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カエデ  作者: アザレア
討滅戦~新たなる力解放~
45/86

最強と医者

超大型"マリー"討滅完了した"リンドウ"達。スイレンは"マリー"が一切動かない事を確認して、スイレンは両剣を背に背負ってディーナの元に駆け寄って「ディーナさん!"マリー"が動きません、これは…」「うん、私達の完全勝利だね」ディーナは顔が緩んで笑顔を向けた。


ディーナの緩んだ顔はスイレンにも伝染して「はい!討滅完了です!!」同じような笑顔で戦いの終わったと分かった。


シスイも短刀を鞘に収めてディーナに近づき「ディーナ様、スイレン様、お疲れ様でした~御二人は間違いなく今回の功労者ですね~」いつもの笑顔で二人を労った。

「シスイもお疲れ様。功労者で言ったら貴方もでしょ?シスイが居なかったらもっと苦戦してたと思うし」

「そうですか~?ディーナ様とスイレン様であれば討伐出来たと思われますが~?」自分を謙遜しないシスイ、ディーナはシスイの笑顔の表情をじっと見て「やっぱり貴方はその笑顔の方が可愛いわね」戦いの場と普段の場では全く違うシスイだがディーナは笑顔の方がしっくりときていた。


三人で集まり話していると突然ディーナが尻もちをついてしまった。「ディーナさん!大丈夫ですか?」慌ててディーナの目線までしゃがむスイレン。「いや~気が抜けたのと疲労かな。ココ最近は切羽詰まった生活だったし。それに身体と頭が痛い、やっぱ血は流すものじゃないね、痛いし」超大型"マリー"討滅までに訓練や作戦、やれることはやったディーナ達。その疲労やディーナに負った傷等が重なった結果立つこともままならなくなっていた。


わたくしとスイレン様よりもお痛い攻撃を喰らってしまいましたからね~早く治療しませんと~」

「そうですね、しかしディーナさんを連れてここからルムロに戻るのは少し距離があります。私の属性で速くしてもディーナさんは溺れてしまいますし…」「そんな丁寧に運ばなくても」


ディーナにこれ以上負担をかけられないスイレンはどうすれば安全に運べるかを考えていると、三人の左隣に氷の剣、氷翔剣が地面に突き刺さった。

一斉に飛んできた氷翔剣を見た三人は「これは、ヴァレアさんの氷翔剣?何故こんな場所に…」スイレンは驚いていたが残る二人は「氷翔剣が飛んできましたね~」「ってことはだよね」これから何か起こるかが分かっていた。


すると、氷翔剣が突き刺さった場所から瞬間移動したと思われたヴァレアが突如現れた。「ヴァレアさん!?ど、どこから…」「スイレンっていつも新鮮なリアクションするよね~」驚いてばかりのスイレンの表情に微笑むディーナ。


「見せるのは初めてだったか、私は氷翔剣がある場所であればどこにでも移動出来る。距離に限度はあるがな」ヴァレアの氷翔剣は属性から作られたものであり、その属性が届く範囲であればヴァレアは瞬時にその場に移動出来る。


「氷翔剣を何回か分散させてここまで来たんでしょ?一回飛ばしても距離範囲じゃないでしょ」「ディーナの言う通りだ。ルムロからここまで一本で来たわけじゃない」

「は、はぁ、ヴァレアさんはやはり多才な方ですね」


ヴァレアは氷翔剣について説明すると、ディーナの傷だらけの状態、息を引き取った超大型"マリー"を見て「良くやったな。"リンドウ"協会として礼を言うぞ」討滅が完了したと分かったヴァレアは三人に微笑んで礼を言った。


シスイはヴァレアに近づいて手を両手で握って顔の前まで持っていき「ヴァレア様から褒められました~これはとても光栄なことです~このシスイも頑張りました~」さっきとは打って変わって自分を謙遜しないシスイ。ヴァレアの前ではより声を高める。


「シスイとスイレンもよく頑張ったな」短い言葉ではあったがヴァレアは二人を労った。ヴァレアの褒められたことによってスイレンとシスイはとても喜んでいた、特にシスイは。


シスイはヴァレアから手を離すと、ヴァレアはディーナに近づきしゃがんだ。受けた傷をよく見るヴァレアは「よくこの傷で立っていられたな、本来なら死んでいてもおかしくなかった」ディーナの受けたダメージ普通の人であればとっくに死ぬほどの出血や傷、骨が折られている等の事であり、運が良くても一歩も動くことすら出来ないはずだった。

しかしディーナは今でこそ座っているが、立ち上がって戦い"マリー"を討伐した。これがどれだけおかしなことか。


「私は丈夫だったから。痛かったけど、動けないほどじゃなかったかな」丈夫だけで済まそうとしているディーナだがそれ以外に説明がつかないためヴァレアはこれ以上の追求はしなかった。


「それにしても珍しいね、貴方が現場に来るなんて。何か緊急事態でもあるの?」基本的に後方で待機し時が来たら動き出すヴァレアだが超大型"マリー"が討伐が確定していない状況でルムロを置いてこちらに来るのは少し不自然だと思ったディーナ。


「お前達が勝つのは分かっていた。地響きがルムロにまで響き決着がつき、私が確認のために来た。恐らくもうすぐネルル達も来る。

だが、私の読みが正しければだが、超大型"マリー"が付近に来る以前まで"マリー"が目撃されていた。だが超大型"マリー"が来てからは一向に姿を現さなかった。超大型"マリー"が討伐された今、奴らが獲物を欲しがりに真っ先に来るのは…」


そう言ってヴァレアは立ち上がり耳を済まして、見据えた先に歩き始めた。三人と距離をとるほど歩き立ち止まると、ヴァレアの目の先には軍勢誇る程の"マリー"が疲弊している"リンドウ"目掛けて走ってきていた。


座り込んでいるディーナはまだ立ち上がることは出来ずに「せっかちな奴らね。休ませるって言葉知らないの?」と文句を言っていた。

「あの数は多すぎます。ヴァレアさんがいるとは言えこのままでは…」スイレンが両剣を構えようとした瞬間にシスイは「大丈夫ですよ~スイレン様~武器を収めください~」目の前まで"マリー"が来ているがシスイは戦闘モードには入っておらず短刀の鞘も持っていなかった。


「ですがシスイさん、ヴァレアさん一人では無事だと言えるかは分かりませんのでは」「見ていてください~どうしてヴァレア様がわたくし達から離れたのかが分かります~」シスイに言われた通りスイレンは両剣から手を離した。


軍勢で来る"マリー"に一人立ちはだかるヴァレア。その数は辺り一体を覆い尽くす程の"マリー"の数だった。だが数多い"マリー"に動じもせずにただ真っ直ぐに見つめるヴァレア。


ヴァレアは右手で指を「パチンッ」と鳴らした。すると、先頭にいる"マリー"から薄い水色のドーム状のサークルが広がっていった。全ての"マリー"がサークルに入るほど広がるとヴァレアもそのサークルに入った。


円形に入るとヴァレアは腰を低くして左手に持つ愛刀、ヒメを柄を右手に握った腰を低くして構えた。サークル内はヴァレアが入ると冷気が漂い始めて数秒後には吹雪のような突風が吹き始め氷の破片が舞うように散り始めた。


サークル外から見るスイレンはもはやサークル内が吹雪で白く中がよく見えなくなっているのを見て「指を鳴らしただけですよね?」一瞬でサークルの中ではあるが空気や全てを変える属性に驚きを隠せていなかった。

シスイは笑顔のまま、ディーナも黙ってヴァレアの戦いを見届ける事に。


サークル内に入っている"マリー"達だがそんな事はお構い無しにヴァレアに突っ込んでくる。吹雪が吹き荒れる中に構え続けるヴァレアがついに「貴様達の終着点だ、消え失せろ」左手の親指で鍔を刀を抜くと柄で一気に抜刀した。


すると、ヴァレアが消えた。消えた瞬間にサークル内の吹雪が斬られていくように斬撃が見え、それと同時に"マリー"達の動きも止まり始めていた。斬撃はサークル内の至る所に見え、吹雪も何故か止み始めた。そしてサークル自体もどんどんとひび割れ始め、その場だけ空間が違うように、時が止まったようになり静けさだけが流れた。


そしてヴァレアが消えた同じ場所現れ、時が止まる中でヴァレアだけは悠然と刀を血払いするように振るって、一回転させた後に刀の先端を鞘に納め、ゆっくりと納刀し、鍔が納まる音が鳴ると同時に時が進み始めた。


"マリー"達は遅れて来る斬撃に斬られたかのように全員が黒い血が吹き出し、生き残る"マリー"は誰もいなくなりその場に"マリー"の軍勢は倒れ込んだ。"マリー"の屍が辺り一面を覆い尽くした。


サークルもひび割れていたが納刀と同時にガラスように割れ破片が崩れ落ちていった。落ちていく破片は地面に落ちる前に溶けて無くなっていた。


あの軍勢の"マリー"をたったの数秒で殲滅したヴァレア。圧倒的な力を目の前で見たスイレンはその強さに絶句していた。「一人の"リンドウ"の力ではありませんよね…私はヴァレアさんの戦いをあまり見かけてはありませんが、前回ディーナさんと共に見たあの時よりも衝撃的なものを見た気がします」改めて"最強のリンドウ"の二つ名を持つヴァレアの力を実感していた。


「スイレンはヴァレアとの付き合いはまだ短いから驚いているけど、私からしたらあれが日常茶飯事だったからね。もう私は慣れちゃった」ディーナはいつも通りの殲滅力に驚きもせずに見ていた。


軍勢の"マリー"を討伐したヴァレアが三人がいる場に戻ってくるとシスイが拍手しながら「お見事です~さすがはヴァレア様ですね~わたくしはとても感服しています~」「"リンドウ"としての役割を果たしただけだ。あの数程度で苦戦する私ではない」


ヴァレアが討伐を終えると、車を走らせる音が聞こえてきた。一斉に車の音がする方を向くとリムジンのような細長い車がこちらに向かってきていた。

四人の"リンドウ"に近づきある程度距離を取ってから停車すると車の中から、ネルルとタイムとフェリスが一斉に飛び出してきた。


「皆!ヴァレアが急に行っちゃったから急いで追いかけたけど…良かった、なんとか無事で。ルムロの王女として感謝を伝えます。超大型"マリー"の脅威を取り除いてくれて、ありがとうございます」ネルルは三人に対してルムロの住人とし、王女として深々と頭を下げた。


「ルムロの王女、ネルル様!?は、初めてお会いしましたが、皆さんとお知り合いだったとは。私はスイレン・メリアージュと申します。感謝の言葉、大変ありがたいです」ルムロの王女であるネルルと初めて会ったスイレンは少し戸惑いながらも自己紹介をした。


「あれ、二人って面識なかったんだ。今回の作戦で顔を合わせていたと思ったけど」

「私も多忙だったから。スイレンさんとは会わなきゃいけないとは思ってたけどここで初対面するとは思わなかった」超大型"マリー"接近中はネルルも各国の対応や兵士の増幅等ありとあらゆる事を率先していたため指揮を執る三人がいる場にはとても行くことは出来なかった。その証拠にネルルの目元にはクマが少し出来ていた。


「ディーナさん、スイレンさん、シスイさんありがとうございます!皆様のおかげでエニーもルムロも守れました。本当に、ありがとうございます!!」タイムも三人に対して深々と頭を下げた。三人は顔を見合わせて笑顔を向けあった。


「あと…ネルル様、ですよね?なんだか突然別人のような性格になっていましたので、どう声をかければいいかが…」「……あっ」自分の本性を全員知っていると思っていたネルルだがタイムだけはまだ本当のネルルを知らなかった。

それに気がついたネルルは何とかして誤魔化そうと考えていたがヴァレアに「諦めろ、事情を説明した方が早いぞ」見られたことは仕方ないと考えてタイムに説明しろと伝えた。


「はぁ、こういう所よね。私がもっとしっかりしないといけないのは。タイム、ちょっとこっち来て」ネルルはタイムを手招いて少し離れた場所で自分の事情を説明していた。


微笑ましいような少し苦笑いするような感覚でディーナは離れた二人を見ているとフェリスがディーナにゆっくりと優しく抱きしめた。

お互い会うのが久しぶりだったためかフェリスは抱きしてから離れずにいた。ディーナも離そうとはせずにフェリスが満足するまでそのままにしていた。


「フェリス、私の血がついちゃうよ」「いいの。お姉ちゃんが頑張ってたから。フェリス何も出来ないから、お姉ちゃんに会ったら絶対にお姉ちゃんが喜ぶ事をするって決めてた。お姉ちゃんが嫌だったら、離してもいいよ」

「離さないよ。私もフェリスと一緒なら、なんだか落ち着くからね」


ディーナが真っ先に喜ぶことを考えていたフェリスは出した答えは優しく抱きしめる事だった。フェリス自身の欲でもあったがディーナも優しい気持ちになれるため、フェリスを拒むことはしない。互いの気持ちが一致してるからこそ安らぎを二人は感じている。


シスイは抱き合う二人を見てヴァレアとスイレンに「お熱いですね~御二人の絆を感じます~」家族の愛を見て分かるほど感じていた。

「フェリスさんも寂しかったのでしょう。久しぶりにディーナさんに会ったので」「そうだな、今は邪魔をしない方がいいな」


すると大きな欠伸をしながらスイレン達に「ふわぁ。終わったようだな。アタシの大砲があったからこそだったな、"マリー"に命中する所は見たかったが、結果見れば充分だ」チハツは創った大砲の結果を見に現場に来た。


チハツの声が聞こえてフェリスに抱きしめられながらではあったがディーナは「チハツ、ありがとう。貴方の創ってくれた銃と籠手、大砲のおかげで討伐が出来たよ。威力や使いやすさは職人の一言ね」自分の銃や新たな力を創ってくれたチハツに改めて感謝を伝えた。

フェリスはチハツに話しかけた時にようやく満足したのかディーナから離れた。


「当たり前だろ。客の要望にはしっかり応えるのがアタシの流儀だからな」


フェリスは抱きしめていたディーナの顔と身体を見ると咄嗟に離れて「お、お姉ちゃん!どうしてそんなに怪我してるの?フェリスお姉ちゃんの怪我を見ていなくて抱きしめちゃった…」強くは抱きしめてはいなかったがさらに怪我悪化したかもしれない事にどんどんと落ち込み始めた。


「大丈夫よフェリス。フェリスが優しくしてくれたから全然痛くなんかないから」

ある程度痛みも治まっていたディーナだがここでヴァレアが来て「だがこのままほおっておく訳にはいかないな。仕方ない、あいつに連絡してみるか。ディーナの属性であればすぐにでも診てくれるはずだ」


そう言ってヴァレアが小型で持ち運びが出来る携帯電話を取り出して誰かに連絡した。「ヴァレアだ…怪我人を見てほしい…"リンドウ"だ、二つ名を持つディーナと言ったら分かるか?…分かったすぐに行く」ヴァレアは電話を切って「ディーナ車に乗れ。ルムロにいる医者と連絡をとってお前ならすぐにでも診ると行っていた。車にはケイが待機している。全員戻るとするか」


ヴァレアがそう言うとチハツがディーナの肩を持った。「さすがに歩くのはキツイだろ。運んでやるよ」「ありがとう、チハツ」ディーナはチハツに運ばれて残る"リンドウ"や王女達も全員で乗り込み戦場の跡地となった場を後にした。


----------


深手を負っているディーナと所々に傷を負っているスイレンは医者がいると言われている家の前で下ろした。ディーナと一緒にいたいと言ってフェリスと紹介者であるヴァレアも車を下りた。


車に残ったチハツはそのまま工房で下ろしてもらい、すぐに眠りについた。車を下りた時にフェリスが「チハツさん、ありがとうございました!」とあまり言葉は浮かばなかったがチハツに感謝を伝えると「またいつでも遊びに来いよ、歓迎してやるよ」フェリスと共に過した時間はチハツにとっても新鮮で楽しかった。フェリスとさらに仲良くなった証拠でもあった。


シスイは怪我や傷を一切負っていないため王宮に戻り休息を取る予定と言っていた。だがヴァレアは口には出さなかっが「自分の部屋に戻れるのか?」と、思っていたが案の定王宮で迷っていたのは別の話。


残ったネルル達も超大型"マリー"討伐を成功させて祝杯の準備を進めるそうだ。


ディーナはスイレンの肩に背負われながら「普通の家っぽいけどここって病院なの?何も看板が無いけど」「私もお医者さんがこの近辺にいるのは聞いたことがありません」傍目から見たら住宅にしか見えない、ここに本当に医者がいるのかは信じられない二人。


「外観なんてどうでもいい。入るぞ」ヴァレアが先に家の中に入って行った。「私達も入りましょうか。フェリス行くよ」「うん」ヴァレアの後に三人も入った。


扉を開けて三人の目の前にあったのは壁に貼られている紙に赤字で大きな文字で「土足厳禁。そのまま入ったら全て殺菌する」とかなり威圧的に書かれていた。

「土足厳禁、絶対にこの先からは入っちゃいけない意思が伝わってくる」苦笑いを浮かべるディーナ。と言うのも事務所で土足で生活しているため(二階は靴を脱いでいるが)少し何かの罪悪感を感じていた。


全員部屋に上がる際に注意深く汚れ等が付かないように靴を脱いで奥に続いている廊下を歩いて行くと扉の前まで来た。

スイレンがノックしてから取っ手に手をかけ「入ります」と、言ってから扉を開けると、部屋の中はかなり広く棚やガラス張りのケースの中には薬品や包帯、本棚にはきちんと整理され、あ行から名前順に並べられていた。

医療に使うであろうナイフとメス等の医療良品が大量に置いてある。

薬品以外に患者が寝るための白いベッドが二つ並んでおいてあり、二つを区切るカーテンも備えてある。


デスクの上には綺麗に並べられている紙の資料やファイルが置いてありどれも医療知識が豊富ではないと分からない事ばかりが書いてある。

ヴァレアと話している椅子に座った黒を基調とし所々に白色と青色のラインがある若干サイズが合っていないコートを着ている、淡いピンク色の長髪、前髪は目を覆い隠し辛うじて見えている程度。黒色のマスクをした目つきの悪い女性が入ってきた三人を睨みつけるように見た。


ディーナ達は少しだけ萎縮した後に女性は立ち上がり「その怪我でよくここまで来たな。早くそこにベッドに座れ、私に早く治療させろ。奇術の属性弾である"リンドウ"の構造を調べられるうってつけの機会だ」

と言ってディーナの全身を見回す女性。


「う~ん初対面の人にこんなに身体を見られるのは初めてね。貴方がヴァレアの紹介の医者よね?」

見た目からは医者の要素がほとんど無い女性に本当に医者かと聞くと「れっきとした医者だよ。私はセラ・シザクラ、よろしく頼む」


セラと名乗った医者の彼女はディーナの手を掴み「ほら早く来い、治療してやる。患者を目の前に何も出来ない医者なんて存在価値が無いだろ」無理やり引っ張り治療をすると言ってベッドに引きずり込もうとしていた。


「ちょ、待っていきなり過ぎるって!」全身に傷を負っているディーナは為す術なくセラに引っ張られベッドに座らされたディーナ。


カーテンを仕切られ会って数秒で二人きりの状況になったディーナとセラ。するとセラはその場にあったキャスター付きの三段式のワゴンを自分の隣に持ってきた。

ワゴンの中には普段扱ってるであろう医療道具が事細かに整頓されており、その中からピンセットとコットンと薬品を取りだしワゴンの上に置いた。


セラは白いゴム手袋をはめてディーナの前髪を上げて血を流している箇所を見た。「額からの血は外傷だけで済んでいる。顔の傷にも深い傷は無いか…何か体調の変化は無いか?体温の上がり下がりが急激や全身の痺れ、頭が割れるほど頭痛等の症状は?」セラの質問にディーナは「いや、特には…」外傷以外の症状は出ていなかったと申告した。


「なるほど、外傷だけのようだな。体の傷も私の処方と少し安静にすれば治る。超大型"マリー"との戦闘で困難な治療が必要かと思ったがそうでもなかったな。健康で何よりだがな」何故か少しだけ肩を落としてガックリするセラ。


「特殊な属性だったけど全部自分の再生だったからね。変な属性で体を蝕まれてはないよ」「まぁいい。大方の身体の構造はさっき見た。少し染みるが我慢するんだな」

ディーナはまだ服を着て体を一切見せていない。だがセラはディーナが顔以外の傷を全て見えているようだった。


セラはピンセットで薬品の液を付けたコットンでディーナの額に押し当てた。「痛ッ!」「我慢しろ言っただろ。痛みが伴わい治療なんて極わずかだ。だが効力には期待してろ、すぐに治る」市場等で売っている薬品ではなくどうやら手製の薬品のようだ。


口元の傷も同じ薬品で押し当てて「服を脱げ、次は体だ」言われた通りにディーナはコートを脱いで半袖のインナーだけになった。

同じように傷の箇所を押し当てていると額と口元の傷の痛みがどんどんと引いていった。


「すごい、もう痛みが治まってる…」ここまで速い治療薬は初めてで驚いているディーナ。「私特製の傷薬だ。この程度だったらすぐに痛みは無くなる。だが傷口は簡単には塞がらんがな、まだ改良の余地はある」


次々傷口に薬品を当て痛みが治まっていき、全ての傷口に押し当てるとピンセットとコットンと薬品を元々あった定位置に戻しワゴンからガーゼと包帯とハサミを取りだした。


包帯を頭と額に傷をしっかり抑えるように巻き始めた。丁寧で迅速、とてつもない効果の薬品、傷口の把握の速さと適切な治療、ディーナの目からではあるが一切の無駄が無い完璧な治療をこなすセラ。


頭に包帯を巻き終わると口元の傷を小さくカットしたガーゼを貼った。ディーナは口を開け閉めすると「ガーゼが話す時とかに邪魔にならない。配慮すごいなぁ」小さくカットした事によって最小限の面積で口元の傷を抑えたため食事や会話の邪魔にならないようにしていた。

体の傷には全てには貼らなかったが特に傷が深い箇所にはガーゼを貼った。


「こんなものか。どうだ、まだ痛みはあるか?」「いやぜんぜん。一瞬でも怪しんじゃってごめんなさい」"マリー"に引きずり回され挙句にビルの下敷きとなったディーナの痛みはセラの治療により瞬く間に治っていた。


「どう思われようと患者が私を呼ぶのなら、それに応えるのが医者の役目。今は安静にしていろ」ディーナはセラに対しての不信感がまだ拭えないが医者としての腕は上位の者だと確信し微笑みを見せた。


しかしセラは治療終えたはずだがワゴンから注射器を取り出した。「さて治療代は必要無い。だが…」「せ、セラ?」セラの目は狂気的に見開き「初診だ、お前の血を取らせろ。全ての属性を操れる"リンドウ"の血、医者が心を踊らない訳がないだろう?」注射器を使いディーナの血を採取しようとしていた。


「ちょ、ちょっと私の血を取ってどうするのよ!」「決まってるだろ私の薬品効果をさらに高めるためだ。他の人間を助けられる事が出来るんだ、"リンドウ"とやってる事は同じだろ?」セラはディーナの手を押えて無理矢理にでも血を取ろうとしていた。


「患者を一番に考えるのが医者じゃないの!?嫌って言ったら…」「黙れ。私の言うことを聞いていれば健康になるんだ。ほら少し痛むだけで済む」ディーナの有無も確認せずに二の腕に針を当てた。


「待っ…!」ディーナの抵抗も虚しく、セラは二の腕に注射をしてディーナの血を採取した。

採取するとすぐに血をワゴンから蓋付きのビーカーの中に入れて厳重に蓋を閉めてもう一度ワゴンの中に入れた。


「協力感謝する。これで一つ私の医学が進んだ」「無理やり刺された…痛い」"マリー"の攻撃にも何食わぬく顔でいたディーナだが注射に刺されると涙目になっている。

「注射如きで泣くな、これ以上痛い事なんて山ほどある。"リンドウ"だろ?」「注射は別なのよ!あんな細い針なのに刺されたら激痛が走る…前に予防で刺され痛いいらいトラウマに…」


「それは悪かったな。だが必ず人のためになると約束しよう」そう言うとカーテンを開けて「治療は終わった。これで大丈夫だ」


カーテンを開けるとヴァレアにスイレンがセラについて質問している最中であった。「あんな無理やり連れていく医者がどこの世界にいるんですか!治療と称して何かの実験をしてる可能性だって、ディーナさんに何かあったらフェリスさんが悲しむんですよ!」

「私に言うな。治療を終わらした本人に聞け」


スイレンはセラに近づき「セラさん。医者として怪我人を治療するのは素晴らしい心意気ですがそれは本人が了承しているのが条件です、貴方はディーナさんを無理やり…」

「怪我人を目の前に何もしないと言うのか?怪我や病と言うのは適切な処置の他にも限られた時間で治療しなければいけない状況だってある。それは速ければ速いほど命が助かるのと同義だ。つべこべ言う暇があるなら行動に移した方が効果的だろ」


「それは…」セラの正論の反論に何も言い返せなくなるスイレン。するとセラの後ろからディーナが来て「私は大丈夫よスイレン。セラは強引な所もあるけど医者としてなら間違いなく一流よ」


治療終えたディーナの頭や顔に処置がなされているのを見たスイレンは「ディーナさんがそう言うのであれば…」するとセラはスイレンの左手を掴み「その腕、骨にヒビが入ってる。ディーナの体の方が重症だと思ったがお前も大概だな」"マリー"に殴られた左腕はしっかりと防いでいたがそれでも骨にヒビが入るほどの衝撃だった。


触って確かめてもいないのに骨にヒビが入っている事が分かっていたセラに「えっ私がどうして左腕を負傷しているのを…?」肉眼では確認出来ないはずだが的確に負傷している箇所を見抜いているセラに驚くスイレン。


「来い、お前も私の目の前にいる患者だ」ディーナと同様に無理やり引っ張りベッドまで連れていくセラ。「待ってください、私は治療なんて」「黙れ私に治療させろ。そうすればすぐに現場復帰出来る」スイレンの有無を確認せずにベッドに連れていかれてカーテンを閉められた。


様子をずっと見ていたフェリスがディーナの手を繋いで「お姉ちゃん大丈夫?」心配そうに聞くと「大丈夫よ。さっきよりも元気…とは言いきれないけどもう痛みも無いから安心して」


フェリスを安心させてからヴァレアに「セラっていつもあんな感じ?」恐らく以前からセラと知り合っていたヴァレアに聞くと「怪我人や病人ほっておけない医者。医学や医術であれば自分を絶対の基準として人の話を聞かない自分の意見を曲げない無駄な事を排除する等、言い始めればキリがない。

おまけにあの性格だ、他者に自身の医学を理解をされない、セラも理解されなければ手助けは必要としない。医者としてなら孤独で孤高の一人。

だがセラの患者になればどんな怪我や病でも必ず最善を尽くす、私も過去に重症を負った時も私から目を離さなかった。患者が無茶な状態でも匙を投げるなんてせずにありとあらゆる方法で治療する。

医者として見るなら彼女こそ医者の鑑だ」


ヴァレアにそこまで言われるセラ。必ずしもヴァレアの言葉が絶対ではないが、歴戦の"リンドウ"が医者の鑑と言うことはそれ相応の腕と行動が出来ないと言われるはず無い。


「貴方がそう言うなんて余程の事なんだね。でも、なんとなく理解出来ちゃうかも」実際に治療されたディーナはヴァレアの言うことも理解出来ていた。


セラについてもう少しだけ聞こうとしたディーナだがここで扉が開きそこにはネルルとケイが来ていた。

「皆、宴会の準備が出来たよ!」「速っ!もう出来たの?」先程王宮に戻ったはずのネルルがもう準備が出来たことに驚くディーナ。


「王宮の皆やエニーの皆総出で準備したらすぐよ。ほら早く来てね、主役の皆がいないと宴会なんて始まらないわよ!」と言ってすぐに外に出ていった。


その様子を見たケイは微笑んで「数日前まで切羽詰まって余裕など無かったネルル様があんな笑顔を。皆様本当にありがとうございます。王宮にてお待ちしておりますので治療を終えたら来てください」ケイも一礼してからネルルの後を追って出ていった。


「騒がしい奴らだな。だが、今は浮かれてもいいか」「お堅いシーズンは終わったのよ。スイレンが戻ったら行こっか、もちろんフェリスもね」「うん!」


すると、カーテンが開きスイレンとセラが出てきた。「セラさん、ありがとうございます。まさかここまでま痛みが無くなるとは…」「今回は骨にまで干渉していない。ヒビであれば私の塗った薬で二、三日あれば完治する。それまでは安静にしていろ」

どうやらスイレンも疑っていたが、適切な治療に即効性の効果によってその疑いは無事に晴れていた。


「誰か来たのか、誰かは知らんが治療中は静かにしてもらえるか?病院は静かには常識だろう?」少し怒っているセラに「ネルルが来ていた。後で言っておく」「王女か、お前から言ったほうがいいだろう」


「して、ネルル様どうしてここに?」「宴会の準備が出来たんだって。スイレンも行くでしょ?」「もう出来たんですね。もちろん行きます。皆さんとゆっくりお話したかったので」


セラは椅子に座りデスクに置いてある資料に目を通しているとディーナが「貴方も来る?多分だけど歓迎してくれると思うけど」「私は研究だ。お前達の血を有効活用させるためにもすぐに行動しないとな。フフフッ一体どんな効果を発揮させてくれるか楽しみだ」

不気味に笑うセラ。「貴方も血を取れたのね」「まぁ治療のお礼としてですが」


「それじゃ行くか」ヴァレアが先に病院の外に出ていきディーナとフェリスとスイレンも出ていこうとすると「待てお前ら」セラに止められた。


「どうしたの?」「医者として一言添えるさ。これからも健康に、お大事にだ」あくまで医者のセラは患者には最後に必ずこう言っている。


「うん。ありがとうね」「私もありがとうございます」二人は感謝を伝えるとセラは小さく手を振った。


病院の外に出た三人。既にヴァレアは先に王宮に向かってその場にはいなかった。「食事になると目がない人ですね」「ヴァレアもちょっとお疲れだろうし、休息としてならいいんじゃない?」


フェリスと手を繋ぎながら歩くディーナと隣にいるスイレン。するとフェリスが「お姉ちゃんのお仕事これで終わり?」「うん。これで全部解決したしね」

「それじゃあお家に帰れるんだね。フェリスお姉ちゃんとお家に帰れるの嬉しい、いつもの生活に戻れるのが嬉しい!」久しぶりに感情を表に出すフェリスにディーナも笑って「そうね、やっぱり家が落ち着くからね。ちょっと長い間空けちゃったから、まずは掃除からね」


微笑ましいやり取りにスイレンも思わずにこやかになって「やっぱりお二人はお似合いの家族ですね。見ているこちらも幸せになります」「そうでしょ?私の自慢の妹なんだからね」


こうして宴会へと向かった"リンドウ"とフェリス、ルムロの兵士や王女、エニーの長も超大型"マリー"の討伐戦が終わり大宴会と大団円に終わった。皆の顔は溢れんばかりの笑顔で満ち溢れていた。


----------


数時間後、超大型"マリー"の亡骸を近くで見る煙管キセルを吸う女性と自分の背とほとんど同じぐらいの鎌を持つ少女がいた。


「この巨大な"マリー"を討伐か、中々に見所がある"リンドウ"もいるもんじゃのう」「どうするの?」

「そうじゃのう、わっちの目で見た限り実力は申し分ない。あの子がどんな"リンドウ"か調べた後、頼んでみようかのう。クロカ、少し先にはなるがその時は頼めるかい?」「うん、任せて」


超大型"マリー"の討伐した"リンドウ"の事を二人で話すとそのまま何処かに立ち去っていった。女性は超大型"マリー"討伐を見届けていたようだった。彼女達は一体…


----------


同時刻、宴会を終えたルムロの王宮。部屋の一つにヴァレアが一人座って誰かを待っているようだった。


すると、部屋の扉が開き入ってきたのは「ヴァレア様~お呼び出してどうかされましたか~?」ヴァレアが部屋に呼んだのはシスイだった。


「超大型"マリー"討伐、お疲れだったな。ディーナとスイレンの話だとシスイが居なかったらどうなってたか分からなかったそうだ。良い活躍をしたな」

「いえいえ~ディーナ様とスイレン様がいてくれたおかげで討伐出来たものなので~わたくしは大したことはしておりません~」


超大型"マリー"討伐を労ったヴァレア。「それでどうしたのですか~?誰もいないお部屋にお呼び出して~」ヴァレアに呼んだ理由を聞くとヴァレアは立ち上がってシスイの目の前に行き懐からある紙を取り出した。


「討伐が終わった後で悪いが、依頼を頼めるか?再びお前の力が必要なんだ。息を潜めていた奴らが動き始めようとしている。"マリー"から守るためにも、その手を貸してくれ」


ヴァレアが取り出した紙を躊躇いなく受け取ったシスイ。

わたくしがお役に立てるのならなんでもします~それが皆様のお力になれるのなら無問題もうまんたいなので~。

たとえそれが…この手がどんなに汚れようとも、わたくしは役目を果たすまでです」


平和なのも束の間、彼女達は日常を守るためにも、再び戦いに身を投じるのだ。


四章 「討滅戦~新たなる力解放~」 完

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