快晴の"リンドウ"
ディーナが"マリー"討伐に赴いている間、ルムロの大門の前にはヴァレア一人が"マリー"を下敷きに座って足を組んでいた。腕を組み目を閉じて、誰かを待つように静かに。
ヴァレアの周りには無数の"マリー"の残骸が。ヴァレアの読みは当たっており、"マリー"は二体だけではなく、軍勢を率いていたようで大元の"マリー"が二体だけであり、残る"マリー"達はルムロに攻め込んだ。だが"最強のリンドウ"の前にはどんな数であっても他愛もない、ものの数分で全ての"マリー"を討伐した。
まだ残党が来ないようにヴァレアは大門で見張りをしていたが、一人の"リンドウ"の帰りも待っていた。
すると、微かな足音が聞こえ目を開けて立ち上がったヴァレア。ヴァレアの目の先には複数のかすり傷はあるがこちらに気がついて手を振るディーナが戻ってきた。
ディーナはヴァレアが討伐した残党を見渡しながらヴァレアの元まで歩いて「"リンドウ"のディーナさん、ここに無事に戻ってきましたよ~」上半身を少し突き出して敬礼するように手を頭に当てた。
「その様子だと苦戦はしなかったようだな」「いや~二体の連携はあったけど大したことないし、私の属性弾の敵ではなかったかな~」
口ではそう言っていたディーナだが身体をよく見るとかすり傷が至る所にあった。無事で戻ってきたが激しい攻防があった事がひと目で分かったヴァレアだったが「そうか、何はともあれ無事なら良い。今回は手柄だったな」ディーナの名誉のためにも何も言わずに少し笑った。
「貴方にそう言われると何か裏があると思っちゃうんだけど。もしかして煽てて今回の報酬金で借金を返せって言うんじゃ!」ヴァレアの優しさに何かあると警戒するディーナ。「そんなつもり毛頭なかったが、口でそう言うのならネルルにお前の分の報酬金もこちらに渡るように…」「冗談よ~ヴァレアはとっても優しいからね~」すぐに改めてヴァレアの機嫌を取った。
ディーナは"マリー"の残骸が無数に転がっている辺りを見渡し「言った通り"マリー"の群れが来てたのね。この数、あの二体の"マリー"が主犯なのは確かってことね。警備が手薄な所を狙ったのでしょうけど相手が悪すぎたわね。"最強のリンドウ"の前でこの大門の先に行けると思ったのかな?想像力が貧しいわねぇ」
「なんにせよ私が守るだけだったからな。それに大門を運良く潜り抜けた所で精鋭されたルムロの兵に"マリー"が勝てるわけがない。鉄壁の守りに"リンドウ"、私達の勝利だ」
ヴァレアは完全に勝利宣言をした。ディーナもその言葉に笑顔を見せた。「これでルムロは守られたってことね。良い依頼をこなしたわ」
ディーナとヴァレアは大門を開けて王宮まで歩いていくことに。
雑談をしながら街中を歩いた。兵達の避難もあって街には人が居なくなって安全を確保されていた。その静かな街を歩いていると、一人の女性が誰かを探すようにキョロキョロと見渡していた。
ディーナとヴァレアが女性に近づいていくと、女性と二人が目が合った。目が合うと走ってこちらに近づいてくる女性。ディーナとヴァレアもひと目で誰かが分かりディーナが名前を呼んだ。「チハツ~」キョロキョロと見渡していたのは武器職人で鍛冶屋のチハツだった。
「アンタ達探したよ。街の奴らは全員居なくなってるし、何かあったのかい?」どうやらこの状況を理解していないようだ。「何かあったって、"マリー"が襲撃に来たのよ。知らなかったの?」「知るわけないだろ。アタシは武器の制作で忙しいんだ、世界の情勢なんて興味無いし」
状況を知る知らない以前にチハツの言動から本当にココ最近の出来事は何も知らないようだ。
するとヴァレアが口を開いた。「チハツは制作に取り掛かると工房に篭って表に姿を出さない。自分の納得のいく作品を作り出すまで外に行く時間も惜しいんだろう。だから十日間ほど外に出てないんじゃないか?」
完全にして完璧な作品を作り上げる、それがチハツの美学だった。生半可な物を依頼者に出すなんてチハツにとってありえない話だ、気に入った相手だったら自分の時間がどれだけ削れても絶対に満足させる作品を作る。そのためには自分が納得しないと意味がない、自分が完璧だと思わないと相手が気に入るはずもない、そう言った理由があり時間がある限りは作品に力を込める。それがチハツが工房から姿を出さない、一つの美学なのだ。
「当然だ、外に出る時間があれば作品を完璧に近づけさせる。中途半端な物だったらその時点で捨ててる。完成してやっと納得行って外に出るんだよ」
チハツの美学に納得したディーナは「まさに職人ね。貴方みたいに大切に制作してくれる人に銃を作ってもらえるなんて、私は誇らしいよ」ディーナの言葉にチハツは嬉しくなって笑顔を見せた。
「私達を探していたと言うことは出来たのか、ディーナの銃が?」制作が終わらない限り外には出ないチハツが今現在外にいるということは「ああ、久しぶりにこんな清々しい作品を作ったよ。見なディーナ、これがアタシが出来る本気の…」ディーナは目を輝せてチハツが懐から出してくるのを待っている時だった。
何かの気配に気づきヴァレアが突然後ろを振り返ると「ディーナ、見ろ」チハツの作品を見る前にディーナも振り返ると大門の頭上に黄色の"マリー"が二本のノコギリの刃のような刀を両手に持ちディーナを睨みつけていた。
ディーナは咄嗟に銃を取り出して銃口を向けた。「雷に耐性でもあったの?雷属性持ちなら少しでも耐性があるか…ちょっと確認不足過ぎたかな」「あれが戦った"マリー"の一体なのか、あの様子だと死の淵から復活したように見えるがな」
"マリー"の身体は黄色の色が分かるがほとんどが黒焦げになっており瀕死の状態からなんとか蘇り、ディーナに復讐に来たと読んだヴァレア。
「ヴァレアごめんね、ちょっと手を煩わせる形になるけど手伝ってくれる?」「この国に"マリー"の汚らわしい足を踏み入れさせる訳にはいかない。速攻で片をつけるぞ」ヴァレアも柄に手を掛けて臨戦態勢に入った。
「チハツ!危ないから下がってて、鍛冶屋でも一般人貴方が万が一にでも巻き込まれたら…」顔だけ振り返ってチハツに逃げるようにと言ったが、そこにはチハツの姿がなかった。
「あ、あれ?チハツどこに…」すると、ヴァレアは柄から手を離した。「ヴァレア、速攻で倒すんじゃないの?」ヴァレアの行動に意図が分からないディーナ。
そこでヴァレアが「前を見てみろ、特効しているぞ」「えっ?」ディーナも前を見るといつの間にかチハツが猛スピードで走っていきその勢いで常人ではありえない程のジャンプをすると、大門の頭上にいた"マリー"を目の前まで飛んで、危険極まりない"マリー"を拳で顔を殴り大門の外に落ちていった。チハツも殴った勢いで大門の外に落ちていった。
出来事全てを見たディーナは驚きを隠せずに「えぇーー!!ちょ、ちょっとチハツ!?武器も何も持たずに"マリー"に特効するなんて、しかも"マリー"の顔を殴ってたよね!身体にどんな事があるか分からないのに殴るってある意味すごい。
ってかそんな事を言ってる場合じゃない!ヴァレア助けに行こ、一般人のチハツじゃすぐに…」慌てふためくディーナ。一般人が強大な"マリー"に挑むなんて自殺行為、すぐに助けに行こうとしたがここでヴァレアがある一言を。
「チハツは"リンドウ"だぞ」この一言がディーナを混乱させた。「えっ、チハツが"リンドウ"?いやそんなこと一言も言ってなかったし、大体チハツは自分で武器職人に言ってたし…どういうこと?」頭の整理が追いつかないディーナ。
「確かに今は鍛冶屋としての側面が大きいが、チハツは協会に属する"リンドウ"の一人だ」れっきとした"リンドウ"だと言ったヴァレアに空いた口が塞がらないディーナ。
「だが相変わらず大胆な戦い方をするな、一目散に"マリー"に殴りに行くなんてチハツぐらいだろう」「そんなことよりも速くチハツに加勢に行かなきゃ!一体だけしかいないけどそれでも強い"マリー"には変わらないんだから」
ディーナは一人走り大門の先にいるチハツと"マリー"の元に向かった。大門を潜り、銃を構えてチハツを手伝おうとするディーナだが目の前には、炎がチハツと"マリー"を囲んで一体一の状況が出来てあり誰にも近づくことが出来なかった。
「炎?あの黄色の"マリー"は雷の属性だったから、チハツは炎属性…?」チハツが炎の属性を操るのは目に見えて分かったディーナ。
チハツは殴られ落ちていった"マリー"が膝をついてひざまつく中で「アタシの作品が客の納品日なんだよ、何を邪魔してくれてんだ。"マリー"如きが邪魔するなんてな、百年早いんだよ!」腕を突き出して手を広げると、手の中に何も無かったがどこからともなく炎が溢れ出しその炎を掴むと刀の柄が出てきた。柄を鞘から刀を引き抜くように腕を上に上げると、チハツの手には日本刀を持っていた。
日本刀を片手にチハツは手を手招きするように下から上に振って「来いよ、根っから叩き直してやるよ」挑発をしたチハツに怒り、"マリー"は立ち上がって黄色の刀を空に掲げると空が曇天になり刀に雷が落ちた。雷が落ちた刀は稲光が走り電気の帯びた刀となった。
「なってねぇな。乱暴に武器を扱ってなんになるんだよ」
雷の帯びた刀ともう一本の刀を持ちチハツに突っ込んで行く"マリー"。水色の刀を突き出してチハツを穿こうとするが、体を反らせて簡単に避けた。だが雷の帯びた刀を振るってチハツに斬りかかろうとした。チハツは炎の中から取り出した日本刀を雷の帯びた刀に力強く振るい弾いた。力量が圧倒的にチハツの方が強く"マリー"は弾かれよろめきを見せた所をチハツは"マリー"の腹部に前蹴りを繰り出した。前蹴りが当たった"マリー"はそのまま倒れてしまった。
「大したことねぇな。それで邪魔しにきたってか?お門違いも甚だしい」チハツの言葉にさらに怒り狂い、すぐに立ち上がり最早理性も無くなった"マリー"は、雷の帯びた刀でもう一度斬りかかった。チハツは姿勢を低くして日本刀を構えた。刀の矛先がチハツに当たる手前にチハツは日本刀を下から上に振るい、雷の帯びた刀に衝突させた。"マリー"の持つ刀はチハツの一撃に耐えることは出来ず跡形もなく砕け散った。
すかさず"マリー"は水色の刀を慌ただしくチハツに振るったが今度は日本刀を上から下に振るい、水色の刀の刃を真っ二つに折った。
為す術がなくなった"マリー"に「なまくらがァ!」と、叫びながら飛び、"マリー"の顎に膝蹴りを繰り出した。その衝撃で宙に浮く"マリー"に地上に降りたチハツはもう片方の手に拳を震わせチハツの属性である炎を拳に纏わせて「とっとと消え失せろ!!」"マリー"の腹部に渾身の一撃を与えた。その一撃は"マリー"をはるか彼方に飛ばすほどの一撃で周りを囲んでいた炎を突きぬけて直視出来ないほど遠くに飛んで行った。
間違いなく"マリー"を討伐したチハツは親指で下唇を少しだけかするような動作をして囲んだ炎が消えていく中でチハツは最後に"マリー"に対して「二度と面見せんな"マリー"風情が」
ディーナが一度退けて傷ついている"マリー"とは言え圧倒的強さを見せつけたチハツの戦いに唖然としているディーナ。
「どうだった、チハツの戦いは?」ヴァレアが後ろから来てチハツの戦いの感想を求めた。「いやぁ、強いと爽快。"マリー"に正面切ってぶん殴って討伐する人なんてチハツ以外見たことないよ。炎の属性を使う人でもこんなに豪快な人は居ない、"リンドウ"でも手練な人だって見てわかるほどだよ」
「当然だ。チハツは二つ名持ちだからな」「そうだろうね。ちなみに名前は?」
「その爽快なる戦いと豪快な性格、人々になんの躊躇いもなく接し誰にでも自分を見せる姿、"マリー"に素手で戦い炎の如く熱い戦闘に人々はこう言った。"爽炎の快晴女"、透き通る青空の命名に誰しもが納得したさ」
チハツのもう一つの姿、"リンドウ"としての側面はもう一つの異名、"爽炎の快晴女"。自分が二つ名を持った時、二つ名等に興味を持っていなかったチハツだったが自分の二つ名を聞いて「そいつは良い名だ、興味は無かったが有難く頂く。快晴か….悪くねぇ響だ」太陽が絶対に顔を出す快晴の言葉を大変よく気にいっていたそうだ。
チハツは"マリー"との戦闘を終えて手に持つ刀が炎に包まれるとその場にあったはずの刀が消えて無くなっていた。振り返って街に戻ろうとすると「なんだ、アンタらいたのか?巻き込まれちゃいないようだ。いるならいるって言いな、知らずに炎の餌食になるかもしれないだろ?」どうやらチハツはディーナが後ろにいることに気がついていなかったようだ。
「"マリー"が逃げないように炎で囲んでいたから私が見えないのね。貴方の戦いを見させてもらったわよ、"リンドウ"としては申し分ない実力ね」「アタシが"リンドウ"って知らなかったのか?最近はそっちの活動してないし当然か。んな事どうでもいいんだよ。完成したぜ、アタシの至極の作品がな」
チハツが腰にぶら下げていた袋から何かを取り出そうとすると「まずは報告から先だ。これでルムロは"マリー"からの危機が去ったからな。チハツも来てくれ、意図してなかったが"マリー"を討伐した功労者だからな」
ネルルの報告が先だと言ってお披露目はまだと伝えた。
「王宮か?アタシはあんまり堅苦しいのは苦手なんだが」「そう言うな。それに、頼みたいこともあるからな」ヴァレアからの頼み事に少し眉を上げるチハツは乗り気ではなかったが「なら仕方ねぇさっさと王女様に会いに行くぞ。ディーナは楽しみにしておけ、とっておきのを後で見せてやるよ」チハツはそう言ってその場を後にして王宮まで歩いていった。
「チハツにも報酬を?」「国を守った一人だからな、ネルルに言えば何かしらの報酬は与えるだろう。一人で勝手にしたことだが、結果的に"マリー"を退けたからな。銃の受け取りは後ででいいだろ?」
「私はいつでもいいよ。それに私も早く報告がてらフェリスに会いたいし」
こうして、二体の"マリー"からの脅威は三人の"リンドウ"の手によって完全に終止符を打った。しかし、ディーナこれから始まる大規模な"マリー"の討滅戦をまだ知らなかった、手練の"リンドウ"三人が力を合わせる事も何も。




