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カエデ  作者: アザレア
序章
3/86

属性

ディーナがフェリスを事務所に招いてから一週間が経った。住んでみて分かったことはフェリスはかなりの世間知らず、と言うより今まであの家が世界だったように外の世界に初めて出てきた様子で見るもの全てが新鮮で興味を示していた。


ディーナはその姿に良かったと思う気持ちと不思議な感覚にもなっていた。あまりにも物を知らなすぎる、あろうことか"マリー"や"リンドウ"のことすらも知らなかった。疑問に思うことは沢山あるがそれでも養うことに決めたディーナ。

そしてもう一つ分かったことは・・・


----------


昼間、いつものようにデスクに足を組みながらかけ、椅子に腰かけて雑誌で顔を埋めて寝ているディーナ。するとディーナの体を揺すりながら「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」と声をかけられた。雑誌をデスクに置いて目を擦りながら「何、フェリス?」まだ寝起きのディーナは欠伸をした。


「あのね、お部屋をお掃除してみたの。ずっとお掃除していなかったの?フェリス頑張って綺麗にしてみたから見てほしいの」

辺りをよく見ると今まで散らかっていた事務所が目を疑うぐらい綺麗になっていた。


捨てられていた空き缶はゴミ袋に大量に入れられており服は全て畳まれて隅に置いてある棚にしまわれていた。床もジャンクフードのソースがこびりついていたりしたが全て無くなって張り替えたように綺麗になっていた。


あまりの変わりように驚きを隠せないディーナは「こ、これ、全部フェリスがやったの?」

「うん!お姉ちゃんが喜ぶと思って・・・ダメだった?」一瞬にして落ち込むフェリスに「とっても嬉しいよ、忙しくて出来なかったからね。ありがとね」


フェリスはディーナの感謝の言葉にすかさず笑顔になり「じゃ、じゃあ、お礼に、頭を撫で撫でしてくれない?」甘えた子供のようだったが少し照れていた。ディーナは微笑むと、優しくフェリスの頭に手を置いて撫で始めた。

とても嬉しそうにずっと笑顔のままでいた。


ディーナの分かったことはフェリスはとても健気で素直だった。もちろん臆病で気弱な所は変わっておらず一度街まで買い物に行った時にはずっとくっついて傍から離れずに黙り込んでいた。


まだ外には恐怖感があるらしく一向に事務所から出ようとしない。


しかしディーナに対しては完全に警戒心が解けて自分の姐のような母のように接している。ディーナが喜びそうな事をやって褒められたいようでよく掃除や手伝いをしてくれる。


まだまだ他人に対しては何も出来ないが少しでも成長しているフェリスに満足気なディーナである。


そんな時に事務所の電話が鳴った。ディーナは電話を手に取り「はーい、こちらDina's hideoutご要件は?」「ヴァレアだ」電話の相手はヴァレアだった。


「お前が電話に出るとは珍しいな、ようやく仕事をする気になったか?」「たまたま電話線が繋がってただけ。それで何か用?」「依頼だ、今からそっちに向かう。詳細は直接言う。じゃあまた後で」「あぁちょ・・・」

ディーナが何かを言う前に電話を切られた。


「切るの早すぎでしょ」受話器を戻すとフェリスがディーナの袖を掴み「お姉ちゃん、さっきの何?なんで一人で話してたの?」一人でいきなり話し始めたためか少し怯えていた。


電話も知らないフェリスに対して優しく「これは電話って言ってねここに居ない人とでも話せる便利な物だよ」「そうなの?誰かと話してたの?」「うん、私の友達かな?ヴァレアって言う人が今から来るよ」「お姉ちゃんのお友達・・・」不安気になるフェリスにディーナは「大丈夫だよ、ヴァレアは良い人だから・・・人によってはだけど」


フェリスはかなり静かな声で「う、うん」と、頷いた。

ヴァレアがどんな反応するかは分からないディーナだが少女に対しては冷たく接しないと考えたため気にしないことにした。


----------


しばらくして、事務所にインターホンが鳴った。いつもの体制で雑誌を読んでいたディーナはそのまま「どうぞ~」と言うとドアが開きヴァレアが入ってきた。


「起きてたか。案外やる気だな」「起きてただけでやる気って言われるのは何だか複雑なんだけど」

「四六時中サボって寝ているからな。やる気に見えても仕方ないだろ」「ひっどい」


ヴァレアはデスクの前に立って以前と同じように依頼書を置いた。ディーナは足を下ろして依頼書を手にした。


「廃園の"マリー"討伐、廃園って遊園地?」「ああ、かなり前に閉園しているらしいがそこを根城にしている"マリー"がいる。その討伐だ」

「なんでいるって分かったの?」「最近その"マリー"の被害が多岐に渡っている。目撃者によると道端を歩いていると突然鋭利な爪のようなもので切り裂かれ重症を負った一般人が多発している。目撃者達は口を揃えて『現場は見たが"マリー"の姿形ははっきりとは見えなかった』と言っている」


「速さが特徴の"マリー"ってことね。逃げ足が速くて誰も見れない。中々いやらしい"マリー"ね」

「そこで、"マリー"調査員がその"マリー"を追った」あまり聞き慣れない単語にディーナは「"マリー"調査員?そんな役職あるの?」

「あまり一般では知れ渡ってないからな。私達"リンドウ"とは違いあくまで"マリー"の行方を追い、発見次第"リンドウ"に依頼すると言う流れだ。だが行方を追って討伐する流れは"リンドウ"でも日常茶飯事行われていることだからな。あまり出番がないのは事実だ」「へぇ~地味そうで大変そ、私には向いてないかな」


「その調査員が"マリー"を追ったところ廃園に姿を消したらしい。そこで私に依頼が来て"リンドウ"の出番ということだ」

ディーナはデスクに依頼書を置いて「今回もヴァレア経由ね、私直々の依頼は来ないか」「事務所もまともに空いていなかったら来るはずがないだろ。それに今回はお前の方が適任だから任せることにした」「私の方が?」


「廃園の元オーナーは出来るだけ遊園地の遊具は壊さないで欲しいとのことだ。"マリー"を討伐する身としては甘えたことを言われたのだが流石に断るのも気が引ける。私だと制御が効かなくなりそうだからな」「まぁ私の方が繊細にたたか・・・」「報酬は後払いだからな」「最後まで言わせてよ」


ある程度の説明を聞いたディーナはヴァレアの腰をよく見ると「貴方が武器を持ってここに来るなんて珍しいわね」「依頼終わりだからな。私はこのまま帰るさ」

ヴァレアの腰には刀を差していた。刀は黒い鞘に黒い鍔、藍色の下緒、白色の柄の日本刀のような刀である。


すると、ヴァレアは突然溜息を吐くと「ところで、さっきから隠れている奴、出てこい」

ソファの横に顔を向け誰かが隠れていることを見通したヴァレア。「よく分かったね。完全に暗闇と同化してるのに」「気配察知は"リンドウ"にとって当たり前だ。さっさと出てこい」


事務所は営業中で明かりはついているがソファの横には少しだけ暗くなっている場所がある。そこをよく見ると震えている何かが見えていた。


「フェリス、ヴァレアはちょっと口が悪いだけだから出てきても大丈夫だよ」ディーナの一言もあり少し時間が置いたがようやくその何かが動き出してヴァレアの前に立った。


前に立ったのはフェリスでありディーナ以外の人と面と向かって会うのは初めてのためか足はずっと震えたままであった。


あまりの特徴的なフェリスの容姿や目が布で隠れているのもあり驚くかと思っていたディーナだったがヴァレアは表情一つ変えずに「ディーナ、お前に妹でもいたのか?」


予想してなかった質問にディーナは戸惑い「えっ、普通はちょっと驚くと思ったんだけど、そういう質問は以外だった」「特に驚くことでもないだろ、目の代わりをしている属性をよく見てきたからな」


ヴァレアが言うとフェリスは静かにディーナに近づいて袖を掴み「お、お姉ちゃん、ぞ、属性って、何?」初めてディーナに会った時のようにオドオドして弱々しくなっていた。


フェリスに関しては全く驚いていなかったヴァレアだったがある言葉に驚いていた。


「属性を、知らないのか?」この世界では一般的に概念として知られている属性を知らないことに驚いたヴァレアにディーナはフォローを入れた。


「フェリスは一人でいたからあまり物事が分からないことが多いの。だから情報源も何も無いから属性も分からないんじゃないかな?

一般的な家具や家電とかも分からなかったから、分からないことがあったなら優しく教えて欲しいかな」


フェリスの状況を聞いたヴァレアは考える素振りを見せた後に「・・・二人の関係を聞くのは後にしておく、聞かれたなら属性のことを教える」状況を理解したヴァレアは敵意を無くした。


微笑みを見せるディーナは「私よりも属性のことに詳しいのはヴァレアだから教えてもらったら?フェリス」ここでフェリスに安心感を持たせるためにもヴァレアに聞くことにした。

ずっと黙っていたフェリスだったがディーナが友達だと言っていたことを思い出して「お、お姉ちゃんの、お友達、だったら、お、教えて、ください・・・」フェリスにとっての精一杯の返事だった。


か弱い少女が見知らぬ人に頼む勇気を見たヴァレアも優しげに微笑んで「分かりやすく説明しよう」

その優しそうな顔のヴァレアがあまりにも珍しかったのかディーナは驚きながら固まっていた。「冷酷で無表情で辛辣なヴァレアが笑った・・・フェリスってそんなパワー持ってるの?」と、驚いていたが実際ディーナもかなり可愛がっていることから単純に妹補正と言う物がフェリスにはついているからである。


「少々説明には時間がかかる。座らせてもらうぞ」「椅子?椅子なら二階に・・・」「いや、私が作る」


ヴァレアは指を鳴らすと冷気が突然入ってきた。事務所の窓は全て閉じられているため外からの風ではない。フェリスは突然の冷気にキョロキョロと見渡しながら戸惑っていた。


すると、ヴァレアの後ろに冷気が集中して白いモヤのような状態になってきていた。

しかし冷気は一瞬にして無くなりモヤも無くなっていくとそこにあったのは氷で作られた椅子が出来上がっていた。


「えっあっ、あ、あの、それって・・・」フェリスがかなり戸惑っている、無かったものがその場にいきなり出てくるのには経験がなかった様子だった。

「フェリス、これが属性の賜物って感じかな」

ディーナがふわっと属性について触れた。


ヴァレアは氷の椅子に座って「さて、まずは・・・そもそも属性とは何かを説明しようか」「何かって別に解明されてないでしょ?」「そうだが、元々が分からないと話が進まないだろ」

ヴァレアは足を組んで話し始めた。


「属性は私達女性だけにあるエネルギーのことだ。属性は体内に内包されていて私達の器官とほぼ同じ役割をしている。

属性は人によって違って、生活に充分なだけの属性だったり"マリー"を瞬時で討伐する強大な属性もある。

だが、大半は詳しくは解明されてない事が多いんだがな」


フェリスは説明を聞いてディーナの後ろから指を指して「じゃ、じゃあ、その、椅子も・・・?」「ああ、これも属性の一つの芸当だ」ヴァレアは足を組みかえた。


「属性には主な種類がある。基本的にはこの六つの属性に割り振られるのが大半だ。

炎属性、水属性、雷属性、風属性、氷属性、そして闇属性。この六つが女性の体内に内包されている。

何が出来るかは人によって違ってくる、例えば炎の場合は炎を指でつけたり出来るが着火ぐらいしか出来ない属性だが、"マリー"を瞬時に燃やし尽くし自分の周りにも炎を渦を巻ける属性もある。

前者の場合は生活の少し足しの感覚だが後者は強力な属性のため"リンドウ"になることを勧められる」

「先生~闇属性も詳しく教えてくださ~い」冗談でディーナが学校の生徒のように手を挙げた。


「お前・・・まぁいい、闇属性も説明してやる。ただ闇属性と言っても一概にこれだけが闇属性とは言えない。謎の空間から黒い棘のような物がが出てきたり、見えない糸で武器を操ったりと、用途は様々だ。

だから闇属性は闇と括ってはあるが実際は都合がいい属性とだけ分かってればいい」「そんな属性無いわよ」


「こんなところだろ。大まかに説明はしたつもりだが、まだ聞きたいことがあるか?」


フェリスはある程度理解した。しかし一つだけ気になることが。

「ふぇ、フェリスの、属性、わかり、ますか?」自身の属性はまだ分からないままであった。

「一つ質問だ、目は見えてるのか?」「は、はい。も、文字とか、生き物とか、色々、見えます。けれど、全部色が無くて、灰色と、黒色と、白色しか、だから、お姉ちゃんの顔も、見えない・・・」


自分で説明し始めるとどんどんと落ち込んでいくフェリスにディーナは「別に人の顔なんて見えなくてもいいよ、それは楽しみが減っちゃうかもしれないけどその分関わる人との心がよく見えるってことだからね。ちなみに私はかなりの美少女なんだよ!」

と、フェリスを元気づけた。


「お前が美少女なら人類の九割は美少女だけどな」「うっさいわね!自分が顔が良いって私をディスらないでもらっていい?」「誰も自慢なんてしていないだろ、お前こそ鏡を見て顔を見てきたらどうだ?」「そこに映ってるのは美少女しかいないと思うけど」「眼科にでも行ってこい、"リンドウ"にとって目は命だぞ」「そこまで悪くないわよ!」


二人のやり取りを見てフェリスは「ふふふ・・・あっ、ご、ごめん、なさい、笑っちゃって」余程面白かったのかフェリスは純粋に笑っていた。二人は見合わせて「これも"リンドウ"の仕事でしょ?」「フンっ」二人共満更でも無いようだった。


「それで属性だが、恐らくは闇属性だろう。私も目の代わりなる闇属性を見てきたからな」「そんな闇属性あるの?」「言っただろ、闇属性は都合がいい属性だって。種類があっても特定出来なかったら闇属性になる。闇属性は気配察知の効果もあると聞いている、その類いだと思った方がいい」


一通り説明をしたヴァレア。ディーナはフェリスに「どう、分かった?一部しか説明してないけど、またおいおい説明していくね」「う、うん・・・あ、あの、ヴァ、ヴァレアさん」「なんだ?」


モジモジして言葉をごもごもしながらだったが初めて人に聞こえる声で「あり、がとう、ございます!」と、お礼をした。自分以外に声を張ったフェリスの成長に微笑みを見せるディーナ。


感謝を伝えられたヴァレアは表情は変えなかったが「感謝される由縁は無いが、素直に受け取っておく」少しだけ声のトーンが高くなっていた。


ヴァレアは立ち上がり指を鳴らすと氷の椅子が瞬く間に砕け散りその場に何も無かったかのようになった。


「話が長くなった。ディーナ今すぐ依頼主の元に行け。待ち合わせの時間が近い」「この依頼書に書いてある場所?時間ってどれくらいよ?」「五分後」「もっと早く言ってよ!!」

ディーナは椅子から立ち上がりにデスクに置いてある二丁の銃を持ち急いで事務所から出ていった。


「お姉ちゃん、大丈夫かな?」「間に合えばいいけどな」


果たしてディーナは間に合うのか、次回に続く。

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