全てを溶かす
上位種"マリー"との戦闘、それは過酷なものだった。氷柱が突き刺さった肩や脚、脇腹の氷柱を掴み痛みをこらえて抜いた。抜いた後に流れる血を止めずにいるディーナ。
氷点下の中でグロリオサを外す事は死を意味するために装着しながらローゼンを構えるディーナ。
すると、"マリー"は息を吐いて顔の前でその息を掴むように手を握った。
「まだまだやる気に満ちているわね。それじゃあこんなのはどうかしら?」次なる攻撃を繰り出そうとする"マリー"に警戒するディーナ。"マリー"は顔の前に握った手を開いた。
しかし何も起こらない事に不信に思うディーナはキョロキョロと見渡す。だが違和感を感じたのは足元からだった。わずかに足元から冷気を感じ咄嗟に下を見ると、足元の地面がどんどんと白くなっていくのが分かった。
この場にいてはいけないの直感で分かったディーナは前方に飛び込んだ。飛び込んだ瞬間に先程いた地面から先端が尖った氷山のような形状の氷が飛び出した。ディーナよりも数倍はある氷、もしその場にいれば尖った氷山により串刺しになっていた所であった。
間一髪の所で回避したディーナ。だが「安心はまだ早いわよ。踊ってちょうだい、ね?」優しくも不気味な微笑みを見せる"マリー"。ディーナは飛び込みまだ片手と膝を着いている状態だが"マリー"の言葉に再び足元を見ると同じように地面が白くなっていた。
体勢的にここから飛び込み回避することは不可能と判断したディーナはローゼンを地面に向けて三発撃った。炎の属性弾を地面に撃ち込むと拡がっていく白い地面が少しではあるが止まった。止まっている間に立ち上がり走るディーナ。
ディーナがその場から走った後に止まっていた白い地面が再び拡がりはじめ、拡がりが止まるとその瞬間にまたしても氷山が飛び出した。
走り出し立ち止まって振り返り氷山を見たディーナ。だがまたしても足元に白い地面が拡がっていた。
「なるほど、私を仕留めるまではこれは永続するってことね。だったら…」何か思いついたらようなディーナ。するとディーナは走ることも飛び込む事もせずにその場に立ち止まってしまった。
だがずっと足元の拡がる白い地面を見続けていた。そして拡がりきった白い地面を瞬時に確認すると、後ろにその場の体勢で飛び込んだ。飛び込んだ瞬間に氷山が飛び出すことを確認したディーナは飛び込みながらローゼンを構えて氷山に属性弾を撃ち込んだ。氷山は撃ち込まれた属性弾により見事に砕け散った。
氷の破片が辺りに散らばる中でディーナは飛び込み倒れるのではなく、撃った後に空中で一回転し立ち氷山が砕け足元を確認すると白く拡がる地面は無くなっていた。
一安心するディーナはすぐに切り替えて"マリー"にローゼンの銃口を向けた。だが既に"マリー"は攻撃の手を休むことはしなかった。
"マリー"の左右には氷の球体のような物が浮いており、球体は同じ位置に並んでおり一本の氷の線が伸びて鉄棒のようになっていた。
しかし伸びていた線は有刺鉄線のように針が巡らされていた。氷の有刺鉄線は三本用意してあり、それぞれディーナの首辺り、胸辺り、足首辺りにあった。
「さて、踊りの本番はここからよ。優雅で華麗な動きを私に見せてね」と、"マリー"が言うと「ハッ!」掛け声と共に氷の有刺鉄線がディーナ目掛けて進み出した。
それぞれ動く速度が違い胸辺りにある氷の有刺鉄線が一番速く、上下は同じ速度で進んできていた。
ディーナは有刺鉄線をなんとか避けようと頭を回転させていた。「飛んで避けても、しゃがんで避けてもどちらにせよ遅れてきている氷に当たるわね。それにあの針、当たれば怪我どころじゃなさそうね。胸に当たれば胴体諸共真っ二つ…言葉通り踊ってみせてあげるわよ」
氷点下の中だが冷や汗をかきながら少しニヤリと笑うディーナは突然氷の有刺鉄線に向けて走り出した。この行動には少し驚きを見せる"マリー"。
だがディーナは胸に有刺鉄線が触れる直後、リンボーダンスのように上体を後ろへ大きく反らした。反らした上体の上を通って行く氷の有刺鉄線。
だが地に足が着いている中でこのままでは足首に当たってしまう。だが、上体を反らすディーナは走った勢いでまだ足が止まっておらず進んでいた。その勢いを利用して上体を起こすとすぐに前のめりに飛び込んだ。
地に足も着いておらず上体も低く飛んでいるため上下の有刺鉄線に当たることはなかった。
窮地を脱したディーナはまだ膝が地に着いているままではあるがローゼンの銃口を"マリー"に向けた。
だが"マリー"の前には、上下に氷の球体があり縦に有刺鉄線が巡らされていた。
有刺鉄線は五本が均等に並べられていた。「さあ、今度はどうするの?」"マリー"が言葉にすると五本の有刺鉄線は同時に進み出した。有刺鉄線の間を通る隙間は無く、左右に避けたとしても進む速度はさっきに比べれば明らかに速くなっていた。止まるにしても避けるにしても、ディーナはバラバラになってしまう。
しゃがんでまだ立ち上がれていないディーナ。だが焦る様な事はしていないディーナは銃口をある場所に向けていた。その場所に向けて属性弾を三発撃った。三発撃った先には有刺鉄線をつなぎ止めている氷の球体だった。
氷の球体に撃ち込んだ三発の属性弾は三つの氷の球体に命中し球体は砕けた。それと同時に有刺鉄線も砕けて無くなった。ディーナに当たるであろう三つの有刺鉄線は無くなり左右に避けなければ当たらない有刺鉄線もディーナを通り過ぎた。
そしてディーナも息切れを起こしたのか追い討ちをしてこない"マリー"に反撃とばかりに立ち上がりローゼンの属性弾を数発撃ち込んだ。命中精度は本気で討伐する覚悟を持つディーナの集中力はかなり高く全ての属性弾は"マリー"の周りに舞う氷の破片に命中した。
だが数発の属性弾では氷の破片を全て剥がす事は出来なかった。だがディーナもそれを分かっての属性弾の発砲だったのかディーナも同時に走り出しており、グロリオサの火力を上げて属性弾が命中した瞬間に"マリー"に右手でストレートパンチを繰り出そうとしていた。
こちらに向かってきているのを分かっていた"マリー"は殴りかかろうとしていたディーナを目視しており、しゃがんでディーナの攻撃を避けた。
だがディーナは予測していたかのように右手のストレートを咄嗟に止めて左手で"マリー"の顔面に目掛けてアッパーを繰り出した。
しゃがんだ状態で避けられない"マリー"は顔面を殴られかけるが、氷の破片が"マリー"の変わりに受けた。しかし氷の破片の大半が割れたが少しだけ残っていた。
氷の破片全てが砕けなかった事に驚くディーナ。「強度が上がっている、硬化もまだ出来るのね…!」やはり一筋縄ではいかない事をあらためて悟ったディーナ。
少しでも破片が残っていれば自分には攻撃が届かない"マリー"は近づいてきたディーナに「私に近づくなんて嬉しいわ。ご褒美にその可愛いお顔は崩れないようにしてあげるわね」
そう言ってディーナの胸辺りに手を置いた"マリー"。何か仕掛けられる前に後ろに飛んで距離を取るディーナ。だが触られた瞬間に胸に違和感が感じていた。
触れられた瞬間から時は既に遅かった。ディーナは手で触られた部分を指先で確認すると「冷たい、私は凍ってるのね。それにこの感じ…どんどん身体が侵食されてる、このままじゃ全身が氷漬けになるのも時間の問題ってところね」
"マリー"はとてつもない冷気の手でディーナに触れた。その手で触れられれば人間の体温ではどう足掻いても凍ってしまう。ディーナは咄嗟に"マリー"の手から離れたが触れられ続ければ瞬く間に氷漬けになっていた事であろう。
しかし触れられた事には変わりなく、冷気はディーナの身体を蝕んでいき、最後には氷漬けの人間が完成する。
短時間の決着が求められるディーナ。それも速くしなければ侵食が進んでいき満足に動くことも出来なくなってしまう。
しかし"マリー"もディーナが短時間しか行動出来ないと分かった上で触れたため、息を吐くと周りに舞う氷の破片が増えた。それも今までのに比べるとさらに多くの氷の破片が飛び交っていた。
「フフフッ、そろそろ諦めないの?いいのよ、抵抗しなければ私は最後まで優しく見守ってあげるわよ。それに貴方はとっても可愛くていい子、凍った後も私が永遠に見てあげるわよ。平和な世界が待ってるのよ、だから無駄な足掻きは…」ディーナの勝機はほとんど無くなった事に提案を持ちかける"マリー"。だが提案する途中でディーナはローゼンの銃口を向けて一発撃った。
氷の破片に命中した属性弾。笑っていた"マリー"も笑みは消えた。「"マリー"の提案なんて誰が呑むのよ。言っておくけど、私の中にはもう、諦めるなんて言葉はとっくの前に無くなっているのよ」
危機的状況、数分後には自分の命が凍ってしまうと言う状況でも、ディーナは笑って提案を蹴った。どんな状況でも楽しむ心を忘れない、それがディーナと言う人間だった。
交渉を決裂させたディーナにため息を吐いた"マリー"は「そう、残念。ならいいわ、最後まで私を楽しませるのね。それじゃあ、終わらせてあげるわよ。遺言はそれで良いわね?」そう言うと"マリー"は両腕を拡げた。
すると、"マリー"が立っている足場から氷が張られていき地面が氷に塗れていく。それはディーナの立つ地面も同じ事だった。どんどんと張られていく地面だがディーナはその場から動こうとはせずに立ち止まったままだった。
体力を温存するのか、それとも下手に動くことはさらに危険になるのか、理由は分からないが立ち止まっているディーナの足元の地面も氷が張られていった。
足元まで氷が来るとディーナの足が氷に覆われ一歩も動くことは出来なくなった。
「動けないわね…」そう呟くとディーナはローゼンを"マリー"に銃口を向けるが、身体が徐々に凍ってさらに足まで氷漬けにされておりディーナの体温は限界に近づいていた。
そんな状態で"マリー"に照準を合わせるなど不可能。ディーナは震える手を抑えることは出来ずに氷の地面に数発属性弾を撃ち込んだ。
"マリー"はさらに吹雪を吹かせてディーナの体温をどんどんと奪っていく。「人間は不便ね、こんなに冷たくしちゃったら震えて温かい何かを求める。でもそんな物は無いわ。
貴方に傷はつけないわよ。ただ、永遠に変わらない容姿で私のそばにいさせてあげる。永久にね」
このままディーナを冷凍保存させる気の"マリー"。それは同時にディーナの死を意味することだった。
息遣いが荒くなっていく、目が虚ろになる、身体も上手く動かない。だがディーナの目線は"マリー"から一切よそ見せず、真っ直ぐ見てローゼンも手放さない。
吹雪の中で真っ白な世界が見えるディーナ。それは"マリー"も同じで見える景色はディーナとほとんど同じ光景だった。視界が悪く標的の確認すらもまともに出来ないが、"マリー"は右手を上げて「じゃあそろそろ終わらせようか。全てが凍る、白銀の世界へ貴方を導いてあげる」
さらに気温を低くさせようとする"マリー"。グロリオサを装着するディーナだからギリギリ耐えれているが、特に防寒もしていない人間がこの空間に入ると数秒で氷漬けになってしまう。
手を振り下ろすと"マリー"は限界の最低気温にさせようとしていた。そして、手を振り下ろし猛烈な吹雪がディーナを襲う瞬間だった。
ディーナは目を見開くとグロリオサの火力を上げ続けて今出せる最高火力の炎をグロリオサに纏わせるとディーナの足を取り巻く氷が溶けた。それと同時に地面に発砲した属性弾が地面の気温が上がり、呼応するかのように炎が纏わり地面に拡がる氷を全て溶かした。
視界が悪く"マリー"自身も見えていなかったが地面の氷が溶けた事には気が付きディーナが何かをしたことが分かった。溶けた氷は水になり辺りは少し水溜まりになった。
グロリオサの火力を上げた事によりなんとか手を動かす事が出来るディーナはローゼンのマガジンを変えて"マリー"にすかさず撃った。
視界が悪い中で撃った属性弾だがディーナの精度は吹雪を上回り"マリー"に命中した。属性弾の中身は水の属性だった、水浸しとなった"マリー"だがすぐに全身の水を凍らせていく。
「どういうこと、何がしたいの?」すぐに凍ってしまう水を使っても無意味。だがそんな事はディーナも分かっているはず。「にしてもこの人間は炎以外の属性を使えるのね、私に最初に撃った属性は雷と風もあったわね……雷も使う」何かを悟った"マリー"だが時は遅かった。
ディーナは足元に二発の属性を撃った。撃つとディーナに風が纏わり空中に少し浮いた。そしてもう一発の属性弾は雷が纏っており水溜まりとなった地面に撃ち込んだ雷の属性弾は瞬く間に雷が走った。
それは地に足が着く"マリー"、自身の水は完全に氷になっておらず電撃が"マリー"を襲った。氷の破片は一瞬で全て砕け"マリー"に本物の雷が落ちた衝撃が襲う。
断末魔の声を上げる"マリー"。辺りの吹雪は収まり、気温も上がっていく。風に浮くディーナは電撃の衝撃を喰らう事はなく断末魔を上げる"マリー"を見ていた。
だが電撃が収まっていくのを確認すると、ディーナは浮いた状態で猛スピードで"マリー"に近づいていき最大まで火力を上げたグロリオサで"マリー"の腹部を殴った。
避けるや身代わりを作る隙も無かった"マリー"は本物の体に火力の上がったグロリオサを防ぐ術も無く、殴られ吹っ飛ばされた。
壁に激突し壁にもたれ掛かりながら座り込んだ。少し赤みがかった黒い血を口から吐き出した"マリー"。口元に流れる黒い血を手で拭く"マリー"の目線はローゼンの銃口を向けるディーナだった。
風の属性の効果も無くなり地上に着地しているディーナ。"マリー"をようやく傷をつける事に少し安堵したのかディーナらしい笑みを浮かべて「ようやく捕えたよ、一瞬の油断は戦いにおいては命取りよ」
"マリー"は傷をつけられたことに怒るのではなく「フフフッ」と、笑って内心ではとても幸福感に満ちていた。
「油断ね、それを誘ったのは貴方でしょ?一番最初に撃った弾、あれは様子見で撃ったけど後のほとんどは炎の弾だった。よく考えれば、その炎の手と足があるのにわざわざ炎の弾をずっと選ぶ理由なんてない。
けれどそれも全部、私の裏をかく事だった。私も楽しくなっちゃったわね、まさか最初の弾が私をここまで追い詰めるなんて」
全てはディーナの策略の一つだった。六つの属性全てを扱うディーナだが最初に撃った三つの属性以外は全て炎の属性を使っていた。一見すると氷は炎に弱いと言う常識で炎を扱っていたように見える。それは"マリー"も同じ考えだった。
しかしディーナは三発の属性は単に意味も無く撃った訳ではなかった。炎以外の属性も"マリー"に有効かどうかを知るためだった。現に三つの属性全て氷の破片を砕いていた。結界であると同時に炎以外の属性も有効だとあの時点で分かっていた。だからこそ敢えて炎の属性だけを積極的に使い他の属性を使わないようにしていた。
ディーナとの戦いを楽しんでいる"マリー"を見て興奮状態になっていると判断したディーナはとにかく時が来るまでは炎以外は使わないようする事にして、興奮して完全に最初の属性を忘れた頃合を見極め"マリー"に雷撃を与えた。
"マリー"が負傷したことによる影響なのか吹雪は止み気温は廊下を歩いていた頃と同じぐらいの気温になっていくのを感じたディーナ。
しかし、身体が凍りついているのは変わらず侵食され続けている。上半身は肩辺りまで、下半身も太ももまで凍りついていた。"マリー"を完全に仕留めなければこの氷の侵食も止まることはないと悟ったディーナ。
「形勢逆転ね、こっちもじゃあ終わらせようかしら。最後まで楽しんでよね」今度はディーナが"マリー"を終わらせようとしていた。
だが"マリー"は心の底から楽しみな無垢な子供のような笑顔をしていた。「ええ、そうね。楽しむことにするわ。最後はどっちかは分からないけれど、ね」
"マリー"は立ち上がり手のひらに息を吹きかけると、手の上に浮かぶ白い氷の塊が浮いていた。
するとどんどんと大きくなっていく塊。それと同時に"マリー"の周りには吹雪が吹き始めて"マリー"自身も浮き始めた。
"マリー"の吹く吹雪は氷の塊に集結していくのが見え、塊は"マリー"の顔ほどの大きさになり吹雪や氷が入り交じるエネルギーの球のようになっていた。
「これを使うなんてね、私もしばらくは休まないとね。でもいいわ、それだけ貴方は魅力的な人。貴方みたいな"リンドウ"は見たことが無いわ。
だからこそ私の最上級のご褒美よ。これから放出される私の氷の全てを受け止めてよね」
"マリー"は最大限の属性をディーナに与えようとしていた。"マリー"の集結させた属性を受ければどんな人間であれすぐに氷に塗れる。
最大限の属性を引き出した"マリー"にディーナはローゼンを懐に納め、もう一つの銃、フォーリーを手にした。ディーナは手をギュッと握ると手の中には四つの属性弾を持っていた。
フォーリーに属性弾を込めたディーナはシリンダーと呼ばれる属性弾を装填する装置を回した。
シリンダーが「カチッ」と音がすると同時に止まるとフォーリーの銃口を"マリー"に向け「Check」と、呟いた。
空中に浮かぶ"マリー"は見下げるディーナに氷の塊を手を差し伸ばすと塊が砕けて絶対零度の白い光線がディーナに向けて放たれた。
こちらに向かう光線にフォーリーに込められた属性弾を撃った。二発同時に発砲された属性は氷と炎、"マリー"が放たれた氷の光線と同じく氷の光線が炎が周りを飛び交いながら放たれ、二つの属性がぶつかった。
ぶつかり合う氷同士の属性だが、徐々にだが"マリー"の氷の光線が押しているのが分かる。力では"マリー"の方が優勢、押し込んでいるのが分かった"マリー"は勝利を確信したかのように笑みがこぼれる。
だがディーナは"マリー"と同じく笑みを浮かべ「知ってる?ここまで氷が強すぎて、それに密閉された空間で氷に炎が付くとどうなると思う?」突然のディーナの質問に一瞬困惑する"マリー"。
すると氷の光線の周りを飛び交う炎が氷同士の属性にぶつかると二つの属性の化学反応により氷がどちらも砕け爆発した。
あまりの衝撃に驚きを隠せず空いた口も塞がらない"マリー"に「水蒸気爆発、ある特定の条件下の中で起こる化学反応。ここまで規模の氷の属性がこんな密閉された空間の中でだったら一瞬でも炎が着火すれば爆発するわよ。そんなに化学については知らないことばかりだけど、氷の属性を持つおっかない"リンドウ"が色々と教えてくれたんでね、氷の属性の知識はある方なのよ」
最大限の力を引き出した"マリー"は力を使い果たし対抗する手段はもう無くなっていた。ディーナは手の甲や首にも氷が侵食されていく、数秒後には全身が動くことは出来ずにただ全身が凍るのを待つだけ。
だがまだ動く、残された二発の属性弾が込められたフォーリーを"マリー"に向け「凍てつく身体も心も溶かしてあげるわよ、Checkmate」フォーリーから撃たれた二つの属性弾はどちらも炎。炎の属性弾は二つとも球体のように丸いがどちらも燃え盛って、"マリー"に向かう途中でも二つの炎が合わさり、超強力な炎の属性の弾丸が"マリー"に撃ち込まれた。
為す術もない"マリー"はフォーリーから撃たれる属性弾に直撃した。ディーナの属性弾の中でも高威力でフォーリーから撃たれた属性弾は"マリー"を討伐するのには充分だった。
白く透き通った肌は所々黒く爛れ、着ている服もボロボロになった。何も声に出せずに浮いていた"マリー"は堕ちていき地面に倒れ込んだ。
部屋の気温は完全に元に戻り、ディーナを蝕んでいた氷も無くなっていき完全に戦意喪失した事が分かった。ディーナも決着が着いたことにより、氷は無くなった事に安堵してフォーリーをクルクルと回した後に懐に納めた。
倒れ込みうつ伏せになる"マリー"はまだ息はあるが虫の息、それでも震えながら顔を上げた"マリー"の表情は笑ってとても満足している様子だ。
「フフっ……負けたわ。でも、とても…とっても、楽しかったわ。こんな…幸せに満ちたまま…死ねるのなら、何も、後悔は無いわ」
ディーナはまだ息がある"マリー"に「待って、"マリー"が意味も無く人間を襲わない理由を聞かせて。"マリー"はお前達はどういった存在なのよ」知性のある"マリー"と話せる最後のチャンスかもしれないディーナはここで"マリー"から情報を引き出そうしていた。
だが"マリー"は「残念…私も、仲間を、裏切るような真似はしたく、ないのよ」「仲間?まさかお前のような"マリー"がまだいるってこと?」
まだ"マリー"から聞きたい事が山ほどあるディーナだが、ここで"マリー"の足が凍り始めていた。驚くディーナに"マリー"は「私達の、ような、属性が強い"マリー"の最後は、属性に負けて、特有の死に方をするのよ。私も…初めてだけど、自分自身が美しいまま凍って死ぬなら、悪くないわ」どうやら自分の死が全身が凍りついた時だと悟った"マリー"。
徐々に進行していく"マリー"に「ちょっとまだ何も…!」このままでは情報を引き出せないまま死んでいく"マリー"に何科を聞き出そうとするディーナ。
だが体の半分まで凍る"マリー"はディーナに「楽しい、最後をくれた貴方に…一つだけ教えてあげる。私達を…このまま殺し続けても…最後は絶対に私達だけが、残った世界に、なるわよ」
"マリー"が言った言葉に衝撃を受けるディーナは「どういう事よ、私達人間が"マリー"に絶滅されるって言うの?」言葉の意味を聞くディーナだが「フフっ、それを考えるのも…お楽しみの、一つよ。それじゃあ、またね。ありがとう、ね」最後にディーナに感謝の言葉を伝えた"マリー"は全身が氷漬けになった。
少し時間が経つと"マリー"の凍った全身にヒビが割れて最後には粉々に砕け散った。
氷結の"マリー"との戦いを辛くも勝利したディーナ。グロリオサを消す前にじっと見つめて「チハツからこれを貰わなかったら、私は逆に氷漬けになっていたわね。運にも助けられたわ」
明らかに実力は今までの"マリー"よりもトップクラス。ディーナの実力で勝っていた部分もあるがそれでも少し判断が遅れたりすれば負けていた。さらにグロリオサも譲り受けていた事も運が助けていた。もしグロリオサが無ければディーナは"マリー"によって氷漬けになっていたことであろう。
グロリオサを消したディーナだが、それよりも気になるのが「このままじゃ、最後は"マリー"だけが残る世界になる…私達人間が"マリー"によって負けるってこと?
でもそれが絶対にって言っていた。勝敗って言う問題じゃないってこと?
いや、ここで考えても仕方ないわね。とりあえず今は……」
"マリー"に言われた言葉を考えていると爆発音が聞こえた。それも一度ではなく複数回も何処かで大爆発が起こっているような音だった。
「えっなになに爆発!?でも"マリー"は私が討伐したし、別の場所で爆発してるってこと?」困惑するディーナに突然部屋の扉が開き「ディーナ!無事か?」そこにはかなりボロボロになっているエーデルとスワイが部屋に入ってきた。
「エーデル!それに、スワイ?貴方ねクロカちゃんをほっておいて何をして…」「そんな事言ってる場合じゃないの!急いでこの支部はその内、全部ぶっ壊されちゃうから!!」「えぇ!?」
スワイの突然過ぎる発言にディーナは何がどうなっているか分からないまま急いで部屋を出てエーデルもスワイについて行く事にした。
ディーナ達が"マリー"と戦っている間にクロカ達に何が起こったのか…?




