表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カエデ  作者: アザレア
討滅戦~新たなる力解放~
43/86

運命をぶち破る

超大型"マリー"を眼前に三人は臆せずに真っ直ぐに"マリー"を見続けた。"マリー"との戦闘を前にしてもいつもの笑顔を絶やさないシスイに「貴方って大物よね。こんな傍から見たら絶望的な状況でもそんな顔出来るなんてね」ディーナはシスイのいつもと変わらない顔に感心していた。


「いえいえ~なんだか皆さんと御一緒に戦えるのが嬉しくてついほくそ笑んでしまっています~」緊張感の無いふんわりとした言葉に「言ってる場合ではありません。私達でなんとかしなければ」覚悟を決めているとは言えまだ緊張が抜けていないスイレン。「とりあえず落ち着いてスイレン。攻勢に出るのはまた後ででいいから」


三人が話しているのもお構いなしに"マリー"はこちらに走ってスイレンに向けて拳を構え巨大な腕を突き出し殴りかかった。スイレンはまだ水の張っている地面を滑り移動して"マリー"の攻撃を避けた。


ディーナとシスイはスイレンが避けたのを確認すると"マリー"の後ろ側まで走って回り込んだ。ディーナはローゼンを構えて「後ろががら空きよ」雷の帯びた銃弾を三発撃った。撃った瞬間にディーナは少し驚き「普通に撃っただけなのに銃弾が速くなってる、それに威力も上がってる。なるほど、これがチハツの傑作なのね」

銃弾は"マリー"の背中に直撃したが、雷が関係なしに平然としており回り込んだディーナの方へ振り返った。


「まるで効いていないわね。これは骨が折れそうね」本来普通の"マリー"であれば感電するほどの電力だが超大型"マリー"のフィジカルの前では効いているかどうかも分からない。


銃弾を撃ったディーナに今度は標的を決めた"マリー"は今度はディーナに走り出しそうになったが、避けた後にずっと水を滑るように移動し続けていたスイレンが今度は"マリー"の後ろを取り、飛び込み両剣で背を斬り掛かろうとしたが背後のスイレンに気がついたのか、後ろを回りながらスイレンに左側から殴りかかった。


不意をついたつもりのスイレンは油断して防御を疎かにしてしまい空中で身動きも取れないため咄嗟に両剣を縦に左に構えて衝撃に備えた。

空中で殴り飛ばされたスイレンは"マリー"の強大な一撃を喰らってしまった。幸いにも一瞬の判断で両剣を盾がわりにして衝撃を備えた結果、全身の骨が響いた程に収まった。


だがその衝撃はすさまじく、スイレンは吹き飛ばされたがなんとか空中で一回転し体制を整えて地上に降りる瞬間に両剣を地面に突き刺して吹き飛ばされた距離を最小限に抑えた。


それでも数メートルほど飛ばされており、恐らくは軽く吹き飛ばした"マリー"だが人間からしたらどれも致命傷を負ってもおかしくないほどである。


"マリー"の一撃を耐えたスイレンは片膝をついて一瞬全身を休ませた。「振り返り様の一撃でこの威力、この剣で防いでいなければ致命傷になりかねない…」"マリー"の脅威を再確認していると"マリー"がスイレンに近づき片手を広げてスイレンを踏み潰そうとしていた。


まだ衝撃が抜けていないスイレンは動くことが出来ずにいた。しかし危機的状況だがスイレンは冷静だった。手には速攻で作り出した手の平いっぱいの水の玉を持っていた。

水の玉を"マリー"に向けて投げた。水の玉は"マリー"に直撃し、玉は弾けて"マリー"は全身水浸しになった。


水浸しになった"マリー"だが動きを止めることは出来ずに片手を広げて踏み潰そうとしたその時「ディーナさん!!」と、叫ぶと数メートル離れた先にいるディーナが銃口を向けて「水時々、雷注意報よ」先程と同じ雷の銃弾を撃ったが、今度は一発少し大きな雷の球を撃った。


銃弾はスイレンに振り下ろされる前に"マリー"に直撃し水浸しの"マリー"の全身に電撃が走った。自身にも電撃が来ないようにいつの間にか地面には水は無くなっており、スイレンにはディーナの電撃は喰らう事はなかった。


電撃が収まり所々が焦げている"マリー"に間髪入れずにスイレンは動けることが出来る身体を起き上がらせて"マリー"目掛けて再び飛び込んだ。電撃の衝撃とダメージが抜けていない"マリー"は目の前のスイレンに反応することが出来ずに、スイレンの両剣により大きな身体を斜めに斬られた。


斬られた箇所から黒い血が流れていく。スイレンは着地して確かな一撃に小さく拳を握り「よしっ」と、喜びを表していた。


まだ"マリー"は動けないと判断したスイレンは特に警戒もすることはせずにディーナとシスイに合流するため走り出した。

「ディーナさん、私の属性に合わせてくれてありがとうございます!」「打ち合わせ無しにしては上出来ね。この調子で…」何かに気がついたディーナは突然スイレンに「スイレン急いで!」と、慌てた様子で伝えた。


安心していたスイレンは突然の事に何かあると思い後ろを振り返るとそこには電撃と斬撃を与えたはずの"マリー"が既にスイレンの真後ろに立ち、殴りかかろうとしていた。

地面に水も貼っていないためすぐにディーナ達の元にたどり着くことが出来ない、そうでなくても"マリー"の攻撃を避ける手段が現状無い。


スイレンは打開策が無い状況で一か八かで両剣を突き出して縦に構えた。「これで防ぐしかない!」

スイレンの無謀な判断に「スイレン!」と、銃を構えてなんとか応戦しようしたディーナだったが…気がつけばその場にはスイレンが居らず、ディーナの元に戻ってきていた。


何が起こったか分からないディーナ。それはスイレン本人も同様だった。「えっ、スイレン?どうしてここに…」「わ、分かりません。私も一瞬でこの場に居たので…」呆然とする二人。


すると、「ご無事ですか~スイレン様~」スイレンの真隣にいたシスイ。その存在に気がつかなかったスイレンは驚き「シスイさん!いつからそこに?」「つい先程です~スイレン様が危ないと思ったのでご勝手ながらお助けさせてもらいました~」どうやらスイレンを救出したのはシスイらしい。


「でもこんな一瞬で助ける事が出来る属性なんて限られる…何となくだけど分かった。貴方の属性は…」ディーナがシスイの属性について話そうとすると超大型"マリー"はこちらに走ってきていた。


「まだ話してる途中でしょうが!」ディーナとスイレンは再び戦闘態勢に入ったが、シスイも刀を柄を掴み「少々気がお早いですね~それでは…少しばかり大人しくしてもらいましょうか」シスイの声はうってかわり、先日ディーナに向けた声で低く語尾も伸ばさなかった。


ディーナはあの時と同じく表情や声、そしてさっきまで"マリー"に対しての感情が分からなかったが、今ならディーナは分かったが。溢れんばかりの"マリー"に対しての殺意が芽生えている事に。

それはスイレンにも感じて、シスイの見たことのない全てに背筋が凍り少し冷や汗をかいた。


すると、シスイは蜃気楼のように姿を消した。「えっシスイさん…」「スイレン、前を見て」シスイの姿を先に確認したディーナ。シスイは"マリー"の目の近くに姿を現していた。

「な、何故あそこに!」「見てて、今からはシスイの時間よ」


シスイはすぐ近くにいる"マリー"に臆することはなく、短刀を逆手に柄を握りついに抜刀した。目の前に姿を現したシスイに目の前の邪魔者を排除せんと"マリー"は走った勢いも相まって強烈な速度で殴りかかった。


だがシスイは避けようとはしなかった。だが当たる直前でシスイはまたしても消えてしまった。"マリー"は確実に殴れるであろう速度で瞬間に消えてしまった人間に恐らくは驚いていた。


「獣は目の前の獲物しか見えない」呟く声が聞こえるとシスイは"マリー"の腕に立っていた。すると、目で見える風がシスイの周りに漂った。そしてシスイは風が漂う事を確認すると、シスイは飛び上がり"マリー"の肩に目掛けて逆手に握った短剣を腕ごと切り落とすように振り上げた。


風を纏ったシスイの速度は"マリー"でもついて行く事が出来ずに、肩から脇まで斬られた。切り落とすことは出来なかったがそれでも斬られた箇所からは血が吹き出した。


上空まで通過したシスイはまたしても消えて、"マリー"の後ろ上空に現れた。「その獲物が狩られる側ではなく狩る側だったことを知らずに」またしても呟くと今度は"マリー"の首に目掛けて急降下した。

まだシスイの居場所が分からない"マリー"は顔を後ろに振り返ると降下してくる事を見たが時は既に遅かった。逆手の短剣により"マリー"の首筋を斬った。人間で言うと頸動脈にあたる部分を斬ると、おびただしい程の黒い血が流れ出てきていた。


シスイは地に着地して、短剣を鞘に収め"マリー"の方を振り返り「人間が弱者だと思っているなら、身の振り方を考えてみてはいかがですか?」その冷たい視線は見たものを凍らせる。


"マリー"は斬られた首を手で抑え初めて膝を着いた。口からも黒い血が流れてきていた。シスイを睨みつけるがまだ動くことは出来ずにいた。シスイの一撃はかなりの致命傷を負わせていた。


シスイの初めての属性と戦闘を見たディーナとスイレン。超大型"マリー"相手でも圧倒した強さは二つ名持ちの二人を圧巻させていた。


「あれがシスイの戦い。やっぱり、貴方の力は…」ディーナは一つ疑問に残っていた戦い方を間近に見て分かった。シスイのもう一つの側面の事実を。


一方のスイレンは開いた口が塞がらなかった。いつもの態度や表情からは想像もつかない実力に「私とディーナさん二人がかりでも傷つける事が精一杯だったのに…シスイさん、貴方は一体何者なの…」力不足や有名になっていないと話していた内容からは逸脱している身のこなしや属性の使い方。シスイの発言が全て嘘なのか、ただの謙遜なのか、スイレンには疑問が募るばかりだった。


シスイは漂わせていた風が消えると、自分自身も消えてディーナ達の目の前に立っていた。「近くで見ると迫力ありました~わたくしちょっと怖かったです~」姿を現したシスイは普段通り穏やかな表情に語尾を伸ばし明るいトーンになっていた。


その二面性の切り替わりの速さにまだついていけないスイレンは「あ、あの、シスイさん、ですよね?」戸惑って本当に本人か確認をした。「はい~正真正銘シスイです~スイレン様どうかされましたか~?お体がよろしくありませんのですか~?」様子のおかしいスイレンの容態を案じた。


「貴方のギャップに驚いているのよ。あそこまで豹変したら戸惑うのも仕方ないよ」一度あの見た事があるディーナはある程度落ち着いた対応をしていた。「あぁ~そうでありましたか~わたくしどうしても戦いになると我を忘れてあのような口調になってしまうのです~我を忘れてと言いましたが覚えてはいますよ~」


「うんそれはいいんだけどね。それと、貴方は風属性って事でいい?」「はい~わたくしは風の属性を扱う事が出来ます~風になりきって動くのはとても気持ち良いのですよ~それで皆さんの目の前に行くと驚かれるのはちょっと不便ではありますが~」

シスイの属性は風属性。以前ディーナと戦った"マリー"とはまた別の風の使い方をしていた。

風は一般的にはそよ風程度の風力しか漂わせる事が出来ないが、強力な属性であれば強風や突風を吹き、足元に風力を纏わせて空を浮いたり、自身が扱う武器等に風を纏わせ攻撃する等多種多様な属性でもある。


しかし、シスイの風属性はかなり特殊である。自らが風になりきって瞬間移動をするなんて前例が無い事である。さらに風向き風力も自由自在に変えられ自分の空中への攻撃の速度も速く出来る、シスイの風属性は異色であり異端。それゆえの実力の持ち主でもある。


「シスイさん、私は貴方の実力でまだ二つ名を持っていないとは思えません。本当に二つ名を持っていないのですか?」スイレンは直感で自分よりもシスイの方が実力は上、恐らく経験も何もかもが。そんな人が有名でも何でもない訳がない。シスイの本性を知ろうとしたスイレンだが「わたくしは本当に二つ名をお持ちになっておりません~世間に知れ渡るほどの有名人ではありませんので~」


あくまで謙遜な態度を崩さないシスイ。「し、しかし…!」「スイレン、今は目の前に集中。質問なんかは全部後で」ディーナがシスイの事でいっぱいになっているスイレンをまだ戦いの最中だと注意した。


「す、すいません。どうしても納得いかなくて…って"マリー"がもう立ち上がっています!シスイさんの一撃も致命傷ではなかったのですか!?」"マリー"は既に血が止まっており傷ついた首も肩も既に傷口は塞がっており、立ち上がった三人を牙を突き立て睨みつけていた。


「いや、シスイの一撃は確かに"マリー"にとって致命傷になっていた。現に膝をついて反撃していなかったから」

「そうですわね~ディーナ様とスイレン様の連携攻撃でもかなり痛かっただろうでしょうがすぐに立ち上がりましたから~」

冷静に"マリー"の分析を始める二人。「こんなにも早いスパンで傷ついてはすぐに回復する…」「"マリー"は明確な属性は使っていません~これらの事を加味すると…」

二人は思考の結果同じ考えにたどり着きました二人同時に"マリー"の属性を当てはめた。「超大型"マリー"の属性は異常な自己再生能力(です~)」


スイレンは二人が答えを出した自己再生を聞き「自己再生?闇属性の類の一つだと聞いたことがありますが、"マリー"の属性が自己再生なのですか?」「推測の域は出ないけどね。でも私の電撃、スイレンの腹部の攻撃、シスイの首筋の一撃、これら全部喰らってあんなにも平然として傷も塞がっている。普通の"マリー"ならどれか一つの一撃でも討伐出来ているはずだけど、さすがは超大型"マリー"って所ね。属性もかなり強大ね」


「それに報告にありましたが応戦してそれなりに傷をつけても進行は止まらずに一夜にして街を壊滅させました~裏付けるとしたら、回復しながらであれば進行はものともしません~今しがたこの目で見て確信しましたが~」

偵察に行っていたシスイは予め"マリー"を見ていたがその時には一切の傷が見当たらずにいた。単に傷をつけられていなかったからと思っていたが、後日の報告に応戦したとの報告を受けた。

この時に気づく要素はあったのだが不確定な事を伝えるのはさらに混乱を招いてしまうと考えていたためシスイは確定した事しか伝えていなかったが、"マリー"の自己再生を見てこの事が確信に変わった。


「では、このまま戦い続けても、こちらが優勢だとしても自己再生で討伐することが出来ない…そんなのどうしようも無いのでは…」努力虚しく突きつけられた事実にスイレンは戦意喪失一歩手前まで精神が追い込まれてしまった。だが、実際問題与えたダメージがあっても再生されてしまったら無意味。ましてやあのフィジカルの高さ、スイレンが絶望に叩き落とされても無理もないことである。


「スイレン!まだ終わってない。失った命があるんだから私達でその仇を討たなきゃ。それにまだ私達には秘策が…」スイレンを宥めるディーナだがふと"マリー"の方を向くとその場には"マリー"が姿を消していた。

「ディーナ様、上です」シスイが上を向いているのを見てディーナとスイレンも上を向くと、巨大な翼を羽ばたかせこちらを一直線に睨む"マリー"の姿が。


「あの翼、飾りじゃなかったのね。まさかあの巨体が宙に浮くなんてね。狙いづらいわね」銃口を"マリー"に合わせるがまだどこを狙えばいいか分からないディーナは照準が合わせられなかったが。

相手がどう動くか分からないためにシスイも柄を握っていたがまだ身動きが取れずにいた。


すると、"マリー"が空中から猛スピードでこちらに向かってきた。シスイはこちらに向かう"マリー"と距離を取り、少し先に離れた。

ディーナも直撃を免れぬように走った。だが、スイレンは意識が"マリー"に向けていなかったためにこちらに向かう"マリー"に瞬時に行動に移すことが出来ずに、焦っているのか水の玉を作り出していた。


「なんとか、これで…!」無茶で無謀、水の玉だけでは"マリー"を止められない。"マリー"は片手を広げてスイレンを掴もうとしていた。シスイも風の属性でも間に合うか分からない状況でリスクを犯す事が出来なかった。


スイレンは水の玉を"マリー"にぶつけたが、その勢いは止まらずにあと数秒で"マリー"に捕まってしまう。

打つ手がないスイレンは足が動かずに静かに自分の運命に従うことに。「ここまで、ですね」死を覚悟したスイレンは目を閉じた。


"マリー"がスイレンを掴む瞬間ディーナが走った勢いでスイレンに体当たりをした。吹き飛ばされた衝撃で目を開けて自分のいる場所にディーナがいると気が付き「ディーナさん?」と呟くとスイレンの代わりにディーナが掴まった。


低空浮上する"マリー"はディーナを勢いのまま地面に引きずり回した。その勢いは硬い地面が抉られる程の勢いであり、数秒間ずっと引きずり回されていた。

そして、ディーナを掴みながら上空へ羽ばたかせて、物を勢いよく投げるようにディーナを投げ捨てた。投げ捨てた先は"マリー"によってボロボロにされた高層ビル。高層ビルに叩きつけられたディーナ、ボロボロで不安定だったビルは勢いよく投げられぶつかった衝撃により、ディーナ諸共崩れ去ってしまった。"マリー"は着地して今日一番の咆哮を放った。


土煙が舞う中、スイレンは倒れた体を上半身だけ起き上がらせて、自分の身代わりとなって"マリー"にボロ雑巾のような扱いを受けたディーナの惨劇を口元を押え、震える手で自分の眼に焼き付けた。

「そんな、私なんかを助けるために……ディーナさん…ディーナさん!!」急いで立ち上がり崩れたビルの元に大急ぎで走るスイレン。その目には信頼する人が代わりとなって受けた惨劇に耐えられないほどの涙を流していた。


全ての現場を少し遠い場所で見ていたシスイは目を見開き驚いていた。

「ディーナ様も"マリー"の突進を避けようと走っていました。ですがスイレン様が動けていないのを見るやいなや、すぐに引き返してスイレン様が"マリー"に掴まれる前に自らを犠牲にして"マリー"の攻撃を受けました…わたくしは分かりません。

助けると、犠牲になるは違います。誰かを助けても自分が助からないと、それは助けていないのと同義です。命は一つ、わたくしはこの手で何度それを体感しました。ですが、命懸けで助けたことはした事も見たこともありません。ディーナ様、どうしてですか…?」


シスイは理解が出来なかった。あの行動はスイレンに命を捧げているようなもの、超大型"マリー"の怪力に掴まれればどうなるかぐらいディーナであれば分かったはず。

スイレンを助けるのなら少ないながらも方法はあったはず。考える時間もあった。少しディーナと一緒にいたシスイでも冷静な判断と即座に対応する反射神経は持ち合わせている事は知っている。あの一瞬でも何か策を練る事が出来たはず。


崩落したビルと生死が分からないディーナをじっと見つめるシスイ。瓦礫や硝子まみれで土埃が舞うビルに近づき、ディーナの安否を確認するスイレン。

「ディーナさん!返事してください、ディーナさん!!」名前を叫びながら素手で瓦礫をどけていくスイレン。まだ生きている事を信じながら。


「スイレン様も諦めていないんですね…ですが、生きていましても、もうお身体は…」想像に難しい事はなかった、ボロボロになり、骨も全て砕け、数分後には命を絶つ事を。


決まりきった結末を未来視するシスイ。だが、その表情は、いつも通りの笑顔ではなく、豹変した鋭い顔でもなく、下唇を噛み締めた、悔しくてたまらない表情だった。

「あれ、わたくしはこんな感情を…?」それは自分自身でも予想していなかった事だった。


初めてシスイは戦場で目の前に集中せずに俯いていた時、突然スイレンが叫んだ。「シスイさん!目の前に"マリー"がっ!!」スイレンの言葉に咄嗟に前を向くと、シスイを狙いまたしても空中から向かってくる"マリー"の姿が。


「しくじりました、余計な感情が入り混じった結果ですね。こればかりは、自業自得…」シスイも自分の運命を受け入れるように目を閉じた。


「もう、私の目の前で仲間を失いたくないのに!」わがままを言ったスイレンだが自分ではどうしようもないのも事実でただ見ることしか出来なかった。


だが、その瞬間、瓦礫の隙間から黒光りする銃口が見えた。シスイが掴まれる直前に銃口からはバチバチと音が鳴ると、"マリー"の全身をも超える程の雷の球が発砲された。雷の球の周りには炎が漂っていた。


見た事がない雷と炎が入り交じった銃弾に気がついた"マリー"だがもう既に"マリー"の身体に当たり吹き飛ばされ、その威力は絶大で並んで建てられていた住宅を何度も突き抜けて飛ばされ、最後にはディーナと同じく崩落したビルと同様の大きさのビルにぶち当たり、"マリー"も崩落していくビルの下敷きになった。


一発の銃弾の威力に驚愕していた二人。そして、瓦礫を蹴飛ばして崩落したビルから姿を現したのは、硝子の破片が至る所に突き刺さり血を流し、羽織っていた黒のコートと服はビリビリに破れ、額と口から赤い血を流しながらも、片手に黒のリボルバーであるフォーリーを持ったディーナが瓦礫の上に立った。


ディーナは一息吐いてフォーリーを懐にしまい、刺さった破片を抜いていった。「どれだけ引きずり回すつもりなのよ、おかげで気に入ってたコートかビリビリになったじゃないの。これ結構高かったのよ。

……痛ててて、硝子抜くのってこんなに痛いんだ。もう体験したくないなぁ」"マリー"にやられた事に文句を言いつつもいつもの態度を崩さないディーナ。


あの惨劇をもってしてもディーナが生きていた事に涙が止まらないスイレンは勢いでディーナに抱きついた。

「良かった…本当に、生きてて良かった」抱きつきながらもずっと涙を流すスイレン。一方抱きつけられているディーナは「痛い痛い痛い!!破片が奥に刺さっていくから!私の命がどんどん短くなっていくから!」力の加減を調整していないスイレンの抱きつきに悶え苦しんでいた。


「す、すいません。つい私も喜んでしまって」そう言ってすぐに離れた。「はいもう泣き止むの。スイレンは無事だったし私も無事だったんだから。結果オーライって事で」

「しかし、その身体でまだ無理をしようとしているんですか?これ以上無理をしたら本当に死んでしまいます」ディーナの身体は誰がどう見ても無理が出来るはずのない状態だった。


「別に無理してないよ。痛いのは痛いけど動けないぐらいじゃないし、"マリー"と戦える力は残ってるよ。現に吹き飛ばしてやったし」

そう言うと懐にしまった黒いリボルバー、フォーリーを再び取り出し「それにしても凄いなぁ。チハツは私の要望を完璧に応えてくれてて。実際に撃つのは初めてだったけど私の属性弾の中でもかなりの高威力の銃弾を二発同時に撃っても反動もないし銃の損傷もない。あんなの他だったら一発で壊れちゃってるよ。改めてチハツに作ってもらって本当に良かった」発射速度や威力もこれまで以上になっており並の"マリー"では絶対に耐えられない威力になっていた。


「あの、ディーナさん。何故私を助けたんですか?身代わりになればディーナさん自身の命が失ってしまっていたかもしれないのに」

スイレンは身代わりとなったディーナの真意が分からずに聞くとディーナは少し考える素振りを見せると「勝手に足が動いたから、かな。あのままじゃスイレン死んでたかもしれなかったから。

逆に動いていなかったら一生後悔してたし、私の足に良くやったって褒めてあげたい。スイレンみたいな若い芽を摘ませる訳にはいかなかったからね」


「それで、私を助けたのですか?そのような理由で…ディーナさんは、お人好しですね」ディーナの性格は曖昧だったが今度こそ理解したスイレン。ディーナは正義感溢れて、優しく、気が遣えて、とてもお人好しなんだと。


「若い芽と言いましたがディーナさんもそこまで私と歳が変わらないのでは?」「いやいや私はもうアラサーに突入してるのよ。二十歳前後の子を見るとなんだか胸が締め付けられて…」スイレンの何気ない一言にどんどんと落ち込んでいくディーナ。


すると、シスイがいつ間にかディーナの隣に立っていた。すぐに気がついたディーナは「シスイも無事?でもその様子だと傷はついていないようね。で、どうしたの?そんな驚いた表情をして。私的にはいつも笑顔のシスイのそんな顔は新鮮でいいけどね」


「ディーナ様、あのような考えにどうして至りましたのか?ディーナ様であれば属性弾でどうにでも出来たはずです。なのに、何故」シスイにとってもディーナの行動には疑問しか募らなかった。


「う~んそれが一番の方法だったからかな。私が身代わりになればスイレンは確実に助けられたし」「で、ですがそれでは命を投げ捨ててるようなものでは…」

「私、フィジカルは強いから。こうやって耐えているし。

まぁちょっとかっこいい言い方になるかもしれないけど、私は友達を失いたくないだけ。理屈なんていらない、こうやってお話出来れば生きててくれて良かったって思う。先の未来なんていくらでも変えられるんだから、一瞬の先のことをまずは変えていかないとね」


ディーナの言葉はシスイの心に突き刺さった。先の未来は変えられる、未来なんて決まっていない。

たったそれだけの言葉だったはず。だがシスイは、決めつけていた未来視をぶち破る、変えられないと思っていた未来が簡単に変わる。それは、目の前のいる、傷つきボロボロになり、血を流していても、笑っているディーナが証明した。


シスイは突然頭を下げた。「えっどうしたの?」「申し訳ありません~わたくしディーナ様はもう死んでしまったと勘違いしておりました~勝手に死なせてしまった事をお詫び申し上げます~」顔を上げたシスイはいつもの笑顔と語尾を伸ばす話し方をしていた。


「別に気にしてないから、言わなかったら私知らなかったからね」「フフフ、お優しい御方ですね」


二人がディーナの無事を喜んでいると、ディーナが吹き飛ばした"マリー"が瓦礫の山となっていたビルから出てきていた。


「やっぱあれじゃ討伐は出来ないか。このままじゃイタチごっこ…」ディーナが"マリー"の再生能力をずっと見た。「ディーナさん、どうかしましたか?」「"マリー"の再生がさっきに比べて明らかに遅くなってる。それに完全に回復しきれていない…なるほど」ディーナはニヤリと笑った。


その笑った意図にシスイも気がつき「ディーナ様のお考えは分かりました~スイレン様も"マリー"の傷をよくご覧になってください~」シスイに言われた通りにスイレンもよく"マリー"を観察すると、ある事が分かった。


「あれは、ディーナさんが言った通り再生が出来ていない箇所が増えている。まさか、再生能力には限度があってそれ以上は回復出来ない」「そういうことね。やっぱり"マリー"も無限じゃないのよ」


間髪入れずに"マリー"に傷を負わせてきた"リンドウ"の攻撃により"マリー"の自己再生能力には限度がある事が判明した。仮に時間が経てば再生出来るだろうが今のこの状況を三人の"リンドウ"が見過ごすはずがなかった。


「それじゃ今が好機って所ね、反撃ののろしを上げましょうか」そう言ってディーナは白の拳銃、ローゼンを取り出してマガジンを変えて空に一発撃った。すると銃弾は空中で弾けて赤い煙が舞った。


ディーナの撃ったは赤い煙を見て二人は「いよいよ秘策の出番なのですね」「これはとてもお楽しみにしておりました~」遂に三人が持つ秘策を発動する時が来たのだ。


ディーナは二人を見て頷いて、口から流れる血を手で拭って「よくもやってくれたわね。気に入ってたコートをボロボロにした罪は、お前の命以上に重いわよ!」

三人は再び臨戦態勢に入り、超大型"マリー"との決着に踏み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ