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カエデ  作者: アザレア
大国の職人
32/86

王集会議

ディーナ達がルムロに来てから十日が経った。未だ"マリー"に目立った動きもなく、そもそも国の近くにさえ"マリー"の姿は見えなくなっていた。


"リンドウ"が来て危機を感じて逃走したのか、それともまだ好機を伺っているのか、様々な憶測は立てられてはいるが警戒を解く理由はなく常に国には見張りの体制がついていた。


そんな中、"マリー"の襲撃も無いディーナはと言うと…


----------


"マリー"の襲撃やチハツからの連絡も無く、部屋に籠ってベッドの上でダラダラとしているディーナの姿がある。ネルルとの会話やケイの鍛錬にも付き合っていたが主な"マリー"の仕事もしていないために暇を持て余していた。


ディーナは十日経った末にすっかりと王宮の贅沢な暮らしに慣れてしまいディーナ曰く「もう事務所をここに移動させて活動拠点にしよっかな~ネルルに言ったら大丈夫そうだし」もう完全に元の生活に戻れる状態にはなっていなかった。


しかし、同じ部屋にいるフェリスに「お姉ちゃん、お仕事は大丈夫なの?お家に戻らなくてもいいの?」と、心配されていた。フェリスは王宮の生活は贅沢だがそろそろ事務所、自分の家が恋しくなっており、少し帰りたくなっていた。

しかしディーナは陽気に「大丈夫大丈夫、私以外にも"リンドウ"はいるから。それに私もお仕事してるからね」「そう、なんだね」


ディーナが事務所の生活に戻った時に慣れないんじゃないかと不安になるフェリス。

すると「よくそんなに暇を持て余せるな」ディーナの部屋にどこからともなくヴァレアが寝転んでいるディーナを見下ろしていた。ヴァレアがいることを知らなかったディーナは驚いて起き上がった。


「ヴァ、ヴァレア!いつからいたのよ」「ついさっきだ、それよりもフェリスに心配されてどうするんだ。いつもフェリスを心配してる側が逆になってるぞ」

自堕落過ぎる生活を送るディーナに呆れ気味のヴァレア。


「うっ…言い訳はしたくないけど、"マリー"が来ない状況でこのVIP対応はちょっと事務所に戻るのも躊躇っちゃうから…」「そろそろ規則正しい生活に戻る準備でもしておけ、フェリスなんて朝に私の部屋に挨拶に来るぐらいだぞ。フェリスから規則を学んだらどうだ?」

「そこに関してはぐうの音も出ないと言うのが正しい」


「それでどうしたの、わざわざ部屋に来たって事はちょっと緊急って感じ?」ヴァレアも今は王宮に住んでおりいつでも会える状況ではあるがディーナの部屋にまで来るのは初めてのことだった。


「ああ、今日は王宮にとって大切な日だからな。"マリー"の討伐以外にも手伝って欲しいことがあるとネルルからの頼みだ。至急準備をしろ」「大切な日?"マリー"が襲撃する可能性もあるのに何をするつもりなの?」

「各国の首脳や陛下が一同がルムロに集う王集会議(おうしゅうかいぎ)と呼ばれる日が今日ある。半年に一度、世界の情勢や"マリー"の危機、各国の状況を世界のトップ達に伝えることで世界の均衡を保つ、それが王集会議(おうしゅうかいぎ)だ。陛下や首脳を集めるんだ、厳密に予定を組まれた彼女達の日程の変更が出来るはずないだろ。少々危険ではあるが王集会議(おうしゅうかいぎ)を中止する訳には行かない、それこそ間接的ではあるが世界が危険になる可能性もある。ルムロの総力を挙げて彼女達の護衛をしなくてはならない、それにディーナも参加して欲しいと言うことだ」


ヴァレアが言った通り、王集会議おうしゅうかいぎと呼ばれる世界が注目する一つの会議が間近に迫っていた。警備も厳戒態勢になっており王宮は緊迫感に包まれていた。陛下や首脳に何かあればルムロの名に傷をつけてしまう。そこで偶然にも居合わせている"リンドウ"のディーナに王宮や客人の護衛をして欲しいともう一つの依頼がヴァレア経由で伝えられた。

ネルル本人が伝えれば良いのだが会議の準備や資料をまとめていたりと多忙のためにヴァレアに伝言を頼んだようだ。


「なるほどね、それならお易い御用。どんな事があっても皆を守ってみせるよ。でもネルルも人が悪いね、それなら事前に言ってくれればよかったのに」

王集会議が開かれると事前に言えばディーナも最初から警護に回っていた。何故直前になって言った事に少し不服に捉える。


「いや、事前には伝えることが出来なかった」「どうして?」「王集会議は知っているだろ?」「まぁ詳しくはないけど、新聞に載ってあるのを少し読むぐらいかな。フェリスも知ってるでしょ?」


ここでフェリスにも王集会議の事を聞くと「う、うん。世界のすごく偉い人がどこかに集まるって書いてなかったけど、ルムロだったんだね。フェリスも今日は何だか皆怖い顔をしていたからちょっと怖かった。ネルルさんとも今日は会ってない」毎日のように時間を作ってフェリスと話をしていたネルル。ネルルには完全に警戒心を解いたフェリスはディーナと過ごす時間と同じようにネルルとの会話を楽しみにしていた。今日は流石に無理だと分かってはいるが。


「今日ばっかりはネルルと会うのは少し無理があるね。えっと…王集会議の事ね、でもルムロに来るのは知らなかったわね。大国とは聞いていたけどまさか世界の中心が沢山来る場所だったとはね、それに新聞に載る時も後日結果だけ…なるほどね。事前に言えないのは完全シークレットで行われるから、誰の耳にも入れさせないのね、それなら納得」

王集会議の日程等の詳細は極わずかな人物しか伝えられていない、それも多大なる信頼に足る人のみに。もし誰かに伝わり陛下や首脳の命を狙う者に伝わりでもすれば、会議どころではなくなってしまう。最悪のケースも考えられるために、極秘で行われる会議である。そのため世間に伝わるのも少し時間が経ってからのことである。


「察しが早くて助かる。なら早く準備して…」ディーナに支度をしろと言ったその時、部屋の扉が勢いよく開いた。三人は一斉に扉の方を見ると慌てた様子のネルルがいた。


ルムロの代表であるネルルがそこにいることに驚いた表情を見せるヴァレアは「ネルル、どうかしたのか?」ここに来た理由を聞くと「ヴァレア、ディーナ、"マリー"が目撃された!ルムロの近辺に、今すぐにでも襲撃されてもおかしくない状況よ!!」王集会議が数時間後に開かれる時に"マリー"襲撃が目前の状況は二人に激震を走らせた。


ディーナは緊急事態にベッドからすぐに立ち上がり、部屋のテーブルに置かれている二丁の銃を手に取り懐にしまった。

「まさかこのタイミングとはね。青天の霹靂って所ね」「悠長に言っている場合か。とにかくまずは状況整理だ」二人は冷静にネルルから現時点での状況を聞いた。


「ネルル、陛下達は全員来ているのか?」「い、いえ、現時点で到着している人もいるけど全員ではない。このままじゃ来る人達が襲われる可能性がっ!」客人の危機に今にも泣き出しそうになるネルル。

「落ち着け、そのために"リンドウ"がいて私達がいる。世界を握り権力者達に指一本足りとも触れさせはしない」


ヴァレアはディーナの方に振り返り「ディーナ、準備は出来てるか?」「いつでも行けるよ。安心してネルル、私が"マリー"を討伐するからね」"マリー"が近くにいると言うが余裕笑みを浮かべるディーナ。


「ディーナ…うん、私が弱気になったらダメね。私はもうルムロを指揮する殿下なんだから。ディーナ、貴方に"マリー"討伐の任をお願いするね」ディーナの余裕にネルルも落ち着きを取り戻していき、"マリー"討伐をディーナに託した。


「急げ、"マリー"が権力者達を狙ったら護衛がいても時間の問題だ」「りょーかい、お偉いさん達からまずは離さないとね。ヴァレアはここに残る?」

「私は街を守る。"マリー"が二匹だけとは限らない、王宮はケイや兵がいるから問題ない。市民は私が守る」

「役割は決定ね、そうと決まれば私は行かなくちゃね」


"マリー"討伐へ出陣しようとしたディーナだが、部屋の扉ではなく、フェリスに近づいてフェリスの目線までしゃがんだ。

「それじゃ私はお仕事に行くからフェリスはここで待ってて。ここならネルルやケイもいるから安全。でも今日だけは私やヴァレアが戻るまでこの部屋から出ちゃダメだからね。偉い人もいっぱい来るし、何より"マリー"の危険がある。部屋から出ないって約束出来る?」

フェリスの容姿は偉い人から見たら驚いてフェリス自身にも脅えてしまうかもしれない。"マリー"の危険もあり部屋からは出さない方が良いと判断した。

それに、ディーナはどこか胸騒ぎをしていた。まだフェリスを自分やヴァレア等の"リンドウ"、この王宮に住む人達以外の国の権力者達にフェリスを会わせることが躊躇ってしまう。面と向かって会うことはないにせよ何かの拍子に会ってしまうかもしれない。可能性を潰すのならフェリスを部屋から出さない方がいい。

確証の無い事ではあるが、自分の直感を信じることにした。


「う、うん。待ってる事にはどんどん慣れて来たから。寂しいけど、お姉ちゃんならフェリスを一人にしないってフェリス思ってきちゃった。だからお姉ちゃんが来るまでここから出ないよ、フェリス約束出来るよ」

ディーナの約束を守ると言ったフェリス。ディーナは微笑みを見せてディーナの小指とフェリスの小指を絡ませた。

「私がフェリスを一人させる訳ないでしょ。絶対に戻ってくるから、待っててね」「うんっ!」二人は笑い合っていた。


「ネルル様!」部屋の扉の方からネルルを探して走り回っていたケイが来た。「"マリー"が近辺に確認されています、急ぎ王集会議の部屋に避難してください。あの部屋であれば警備は充分、必ずお守りすることが出来ます。さあ早く!」

ネルルを守るためにケイは安全な場所に誘導することに。


自分もヴァレア達について行きたかったが自分の立場や実力、ついて行けばかえって足でまといになってしまう。ルムロを守るためには自分は生きないといけない。ネルルは冷静に考えディーナとヴァレアに「ヴァレア、ディーナ。必ず守って!」力強く発した声は二人の心に響いた。


「さあネルル様、行きましょう!」ケイの顔を見て頷くとネルルは誘導よりも先に王集会議の部屋に走っていった。ケイもネルルについて行く前にディーナと目を合わせて「ディーナさん、貴方が"マリー"を討伐を赴くと聞いています。どうかご無事で、また私に稽古をつけてください」「任せて。お互いの役目を全うしよ」

ディーナはケイに任せてと言う意味を込めて腕を突き立ててお指を立てた。余裕の無かったケイだったがディーナの笑みと心の余裕に緊張感が少し和らぎ笑った。


「門の付近の兵にディーナさんが来ると伝えてあります。"マリー"の居場所も兵なら知っています、その指示に従ってください」ケイは伝言を伝えてネルルの後を追って走っていった。


「門の兵ね、分かった。それじゃヴァレア、また後でね」「ああ、速く勝ってこい」「お姉ちゃん、頑張ってね!」

フェリスの声援に鼓舞されてディーナも部屋から出て走っていった。


「私も行く、ディーナの言う通り部屋からは出るなよ」「は、はい、ヴァレアさんも、気をつけてください」ヴァレアにも声援を送るとヴァレアは少し口角を上げて部屋から出ていった。


ヴァレアも走って王宮の外に出ていく時ふとこんなことを考えていた。

「しかし、タイミングはあまりにも"マリー"側にとって良すぎる。"マリー"の頭が切れるのか、権力者達を狙っての行動だとしたら、何が目的なんだ。

大勢の人を襲うのなら街の住人だっていいはずだ、奴らにとってこれは好都合なのか…まさか、"アフィシャル"が関与しているのか。

……いや、今は考える時ではないか。私も守らなくてはいけない、ネルルの愛するこの国を」


ヴァレアは街まで走り抜けた。彼女が口にはしなかったが"アフィシャル"、この単語の意味とはいったい…

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