武器の想い
チハツ・タンデリオンと名乗った彼女は武器職人と言った。「チハツね。名前を教えてくれたのなら私も言わないと。私はディーナ、"リンドウ"であって"奇術の属性弾"って世間から言われてるの。よろしくね」
自身の詳細を言った後に手を差し伸べ握手を求めたディーナ。その手を掴んだチハツ。「いいねぇ。見れば見るほど良い目だ。こりゃあアンタの武器も期待して見れるってもんだ。六属性を使う銃、武器職人のアタシが興味を持たないわけないだろ」
チハツはディーナの手を離して「とりあえず立ち話もなんだ、アタシの店に入んな。ヴァレアの刀も渡さないとね」と言って建物に入っていった。ヴァレアもチハツの後に続いて建物に入った。
「それじゃ私達も行こっか」ディーナも建物に入ろうとしたがフェリスはその場から動かない。フェリスがついてきていないと分かったディーナは「フェリス、ほら行こ」名前を呼んだ。
「う、うん……」どこか不安気なフェリスだったがディーナの呼ばれてディーナの後ろにピッタリと引っ付いた。
二人は建物に入った。中に入るとおびただしい程の金属が床に落ちていたり壁に飾られていたりしていた。壁には他にも様々な武器もあり、どれもひょんな事では壊れないような造りをしているのが目で見ても分かる。
キョロキョロと見渡して興味を示すディーナ。先に入っていたヴァレアは椅子に座っており足を組んで何か待っているようだった。すると、奥の部屋からチハツがヴァレアの刀を持って出てきた。
「ほら、ヴァレア。いつも通り丁寧に扱ってるし手入れも欠かしてない、アンタの刀を見るのは本っ当に楽しみで仕方ない。次もまた持ってきてくれよ」チハツは笑顔でヴァレアに刀を返した。
「当然だ、私のもう一つの命。大切に扱わない方がおかしい」ヴァレアは刀を手に取り腰に差した。
「さて、ここに来たのは初めてだったな。改めてアタシの工房へようこそ。歓迎するぜ、ディーナ」ここはチハツの鍛冶屋、チハツはここでありとあらゆる武器を造っている。「ここがチハツの仕事場ってことね。色んな金属もあるし飾られた武器を見る限り、貴方ってかなりこだわりある人ね。武器に対して手を抜かない、正しく職人ね」
店の中の情報を見ただけでチハツのこだわりが分かるディーナ。チハツはディーナの言葉に笑って「当たり前の事だ。アタシの作る物は全部一流さ、納得出来ない物なら速攻に壊してまた作る。そうして出来上がるものは至極の逸品さ。アタシの武器に文句は言わせねぇ、仕上がりで黙らせるだけだからな」
「その自信は確かな物と見て間違いなさそうね、大口叩けるのは確固たる実績があるから、でしょ?」そう言ってヴァレアの方を見るディーナ。
「私の刀を唯一預けられるのがチハツだ。生半可な武器職人では触れる事も許さない」
刀に並々ならぬ想いを持つヴァレアにディーナはふとこんな事を。「そういえばヴァレアの刀もチハツに打ってもらったの?」ここまで刀を大切にするヴァレアの刀もチハツに作ってもらったかと聞くとチハツは「いや、アタシじゃない。元々ヴァレアが持っていて、知り合ってから刀の手入れをしてるだけさ」
ヴァレアの刀は自ら所有していた物だった。「あんまり貴方の武器の事を知らなかったから、ちょっとだけ聞いてもいい?」「アタシも興味あるな、ここまで精巧で美しい刀を打つ人間、会ってみたいね」
二人共ヴァレアの刀の詳細に興味があり直接本人に聞くと、ヴァレアは少しの沈黙の後にこう語った。
「……ある人が子供の時の私に譲ってくれた。刀の名は"ヒメ"、成長してからもう一度会う約束を交わした。だけど、"ヒメ"を預かった日から会うことは今の一度もない。あの日が最初で最後だった、あの人の名前も何も分からない。もしかしたら二度と会えないかもしれない……だからこそ"ヒメ"を力として守るべき宝として、私は振るうだけだ。いつか、顔を向けられるまで」
ヴァレアの刀の名は"ヒメ"、かつて名前も知らない誰かから譲り受けたヴァレアの宝。ヴァレアは"ヒメ"を譲り受け、また再開する約束を交わしたが、十数年経った今でもまだ会うことは叶っていない。
どこで何をしているかも、そもそも名前も知らない。それでもヴァレアは必ず会える事を願っていた。一夜だけの、たった数分の時間だけだったが、自分の心の師に会うのがヴァレアの一つの願いでもある。
刀の詳細を語ったヴァレアは「悪いが、面白くも何も無い話だ。二人の期待に添えないのことは承知の上だった。私も他人に話したのは初めてだったな」面白みのない話だと言ったがチハツは「いや、充分過ぎる程良い話だ。その刀、"ヒメ"の持ち主か、アンタ程じゃないがアタシも会いたくなった。どんな奴か気になって仕方ねぇ」そう言ってチハツは笑顔を向けた。
「貴方が自分の過去を言うなんて初めてじゃない?私はそれがビックリしちゃった。でも私もチハツの言った通り良い話を聞いちゃった。いつかその人に会えたらいいね」「……そうだな」
ヴァレアの話を聴き終わったチハツはディーナに「さて!アタシにとってはここからが本題だ。ディーナ、アンタの武器を見せてくれ。全属性が扱えるアンタだ、それ相応の銃なんだろ?」チハツは手を差し出してディーナの銃を拝見しようとしていた。
「う~ん、私の銃はヴァレアの話 以上に期待はダメだと思うよ。別に見せろって言われたら見せるけどね」過度な期待はしないようにと忠告しながら懐から二丁の銃を取り出してチハツに渡した。
チハツは二丁の銃を見た瞬間に驚きを隠せなかった。「アンタこれ、特注でもなんでもないただの銃じゃない。こんなんで"マリー"と戦っているって言うのかい、速攻で壊れてもおかしかねぇ」
ディーナの銃は店売りで買った普通の銃。二丁の銃二つ共店で買い、こだわりも何も無い。"リンドウ"であれば武器はほぼ必須であり、武器も使いやすいようにするのが当たり前である。
「アンタ武器をなんだと思ってるんだい。壊れたら買い直す性分かい?そんな根性アタシは嫌いだね」期待はしていただけにチハツの落胆は大きいものだった。
申し訳無さそうな顔で何も言わないディーナだったが、ここでヴァレアが「その銃、本当にただの銃か?」再度チハツに銃を確認するように言った。
「何言ってんだい、アタシが武器を見誤るなんて……んっトリガーの部分が若干だが軽い、売りに出てる武器じゃもう少し重たくしねぇと暴発の可能性がある……」顎に手を当て、考える素振りを見せるチハツはディーナに銃を返さずに「悪いがこの銃、少しばかり構造を見ていいか?アタシだったら秒で直すことは出来るからさ」
銃を分解して中身を見せて欲しいと言ったチハツに対してディーナは止めることはせずに「どうぞ、私もよく中を覗くから」許可を経たチハツは頷くと作業場の机に銃を置いて椅子に座って腰にぶら下げてあった工具を手に取って銃を分解し始めた。
ものの数分で二丁の銃を分解して構造を詳しく見たチハツはまたしても驚いていた。「こいつは驚いた。一見普通の銃に見えたが、アンタ自己改造してたんだな。それにデタラメな改造じゃなく数ヶ月は持つようになって、定期的にメンテナンスしているようだね」
ディーナは銃を店で買ってその後に自ら改造を施していた。普通の銃ではディーナの属性弾に耐えきれずに
数発撃っただけで壊れてしまう。そのためディーナは自身で改造して属性弾にもある程度は耐えられる銃を作っていた。しかし、それでも定期的なメンテナンスは必要。さらにそこまで改造しても限界は来るのは早く数ヶ月に一回は銃を変えなくてはいけなかった。
チハツに見せるのをあまり乗り気では無かったのはこのためであり、自分の銃を何度も変えているため、銃を大切に扱っていないと思われると、考えたためである。
「この感じ見ると、アンタ結構な頻度で銃を変えてるんだな。分からねぇな、なんで一個にこだわらないんだ?そっちの方が"リンドウ"としての時間も作れるだろ」銃の構造を見ただけで何度も変えている事が分かったチハツは理由を聞いた。
「そうしたいのは私も一緒なんだけどね」苦笑いを浮かべるディーナ。「じゃあなんで……」
「どんなに腕の良い職人でも私の属性弾を耐えられる銃を作るのは無理だって匙を投げられてね。何人も頼んでみたけど試しに何発か撃っただけでダメになっちゃってね。
それで、私も作ってもらうのを辞めちゃってね、私が改造してるの。私の属性は私が一番知ってるから案外上手く行っててね、私も武器職人の才能があって最初は嬉しかったけどどうしても完全に壊れるのを防ぐのは無理だった。それで何回も銃を入れ替えては改造しての繰り返し。私は、本当の自分の銃を持つのがいっぱいある夢の一つかな」
ありとあらゆる職人に頼んだり元から作られてある銃を手にしたりしたがどれもディーナの銃弾には耐えられなかった。幾つもの銃を壊したディーナは罪悪感を感じてから自らで改造を施した。これ以上無駄に銃を破壊したくない、この想いでディーナは新たな銃を手にしたく無かった。
ディーナの想いと理由を聞いたチハツは再度分解した銃を見て、しばらく間が空いた後に大きな声でチハツは「……アッハッハッハッハッ!!夢か、いいな!ディーナ!アタシはアンタを気に入った!アンタの銃をアタシに作らせてくれ。とっておきのを生み出してやるよ」
高笑いをした後にチハツは先程の落胆とは打って変わってディーナの銃を作ると言った。
「ど、どうして急に?私の銃は気に入らないんじゃ」さすがのディーナも困惑していた。
「最初見た時はそうだった、武器になんの思入れ無い奴かと思ったけど構造やアンタの話を聞いて気が変わった。長年職人をやってきたアタシだから分かる、ここまで精巧で丁寧な改造を素人が施すなんて見た事も聞いた事ねぇ。こういうのを出来るのは愛情があってこそだ、偶然で出来る技術じゃねぇからこそアタシを気に入らせてくれたんだ。
それに武器に夢を見るなんて粋じゃねぇか、アンタの専用の銃……いや、叶えさせてやるよ。アンタの一つの夢をな」
チハツは本気でディーナの銃を作ると決意した、その熱意はディーナの胸にも刺さり、ディーナは微笑みを見せた後にチハツに近づいて手を差し出した。その手をギュッと握ったチハツ。
「それじゃ貴方にお願いしようかな。貴方の自信や熱意は私にも伝わった、その自信を私の銃にも込めてよね」
「任せな、アタシの腕を見せてやるよ。期待して待ってな」
こうしてディーナの銃をチハツが生み出すことになった。




