殿下
フェリスとチハツが仲が良くなり、ゴタゴタが無くなった事でいよいよ銃の制作に入るチハツ。
「さて、ここからはアタシの仕事だ。要望のままで大丈夫か?このまま制作を進めるぞ」ディーナに最終チェックを促したチハツ。
「大丈夫よ。このまま進めてちょうだい」「よし、それじゃ待ってろよ」
「どれぐらい時間はかかりそう?」ディーナも内心ではかなり楽しみにしておりいつ出来るかを聞いた。
「そうだな、銃を二丁、それに違う銃種ってなるからな。七日……いや、十日は貰う。それなりに時間は欲しいからな」
十日と聞いたディーナは「十日で作れるの?私はてっきり一ヶ月ぐらいかかると思ったけど」「何言ってんだ、"リンドウ"の命をそんな時間かけてられるかっての。むしろ十日なんてアタシにとってはかなりの時間を有する。それだけアンタの銃を本気で作ってみてぇんだ。久しぶりに腕が鳴るぜ」
本来であればチハツの制作期間と言うのは三日程で武器を作ることが出来る。"リンドウ"は武器が無くては力を発揮出来ない、それを分かっているチハツだからこそ超速で武器を作るのだが、気に入った相手であれば本気になり期間も倍以上に作る。だが、それだけその銃は高性能になる。
「分かった、チハツの本気を楽しみに待ってるわよ」十日ぐらい余裕で待てるディーナ。しかし、ここでチハツは「だがディーナ、アンタが持っているその銃は内部構造を見て分かったがとっくに限界は来ている。それをアンタがイジって先延ばしにしているが、それでも使えるのは一、二回。それを肝に銘じておけ。"リンドウ"は武器が壊れたら終わりだからな」
ディーナの属性弾に耐えていた銃だが内部構造がボロボロになっており何を施しても耐えられない程になっていた。
「……そっか、そろそろ替え時かなって思ったけどそんなに限界だったんだね。ちゃんと感謝しないとね、私の相棒に。でも最後まで付き合ってもらうよ」
ディーナも今扱っている銃は一番長く使っている銃、そのために今までの銃よりも思入れがあり手放すのは寂しく思っていた。
「その感謝を忘れるなよ。それでアタシが作る銃に想いを託したらいいだけだ」チハツの言葉にディーナは笑って「そうね、貴方の傑作を待ってるわね」期待をして待つディーナにチハツは親指を立てて腕を伸ばした。
「そんじゃ作業に入るか。悪いが今からは一人にさしてくれ、集中ってのが必要だからな」制作に入るにあたってチハツは一人で淡々と作るために誰かに邪魔されたくないために一人になりたかった。
「分かった、また頼む」と言って一足先にヴァレアが工房から出ていった。「それじゃ私達も出よっか」「う、うん……あの、チハツさん」工房から出ていく前にフェリスはチハツに何かを言おうとしていた。
「なんだい?」「その、ありがとう、ございました!」初めて怒ってくれた人に対してフェリスを感謝を伝えた。「気にすんなって。また会うの楽しみにしてるぜ!」チハツの笑顔にフェリスも自然に笑顔になっていた。
手を振りながらディーナとフェリスは工房を後にした。工房を出た目の前にはヴァレアが腕を組んで立ち尽くしていた。
「さて、これからどうしよっか。帰るにしてもちょっと遅くなっちゃうか……ここに泊まるのも一つの手かも」時刻は夕刻にさし掛かろうとしていた。事務所に戻ろうとしても着いた頃には夜も遅くなっているため、ルムロに泊まるのも考えていた。
「ここの宿屋は高額だぞ。少なくとも"リンドウ"の依頼一回分ぐらいと思え」大国のルムロだがそれ相応の物価の高さである。「う~ん流石に高すぎるねぇ。やっぱり帰った方が……」終電が何時出るかを思い出している途中でヴァレアが「夜道をフェリスに歩かせる気か?」夜をフェリスに歩かせるのは気が引けたヴァレア。
「それもそうね、やっぱりちょっと奮発してここに泊まるしか……」葛藤するディーナにヴァレアは顎に手を当てて考える素振りを見せた後に「私は今からある人に会いに行くのだが、来るか?」「人に会うの?」「ああ、チハツに刀を預けるのと同時に。多忙な身だからな、夜ぐらいしか会えない」
しかしディーナは「それってわたしが会いに行く意味ある?貴方が呼ばれてるんでしょ?」人と会ったところで自分には何もメリットが無いと言ったディーナ。
「そうでもない。腕利きの"リンドウ"、私がそう言ったなら会えるだろうからな」どうやら普通の一般人ではないと悟ったディーナ。
「その言い方、普通の人じゃなさそうね?一体誰に会いに行くの?」ヴァレアは少しだけ沈黙を挟むとディーナとフェリスにしか聞こえない程の声で「この場ではあまり大きな声では言えない。私が向かうのも機密事項の一つだからな」「それって……まさか」「ああ。私が今から会うのはこの国の殿下、ネルル・クラウンだ」
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大国の中央に建ててある王宮、その大きな扉の目の前まで足を運んだ三人。入国する際に入った門とほぼ同じ大きさにディーナとフェリスは圧巻していた。
「すごい、フェリスのお家よりもずっと大きい。ここに誰か住んでるの?」フェリスは今自分が住む事務所よりも何十倍もある扉に驚きを隠せずにいた。「そうみたいね、殿下様だから王宮に住むのは分かるけど入口でこんなに大きいのね。私もフェリスと同じぐらい驚いてるよ」フェリスとほぼ同じぐらいにディーナも表情にはあまり出していなかったが驚いていた。
驚く二人に比べてヴァレアは無表情で門に近づいていく。門には門番のような甲冑を身につけている兵士が二人佇んでいる。ヴァレアが門の前に立つと一人の甲冑の兵士がヴァレアに近づき「ここから先は王族、もしくはその関係者では無いと立ち入りを禁止しています。お引取りをお願いします」王宮は常に厳戒態勢、たとえそれが名の知れた"リンドウ"であっても立ち入ることは出来ない。
するとヴァレアは二枚の紙を見せた。その紙を手に取った兵士。「私は"リンドウ"のヴァレア・オルヴェア。ルムロの殿下ネルル・クラウンに呼ばれここに参じた。それは私が"リンドウ"の証明書、もう一枚はネルル・クラウンとの会談の日程を本人と行った物だ。各種情報を照らし合わせろと幹部に伝えろ」
紙にはヴァレアの証明書、そしてもう一つはネルル・クラウンの直筆の文字で日程を書かれたものだった。
甲冑の兵士は紙を受け取り「失礼、少々お時間を頂きます」そう言って紙を持ちどこかに立ち去って行った。
やり取りを見ていたディーナはヴァレアに近づいて「そんな態度大丈夫なの?ルムロの殿下でしょ、世界でもトップクラスに偉い人なんじゃ」ヴァレアの堂々とした立ち振る舞いに少し心配になるディーナだが「同じ人間だ、萎縮する必要ない。それに私はこの国では政府側の人間だ、本来であれば確認をせずに入れるだろうが二人がいたから身分を確かめられたのだろう」平等の精神を持ち合わせるヴァレアにとって殿下であろうと関係がなかった。
しばらくして甲冑の兵士が戻ってきて「お待たせしましたヴァレア・オルヴェア様。どうぞ門をお通りください、殿下様が貴方様をお待ちしております」甲冑の兵士が門を二回叩くと、ゆっくりと門が開き王宮への道が見えた。
「して、ヴァレア様。そちらの御二方は?」甲冑の兵士は二人の詳細を聞いた。「私と同じ"リンドウ"のディーナだ。数々の高度な依頼をこなした実力者の一人だ。もう一人はフェリス、ディーナの事務所に住む少女だ、まだ世間を広く知っている最中でな。
二人の事は殿下に伝えておく。ディーナの力はルムロにとって有益になるに違いないからな」
甲冑の兵士はディーナの方を向くとディーナは何かを言うわけではなく笑顔で手を振った。
「貴方様の申し出であれば良いでしょう。しかし少しでも妙な行動を取れば即刻で処罰の対象になりますのでお気をつけて」許可は降りたが背筋が凍るディーナ。「あわよくば殿下様に何かねだろうと思ったけど、あんまり変な事は出来ないなぁ」がめつい一面を見せるディーナ。
「それでは御三方、お通りください。くれぐれも殿下様に失礼の無いように」甲冑の兵士は一歩二歩下がった。三人は門を潜り、王宮の中に。三人が通った後すぐさま門は閉ざされた。
門の先には広い庭園が、しっかりと手入れされた木々や花、見る人を引き込むような美しい眺めがそこにはあった。
「すごい、これが大国ルムロ……」圧巻されて歩を止めるディーナ。それにつられてフェリスも止まっていた。「庭園を見るのは分かるが日も傾いてきた。見るなら明日だな、今は王宮に入るぞ」見惚れるのは分かるヴァレアだが早くに殿下に会うために先に進んだ。
「ちょっと待ってよヴァレア」ディーナとフェリスは手を繋いでヴァレアの後について行った。
少し歩くと王宮の大きな扉が。その扉を開けたヴァレアは王宮の中に入っていった。ヴァレアに続けてディーナとフェリスも中に入ると、そこは違う世界のようだった。床にはいかにも高そうな絨毯が敷かれて、壁には至る所に絨毯と同じ素材の垂れ幕が。
上を見上げると輝くダイヤのようなシャンデリアが王宮を照らしていた。
「本当に、同じ人間が住んでる?私には程遠い世界過ぎて頭がクラクラしてきちゃった」あまりにも輝き過ぎている王宮にいつも自分が住んでいる事務所の比べた時にディーナは混乱していた。
「お、お姉ちゃん、大丈夫?でも、絵本で呼んだお城と一緒だぁ。フェリスもお姫様だったらこんなに立派な家に住めるのかな?」混乱するディーナと違い意外に冷静なフェリスは妄想で自分がお姫様だったらと考えていた。
「門番が言っていた通り、不用意に他の部屋には近づくなよ。この国の防衛技術は世界でも有数、敵対者だと疑われないようにしろ。ついてこい、殿下は螺旋階段の上だ」
ヴァレアは王宮の螺旋階段を登り始めた。ディーナも冷静さを取り戻してフェリスの手を繋ぎながら螺旋階段を登り始めた。
階段は上を見上げても頂上が見えない程高く、周りはダイヤや宝石の装飾品の数々だ。
「ここまで宝石やら高そうな物を取り繕ってる辺り、相当な豪遊してる人なのね。言えば王女様、高慢で高飛車、私のイメージ的にはそんな感じの人なのかな?」明らかに普通の人ではなく、絵に書いたような性格だと思っているディーナ。だがここまで贅沢三昧な王宮の中を見たらそう考えても仕方のない事ではある。
しばらく階段を登ると遂に頂上まで登りきり、三人の目の前には赤く煌めき、縁には宝石が象られた扉がある。「ここだ、殿下はこの先にいる」「見れば分かるよ。さて、どんなお人か。ある意味ではワクワクしてきちゃったよ」
ルムロの殿下に今から会うとなり少し緊張するディーナ。フェリスはお姫様に会える、夢のような体験に楽しみにしている。
「それでは、行くぞ」ヴァレアが扉の取っ手に手をかけ、扉を開けた。
扉を開けた先には、真っ直ぐに広がる赤い絨毯、絨毯の外れには整列された無数の甲冑の兵士達。そして、絨毯の先には玉座に座る一人の女性と、その隣には腕を後ろに組み真っ直ぐ三人を見すえる女性がいる。
玉座に座る女性は足を組み、自らが被るであろう王冠を右手の人差し指でクルクルと回して、玉座の肘掛けに肘を置いて左手で自分の顔を支えていた。
ヴァレアが先行して絨毯を踏み、玉座に座る女性に近づいていく。それに続いて少し萎縮しながらもヴァレアの後に歩くディーナとフェリス。
ヴァレアが玉座に座る女性の目の前に立ち、女性に対して「ヴァレア・オルヴェア、殿下ネルル・クラウンに会いにここに参りました」殿下の目の前だが頭は下げずに、あくまで対等の立場としてここに来た。
そんな態度のヴァレアに女性は微笑んで「よくぞ参った、ヴァレア。貴殿の訪問を歓迎しよう。心待ちにしておったが、この私を待たせるか。無礼千万だがそんな真似をするのは貴殿の他にいない、クククッ、やはり貴殿は面白いのぉ。このルムロの殿下である私と対等とは、それでこそ我が配下に相応しいものだ。このネルル・クラウン、貴殿を行為許し、我が側近になることを許可しようではないか。優秀なる我が"リンドウ"にな」
彼女こそ大国"ルムロ"の殿下にして王女、ネルル・クラウン。世界の頂点に立つ一人である。




