったが何か思うことがあるような顔でエーデルとスワイは出ていった。
「それじゃあ帰ろうか。私達の家に」「うん!」「改めてよろしく頼むよ」三人はDina's hideoutに帰った。
三人を見送ったヒガンとクロカは「さてと、わっちは片付けをしようかのう」部屋は皿等が置いたままで散らかっている。
先に片付けを済まそうとするヒガンにクロカは「ヒガン、今日は星がとっても見えるの。だから、一緒に…」母親に何かをねだるように少し照れくさく言うクロカ。
そんなクロカの頭を撫でて「そうじゃのう。今日は晴天じゃ。片付けは後にして一緒に星を見るか。大三角形が見れるといいのう」クロカは笑みを浮かべて「うん!見よ!!」年相応にはしゃぐ様子を見せる。
そんなクロカを見てヒガンは口にはしなかったが「まだまだ子供じゃのう。じゃがこうやって成長を見るのも母親としての使命じゃ。
ディーナ、あの子や"マリー"に襲われる子もいる。"リンドウ"じゃからのう。忙しい日々が続くが、寝る間を惜しめよ。若人達よ」
----------
一足先にヒガンの家から出ていったエーデルが向かった先は"アフィシャル"第四支部の跡地だった。
「ちょ、ちょちょエーデル。なんでこんな場所に…」エーデルの意図が分からないスワイ。
第四支部の影も形も無くなった場所だが、エーデルは崩れた瓦礫の上に立ち懐からロケットペンダントを取り出した。「何よそれ?」初めて見たペンダントに疑問を持つスワイ。
そのロケットペンダントを手放して瓦礫の山の中に落としたエーデル。「え、エーデル?何してるの?」さっぱり分からないスワイ。
エーデルは落とした時に「お前の娘は誰かの娘になった。だが呪縛から解かれて元気になった。
だから、安らかに眠れ。お前を縛るものはもう何も無くなった」そう言って瓦礫から振り返ってその場を後にした。
「どういうことよ?何かあのペンダントに思うことがあった?」「いや、持ち主に返しただけだ」エーデルは落とす前最後にクロカと写ったもう一人が微笑んだように見えた。
----------
きょうは、おねえちゃんといっしょにかえってきた。とってもいろいろあって、まずおうちになでしこさんがやってきた。ふぇりすもこわかったけどなでしこさんはとってもやさしくて、とってもなかよくなった。
あと、おともだちもふえた。くろかちゃんはふぇりすよりもおねえさんだけど、またあそぶやくそくをしてくれた。
おねえちゃんといっしょにいてからまいにちたのしい。いつまでもつづけばいいなぁ。
6がつ4にち
五章 「感情の解答」 完




