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カエデ  作者: アザレア
感情の解答
46/86

ロウソクが灯る街

超大型"マリー"討滅戦から数日経ち、"リンドウ"や王女達はようやくいつも通りの日常に戻っていた。


ヴァレアは"リンドウ"協会に戻り"リンドウ"達に依頼を委託したり、さらなる"マリー"の動きをじっくりと観察するためにしばらくは協会から基本的に離れないようにするらしい。


スイレンは超大型"マリー"を討伐した功績がかなり評価されさらに依頼が殺到している。二つ名を持つ"リンドウ"ととしての実力は二つ名を与えられた時と比べ遥かに上がっている。


シスイは休む間もなく次の依頼が来ていると言ってすぐにディーナ達と別れた。スイレンは「やはり超大型"マリー"の活躍は既に広まっているようです。二つ名を貰うのも時間の問題ですね」シスイの実力が世間に知れ渡っていると言ったがディーナはあまり追求しなかった。この意図はスイレンは分からないままだった。


ネルルとタイムは溜まっていた業務を超大型"マリー"討伐に時間を割いていたためやる事が多く、悲鳴をあげていた。だがこの悲鳴も"マリー"が居なくなったからこそ出る悲鳴であり、二人は平和を噛み締めていた。


そして、ディーナはルムロの依頼と超大型"マリー"の依頼をこなしたことによる多大なる報酬を受け取り、事務所の模様替えを行っていた。

古くなった椅子やデスクを新しくして、壊れかけていたジュークボックスも最新式にしてより快適な事務所にしていた。フェリスのためにフェリス専用の机と椅子も買ってより世間を勉強するためにしてあげた。


新聞を読む以外にもう一つフェリスの日課をディーナが提案した。「日記を書いてみたら?フェリスが今日の出来事を書いたら、思い出す時に役立てる事があるよ」

ディーナが日記を提案すると「家にいた時は書いていたよ。でも…うん、お姉ちゃんが書いた方が良いって言ったんだったらフェリス書いてみるね」

一瞬迷った間があったような気がしたディーナだが読み書きがまだ充分ではないフェリス。新聞を読んでいても読めない漢字や分からない言葉等あるとディーナに教えてもらっていた。書くことに少し面倒だと思って間が空いたのかと思ったディーナだった。


それぞれが各々の家業や役目をこなしている。そんなある日の事だった。


----------


数日が経った昼過ぎ、大規模の依頼を終えたディーナは相変わらずに電話線を切って依頼の電話がかかって来ないようにしていた。

セラの治療のおかげでほとんどの傷は治り"リンドウ"としての支障は既になくなっていたが「何日も働いていたんだからちょっと連休取るのもいいでしょ。ずっと依頼続きだと身体も壊しちゃうし」と、自分に言い聞かせて少しの間は直接来る依頼者の依頼しか受けないようにしていた。


いつものように新しいデスクでもお構い無しに足を組みながらかけて、椅子に腰かけて雑誌の新刊を読んでいた。

フェリスも自分の椅子に座って机に日課である新聞を広げて色々な記事をよく見やすくしていた。


するとフェリスが新聞で何かを見つけたようで新聞を手に持ってディーナに近づいて「お姉ちゃん見て!お姉ちゃんやスイレンさん達が新聞に載ってるよ!」

嬉しそうに記事の写真をディーナに見せると写真にはディーナとスイレンとシスイがカメラに向かってピースをしている写真が載っていた。


「あぁ、あのカメラって新聞記者のだったんだ。急に宴会中に三人呼び出したと思ったら写真を撮るって言って私達はピースしたけど、まさかこんな大々的に載るなんてね」

"リンドウ"の活躍や行動は世間一般に知られるのは新聞に載る情報が基本で、新聞を見た一般人は"マリー"に脅かされたり危害を加えられると、新聞に載っている"リンドウ"に依頼を頼んだりする事が多々ある。


「お姉ちゃんの事も書いてあるよ」「えっ、ごめんちょっと見せて」ディーナは雑誌をデスクに置いた。フェリスもディーナに新聞を渡して新聞に載っている記事を見ると

「ルムロの危機を救い、超大型"マリー"から人々を守った"奇術の属性弾"のディーナ。その指折りの実力者で何体の"マリー"を討伐したかは数しれない、"リンドウ"協会会長であるヴァレアもディーナの活躍には期待しているようだ。

しかし依頼をどこで受ければいいか分からない程の神出鬼没の存在でもあり我々一般人からは彼女は伝説的な扱いをしている。続いてスイレンは…」


自分が書いている記事を一通り読み終えたディーナは「私の事務所の情報全然載ってない!どこで依頼を受けるかってDina's hideoutって書けばいいだけでしょ。だから私はあんまり有名になれないんでしょうが」

新聞の内容に不満を言うディーナだがフェリスは「でも最近電話はかかってきてないね。お姉ちゃんとっても強いのになんでだろ?」


ディーナの情報を少し調べれば事務所を経営しているとすぐに分かるが何故が依頼が来ないことにフェリスは不思議に思っていた。

「そ、それは…ま、まぁ私以外にも"リンドウ"はいるからわざわざ二つ名持ちの私に依頼を持ってこないんじゃないかな、あははは…」電話線を切っている事はフェリスは知らないためディーナは咄嗟に出た言葉でフェリスに伝えた。


「お姉ちゃんは強いからね。間違って何処か壊しちゃたらダメだもんね」都合よく解釈してくれるフェリスに笑顔で「そうそう、私じゃ力の制御が効かない事がたまにあるからね。他の"リンドウ"も強くになってもらわなきゃ」


なんとかフェリスの疑問を乗りきったディーナ。フェリスは新聞を返してもらって再び机に新聞を広げた。

「まぁでも、威力が抑えられないのはちょっと本当だけど」チハツの銃の底力はまだ遠いと踏んでいるディーナ。まだ底見えない銃弾の威力に制御が効いていないのは紛れもない事実だった。


ディーナもデスクに置いた雑誌を手に取って読み返そうとした時だった。ジュークボックスから音楽が流れる中で事務所の扉の奥から微かにだが何か聞こえる音がした。耳を澄ませないと聞こえないほど小さな音だったが、金属が地面に何度も当たる音が聞こえた。


何かの気配を感じる中ディーナは「フェリス、そこから動かないで」さっきまで話していた穏やかな声ではなく"マリー"との戦いを備えたような低い声でフェリスに伝えた。


突然の事にフェリスも何かあったかとキョロキョロと見渡していると、大きな音と共に事務所の扉が壊れて縦回転に回りながらディーナに向かって飛んでくるのは鎌だった。


鋭利な刃を持つ鎌に当たれば怪我どころではすまない、フェリスは早すぎて目視出来なかったが咄嗟に「お姉ちゃん!」と、叫んだ。


ディーナは焦らずにデスクに置いてあったローゼンを手に取り自分に飛んでくる鎌に向かって銃弾を三発撃つと、鎌の方向はズレてディーナの顔の隣を通り過ぎて事務所の壁に突き刺さった。通り過ぎる一瞬、サイドの髪が何本が切れてパラパラと床に落ちた。


「お姉ちゃん大丈夫!?」間一髪だった状況にディーナの身を案じるフェリスだが「私は大丈夫。けどフェリス動かないで。まだ何かあるか分からない」誰かからの襲撃の可能性があるためフェリスの危険が及ばせないためにまだその場に留まるようにした。


すると、壊れた事務所の扉があった場所に一人の少女が立っていた。少女は右頬に縫い傷、左目にはバツ印のような傷跡があり左目は開いていない。その他にも火傷跡の傷があった。

右手を手招くように前後に揺らすと、突き刺さった鎌がひとりでに動いてぷかぷかと浮きながら少女の元にゆっくりと行き、少女の手元まで来ると少女は鎌を手に持って背に鎌を背負った。


「お見事。でもこれぐらいはやってもらわないと」少女は不敵な笑みを浮かべた。「それはどうも。後で修繕費を求めるけどね。いきなり鎌をほおり投げるなんて、私には理解出来ないなぁ」

ディーナは少女に対して警戒心を解かずに何時でも発砲出来るように銃弾を仕込んでいた。


「試すような真似をしてごめんなさい。けどこれもウチ個人でやった事じゃないの。貴方に会いたいって言ってる人にやってって言われたからやっただけなの」

「私に会いたい、その人は?」「ここには居ないの。ウチに付いてきてくれれば案内するの」


突然過ぎる出来事に判断が及ばないフェリスはたまらずに動いてディーナの腕にしがみついた。「お、お姉ちゃん…」「フェリス、まだ動いちゃダメだって」


フェリスを見かけた少女は「その子が噂の。フェリスちゃんも連れてきてもいいの。会いたいって言ってる人がそう言ってたの」

フェリスについても知っている少女に少し眉を上げて「フェリスを知ってる…私達の事をある程度調べているらしいわね」「もちろんなの。奇術の属性弾の二つ名を持って、数々の"マリー"依頼を難なくこなしている。その実力がある"リンドウ"だからこそ、頼みたい事があるの」


「貴方は依頼主じゃない、多少なりとも詳細を伝えてくれないと動く気にはあんまりなれないよ」まだ疑いを持つディーナ。どんな依頼でもこの不信感を晴らさなければ依頼を受けるつもりはなかった。


「人間を襲うのは"マリー"だけじゃないの。人間の形をした"マリー"のような化け物だっているの、ウチはそいつらを根絶やしにしたいの。だから力を貸してほしいの、化け物を生まないためにも」少女の言葉に驚くディーナ。


「人間の形の"マリー"じゃない化け物…まさか、私達の知らない所であの鎧の"マリー"が蔓延っている…!」声には出さなかったが思い当たる節がある。少し前にエーデルと一緒に依頼を受けた日にいた甲冑を身につけていた"マリー"。恐らく少女が言っている化け物は過去に鎧の"マリー"の事を言っていると思った。


冷静さを取り戻したディーナはもう一度よく考えて「いや、もし街中にいたとしたならヴァレアが私に依頼を持ってくるはず。他の"リンドウ"も鎧の"マリー"については何も言っていない。ってなると、まだあの"マリー"達が行動に移していない」まだ被害がほとんど出ていない事を考えるとまだ"マリー"達は動き出してはいない。だがもし動きだし、人々を襲い始めれば想像に難しいことはなかった。


ディーナは少女の片方しか開いていない目をじっと見つめてローゼンをデスクに置いた。「この子は私に対して敵対意識は無い。純粋に協力を頼みたいってことね」これ以上警戒は必要ない判断したディーナは少女に臨戦態勢を解いた。


「貴方、名前は?」「クロカ・イリアなの」少女が名前を言うとディーナは立ち上がってデスクに置いてあるローゼンとフォーリーを手に取り懐に入れると「いいわよ。案内して、私の事務所をボロボロにしてって言った、指示した人の元に」


「お姉ちゃんいいの?お家が壊されちゃった人に会いに行くなんて?」少し反対気味のフェリスだがディーナは「会いに行かないと家を直すお金が無いからね。それに依頼主もどんな人か見てみないと」フェリスにはそれらしい理由を言った。


「同行ありがとうなの。それじゃあついてきて」先に歩いていくクロカ。ディーナはフェリスと手を繋ぎながらクロカの後について行った。

「傷だらけの少女…この子も壮絶な何かがあったんだろうなぁ。私の知らない何かが、この先にあるのかもしれない」


----------


電車で揺られ長時間、電車も寝泊まりができる電車で目的地に着く頃には日付が変わって朝を迎えている時間になっている。


電車から降りて近くの街に到着した三人。長時間の中でクロカの話を聞くと、依頼主は表立った行動は基本的にはしたくないらしく、"マリー"討伐や情報収集は自分からはせずに"リンドウ"やクロカに任せることが多い。理由を聞くと世間に自分の存在を知られたくないらしい。何故知られたくないのかは分からないが。


クロカは年齢は十五歳。フェリスの気持ちもある程度分かると言っていることから恐らくフェリスとそう歳は変わらないと思う。ディーナはクロカの傷跡の事は聞かないようにした。何かのトラウマを蘇る可能性もあるためだった。何かがないと目が見えなくなるほどの傷なんて負うはずない。


事務所からかなり離れたディーナも知らない街に来た。だが朝になっている時間のはずだが夜が明けずにいた。そのためか街には常夜灯や電灯明かりが煌びやからに輝いていた。特に街中の至る所に灯されているロウソクはとても幻想的な光景になっていた。


「ここって夜しかないの?」「ここら辺の地域は太陽が届きにくい場所だから。明けない夜が好きな人にはこの街は打ってつけなの。

ウチは好きなの、とっても幻想的でまるでここだけ世界が違うみたいで。この街の名前は"ラゴン"、とっても素敵なの」


キラキラと目を輝かせるクロカ。フェリスも初めて見る街並みや灯されたロウソクに言葉を失って魅入ってしまっている。

ディーナも見たことも聞いたこともない街、夜しか来ない街だが道行く人々はどこか明るい雰囲気をしていて笑顔の人もいる。何より人々が心穏やかな表情になっていると言うことは、ここら辺は"マリー"の被害が恐らくほとんどでていない事を証明していた。


クロカとフェリス、二人の少女の顔を見てディーナも自然と笑みがこぼれて「ええ、素敵な場所ね」と、クロカに伝えた。クロカも自慢げな笑顔を向けた。


街を歩いていく中、クロカが突然立ち止まってある家の前に来ていた。見た目は普通の住宅。だが他の住宅と違い明かりがついていない。真っ暗な家の中にクロカが扉を開けて「連れてきたの」と、言いながら入っていった。


ディーナとフェリスも手を繋ぎながら少しだけ警戒心を持って中に入った。

入ると辺りは真っ暗ではなく所々にロウソクが灯されて辛うじて辺りが見えている状態になっている。


すると突然ロウソクが何本を灯されて辺りは完全に見える景色になって、ディーナ達の目の前にいるのは着物のような衣装を着た、紫がかったピンク色の髪色をした長い髪を括っている煙管キセルを手に持つ女性が座ってディーナ達を待っていたようだ。隣にはクロカもいる。


ディーナは女性を見て「貴方が私を呼んだ人?」と質問すると女性は一度煙管(キセル)を吸って吐いた後に「いかにもじゃ。わっちはヒガン・ローリス、お主にちと頼もうとしてる依頼があってのう」


独特な雰囲気や言語を言う彼女はヒガン・ローリスと名乗り、クロカに遣いを頼んだのは彼女自身だった。

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