一つの結末
クロカを助けた謎の女性はシラーの引導をクロカに変わりに渡そうとしていた。
シラーにまたしても指を鳴らすかと思っていたスワイだがここで振り返った女性はスワイと目が合い「君、とても興味深い喋る鳥君。君とはじっくりと話したい事があるのだが今はそれどころではなさそうだ。
ここには他にも"リンドウ"がいるとみている、残った彼女達を連れてきてくれたまえ。ほんの少しの未来で、ここは崩壊するからねぇ」
スワイが会話を出来る鳥と言う事も見ていた女性はスワイにディーナ達もここに連れてくるように促した。
スワイもなんとか翼を羽ばたかせ浮かんだ。「く、クロカちゃんは…」「この小さな少女の事なら任せてくれ。勇敢にも戦った少女を私は絶対に守り抜いてみせよう」
得体の知れなく、突然来た女性にクロカを任せるのが少し怖かったスワイだが実力はシラーよりも勝っていると思ったスワイは女性にクロカを任せてディーナとエーデルをここに連れ出す事にした。クロカの安全を最優先にするためには二人の協力が必要だと考えたのもあったが。
「分かったわ…って後ろ!!」スワイが見たのは女性がこっちに振り返っている間にすぐそこまで来ているシラーが巨大な手で女性に掴みかかろうとしていた。
「油断したのは貴様の方ですね。粉々にしてあげますよ!」逃げ出しても遅い状況に女性の骨が砕ける瞬間を見たくないスワイは目を閉じた。
だが「油断は君の方じゃないか?」そう呟いたその時、指も何も鳴らしていないがシラーの足元が爆破した。爆破により掴むどころか吹っ飛ばされて壁に激突した。その巨体をみ吹き飛ばす威力だったのか激突した壁はヒビが割れて少しでも衝撃が走れば倒壊する直前だった。
さらに爆破は続くように今度は天井が爆発した。天井が爆破した真下には壁に激突したシラーだった。爆破した天井の壁は崩れていきまだ動けないシラーが瓦礫の下敷きになった。
一連の爆発に関しては指を鳴らしていないため、ほとんど何もしていない女性だったが瓦礫の下敷きになったシラーに自分のこめかみ辺りを人差し指で二回トントンと当てて「私が何も考えなしに属性を使ったと思ったか?脳内の計算は全て嘘をつかない。君は言ったはずだ、私の脳は天才だと。その言葉に嘘偽りが無いのは分かる。だが天才は君のような無能には分かられたくないのだよ」
何があって爆破したのかが分からないスワイはただ呆然と女性を見ていた。まだ動いていないスワイに今度は振り返られずに「早く行くんだ。ここでこの支部と一緒にお別れしたくないだろ?だったら急ぐんだ」女性の言ったことは本当の事だと感じたスワイ。あの爆破が大規模になればなるほどこの支部が崩壊していく。そして女性はこの支部を壊すつもりだと感じていた。
スワイは急いで翼を羽ばたかせてディーナとエーデルの元に向かった。スワイが急いで向かったのを確認すると、まだ倒れたまま動けないクロカを抱えた。
クロカを抱えて歩き出した女性はそのまま部屋の壁まで行き壁にもたれ掛かるようにクロカを座らせた。掴まれ骨が砕けている右腕をなるべく負担をかけないように優しくクロカを抱えていた。
「ここで見ておくんだ。奴の最後を君は見届けるべきだよ」女性はまだ意識があるクロカにここでなら女性とシラーの戦いがよく見えるようにクロカを移動させた。ずっと倒れたままだったら危険でもあるためだが。
女性はクロカから振り返ってシラーとの決着をつけようとしていた。しかし全く力が入らないクロカの左手は女性のコートを掴んでいた。振り払う事が出来たはずだが掴まれた瞬間の違和感を感じて振り返ってクロカを見ると、上目遣いで女性を見る目は「まだ自分でシラーを殺したい」そう訴えかけるような目をしていると分かった女性。
「ウチが…ウチが、やらないと……ヒガンの家に、帰れない…」小さく呟く声で女性に伝えるクロカ。これ以上の声が出せない。耳を澄まさないと聞こえない程だったがその声は女性に届いていた。
女性はシラーにまだ復讐を考えているクロカの頭に手を置いて「君の復讐は誰かが変わりやってくれる。自分で自分の手を汚すことはないんだ、復讐なんて感情に囚われた馬鹿がやることだ。君はシラーを自身の手で殺そうとしているようだが、誰かの手を借りて誰かに任せると言う選択肢もあったはずだ。
それが一番効果的で効率的だよ。君は決して、一人ではないんだろ?だったらその手は、世界で一番君を待っている人のために残すんだ。待つ人との出会いが偶然であっても、共に過ごした時間は有意義だったはず」
クロカにとって女性が発した言葉の意味は分からない事だらけだった。朦朧とする意識だったが、たった一つ分かったことがあった。
「この人は…ヒガンと一緒…理由も無く、人を助ける……」ヒガンと全く同じではないが、それでもヒガンとどことなく似ている部分が女性にはあった。
女性はクロカの頭から手を離して再び瓦礫に埋まったシラーの方を見ると突然瓦礫の一枚が女性に飛んできた。
飛んできた瓦礫を避けようとはせずに目の前に迫った瓦礫に指を鳴らすと瓦礫は木っ端微塵になる程の爆破が起こった。
瓦礫を辺りに飛ばしてブチ切れ今にも血管が切れそうなシラーが女性を睨みつけている。その形相を見たものを恐怖に叩きつけるほど鬼の顔をしていた。
ただ変異した顔立ちが徐々に皮膚が爛れていくのを確認した女性は再びため息を吐いて「やはり不完全だな、"マリー"になるなんて所詮は失うものが大きすぎるという事を何故分からない?」
呆れた顔をする女性に牙と爪を突き立て「もういい…貴様は絶対にここで殺す!八つ裂きにしてその口が二度と話せないほどズタズタにして、私に乞うように謝罪を求め、絶望に叩きおとしてやる!!」
今まで敬語使い上品を振舞っていたシラーだが突然、野蛮な言葉を使い始めた。
「ようやく本性を表したか。君の今の姿であればそっちの方が似合うがな。君はこの子の親として愛を謳っていたようだな。だがこの子は君を拒絶している、もう君の居場所なんて無い。私が墓場ぐらいは作ってやる」
そう言って右手の親指と中指を合わせていつでも指を鳴らす準備を整えていた。
シラーは闇雲に向えば爆破されさらに重症を負ってしまうと考え、瓦礫を一つ掴んで全力で女性に投げつけた。
猛スピードで向かう瓦礫に指を鳴らし爆破させて瓦礫を木っ端微塵にすると再び瓦礫が飛んできていた。
だが慌てずに女性はさらに指を鳴らし瓦礫を爆破させた。だが瓦礫を力任せにシラーは投げ続けた。
指を鳴らし続け瓦礫の流星群が終わるのを待つ女性。ここでシラーは巨大な瓦礫を両手に持ち女性に投げつけた。当たれば致命傷どころか命が終わってしまうほどの巨大で女性が避ければクロカにも被害が及んでしまう。
女性は同じように巨大な瓦礫に指を鳴らし瓦礫を爆破させた。どんなに大きくても女性の前では造作もないことであるかのように粉々に砕けた瓦礫。
しかし、全てシラーの作戦通りだったかのように砕けた瓦礫の目の前にはシラーが女性に突っ込んできていた。
巨大な瓦礫により死角になりシラーを確認することが出来なかった女性。目の前まで来ているシラーは「属性を何度も使えば消耗する、私の風の属性は瞬時に動くことができる。消耗した属性で私を爆破させるなんて不可能だろ。
終わりだ、この"マリー"の力による手で貴様を掴み全身の骨を砕いてやる。貴様の悲鳴が楽しみだ!」
両手で掴みかかろうとするシラー。属性を使い切った反動なのか一歩も動かない女性。勝利を確信して笑みを浮かべるシラー。
だが、「能無しだねぇ、私に近づけるとでも思った?」笑みを浮かべたのは女性の方だった。
女性がそう言った瞬間、シラーの真横から強烈な爆破が起こった。その衝撃によりサイドに吹き飛ばされるシラー。吹き飛ばさたシラーは爆破の衝撃により上手く立ち上がれないが、再び真横から爆破が起こった。
同じ程の衝撃の爆破により再度吹き飛ばされ、女性の目の前まで戻ってきた。だが既に女性に反撃出来ないほどボロボロの状態ではあったが。
女性にひざまづくシラーは霞む目で女性を見上げると、哀れだと思えるほどの目で見下していた。
すると、シラーの両手を地面に置いてなんとか体を起き上がらせようとしていたが再びシラーがいる地面から爆破が起こった。
その爆破により空中に吹き飛ばされるシラー。さらに吹き飛ばさた場所にピンポイントに三度爆破が起こった。それは戦闘不能どころか、最早命すらも無くなる程の爆破がシラーを襲った。
天井近くまで爆破で吹き飛ばされたシラー。そしてさらにシラーがいる真上の天井が爆破し、爆風により地上まで叩き落とされた。ボロボロで目を開けるのも必死になっていた。
何も出来なくなったシラーに静かに近づいていく女性。シラーの目の前まで来た女性に「助けて…助けてよ…。今までの事は謝るから、クロカにも…頭を下げるから。もう非道な事はしない。お願い…お願い、します…」人間の顔をしてはいないが、涙だけは辛うじて人間の感情が残っていたシラーは乞うように助けを求めた。
だが女性はシラーの顔に指を合わせた手を見せて「残念だがそれは出来ない。君は今まで罪も無い人々を手にかけすぎた、それはどれだけ謝罪しても報われることは無い。
それに君はもう人間ではなく"マリー"、君自身が今いる世界から離れてしまったんだ。私からはせめて痛みもなく逝かせてあげるよ。感謝をしたまえ、それが君に残る最後の感情だ」
目の前で指を鳴らそうとする女性に「待っ…!!」止めようと声を出そうとしたシラーだが女性は「パチンッ」音が鳴ると比べるまでもないほどの大爆破がシラーを包んだ。
「ああああぁぁぁ……」微かに聞こえたシラーの掠れるような声、それ以降は何も聞こえなくなってしまった。
爆風は収まり、煙も晴れていきようやく目で見える状態になったその場には部屋が黒く染まり誰もいない空間が広がっていた。
女性は少し一息つくように息を吐くと「次はもっと有意義な脳の使い方をしてくれよ」と言って頭を指でトントンと触った。
女性は振り返ってクロカの元に行きしゃがみ手を差し伸ばした。「ここにいる理由は無くなっただろ?脱出するよ、その内ここは…おや?」女性が見たクロカは震えていた。
「ウチが…すぐに負けたのに、すぐにシラーを何も残らない程…怖い、貴方のその力が…」
クロカは恐怖を覚えてしまった。シラーが"マリー"化した時自分ではどうにも出来ずにただ死を待つだけだったが、女性の力は"マリー"化したシラーよりも遥かに強く圧倒的な実力を目の当たりにしたクロカは、女性に対し恐怖を植え付けられてしまった。
ディーナから言われた言葉、自分にしか出来ない事がある。属性は扱い方でより強くなれる、それを信じていたが、女性の属性はそんな土俵ではない。たった一人で全てを解決してしまう、強大過ぎる属性を持っている。
まだ世界を広く見ていないクロカだが、女性の属性はこの支部の中にいる人達よりも強いと感じていた。
「まぁ私の属性は他よりも変わって強力だと分かっているさ。ただ適当に扱っても真価も何も発揮されない、全ての属性、人間には可能性が秘められている。それは君の属性にもね。人間が進化を諦めない限り、属性も日々進化していくものだ。私の属性もその一つだと思ってくれ、諦めないから進化する」
女性は震えるクロカの肩を優しく手を置いて「君を諦めるなよ、まだまだ成長段階なんだからね」優しく微笑む女性。だがクロカの震えは止まらずに「でも今回は…ウチは何も…」さらに落ち込んでいくクロカを見て女性は「私の言葉では心を癒す事は出来ないか、心身共にかなり深い傷を負ってしまった、身体は時間をかければなんとかなるが心は…」
女性は自分ではクロカをこれ以上癒す事は出来ないと判断した。そもそも会って数分しか経っていない人には何を言っても通じることはない。これ以上は何も出来ないと思った女性はクロカの肩から手を離しスワイがここに来るのを待つことにした。
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一方でスワイは戦闘を終えたディーナとエーデルを連れてクロカと女性がいる部屋に急いでいた。ディーナは疲労や傷もあり全速力では走れはしなかったがそれでもスワイの全速力で羽ばたく速度について行く程の走る速度をしていた。
エーデルはそもそも短期間しか走れないほど脆弱の体をしているため、"マリー"化した女性との戦闘で疲弊しきった状態では走ることもままならなかった。
しかしエーデルは足に亜空間を出現させて亜空間を動かす技術を身につけており、それにより自分で走ることはせずに急ぐことが可能になっていた。
「で、その女がここの支部長と戦っているんだな。何者なんだその女?その圧倒的な属性を持つのならある程度有名な奴のはずだが?」諸々の事情は急いでいる間にスワイから説明を受けている二人。エーデルは突然現れた女性に疑問を抱いていた。謎の爆発を起こす属性を聞いたことがないエーデルはその女性が危険ではないかと思っていた。
「ウチだって分からないわよ!でも貴方達を連れてきてって言われたから!それに崩壊するって事も言われたから…とにかく急がないと、あの属性ならはったりではないと思うのよ」
目の当たりにした女性の属性からして崩壊は爆発の威力から建物が耐えられずに崩壊するんじゃないかと思っているスワイ。だからこそ崩壊する前に連れて来いと言った気がしていた。
しかしディーナは女性のことよりもクロカの身を案じていた。「話を聞いた限りじゃクロカちゃんは相当な傷を負っている。急いで治療させないとまたトラウマが増えちゃう。それに心もかなり…待っててクロカちゃん。必ずヒガンの家に帰すからね」無事に帰すと心に決めていたディーナ、もし何かあればヒガンに顔向けなんて出来るはずなかった。
そしてついにクロカと女性がいる部屋の扉まで来た二人と一匹。ディーナは部屋の様子を確認せずに扉を勢いよく開けた。二人の目に入ったのは部屋の半分程は黒く煤けて研究所であったであろう薬液が入ったビーカー等も全て割れて、壮絶な戦闘があった事が分かる。
何よりこの部屋にいるのは倒れて恐らく絶命している研究員、支部長らしき人物も見当たらない。残っているのは壁にもたれかかって座る虚ろな顔をしているクロカとその傍にいるコートを着た女性がいた。
エーデルとスワイも部屋に入り「ほら、連れてきたわよ。こっちの戦いも終わったようね」スワイが女性に二人を連れてきたと言うと女性は「こちらもちょうど終わったところだよ。そして君達がこの"アフィシャル"の支部に敵対した"リンドウ"か。たった二人でここを制圧するなんてね、相当な実力者だと分かるよ」
ディーナは初対面の女性に少し不信感を持つが恐らくクロカを守ったのは状況と話を聞く限りではこの女性だと分かった。
ディーナはクロカに近づきクロカの目線までしゃがんだ。「クロカちゃん大丈夫?」右腕が動かせていない。右腕の骨が砕けているのが分かった。
「貴方がこの子を守ってくれたんでしょ?ありがとう、貴方がいなかったらこの子はもっと傷がついていたでしょう」女性に感謝を伝えると「守らなくちゃいけない命だっただろ?私個人としてやったこと、感謝されるようなことはしていない」謙虚な態度を示す女性。
「でも貴方は誰?私達以外にここに侵入した人?」そもそも何故"アフィシャル"に敵対してる素性の分からない女性に理由を聞くが「ん~色々と話すことはあるだろうが私の仕掛けた属性によってここはそろそろ爆破して崩れるだろう」
「爆破?それって何分後とかって分かる?」「そうだねぇ、私が仕掛けてから戦闘の時間や君と話している時間を踏まえれば…三秒後とかには爆破するんじゃないか?」「…えっ?」
女性の発言を考える間もなく、施設の至る場所から爆発が起こり始めた。




