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カエデ  作者: アザレア
大国の職人
26/86

初めて怒られた

硬い握手を交わした二人は手を離して武器制作の詳細を聞こうとしていた。

「さて、まずはどんな銃が良いかとか要望はあるか?」紙とペンを取り出してディーナの要望を聞いた。


「そうね……まずは使いやすさが一番かな、自分にフィットしないと慣れるまでに時間がかかっちゃうから。威力とかは私の属性弾でなんとかなるからね」

ディーナが言った言葉を箇条書きで書くチハツ。


「見た目のこだわりは特に無いけど、どこかに無くしても私のだって分かるようにしてくれたら嬉しいぐらいかな。あっ、後マグナムの方なんだけど属性弾を二発同時に撃てるようにしたいの。元々威力の高い属性弾を撃つのはそっちなんだけど確実に倒すのだったら二発同時発射が一番理想的な銃なの。

でもさすがに無理にとは言えないから使いやすさを重視してくれれば……」


ディーナの無茶な要望にチハツは書き終えたペンを置いて「よし、任せろ。形や色はアタシが勝手に決めるがいいか?」ディーナの要望を全て応えるようだ。

「えっ、マグナムの件もいいの?」「何言ってんだ客の細かな要望にも応えるのが職人っていうもんだ。むしろ使いやすさと二発同時発射だけで他のこだわりが無いなんて優しいもんだ。他の客なんてサイズや諸々全部完璧に仕上げろって言う奴もいる、それに比べれば全然問題ねぇよ」


数多くの様々な武器を作ってきたチハツにとってディーナの要望は朝飯前の事だった。チハツは箇条書きで書いた紙を作業場の机に置いて、椅子に座った途端にもう一枚の紙を取り出した。


「ディーナ、今使ってる銃の感覚はどうだ?ある程度は使いやすいか?」質問しながら分解した銃を元の形に戻していた。「今の銃はそうね、今まで使ってきた銃の中だったら一番かも。軽さとか振動とかも他の銃には無いぐらいちょうどいいから」


銃の使いやすさを聞くと、元通りにした二丁の銃を一丁ずつ隅々まで見始めた。トリガーの引く力、マガジンの取り出す時間や銃の重さ、その全てを再びペンを手に取って紙に箇条書きで書いた。マグナムの弾の取り替える時間等も全て。


一通り見終わったチハツはペンを置いて、二丁の銃をディーナに手渡した。「こいつは返すぜ、ちゃんと元通りにしておいたから安心しな」「もういいの?この銃をベースに作るんじゃ」

「ベースよりかは単なる重さや引きやすさを調べただけだ、別にこの銃を元に作るって訳じゃねぇからな。それにそれがねぇと"リンドウ"として支障がでるだろ?」

銃が無いと仕事にならないと思いチハツはディーナの銃の特徴を細かにメモしていたのだ。


「返す必要……依頼が来ているのか?」ヴァレアが依頼が来ているのかと聞くと苦笑いで「無いわよ。でももしもの事があるからチハツは返してくれたのよ」「だろうな。噂も何も聞かないあたり暇してるだろうと思っていた」


図星過ぎて何も言えないディーナだが「まぁどういった理由であれ"リンドウ"にとって武器は命だ。持っておくのが当たり前だろ」チハツが銃の必要性を言うとヴァレアは「それもそうか。依頼が無くても"リンドウ"は"リンドウ"か」目を閉じて納得していた。


「さてと、そろそろ作業に移るとするかい。と、その前に……」チハツはディーナの後ろを指さして「そこ、いつまで隠れてるつもりだ。さっさと出てきて自己紹介かなんかしろ」


ずっとチハツにとって気がかりだった。ディーナの後ろにベッタリと張り付くように離れない人影が見えていた。最初はディーナの影かと思っていたが明らかに影とは違う動きで、よく見ると黒い衣服に紫黒の髪色が見えていた。間違いなく隠れている人だと分かったチハツは痺れを切らして表に出てこいと言った。


すると、声をかけられた少女は驚いたようで体が勝手に「ビクッ」となってしまった。ディーナは少女に「フェリス、私もまだ会ったばかりだから分からない事が多いけど、まずは挨拶をしないとね」


優しく声をかけた。怯えながら少女はディーナの服を掴みながらチハツに顔を見せた。「こ、こここんにちは……あの、ふぇ、フェリス、あす、アスル、ロサです……」チハツに聞こえるか聞こえないか程の声で自己紹介をしたフェリス。チハツに何かしらの恐怖心があるのかチハツの顔を見れなかった。


しかしあまりにも聞こえにくい声、怯えて震える声も混じって何を言っているか分からなかったフェリスにチハツは容姿の事は一切気にかけずに眉間に皺を寄せて「なんだその声は!!人に名前を名乗るんだったら顔を見ながらハッキリと声を出せ、俯いて声が出ると思ってるのか!アタシの顔をまずは見ろ、そっから自分を名乗るんだろうが!初対面の相手なら挨拶はしっかりやれ!!」

チハツにとってふざけた挨拶をしたフェリスを怒鳴り散らかした。


チハツは礼儀を知らぬ者には容赦しない側面がある。ディーナ達が来る前に来た半人前の"リンドウ"も挨拶も無しにチハツに武器を作って欲しいと言って、頭も下げずにヘラヘラした態度にチハツは激怒。"リンドウ"を蹴り飛ばして扉を突き破ったのだ。

豪快で爽快。気に入った相手であれば協力を惜しまない人情精神のチハツ。だが気に入らない相手であれば速攻で店から追い出し、どれだけ金を積まれても一蹴する心の持ち主なのだ。


怒鳴られたフェリスは「ヒイィィィ!!」フェリスの可愛らしい声からは考えられないような悲鳴を上げてディーナを力強く握りしめて後ろに隠れた。


「おい!隠れるな!!もう一回ちゃんと挨拶するまでアタシは……」ディーナに近づいて行くチハツだったがここで手を伸ばして歩みを止めさせたヴァレア。

「チハツ、それ以上はよせ」「ヴァレア、アンタには関係ない。これはアタシとその子、第三者が首を突っ込むのはおかしいだろ」


手を下ろしてディーナの方を見るヴァレアはじっとフェリスを見た。

「見てみろ、震えている少女に何を言うつもりだ。全員を平等に見るのは良いことかもしれないが、それは少し不器用過ぎる。右も左も分からない少女には加減をする必要があるぞ」


いきなり怒鳴ったチハツに注意するヴァレア。チハツもフェリスをよく見ると余程の恐怖だったのかずっと震えが収まっていなかった。ディーナが慰めているのにも関わらずに。


「右も左もって、どういうことだ。見た感じ背は小さいが十歳は超えてる。そんな子ある程度世間は知ってるだろ」少し決めつける箇所はあるがフェリスぐらいの年頃の少女であれば知識もついてきて人と接していると思っているチハツにヴァレアはフェリスの事を詳しく話すことにした。


「私よりもディーナの方がフェリスについて知っている。だが今はフェリスの傍から離れさせる訳にはいかない。

私の聞いた詳細だけだが、彼女は孤独だった。それも数年間。物事を教える人も、世間を教える人も、誰もいない中でたった一人で生きて来たのだろう」

ヴァレアはディーナから少し前にフェリスの出会いを聞いていた。事細かに説明はしていないがそれでもフェリスの今までの状況下を知るには充分だった。フェリスに対してヴァレアは優しく振舞おうと決めた、良き理解者として。


「……それは今を学んでいるのか?」「ああ、属性を知らないと言われた時は驚いたがな」

属性を知らない人間がいることに驚いたチハツ。目先を下に向けてから、チハツはディーナまで歩いた。冷静さを取り戻していたチハツを止めないヴァレア。


一方でディーナは怒鳴られたフェリスの目線までしゃがんで震えるフェリスの頭をずっと撫でていた。泣くことも出来ずにただ恐怖を感じてしまったフェリスは何も喋れなくなっていた。


「大丈夫、大丈夫。私がいるから」優しい言葉をかけ続けるディーナ。そんなディーナの後ろに立つチハツ、気配で気づいて顔を振り返り「ごめんチハツ、今は貴方とフェリスを会わせる訳にはいかない」フェリスの怯えさせたチハツを責めることはしなかったが会わせはしなかった。


しかし、チハツはその場から離れることはせずに「悪かったな、アタシも短気になり過ぎた。そうだよな、誰も教わる奴がいなかったら挨拶も何も分からないな。

その、なんだ、アタシはチハツ・タンデリオンって言うんだ、もう一回名前を教えてくれねぇか?」


フェリスの置かれていた状況を断片的ではあるが聞いたチハツは自らの行いを謝罪した。チハツも冷静に考えれば分かるはずだった、変わった容姿でディーナに引っ付いている少女が普通じゃない事を。


謝罪したチハツを見たディーナは「今なら大丈夫かな」口にはせずにフェリスを見て「チハツは謝ってくれる優しい人だよ。フェリスを怖がらせるつもりなんて無いから、名前を言ってあげて」フェリスの両肩に手を添えた。


フェリスは怖がりながらも、一度深呼吸をしてから、震える体で心臓の鼓動を速いが、今度もしっかりとチハツの目を見ながら「ふぇ、フェリス、あす、アスル、ロサです」まだ、チハツには警戒を解いていないが、言われた通り目を見て自己紹介をした。


顔を向けてまだ震える声ではあったがチハツは満足して先程とは打って変わって無邪気な笑顔を向けて「やれば出来るじゃねぇか。よろしくな、フェリス!」膝を曲げて、手を差し出したチハツ。フェリスは恐る恐る手を伸ばすとチハツはフェリスの手を掴んで握手を交わした。


握手を交わしたチハツの手は暖かく、どこか落ち着く。手を握っていると震えている体も自然と収まり、恐怖心もどこかに消えていた。


「ち、チハツさん、手が暖かい、なんだか、お姉ちゃんと手を繋いでいる時みたいに、安心する……」思わず口にしてしまったフェリス。「……フェリスも、いきなり、チハツさんを怖がったりして、ごめんなさい。誰かに怒られたりしたのは、初めてだったから」


「そう、か。まぁなんだ、人から怒られるってのは人生において経験しておくべきだ。そうやって人ってのは成長して行くもんだからな」「そうかな、フェリスはまだ成長出来るんだね」「何言ってんだ、成長期の娘なんだからまだまだこれからだろ」


フェリスとチハツが和解して二人で話している所を見てフェリスひ新しい友達が出来て微笑むディーナ。すると、ディーナはある事に気がついた。


「そっか、だからフェリスはあんなに怖がっていたのね」独り言のように呟いたディーナだが近くにいたヴァレアが聞いていて「何がだ?」と、聞いた。


「いやぁ、この工房に入る前にフェリスが不安気でここに入るたくなさそうだったから。何かしらの理由があるとは思ってたけど、チハツが今まで見てきた人とは全く別の性格とかだったから怖かったのかな。来る前に"リンドウ"を吹っ飛ばしていたから余計に。

チハツは見る限り所謂姉御肌、フェリスの良いお姉さんになってくれるかな」

ずっとディーナの後ろに隠れていたフェリスに違和感を感じており、怯えた様子だっために理由はあると感ずいていたディーナだがようやくその理由も分かった。


「彼女にとってチハツは未知の人だったと言うことか。それなら、怯えた理由も分かるがな」フェリスの気持ちを理解するヴァレア。「ヴァレアってフェリスに優しいよね。私は嬉しいけどどうして?まだ会ってそんなに仲も良くないんじゃないの?」

「子供には不自由無く生きて欲しいだけだ。フェリスの過去は分からないが、今はお前がいるから彼女も幸せだろ。私のようになって欲しくないからな」


最後の言葉がかなり意味深に感じたディーナは口を開いた瞬間「ディーナ、ちょっといいか?」チハツがすぐ近くに来ており有無を聞かずにディーナの手を掴んで工房の奥に連れていった。


「ちょ、何?」「アンタあの子を一度も叱ってどういうことだ!甘やかすのも大概にしろよ!」フェリスと会話を重ねる内にディーナの行動があまりにも甘すぎるためにチハツがディーナに怒っていた。

「べ、別に甘やかしてるつもりなんて無いよ。フェリスが成長してるのをただ手伝ってるだけで……」

「それが問題なんだよ、フェリスが欲しいものをありのまま買い与えてどうするんだ!」「フェリスが、欲しいって言うから買っただけで」

「言い訳するな!全部事実だろ!アンタがフェリスを怒れないのならアタシがアンタを怒ってやるよ!」「それどういう理屈!?」


ディーナが連れていかれる場面を見ていたフェリスとヴァレア。「お、お姉ちゃんどうしたんだろ。チハツさんがちょっと待っててって言ってからお姉ちゃんを連れて行っちゃった」大方の事を察したヴァレアは「その内に戻ってくる、ディーナが落ち込んで帰ってくると思うがな」「えっ?」


数分後に戻ってきたディーナとチハツ。チハツは何事も無かったかのように振舞っていたがディーナは苦笑いを浮かべてどこか落ち込んでいたのはまた別の話……

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