表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カエデ  作者: アザレア
大国の職人
29/86

チハツの教え

ヴァレアを呼んだ理由、それは王国に迫る"マリー"の討伐依頼だった。


「ヴァレアだけに依頼を要請しようと思っていたけど、頼りになる"リンドウ"がもう一人来たのは幸運。ヴァレアとディーナがいたら安心ね」本来は旧友であるヴァレアに極秘で"マリー"討伐依頼を要請を頼もうとしていたがディーナが偶然にもここに来たためにさらに安心感を持って依頼を出せるネルル。


「でもどうして、ここまで隠さなくてもヴァレアに依頼文を送ればそれで良かったんじゃ?」大抵の場合"リンドウ"に依頼文を送り依頼が達成すれば報酬を送るのか基本的な依頼の流れである。ディーナのように事務所を持ち直接会って依頼をこなすのは稀なケースである。


「いや、これは私の問題でもある。私は今は依頼を受け付けていない。協会の事もあって"リンドウ"としての立場は休息している。と言っても私が居ないとやって行けない協会だ、今まで自由に依頼を受けて来たが呼び出されて多少なりとも不自由になっただけ。

だが、ネルルの呼び出しとなったら話は別だ。協会にそれらしい理由をつけて出てきた、世界のトップに君臨する国の依頼、緊急事態の何物でもないだろ?」

現状のヴァレアは基本的には依頼を受けていなかった。ディーナのように特に理由もなく受けていないのではなく、依頼に手が回らないほど他にやることがあるために受けていなかった。


だがルムロの依頼、ネルルの依頼は他にどんな理由があっても受けようとしていた。それは大国であるルムロが危機にさらされてしまった場合世界に激震が走り人々が穏やかな生活が送れなくなってしまう。

だがもう一つあり、それは国のためではなく、一人の友人の依頼。友が困っている状況にヴァレアはじっとしている訳にはいかなかった。


「大国が"リンドウ"に頼ざるおえないとなったら、国の住人も不安を抱いてしまう。それを危惧してこの件はほんのごく一部にしか知らされていない」


一通り説明を聞いたディーナは大方納得して「なるほどね、大国だからこその悩みね。田舎者の私じゃそこまで注意深くなっていない。その気持ちには応えないと。安心して、私とヴァレアがいれば"マリー"なんて何も怖くないからね」ネルルの気持ちを理解したディーナ。自分も国のために少しでも力になることをネルルに誓った。


「ディーナ…ありがとう。とっても心強いよ。それじゃあディーナにも討伐を依頼しようかな」「任せて、"マリー"退治専門の"リンドウ"、ディーナさんに倒せない"マリー"は居ないよ」

ネルルもディーナの想いを受け取ってヴァレアだけではなくディーナにも依頼を要請した。


「話はまとまったな。だが今から討伐に行くのは少し夜が遅すぎる。その二体の"マリー"はこちらに向かってくる様子はあるのか?」「今のところは大丈夫、兵士達が二十四時間体制でルムロ地域を警戒しているから異常があればすぐに知らせが来る手筈。けれど、時折国の様子を伺う不可思議な動きをすることがあるから、もしかしたらこっちの出方を見ていて隙が出来たら乗り込むつもりなのかもしれない」


「あまり猶予はないな」「でも今日は休んで。眠れる余裕がある時に眠るのが最適な行動だからね」

「それは私がこの前言った言葉だろ?ネルルが休む間もなく働き詰めだった時に。覚えていたんだな」「当然、ずっと働き過ぎも良くないって分かったからね」

ヴァレアとネルルはお互いに顔を見合わせて笑いあった。


「となれば、ディーナの宿も手配出来るか?事務所からは少し遠くてな、何かあった時にディーナもいた方が安心だろ?」「もちろん手配するよ。国を任せられる"リンドウ"は少ないから、手荒な対応は出来ないよ」

しれっとディーナが来たもう一つの目的を伝えたヴァレア、すぐに承諾したネルル。表情や仕草には出さなかったディーナは心でガッツポーズをしていた。「さすが仕事が早い」


「それじゃあ今日は解散でいいかな、お客さんと二人っきりで長時間いるのは兵士の皆が心配しちゃうから」一国の王であるネルルが兵士も居ない状況を作る事自体危険、ましてやそれが長い時間となったら護衛の兵士達が飛び込んでくる恐れがあった。それを避けるためにネルルはここで解散を伝えた。


「そろそろケイも痺れを切らして来そうだからな。退出するか…ところでディーナ」「何?」「フェリスには挨拶させないのか?」

ずっとディーナの後ろに隠れていたフェリス。三人が話している間黙ってディーナの服の裾を掴んでいた。知らない相手が今日だけで二人、どうしてもフェリスは緊張していた。ましてやチハツとネルル、どちらもフェリスが会った事がない性格をしていたためにフェリスもどうしたらいいか分からなくなっていた。


「いやぁ~私もフェリスを挨拶する機会を伺ってたんだけど、どんどん依頼の話になってきちゃったからフェリスを話に混ぜれなくてね」ディーナもフェリスに挨拶させるタイミングを見ていたがどうしても入り込める場面がなかった。


「ヴァレアが話す機会を設けなかったら私もその子とはどう接すればいいか分からなかったから。ディーナの後ろにずっと隠れてるなぁ、ってずっと思ってて。もちろん気づいていたけど、その子は私の事が見えてる?目を隠してるから見えていないのかな?」ネルルもずっと前から特徴的な容姿をしているフェリスに気づいていたが、十歳前後の少女とはあまり話した経験が無いためどう話しかければいいか分からずにいた。


「フェリスは目は隠れてるけどちゃんと私やヴァレアを認識しているよ。それはネルルも同じ、けどちょっと人見知りが激しくてね。まだ多くの人には上手く話せないから、ネルルもフェリスと仲良くしてくれない?話す相手が増えたらフェリスも喜ぶと思うから」ディーナはフェリスの方に振り返って「ね、フェリス」


ディーナの言葉に背を押されたフェリスは自らの意思で歩を進めてネルルの前に立った。「チハツさんが、言ってた。挨拶は人を繋げる、一番の方法だって。だから、怖がってちゃいけない。自分に、打ち勝たないと」


チハツの言葉で学び、学んだだけじゃなくそれを実行しないと意味が無い。深呼吸をして自らを落ち着かせて「あ、あの!ふぇ、フェリス、アスルロサ、です!」簡易的な言葉ではあったがそれは少し遠く離れたネルルの耳にしっかり入っていた。


初対面の相手には小さな声でしか話せなかったフェリスに驚きを隠せないディーナ。ヴァレアも見違える程の声を出したフェリスに眉を上げて驚いていた。


「……なんだ、内気な子だと思ってたけど挨拶はしっかり出来るんだね。私はネルル・クラウン、よろしくね」少し想像と違っていたフェリスに挨拶を返した。


「えっ、あの、はい…」挨拶をしたはいいもののここからどう話せばいいか分からないフェリス。ずっと口元をもごもごさせて声に出せずにいた。


「どうしたの?私が怖い?」ネルルも挨拶をしたが何も返事が帰ってこない事に自分が怖がられていると不安になっていた。


すると「今のフェリスにはこれが最大限の挨拶なの。まだまだ人見知りが激しい子でね。でもしっかりと挨拶出来て偉いよ。お姉ちゃん感動しちゃった」ディーナが助け舟に来た。しかしディーナは初対面の人対して大きな声で挨拶をしたフェリスを見て少し涙目になっていた。


「なんだかフェリスの成長を見ちゃうと嬉しくて涙が零れそうになる。多分これが親心って感情なのかな?」

ディーナは静かに噛み締めていた、フェリスは妹であり一人の子供。自分は姉であり母でもある。どんな小さな成長でも喜べる、ディーナは改めてフェリスを心から守ると誓った。


「そうだったんだ、人見知りは中々治るものじゃないからね。う~ん私も何か協力出来たら…あっそうだ!フェリスちゃん、明日は私と……」ネルルが何かを言う前に突然扉が開き「ネルル様、そろそろお時間です。次の会談のお相手が既にいらっしゃっています。お相手は会議の間にてお待ちしております」


ネルルの側近であるケイが会談があると伝えに来た。

ケイが来たと同時にネルルは足を組み王冠を取り外し王冠をボールのように投げてはキャッチするを繰り返していた。


「なんじゃ、もうそのような時間か。だが予定は来ておらん、アポイントメントは取っていたのか?突如来たのなら無礼にあたるぞ」先程とは打って変わって声が低くになり態度も変わった。


「こちらも確認を取ったところ、昨夜急遽決まった事によるものでございます。そのためにネルル様のお耳に入ることが遅くなってしまったのでしょう。それはこちらの確認不足でありました、申し訳ありません。

ヴァレア様達の時間を取るような真似をするのは承知ですがお相手は同盟国の陛下でございます。会談が中止になれば同盟事態も極わずかではありますが揺らぐことになるかもしれません。どうか、ご出席を」


同盟が破棄になってしまっては国の危機に繋がってしまう。会談は優先事項と捉えたネルルはため息をついて「はぁ、仕方あるまい。情報はとにかく事細かに私に伝えるように兵に言っておけ。そのような事態であれば良かろう、客人を待たせる訳にはいかん。重い腰を上げるとしよう。ケイ、先に行って今から行くと客人に伝えよ。安心しろ、私もすぐに行く」

気乗りしないネルルではあるが来てしまったのなら仕方なく、会談に出席することに。


「御意」一礼した後にケイは部屋から出ていった。ケイが出ていったのを入念に確認して組んでいた足を地につけて王冠も頭に乗せた。


「ごめんね、私行かなくっちゃいけないの。フェリスちゃん、明日は一緒に庭園のお花を見に行こっか。ここの庭園のお花はとっても綺麗だよ。特に、カエデの花は色とりどりに咲いてるから、世界でも何色のカエデが咲いてるのはルムロの庭園の他に無いんだからね」

明日フェリスと一緒に庭園の花を見に行くと提案したネルル。


「は、はい!」返事を大きく返したフェリス。「それじゃ約束ね」小指を立てて指切りのポーズをしたネルルは立ち上がって歩き始めた。


「ヴァレアとディーナもごめんね、"マリー"の詳細もあんまり詳しく伝えられなくて」「気にするな、明日は教えてくれればいい」「それよりも、早く行かないと行けなんでしょ?」


ディーナの言葉にハッとなり、小走りで扉の方に向かい扉の前に立つと振り返って大きく手を振ってから部屋から出ていった。


ケイと話す時だけ一瞬で切り替えて高慢な態度になったネルルにディーナは「友達以外に見られたくなのは分かるけどスイッチの入れ替えの速さは才能ね。あんなに瞬時に性格を変えるなんて 私には出来ないや」

「彼女にとってもう日常茶飯事なんだろう。慣れもあるだろうがな」


ディーナとヴァレアが二人で話していると再び部屋の扉が開いた。そこには白のエプロンをしているメイドの格好している女性が入ってきた。入ったと同時にお辞儀をした女性は「ディーナ様とフェリス様、ネルル殿下より空いているお部屋に案内をと承ったので、私についてきてください。お食事やベッドもご用意してありますので」


「ネルルちゃん仕事が早い。もう私達に寝床を用意してくれたんだね、それにメイドさんもいるの?」ネルルの仕事の早さに感心しているのと同時に兵士だけではなくメイドもいることを聞いた。

「当然だ。この広い王宮をネルル一人で全て管理するのは不可能だ。兵士やメイドを雇って王宮を支えている」


「ふ~ん、まぁ考えたらそれはそうね。それじゃお言葉に甘えて泊まらせてもらおうかな。フェリスは他の場所で寝るのは大丈夫?」「うん、こんな大きなお家に泊まれるなんて、フェリスは嬉しいよ」

喜んでいるフェリスを見て笑顔を見せるディーナ。


「そう言えばヴァレアは協会に戻るの?」「いや、"マリー"の危機が迫っている中で協会に戻るのは"リンドウ"として見過ごせない。私もしばらくルムロに滞在する。私は…他の宿を取っているからここには泊まらない」


「……そっか、なら私達だけ王宮に泊まるわね」一瞬何か考える素振りを見せたヴァレアを見逃さなかったディーナだがそれについては何も言わなかった。


「行こっかフェリス」「うん!」ワクワクするフェリスの手を繋いでメイドについて行ったディーナとフェリス。

その後、ディーナは豪華な食事を取って、最高品質のベッドで眠り、事務所にしばらく戻りたくなくなるのは別の話。


----------


夜も更け、王宮もルムロの街も明かりが無くなり静けさだけが広がる中で、王宮の少し離れにある小屋のような場所にヴァレアは一人座っていた。

足を組み、腕を組んで誰かを待っているようだった。


すると、小屋の扉が開き入ってきたのはネルルだ。ネルルは少ししか離れていないが王宮から出ていくために、変装して一般時と同じような服装に着替えていた。


「ごめんねヴァレア、ちょっと遅れちゃった」「気にするな、殿下の仕事を優先してからでいい」ヴァレアはネルルが来るのを待っていたようだ。


「だがまさかルムロに"マリー"が接近しているとはな、少し予定外だ」「それは私も同感。国民に不安を抱かせたくなかったからヴァレアを呼んで討伐をお願いしようと思ったけど、ディーナも来てくれたのなら安心ね」


「ああ、今回はディーナに任せるつもりだ。彼女の実力は私が保証する」「良かった…それで、私にしか話せない事って何?」誰の耳にも入らない場所である話をしたかったヴァレアはここにネルルを呼んだのだ。


「……ネルルが私を呼んだの同時に、"マリー"調査員から一つの連絡が入った。まだ時期は分からないが…近々、この近辺の国にて、大規模な"マリー"討伐戦が起こる」「それって…!」「ああ、超大型"マリー"が姿を現したんだ」


それは、戦いを暗示する序章だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ