表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カエデ  作者: アザレア
感情の解答
54/86

上位種 氷結の"マリー"

"マリー"にローゼンの銃口を向けるディーナ。息を吐いた後の"マリー"の周りには数十個の氷の破片が飛び交ってありディーナには破片が"マリー"を守っているようにも見えた。


ディーナは先手を取り銃弾を三発撃った。銃弾は全て属性弾でありそれぞれ雷、水、風の属性が纏っていた。"マリー"は属性弾を見ても避けようとはせずに堂々と立ち尽くしていた。

"マリー"に直撃する三発の属性弾だが全て氷の破片が複数個割れただけで"マリー"本体は無傷だった。


ディーナはさほど驚きはせずに冷静に分析していた。

「やっぱり、あの破片は結界って所ね。私の属性弾をいとも簡単に防いだ。でも銃弾が当たれば破片も割れる、なるほど、攻め続ければ結界は壊れるって事ね」

ディーナは氷の破片以外の防御手段を持たない"マリー"の弱点は破片の損失だと予想した。


「だったら氷を溶かせばいいだけね」ディーナは手をギュッと握ると掌には属性弾が数個持っていた。銃弾を懐から取り出し、新しいマガジンに入れて今装填しているマガジンと入れ替えてすぐさま銃口を"マリー"に向けた。


しかし黙って銃弾を当たるだけでは無い"マリー"は腕を振ると"マリー"の左右に二つの鋭い氷柱が即座に作られ、氷柱をディーナに飛ばした。

ディーナは銃口の照準を"マリー"から氷柱に変更し氷柱に目掛けて入れ替えた銃弾を二発撃った。銃弾はどちらも炎を纏っており炎の属性弾だと分かった"マリー"。氷柱は炎の属性弾と共に砕けた。


もう一度銃口を"マリー"に照準を合わせたディーナは今度こそ"マリー"本体に炎の属性弾を撃とうとしたが"マリー"は「上にも注意よ」冷たい微笑みと共にディーナに促した。


ディーナはすぐに上を見上げると既に氷柱が二、三本落ちてきていた。串刺しになる事を回避するためディーナは左に飛び込んだ。氷柱はその場に落ちていき全て地面に突き刺さった後に砕けた。数秒遅れれば氷柱に突き刺さっていたディーナ。


飛び込んだディーナはすぐに"マリー"に銃口を向けて今度こそ炎の属性弾を"マリー"に撃った。乱発するディーナ、全てでは無かったが数発"マリー"の氷の破片に直撃したが破片が全て割れることは無かった。

「流石にこれだけじゃ割るのは無理ね、でも成果はあった。さっきのバラバラの属性弾よりも炎の方が氷が多く割れた。属性の弱点はやっぱり炎って感じね、氷に炎だから分かりやすいけどね」

ディーナの高い洞察力は瞬時に"マリー"の氷の破片が多く減っているのを見抜いた。


"マリー"は残り少なくなってきていた氷の破片を目視するともう一度息を吐くと再び氷の破片が先程と同じぐらいの数に戻った。

「そう簡単にはさせてくれないわね。減ったら増やす、"マリー"もそこまで馬鹿じゃなかったわね。けれど無駄じゃない、この"マリー"への対処の方法が分かっただけ充分ね」

今までの攻撃が氷の破片の補充により無駄になったかと思ったがディーナはこうやってしなかったらどう対処すれば分からない、どういう見方をしても無駄には捉えないディーナの考え方が勝利への道筋を自分なりにではあるが作っていた。


それよりも一つ気がかりなのは「どうして私に危険予告をしたの?あのままだったら私に致命傷を負わせられたのに」"マリー"自らがディーナに対して注意を促した事に疑問を抱いていた。


「あのままじゃつまらないでしょ?私の降り注ぐ氷柱を咄嗟で避けてさらに私の氷達を無くす寸前までするなんてね。フフフッ、やっぱり楽しいわ。もっと楽しませてよ、貴方が死ぬまで、ね?」唇に指を当てて笑みが抑えられない"マリー"は腕を広げると白い霧が"マリー"を覆いディーナの目には完全に"マリー"が見えなくなった。


"マリー"だけではなく部屋全体が白い霧に包まれて前も後ろと満足には見えない状況になってしまった。キョロキョロと辺りを見渡し"マリー"を探すディーナだがどこを見ても白い霧でまともには見えない。

少し焦りを感じるディーナの背後から「こっちよ」と、囁くような声が聞こえ後ろを振り返ると一瞬で霧が晴れて少し離れた場所に"マリー"が姿を現すと"マリー"は突如その場でバック転をすると、"マリー"がいた場所の地上から鮫の背ビレのような形状の氷の刃物が出現し、勢いよくディーナに突っ込んでいく。


大きさはディーナよりも高く、そのまま進んでいけば真っ二つになってしまう。ディーナは真っ直ぐにしか進まないと判断し右に飛び込んだ。しかし氷の刃物はディーナが飛び込んだ場所に方向転換した。

「ホーミング!?追尾性能があるなんて聞いてないわよ!」獲物に目掛けて一直線に向かう鮫のように近づいていく氷の刃物。ディーナは飛び込み、まだ立ち上がってはいなかったが座ったままローゼンを刃物に向けた。狙いを定め、氷の刃物にマガジンに残る銃弾を全て撃った。撃った属性弾は五発、五発中三発命中した氷の刃物は炎の属性弾のため溶けていき三発目が命中した瞬間に砕け散った。


「ふぅ、弾を残しておいて正解だったわね」間一髪だったディーナは立ち上がりマガジンを飛び出しもう一度同じ炎の属性弾を創りマガジンに入れてリロードした。


「やるわねぇ。でも今度は私の声は無しよ、見抜けるかしら?」そう言うと"マリー"は再度霧を発生させてまたしてもディーナの目には白い霧しか見えなくなった。焦るディーナかと思いきや目を左右に見ると目を閉じた。


「この状態で見つけるのは無謀。下手に動いても"マリー"の思うつぼになってさらに危機を招いてしまう。落ち着くのよ、必ず特定出来る要素はあるはず」

目で見えない、それが分かれば次は音や風の行方、呼吸をすると冷たい氷の風が入り込む。五感を集中すれば必ず"マリー"が動く場所が分かるはずと思うディーナ。


集中して邪念を全て消して"マリー"が何処で動いているかを探っていると「……氷の破片同士がぶつかる音がする、それに風の流れも左右や前後に不規則になってる。息が苦しくなったと思ったら透き通った空気が次は入ってくる。"マリー"は私に攻撃する時に霧が晴れた…なるほど、原理が分かれば簡単ね」ディーナはニヤリと笑って目を開けた。


笑みを浮かべたディーナの後にまたしても霧が晴れて今度はディーナの死角になるよう右後ろに立つ"マリー"。だが"マリー"の目に映ったのはピンポイントに銃口を向けるディーナだった。


「目を奪っても人間にはそれ以外にも位置把握する術がある。風はお前が動いた方角に流れている。お前が近くを通った後は凍るような冷たい空気が私の中に入ってきたが離れた後にはこの寒い部屋ならではの透き通っている空気が流れる。

そして、お前の周りに飛び交う氷の破片は不規則に飛んでいるが破片がぶつかる音も聞こえてきたわ。これらの要素を繋ぎ合わせて、一箇所に音が集まり風も止まり透き通った空気しか来ない、この条件が当てはまれば場所を特定なんて簡単よ」白い霧に覆われていた時間は一分程度なものだが、ディーナの"リンドウ"としての感覚や経験が"マリー"の居場所を即座に判別することが出来た。


「お見事よ、すごいわぁやっぱり貴方は他の人間なんかよりもずっと楽しませてくれる。けれど惜しいわぁ、私の場所が分かった、その後も大切な事よ」

ディーナを褒める"マリー"だが、"マリー"を見た時は"マリー"は右腕を上げていた。右腕が上げている部屋の上空を見ると、ディーナの数倍はある巨大な氷塊が宙を浮いていた。唖然となるディーナに"マリー"は「驚いた?私がこうやってその場にある空気を固めちゃえば、こんな事も出来ちゃうのよ。受け止められる?受け止めるわよね、もっと私を楽しませてくれないとね」

今日一番の笑顔を見せる"マリー"は「えいっ」と掛け声を出しながら腕を振り下ろすと氷塊はディーナに目掛けて向かっていった。


属性弾を氷塊に当てるが壊れる気配や進む勢いも止まる気配もなかった。「ちょっと頑丈に作っちゃったから、壊すなんて考えないことよ」"マリー"の忠告にディーナは無駄打ちは止めて「全くその通りのようね。これは少し、覚悟を決めるつもりじゃないとね」そう言ってローゼンを懐にしまった。


"マリー"の目には氷塊しか見えておらずディーナの姿は見えていなかったが人間が一人砕ける音がした。

"マリー"は周りを凍らせない普通のため息をついて「あら、残念ね。ちょっと楽しめたけど、やっぱり所詮は人間ね。ここも飽きたわ、そろそろ部屋を出ましょう……!」ディーナは氷塊によって潰されたと思っていた"マリー"だが、氷塊がどんどんとひび割れていくのが見えていた。


「えっ何故…?」予想外の事に今日初めての驚きを見せる"マリー"。そして瞬きの瞬間に巨大な氷塊は木っ端微塵に砕け散った。砕け散った先には炎の籠手と炎の具足、グロリオサを装着し"マリー"に飛び込んで行くディーナの姿だった。


「覚悟は、お前が決めないといけないのよ!」ディーナ拳の炎の籠手で"マリー"の周りを舞う氷の破片をぶん殴った。その威力は全ての氷の破片が砕け、溶ける程。"マリー"にとっては灼熱の炎が自分の結界が破られた瞬間だった。


すぐさま新しい氷の破片を作り出そうと息を吐く"マリー"だが「やらせないわよ!」と言ったディーナは"マリー"の腹部に炎の具足で前蹴りした。

「ガハッ!」無防備になった身体にもらった一撃は細い"マリー"の身体にかなりのダメージが入った。


ディーナの前蹴りにより細い身体では耐えられるはずもなく、吹っ飛んでいく"マリー"。部屋の壁に激突した"マリー"は「ごホッ、クッ!」一度咳き込みディーナを睨みつけるとディーナはローゼンを取り出しており既に銃口を向けていた。


マガジンに残る属性弾を乱発するディーナ。属性弾を防ぐ術が無くなったのか、"マリー"は両腕で顔を守るように交差した。全ての属性弾が当たらなかったが炎の属性弾は"マリー"に多大なるダメージを与える事には成功していた。


さらに追い討ちをかけるようにディーナは走り出し炎の籠手、グロリオサをさらに燃やし"マリー"にトドメを刺す勢いで"マリー"の顔面に目掛けて振りかざし「これで終わりよ!」顔面を灼熱の炎で突き出し、貫いた。


"マリー"の顔面は氷が弾けるように砕けた。決着をつけたように思えたがディーナは気がついた。"マリー"の全身は瞬く間に全て氷で出来ていた。顔面が破壊された氷の造形の"マリー"はそのまま全身崩れ落ちていった。


ディーナはこの時点で察した。「これは身代わり、本物じゃない」ただの氷の造形を破壊しただけに過ぎなかったディーナ。


するとディーナの背後からとてつもない冷気が襲った。すぐに振り返り先を見ると、"マリー"が周りに飛び交う氷の破片をさらに増やし守りを固めていた。さらに既にかなり温度が下がっている部屋は最早その部屋一帯が氷河期が来たかのような寒さが漂い、人間が入れるような場所ではなくなっていた。


辛うじてディーナはグロリオサを装着していることによって体温を保っているがそれでも凍てつく部屋の中でディーナは寒さにより震えていた。グロリオサの火力を上げて震える体にムチを打ち無理やり震えを止めるディーナ。


"マリー"は「フフフッアッハハハハッ!!」突然高笑いをして「いいわ、私に優雅な体を傷つける人間がいるなんてね。後一歩だったけど私にも隠し球はあったわよ、私の造形は上手く出来ていたでしょ?

それじゃあここからは私も本気で行かせてもらうわよ。心地よいわ、惜しみなくこの辺りを寒冷化させるのは。貴方はとても幸福な人ね。死んでも美しいまま残れるんだからね」

ディーナに腹部を攻撃される前に一瞬息を吐いたのは自分の造形を作り出すために行動だった。その場に作られた自分そっくりの氷の造形と吹っ飛ばされた自分を瞬時に入れ替えれれば工作は完成である。なお"マリー"の瞬間移動出来るのはあくまで自分そっくりの氷でなければこの条件は満たせないのである。


「なるほど、本気を出したらここまでとはね。環境を全て変える程の冷気を操る属性、この"マリー"はやっぱり他の"マリー"とは違う…」ディーナはグロリオサを装着したままローゼンを構えた。そんな姿を見た"マリー"は少し息を吐くと、部屋の至る所に氷柱が作られ落ちてきた。

それはディーナの頭上にも落ちてきていた。さらにディーナは避けようとしても至る所に落ちてくる氷柱のためどこにいても安全な場所は無かった。


ローゼンを頭上に落ちてくる氷柱に目掛けて属性弾を撃つと氷柱は砕けてなんとか自分の安全を確保したが、"マリー"は右腕を突き出すと猛烈な吹雪が吹き始めた。それはディーナに襲いかかり、立つこともままならないディーナは耐えきれず吹っ飛ばされて壁に衝突した。


吹雪により見えにくくなった前をなんとか見ると至る所に落ちてきた氷柱がこちらに目掛けて飛んできていた。吹雪の中で銃を構える事が出来ないディーナは顔だけは守ろうと顔の前で腕を交差させた。


氷柱はディーナの肩や脚、脇腹に突き刺さった。幸か不幸か致命傷になる場所には氷柱は突き刺さらなかったが後、数センチズレていたら身体全体を突き刺さる所であった。

奇しくも先程追い詰めた"マリー"の同じ状況になってしまい形勢も完全に逆転していた。


吹雪も止み交差している腕を下ろして"マリー"を見ると「もう終わりな訳ないでしょ?もっと、もっともっともっっっと、私を楽しませて」ディーナに見せる笑顔は狂気に満ちて不気味に見えてしまう。


強大な属性と計算された攻撃方法、他の"マリー"とは一線を覆す力と頭脳を持つ、妖艶で他の人から見れば色欲に捕らわれるような姿、氷結の"マリー"の本気を見たディーナは余裕が無くなりつつあった。


「私が戦った"マリー"の中でも特別、間違いないわ。この"マリー"は上位種、数多いる"マリー"でも追いつける実力はそういない。この力を持つ"マリー"をもう外に解放させる訳には絶対にいかないわね」

ディーナは立ち上がりここで討伐すると決めた。それは同時に、この"マリー"がもたらす被害は超大型"マリー"の同等レベルに広がってしまう。そんな"マリー"を野放しにする訳にはいかない。ディーナは氷結の"マリー"との決着をつける、覚悟を持った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ