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カエデ  作者: アザレア
大国の職人
31/86

殿下の側近

ネルルの右腕であるケイがディーナの実力を知るために勝負を申し出た。ディーナも銃を構えて不敵の笑みを浮かべていた。


ケイは両手に大剣を持ちながらディーナに突っ込んで目の前で止まりその勢いのまま大剣を振り下ろした。

ディーナは振り下ろされる大剣を冷静に見極めて右にステップしてケイの後ろに回り込んだ。振り下ろした大剣は地面に当たり、少し地割れが起きていた。


再度銃口を向けて後ろから発砲しようとトリガーに指をかけたが、自分の背中付近にいるディーナに今度は大剣を片手に持ち替えて半回転に回りながら大剣を振るった。

トリガーを引く余裕がなかったディーナは大剣に斬られる瞬間にバク転して振るった大剣を回避した。


バク転したディーナは銃口を向けて瞬時にトリガーを引いて属性の込められていない弾丸を五発撃った。銃声が聞こえたケイはすかさず大剣を両手に持ち自らの身体を守るように大剣の刀身を弾丸に向けた。撃たれた弾丸は全て刀身によって弾いた。


弾かれてもなお何も動揺しないディーナは銃口を向けながらではあるが笑っていた。「さすがは殿下を守る矛であり盾ね。柔軟な対応力も洗礼されたからこそ出来る技ね」"リンドウ"ではないケイだが身のこなしや武器の使い方は並の"リンドウ"では出来ない動きばかりである。


「私の動きについてこれ、身軽に避けられる。やはり噂に聞いた"リンドウ"です。この国に…いや、"リンドウ"の名を挙げろと言われたら上位に出てくるお方だ、世界に名を知られているだけはあります」

ケイもディーナの動きには関心していた。ディーナの避け方や攻撃の素早さ、数々の"マリー"の戦ってきた証拠でもあった。


「お褒めはきっちりといただくよ。それでこそ"リンドウ"の名声が上がるからね」「なるほど、生半可では一太刀も浴びせられません。ならば、私もこの力を使わざる負えません」


ケイは大剣を両手に持ち顔の横に構えて息を吸った。静かに息を吸った瞬間に、ケイの手から稲妻が走り、雷が宿った。バチバチと音が鳴り始め、両手に持つ大剣の刀身にも雷が纏い、一瞬にして雷の大剣が完成した。


「貴方、雷の属性なのね。それに自由自在に武器にも雷を纏わせる辺りを見ると、相当に強力な雷属性ね」何かしらの属性を持っているのは分かっていたディーナだが何の属性なのかは分かっていなかった。

それが雷属性で武器にも宿せる力を持つ属性だと知って驚きながらも、楽しんでいた。


一般的に雷の属性を持つ女性は静電気程の弱い電力を扱う女性が大抵である。稀にいる電力が強い属性を持つ女性でも自身の体に雷を宿らせ身体能力を強化する力を持つことがある。

ケイが武器に雷を宿らせることはかなり高度、それでいて強力な電力を持つ属性ではないと出来ない芸当である。


「ネルル様を守るためにはこれぐらいは出来て当然です。ディーナさんが"奇術の属性弾"と呼ばれる二つ名を持つ人であれば今から放つ私の一撃にも何かしらの対策はしてくるはずです。

ネルル様に認められし貴方ですが、私もこの一撃は本気です。受けてみるがいい、我が属性の力を!」


ケイは両手を下に下ろして脇構えと呼ばれる構え方になり、目を閉じ精神を統一して、目を開けると同時にディーナに突っ込んでいき一定距離まで近づくとディーナの背丈よりも遥かに高く飛び上がり、大剣を振り上げてディーナまで一直線に落ちていった。


しかし、その場を動かないディーナにケイは「ディーナさん私は本気ですよ!!」このまま振り下ろされれば確実に雷の大剣に直撃してしまう。ケイは避けないのであれば本気で大剣で斬り下ろそうとしていた。


するとディーナは神速の早業でマガジンを変えて、銃弾を地面に撃った。さらにもう一度マガジンを変えて今度は上空に発泡した。ケイはディーナの意図が分からずに大剣を振り下ろそうとしていた瞬間、地面に撃った場所から大量の水が吹き出した。吹き出す水の勢いは凄まじく、辺り一面はディーナの足元が浸かる程浸水していた。


浸水した様子を見たディーナはその場から垂直に飛び上がった。ケイは上空をふと見上げるとそこには大きな氷柱が天井から伸びていた。ディーナはその氷柱に掴まり宙に浮いた。

誰もいない浸水した水に雷を宿らせた大剣を振り下ろした結果、雷が水に着いた瞬間に水に雷が走った。その雷が走った水に着水したケイはそのまま感電してしまい身体に衝撃が渡った。


苦痛の表情を浮かべるケイ、いくら雷属性を持つケイでもいきなり全身に雷が渡れば動けなるのは当然であった。しばらくしてから浸水した水が雷によって干されていき、辺りは水の無い普通の状態に戻っていた。

ようやく感電から解き放たれたケイだったがあまりの衝撃に膝をついてしまい、大剣も地面に落として呼吸を整えていた。


そこに飛び上がり氷柱に掴まっていたディーナが降りてきて、ケイの前に立った。ケイはディーナを見上げすぐに立ち上がろうにも足が言うことを聞かなかった。せめて大剣だけでも握ろうと手に持とうとしたがディーナは大剣の柄の部分を軽く蹴り遠くに飛ばした。打つ手が無いケイはただディーナを見上げるしかなかった。


そしてディーナはケイの顔の目の前に銃口を向けて「勝負あり、私の勝ちでいい?」トリガーには指をかけていなかったがディーナは自分の勝ちを宣言した。

ケイも誰がどう見ても結果は分かりきっている状況に「完敗です。私も一から鍛錬のやり直しです」ケイは自分の負けを認めた。


勝敗が決し、ディーナはニコッと笑い銃を懐に納めて自分で飛ばした大剣を取りに行き、大剣を手に持ちケイの元まで歩いた。大剣を片手に持ち、中腰になってもう片方の手をケイに差し伸べた。

「立てる?雷属性持ちとは言ってもいきなり全身に雷が流れるのは痛いよね」ケイの身体を案じた。ケイは微笑みを見せてディーナの手を掴んで立ち上がった。「問題ありません。少しまだ身体が痛みますが動けないほどではありませんのでご心配なく」


ほっと腕を下ろすディーナだがすぐに申し訳なさそうに大剣を見せて「ごめんね、ちょっと乱暴に扱っちゃった…刃とか欠けたりしてない?私は銃の扱い専門だから剣の事はよく分からないのよ。だから慎重に見てね」

自分で飛ばした大剣だったがもし何か刃こぼれ等していたらと思うと申し訳なくなってしまう。


しかしケイは大剣の状態を確認せずに手に取った瞬間に鞘に収めた。「何をおっしゃいます、命をかけた戦いだったので相手の武器を手に届かない場所にするのはおかしな話ではありません。ましてや私が突然戦いを挑んだ事です、刃こぼれしていても私の責任ですのでお構いなく。それに、刃の方ではなく柄の方を蹴ってくれる配慮もして頂いています」

戦いの最中、大剣の柄を蹴り少しでも傷つく可能性を低くする配慮をしたディーナをしっかりと目に映っていた。


「いや~別にたまたま柄の方だったからと言うか…」少し照れ気味になり後頭部を掻くディーナ。

「いえ、勝敗が決した後に私の剣をわざわざ取りに行ったり私に手を差し伸べてくれた。それにあれ程属性弾を持つ貴方です、私を瞬時に倒せる弾丸をお持ちのはずなのに敢えて使わずに私の鍛錬に付き合ってくださった…貴方の人柄を見てネルル様はお認めになったのですね、この私も身をもって分かりました」

ディーナの優しさや戦闘能力、全てにおいてネルルと友達になってもおかしくなかった。ケイはディーナの人間味溢れる行動を戦闘中に体感しこの王宮に相応しい人物だと認めた。


「そんなに褒められると照れるなぁ。私は普通に戦っただけなんだけどね」頬を少し赤らめるディーナにケイは「そういう一面もネルル様に気に入られる所ですね」口には出さずに微笑んでいた。


「あっ、そう言えば庭園に案内を…」本来の目的を忘れそうになっていたディーナは再度ケイに庭園の案内を頼もうとした時だった。「貴殿ら何をしておる!」ディーナの後ろから怒った表情のネルルと突然怒り出したネルルに戸惑う様子のフェリスが来ていた。


「兵の一人から聞いた、何やら宮殿内で争い事があるとな。誰がそんな不埒な事をしておるかと思ったらまさかディーナとケイだったとはな。何をしておった、一から説明するがよい。私が納得出来るようにな」

昨夜見た無邪気な彼女ではなく殿下としての風格を見せるネルル。顔には一切の笑みがなく二人を蔑んだ目で見ていた。


「ネルルの殿下様モード怖っ!確かに宮殿内で暴れたら怒られるとは思ったけどここまでギャップの差があるとちょっと恐怖すら感じる」ネルルの豹変ぶりにどうしたらいいか分からないディーナは「いや、これは、その…」上手く言葉に出来ずにたじろいでいた。


すると、ケイがネルルに膝をついて頭を垂れた。

「申し訳ありませんこれは全て私の責任です。ネルル様と御友人にディーナ様ですが私はまだディーナ様の人柄や実力が何も分かっておりませんでした。もしやネルル様に近づく不届き者、その可能性も否定出来ませんでした。

私はディーナ様の実力を知るためにこのような争いをしました。武器を交わえ分かりました、ディーナ様は貴方の御友人に相応しい人物だとこの身をもって知ることが出来ました。私から仕掛けた勝負、このような宮殿の有様になったのも私の責任。ディーナ様は何も悪くありません、罰を下さるのならこの私一人にしてください。謹んでお受け致します」

ケイはディーナに被害が及ばないように全ては自分が仕掛けたことであり全ての責任は自分にあるとネルルに説得した。


頭を垂れネルルに自分の処罰を委ねたケイ。ネルルは少し険しい表情になった後に目を閉じてため息をついた。「はぁ…面を上げよケイ」ネルルの言われた通りケイは頭を上げてネルルの顔を見た。


「まぁお主の事だ。この国ため、私のためにやったことであろう。良かろう、此度の件は特別に許そう。兵士達の言い訳は考えておけ、兵士長であるお主が突如客人を襲ったと噂になれば威厳や風格、信頼を無くしてしまう恐れがある、即座に対応しろ。荒れた宮殿は私が手配しよう。立ち上がれ、私はもう怒ってなどいない」


ネルルの言葉を受けケイは立ち上がり胸に手を押え頭を下げて「ネルル様の心広き恩情、ありがたき幸せであります」「私よりもディーナに謝っておけ、この有様からしてお主が本気になったと分かる。お互いに命をかけたのであろう、頭を下げておけ」ネルルの命令にケイはディーナの目の前に行き頭を下げて「此度の無礼、申し訳ありません。手合わせをした御恩は必ずお返し致します」


「お礼なんて別にいいよ。私こそ兵士長の貴方と手合わせをしてもらって為になる事ばかりだったから」

ディーナも雷属性の人と戦うのはあまり経験が無かったために今回のケイとの戦いは貴重な体験になっていた。


ケイは頭を上げて「ありがとうございます。しかしお礼はしっかりとさせていただきます。少しお時間をいただくかもしれませんが後ほど必ず」

責任感の強いケイは必ずディーナには何かしらの礼がしたかった。「それじゃ私も何か考えておくね」


話が纏まった事により、武器を交わしあったディーナとケイはお互いに笑って固い握手を交わした。


「ネルル様、少しお話が」ケイも本来ネルルに用があって庭園に向かおうとしていた。ネルル本人から来るのは予想外ではあったが。


「なんじゃ?」「会談の予定が入りました」「ふむ、して日時は?」「明日の正午に、ご出席をお願いしたく」

「良かろう、私の明日の予定を空けておけ。他の仕事も玉座に戻り次第伝えろ」「御意」


どうやら殿下の仕事時間が来たようで、ネルルは隣にいたフェリスに「すまぬなフェリスよ。もう少し貴殿と共に花について語り合いたかったが、私も予定があるのでな。ディーナと共にいるのだろう?ディーナの依頼が終わるまでは宮殿にいてもよい。私も貴殿ともっと話したいからな」


殿下としての口調だったがフェリスに対しては少し素が見えるような優しい表情でフェリスに言った。

二人で花を見て話し合った時の雰囲気だったネルルにフェリスは「は、はい!」簡単な返事しか出来なかったがフェリスの気持ちを伝えた。

殿下の威厳を放つネルルだったが気持ちのこもった返事をしたフェリスに威厳を忘れて笑顔で返した。


「では、行くぞ」「はっ」ネルルが玉座のある王室まで歩き出すとケイは護衛をするようにネルルに横に立ち左右を確認しながら歩いていった。


二人きりになったディーナとフェリス。「これで二人に認められたって事でいいかな?」国の殿下とその側近に認められたと考えてほっと一安心するディーナ。


そそくさにディーナに近づいて腕を掴んだフェリス。少しだけディーナから離れて寂しさを感じていたフェリス。しかし、寂しさの気持ちはあってないような物だった。

そんな気持ちを理解したディーナはフェリスの頭を撫でて「どうだった?ネルルと一緒にいて」ネルルと花を鑑賞していたフェリス。その感想を聞くとフェリスは嬉しそうに「ネルルさんはとっても優しかったよ。お花も綺麗だったし、いっぱいお話も聞かせてくれたよ。フェリス、ネルルさんともお友達になれるかな?」


ネルルと一緒に過ごした時間、短い時間だったがそれでもネルルとの絆はしっかりと感じたフェリスはネルルと友達になりたかった。しかし、共に過ごした時間があったならとディーナは「もうフェリスとネルルは友達よ。一緒にいたのなら尚更ね」「そうなのかな…それなら、フェリス嬉しい」頬を赤く染めて嬉しそうにした。


そんなフェリスを見てディーナも嬉しそうに笑顔になった。

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