人工"マリー"
"アフィシャル"の第四支部の近くに来たディーナ。ラゴンからそく遠くない地にある更地の何も無い場所にポツンとある白い建物。不自然に置いてある建物に疑問を持つディーナ。
「あんな目立つ場所に建てる?あんなのバレてくださいって言ってるみたいなものよ」第四支部の近くにあった背が高い岩に隠れるディーナ、そしてもう一人。
「ここでなら実験もしやすいからなの。すぐに行動して結果が分かる、少しよく見たら至る所に、血の跡があるの」ディーナと同行していたのは鎌を背中に背負うクロカがいた。
ディーナはしゃがみ砂を掻き分けるように砂を払うとそこには複数にある血の雫が落ちた後があった。
「なるほどね、実験結果を見せしめにでもしてるのかしら。とことんねじ曲がった組織ね」明らかに血は人間の血、過去に赤く染まった地面の後がよく分かったディーナは怒りがふつふつと湧き上がっていた。
だが落ち着くことを優先として一度深呼吸をした。
「でも来て良かったの?貴方にとってここは負の象徴、過去の傷はまた広がるかもしれないよ」クロカは"アフィシャル"に地獄を見せられた。そんなクロカがついてきた事にまだ不安があるディーナ。
「来たくはないの。でも逃げ続けてもまた広がっていくかもしれないの。だったらここで切り離した方が、ウチはまだ幸せになれるから」胸をギュッと握るクロカ。
まだ苦しみが残るクロカは静かに見守り、ラゴンから出発する直前を思い出していた。
----------
「えっクロカちゃんがついてくるの?」ヒガンの家にて準備を進めるディーナに伝えられたのは意外な事だった。
「ウチは"アフィシャル"に因縁があるから。絶対にこの手で壊滅させるって決めてるの」既に準備を済ましているクロカ、背中に背負う鎌は入念に手入れされているのか、刃がとても鋭利に見える。
「因縁って、話は聞いたけどまだクロカは子供でしょ?それにトラウマの場所でもある"アフィシャル"の支部に行くなんて…」フェリスより大きくてもディーナからしたらクロカも子供。これ以上クロカの傷を増やさないためにも来るのには反対したディーナ。
しかしヒガンは「行かせてやってくれんか?これはクロカの踏破せねばいかんことでのう」と、クロカが"アフィシャル"に乗り込むのには止めずにむしろ推奨していた。
「ヒガン、でもね」「安心せよディーナ。わっちがクロカに戦い方等を教えている。そこら辺の"マリー"なんかには負けもせん。打倒"アフィシャル"に向けての訓練を済ましておる、決して緩い訓練ではない。その分クロカの成長というのは著しい。"アフィシャル"相手でも充分力は発揮出来るはずじゃ」
ヒガンの実力は分からない。だがクロカを追ってきた"アフィシャル"を瞬時に無力化したことを聞くと、それ相応の実力は持つことは分かった。属性も何も分からないが、そのヒガンに訓練されたクロカも力を持つ。
それにディーナはクロカと初めて会った時、奇襲をされたとはいえ傷を負わせた。それだけでも他の"リンドウ"よりも実力はあると分かるディーナ。
少し考えたディーナは「分かったわ。貴方の同行を許可するわ」"アフィシャル"にも対抗出来ると判断し、クロカを連れていくいくことに。
すると、クロカの目線にまでしゃがんで「ただし、もし危ないと感じたら逃げてね。その時は私を置いて行ってでも構わないから。何があっても自分の命を最優先に、これがついてくる条件、分かった?」
何が起こるか分からない"アフィシャル"相手にもしかするとクロカを守りきれない可能性だってある。未来ある子供を散らす訳にはいかないためにも、危ない瞬間があるのなら逃げる条件を立てた。
「うん、分かったの。でもウチもそれなりに強くはなってるから。貴方が危険な時は守る事も出来るの」少し意外な返答をされたディーナは微笑んで「まぁ、その時は頼りにしてるわ」
クロカの同行を許可したディーナはヒガンに「フェリスを任せても大丈夫?ヒガンなら"アフィシャル"からこの子を守れるでしょ?」ディーナに何かがあった時の保険としてフェリスをヒガンに預ける事にした。
「任せなんし。お主が帰ってくるまでしっかり面倒をみておくさ」優しい笑みを見せるヒガン。ディーナはフェリスに「また待たせることになるけど、大丈夫。すぐに帰ってくるよ。ヒガンと一緒に待っててくれる?」
「うん。お姉ちゃんならきっと帰ってくる。だからフェリスは行ってらっしゃいしか言えないけど、応援してるよ」
愛らしいフェリスの姿にディーナはフェリスの頭に手を置いて「それだけでも充分。行ってくるね、フェリス」フェリスのためにも必ず帰ることを決意するディーナ。
ヒガンもクロカの元に行き「クロカも無茶はするなよ。主の好物であるチョコケーキを作って待っておるからのう」
内心ではクロカが"アフィシャル"に赴くのにとても心配しているヒガン。手練の"リンドウ"がいたとしても"アフィシャル"が何をしてくるかは分からない状況のため、行かせてやれと言った手前、無事に戻ってくるか不安になる。
するとクロカが少し笑って「ケーキだけなの?」まだ何かを欲しがる姿にヒガンは「そうじゃのう、そう言えばもう夏じゃのう。戻ったらあの時の夜を再現してみんか?主と星空を見た、あの夜に」
クロカは驚いた表情をした後に満面の笑みを見せて「うん…うん!またウチが星に指を差すよ。だからまた教えて」とても嬉しかったようでディーナ達の目の前で初めて子供のように喜んでいた。
「頑張っておいで」「お姉ちゃん、頑張って!」二人の応援を受けてディーナとクロカは"アフィシャル"第四支部に向かった。
----------
「ヒガンにフェリス任せているように、私もクロカちゃんを任されている。今更後戻りは出来ない、"アフィシャル"を叩きのめして、私達も無事で帰らないとね」
不安を振り切って、胸をギュッと握るクロカに「クロカちゃん、行ける?敵の本拠地は目前、ここからは気合を入れて行かないとね」「大丈夫なの。ウチも、覚悟も無しに来たわけじゃないの」クロカも不安を押し殺し、"アフィシャル"に乗り込もうとした。
「でも、どうやって行くの?正面突破するの?」「正面突破は流石に厳しいかな。どこか入れそうな場所があるならそこから侵入して…」
ディーナが"アフィシャル"の支部に何処から入ろうと考えている時だった。ディーナは自分の後ろから何かの殺気を感じて咄嗟にクロカの手を掴んでその場を急いで飛び込んで離れると、鎧を装着し、大きな盾を持ち、鋭い剣で二人を貫こうとしていた人間がディーナ達がいた岩を突き刺した。
ディーナはすぐさま白の拳銃、ローゼンを取り出し銃口を向けた。鎧の形状や色を見てディーナは驚いた。
「この鎧、あの時戦った鎧の"マリー"!まさか量産されているなんてね」見ただけで分かった、廃校にて戦った鎧を着けた"マリー"と同じだと。
クロカも敵と判断して背負っている鎌を手に取り戦闘態勢に入った。「"アフィシャル"が作った人工"マリー"なの。見た目を人間に誤魔化そうと鎧を着させられているけど」クロカも鎧の"マリー"を知っているようで"アフィシャル"が人工"マリー"を作っているのも知っているようだ。
「人口"マリー"ね。そして属性持ち、その属性はまさかとは思うけど捕らえられた"リンドウ"が元々持っていた属性?」「ウチも直に見たことはないから分からない。けれど、何も無い空っぽの箱に属性は宿らないの」
クロカの例えにディーナもある程度分かり「なるほど、つまりこれ以上は触れちゃいけないって事ね。ここで仕留めないとね」廃校での悲劇を繰り返さないためにもディーナは"アフィシャル"も人口"マリー"も討伐する。
「でも待って、ウチがやるの。貴方にウチの実力を見せないと」ディーナの前まで歩き人工"マリー"に立ちはだかるクロカ。
「待ってクロカちゃん。前に戦った時はそれなりに強かったから、私に任せ…」ディーナが話している途中だったが、聞く耳を持っていなかったのかクロカは鎌を人工"マリー"に投げつけた。
「人の話聞いてる!?」ディーナの呼び掛けにも全く応じずに投げつけると同時にクロカも人口"マリー"に走り出した、ディーナの話を絶対に聞いていないクロカ。
ディーナの事務所に襲撃した時と同じく縦回転で人口"マリー"に向かっていくクロカの鎌。
しかし人工"マリー"は盾を構えて回転する鎌を受け止めた。盾とぶつかった鎌だがまだ回転が収まっていない。しかし頑丈の盾なのか傷が全く付かない。回転が収まらないと判断した人工"マリー"は盾をサイドに動かして鎌の軌道を変えた。
鎌は回転しながら通り過ぎ、何も持たない状態で突っ込むクロカ。すると、人口"マリー"が持つ剣の鋒から炎が吹き出し、クロカに向けて放出しようとしていた。
「あの時は風だったけど今度は炎の属性ね。規模からしてそこまで強くはないけどそれでも当たればまた…」炎を見た瞬間に火傷の記憶が蘇るかもしれないクロカ。ディーナはクロカがパニックになる前に狙いを定めて撃とうとした。だがクロカは炎を見てもすました顔だった。
すると、クロカは手招きするように手を揺らすと回転して通り過ぎている鎌が逆回転になり帰ってきた。
帰ってくる鎌に気がついた人口"マリー"だったがその時には遅く、背中に回転する鎌が当たり、鎧がどんどんと切り刻まれていく。
その勢いは衰えずに、遂には鎧の一部が砕けて人口"マリー"も倒れた。
倒れた事で的がいなくなった鎌は走ってきているクロカに目掛けて回転しながら来ていた。クロカは右腕を広げると鎌も右に逸れて空中に浮いた。空中に浮くと回転も収まりそのままクロカの右手に鎌が戻ってきた。
クロカは飛んで、倒れた人工"マリー"の砕けた鎧から見える煤けた肌に「てやぁ!」掛け声のまま落ちていき衝撃と共に鎌の刃を突き刺した。
突き刺された人口"マリー"は震えながら手を伸ばしディーナに助けを求めるようにしたが、ディーナの少し悲しげな表情を見た後に息絶え手を伸ばしながら絶命した。
突き刺した鎌の矛先を血払いするように振るってから鎌を手に持ちながらディーナ元に歩いてきた。
「すごいね、貴方の事ちょっと見くびってたわね。まさかあの鎧の"マリー"をいとも簡単に倒しちゃうなんてね」
人工"マリー"がどういった存在か分からなかったため出方を伺いながら戦ったため少し手こずってしまったディーナ。
だが全く容赦のないクロカの攻撃に速攻で人工"マリー"を
倒した事に不安から関心に変わっていたディーナ。
「ヒガンとの特訓の成果なの。ウチの属性を最大限に活かせる攻撃なの」「貴方の属性、闇属性?それも他の類を見ないような特殊な?」
「そうなの。ウチは闇属性」そう言ってクロカは鎌をまたほおり投げた。鎌を投げると縦回転に一直線に向かう鎌。
その鎌に向けて手を広げて左右に動かすと鎌も同時に左右に回転しながら動いた。
しばらく左右に動かすとまた手招きするように手を揺らすと鎌がこちらに戻ってきた。回転しながら戻ってくる鎌に人差し指を下から上に振ると鎌は飛び上がって持ち手部分がクロカの手に戻るように来てクロカは鎌を手に取った。
「これがウチの属性、武器を遠くからでも自由自在に操れるの。皆には見えないけどウチには指で糸を引っ張っている感覚で動かしているの。だからウチは鎌を投げても自由に動かせれるから、後ろから攻撃も出来るの」
クロカは対象の物を遠隔で操作する事が出来る闇属性である。クロカにしか分からない糸状の属性を指に絡ませ、対象にその糸を付ける事により例え遠く離れていようが、操り人形のように動かせることが出来る。
これによりクロカの武器の鎌を手に持たなくても動かせれるため、まだ華奢な体のクロカでも遠隔から鎌で攻撃すれば充分に戦える属性だ。
「なるほど、私の事務所の扉を壊した後に浮かんで戻ったのはその属性があったからね」「そうなの。でも今は人も"マリー"も糸を付ける事は出来ないし、この鎌以上に重い物じゃウチの力不足で操ることは出来ないの」
この属性は本人の力量によって操れる重量が変わってくる。力があればあるほど重たい物を操れるがクロカ程華奢な体では今持てるのはせいぜい自分の武器ぐらいである。
また人間も重量的な問題で操ることは出来ない。
「それでも、クロカちゃんぐらいの年齢でそこまで属性を理解して応用してるのは凄いよ」「コツさえ掴めばなんとかなったの。ヒガンの教え方が上手なのもあるけどね」
遠隔操作にはそれなりの工夫とコツが必要なのだがクロカは既に操れる技量を習得している。鎌を動かすのにも相当な技術は必要になる。だが習得出来たのは絶え間ない努力と根気があったからでもある。
「さて、じゃあ行こっか。正面からじゃどうしようも…」話を終わらせてディーナが第四支部の正面入口を見ると、そこから数十人の鎧の人工"マリー"の姿が。その数は十五を超えていた。
「ウチらがいた事がバレたの!あの数はウチも倒しきれないの!!」「"アフィシャル"側も異変を感じてって事ね。あの人工"マリー"は恐らく見張り、その見張りがやられちゃったらちょっとは危機感も感じるわけね」憶測を立てるディーナ。
「どうしよう、どうしようどうしよう!」常に冷静だったクロカだったが人工"マリー"の数に動揺を隠せずに年相応の慌て方をしていた。
「一人一人に時間はかけていられないわね。クロカちゃんの落ち着きも取り戻すためにも、ここはフォーリーで吹き飛ばした方が懸命ね」一人一人の強さが同じであれば消耗は間違いない。ディーナは黒のリボルバー、フォーリーで一掃することに。
フォーリーを手に取り属性弾を込めようとしたその時だった。人工"マリー"の上空に黒い烏のような鳥が飛んできた。その鳥を見たディーナは人目見て「あれって…まさか」と、ある鳥を思い浮かべた。
すると、無数の人工"マリー"の足元に真っ暗で丸い亜空間が浮かび上がった。そしてディーナ達の後ろから「刺し穿て」と声がした後に指を鳴らす音が聞こえると、人工"マリー"の足元から黒い棘が飛び出し、鎧をも突き刺し体を貫いた。
人工"マリー"達は一瞬で息絶え棘が亜空間に戻ると、一斉に倒れた。
目の前の出来事に驚きを隠せずに絶句するクロカ。ディーナは誰かの仕業か大方分かるようで後ろを振り返ると、右腕を上げて指を鳴らし、左手には一本の刀を持ったエーデルがそこにはいた。
人工"マリー"を瞬時に討伐したエーデル。人工"マリー"の上空を通った鳥もこちらに戻ってきてエーデルの肩に止まった。
エーデルは不敵に笑って「お前がいる場所は常にトラブルだらけだな。手を貸してやろうか、ディーナ?」




