謎と形見
鎧の人間を倒したディーナは銃をクルクルと回した後に懐にしまい、手のひらから流れる血を振り払った。
人の残骸がある穴に近づいて、じっと見つめると「ごめんなさいね、手向けの花は持っていないの。せめて、貴方達にご冥福があることを」目を閉じて静かに手を合わせた。
すると、「ディーナ」名を呼ぶ声を方を向くと戦闘を終えたエーデルが三階から二階に降りてきてディーナに合流した。
「エーデル、目的の"マリー"は討伐した?」「ああ、貧乏くじを引いたがな……なんだこいつ死んでいるのか?」倒れている鎧の人間に気づきディーナに聞いた。「多分ね。確認する価値も無いけど」「と言うことはお前がやったのか。"リンドウ"同士での争いもあるのか、面倒な仕事だな」自分は"リンドウ"ではないエーデルは他人事のようだった。
「それよりもこれを見て」無数の残骸がある穴を見るように促すディーナ。なんの疑いもなく見たエーデルは表情は変えなかったが「……なるほどな」「どうかした?」
「私が殺した"マリー"は他にも"リンドウ"を殺していた。部屋に血が無数に飛び散っていたが"リンドウ"共の死体がどこにもなかった。時間が経って無くなるにしても骨も無かった所を見ると、この穴に全員詰め込まれていたんだな。外傷を見る限りでは"マリー"だけの仕業ではなさそうだがな」エーデルの疑問はここで晴れることに。"マリー"が丁寧に残骸を片付けているとは思えなかったがここに収容されていたことが分かった。
「他は、この人間がやったんだな。お前が人に銃を向けるのはよっぽどの理由があったってことだろ?」「最初は"マリー"かと思っていたけど、この人がその剣で私に襲いかかってきてね、対抗する内に本棚の裏からこの穴が見つかってね。なんの理由があってこんなことをしたのかは分からないけど」
エーデルはどういった人間かを知るために鎧の人間に近づき、しゃがんでよく見ると何かの違和感を感じた。考える素振りを見せるエーデルはディーナに「こいつと何か話したか?」ディーナは首を横に振り「ううん、私が何を言っても返事は無かった。無口なのか話せないのか知らないけど」
声を聞いていない、返事をしない鎧の人間。その事を聞いたエーデルは鎧の甲冑を付けている頭を軽く蹴った。鎧は飛んでいき、壁に激突した。「ちょエーデル、いくら外道って言っても流石に死んでいる体に痛みをつけるのは……」冒涜を止めようとしたディーナだったが「人間?よく見ろ、これが返事出来る人間か?」
鎧の人間の顔を見ると、そこには人間ではなく、皮膚が爛れ肉体が見えている人型の"マリー"のような存在があった。正体が人間ではないと分かったディーナは驚きを隠せずにいた。
「どういうこと。"マリー"が鎧を着ていた、人を襲うのはともかく、なんでじゃあこんな人を集めているようなマネなんか……ちょっと頭の整理がつかない」混乱しているディーナ。エーデルは飛んで行った鎧の頭を手に持ち何かないかと頭の中を調べていると、ある事が書かれていた。
「EB-0347、"マリー"が自らつけるような数字ではない、鎧に数字なんてどういう意味がある」"マリー"が自己的に着ていたとは思えない鎧や刻まれた数字、エーデルもこの異常な事態にただ事ではないと感じていた。
考え込むディーナだが、鎧の胴体を見ると胸の辺りに微かにだが輝く何かが見える。「これって、もしかして……」輝きに心当たりがあったディーナはすぐに「エーデル、ちょっと来て」
呼ばれたエーデルは鎧の頭を持ってディーナのもとに。「どうした?」「胸の辺りを見て。よく見ないと分からないけどちょっと光っているの。もしかしてだけどこれは」まだディーナが話している途中だったが、エーデルは正体を知るために亜空間を出現させて慈悲も無く、鎧に棘を刺した。
棘を刺すと、胸の辺りの鎧は砕けて中身が見えるように。輝きの正体も知ることに。青白く輝いている光のような物体、それが鎧の中にあったのだ。
二人は輝く物体を見て「やっぱり、思った通りね。鎧からかこの"マリー"からかどっちかだけど……属性、風の属性が見えていたのね」この物体は女性が持っている、属性であった。属性は本来体内に内包されており直で見ることが出来ない。
「だがなんで見えている。私達の中にあるはずの属性が飛び出すことなんてありえないだろ」「人体の構造は詳しくないから何とも言えない。でも、この"マリー"は自然発生したんじゃない。人工的に誰かによって作り出された"マリー"よ」
ディーナは今ある状況や分かることを組み立て、鎧の"マリー"は人の手で作り出したと確信していた。
そして属性は時間が経つにつれて徐々に薄れていく、灯火が消えていくように。そして属性は消えて行った。
「なるほどな、この頭の中にある数字も人が刻んだのなら納得がいく」「数字?」エーデルは鎧の頭をディーナに渡した。ディーナは鎧の頭を除くと「EB-0347、何かの暗号?これだけじゃ特定は難しいわね」
すると、エーデルはディーナに「フッ、"マリー"が武装か。それを作り出す人間。ディーナ、これから忙しくなりそうだな、敵は"マリー"だけじゃない。世界を守る"リンドウ"、退屈にはならなそうだな。まぁ、私にとってはどうでいいがな」口角が上がるエーデルはディーナに鼓舞か、それとも嫌味なのかどちらかは分からない言葉をかけた。
「退屈なるのが一番理想的になんだけどね。私は私なりに頑張るよ」エーデルのセリフに当たり障りのない言葉で返したディーナ。
ここでディーナはふとエーデルの全身を見ると「思ったけどなんかすごい濡れてない?服とか湿ってるような」鎧の"マリー"で頭がいっぱいだったディーナは冷静にエーデルの状態も不思議だった。
「今気づいたのか。全て"マリー"の仕業だと言っておこう」この言葉で水の属性を使ってきたと分かって納得した。
「それで、"マリー"が持っていたものは何だったの?」ディーナも貧乏くじを引いたと言っていたために目的の物ではなかったと察していたが聞いてみることにした。エーデルは少し黙って「……戦っている最中に壊れた。形状からして私と同じ物ではない。無駄な労力をつぎ込んでしまった」
エーデルはこう言ったがさっきの間や、スズカの言っていた事を照らし合わせて何か分かったディーナだったが敢えて言葉にすることはせずに「そっか、残念だったね。また次があるから大丈夫よ」励ましの言葉をかけた。
こうして、廃校での戦いは終わったが同時に謎も起こってしまった。だがディーナは"リンドウ"達に報告はしなかった。エーデルは何故かと聞くとディーナ曰く「"リンドウ"の皆に言うと変に騒ぎになっちゃうし、一般の人にも知られたら収集がつかなくなっちゃう。それにエーデルは極力目立ちたくないから、どこからの情報からか探られるのも嫌だろうしね。
私の知り合いの一部にしかこのことは伝えないから、安心して"マリー"を探しなよ」
ディーナなりにエーデルやこの世界に住む住人にも気を遣う結果言わないことにした。ハッキリとした情報も無いまま伝わるのも危惧したためでもある。ディーナは一層気を引き締めることにしたのだった。
「今回はハズレだ。目的も達成していないし疲れた。前金で払ったが、悪いが返してくれないか?」「なんでよ!話が全然違うでしょ!!」
「冗談だ、本気にするな」「冗談には聞こえないんだけど」
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その後、フェリスとスワイに合流した二人はエーデルが疲れたと言ったためにもう一度同じ宿屋に泊まり体を癒すことに。
翌日、町外れまで歩いた三人と一匹はここで別れることにした。「世話になったなディーナ。ハズレだったが今後も期待出来る活躍だった褒めてやる」微笑みを見せるエーデル。
「すっごい上からだけど依頼主と"リンドウ"の立場だからそうなるか。色々と知れたし私の方は収穫ありだけどね」「フッ、興味無いがな」
ディーナとの話を終わらせて、振り返って情報を探す旅に出ようとしたエーデルだったが、ずっとディーナの裾を掴んでいたフェリスが「え、エーデルさん!」名前を呼び、呼び止めた。
名前を呼ばれたエーデルは振り返って「どうした?」と、聞くと「えっと……あの、その……」もごもごして中々理由を聞くことが出来なかったフェリスだったが勇気を振り絞り「エーデルさんは"リンドウ"じゃない……けれど、優しい人。フェリスはエーデルさんと、お友達になりたい」他人に厳しいエーデルだが本質はお人好しで優しい。そんな人柄のエーデルと友人になりたいと思ったフェリス。友達になればエーデルの事をもっとよく知れて自分の成長にも繋がる、そう感じたからだ。
フェリスの友人になりたいと言う申し出に、エーデルはフェリスに近づいてフェリスの目線までしゃがんで「こんな私と友達なりたいか……お前も大層変わった奴だな。だが、お前と私は似た者同士。気が合う奴と友人なるのも悪くないかもな」目を閉じて微笑みを見せる。
「じゃ、じゃあ!」「何かあったら言え、助けてやるとは言わないが話ぐらいは聞いてやる」フェリスの言葉を承諾し、友達となった二人は手と手を交わして握手した。
満更でもないエーデルの様子を見ていたスワイはディーナの隣まで翼を羽ばたかせて「エーデルの初めての友達がフェリスちゃんとはねぇ。あ、でも初めてはディーナちゃん?」と、耳元で囁いた。
「私とエーデルは友達って言うよりかは仕事仲間みたいな関係だから、貴方から見て初めて友達に見えたならフェリスが初めての友達じゃないの?」
「エーデルに友達……ウチは嬉しいよ、エーデルの保護者としてウチやディーナちゃん以外にもまともに話せる人が出来て。ここまで成長させた甲斐が有るってものよ」感激していたスワイだがいつの間にかエーデルがスワイの隣に立っており、亜空間を出現させており「お前が私の保護者?お前が私を成長させた?そうかそう思っていたのか。喜べ、今日の夕食は黒い鳥の焼き鳥だ。お前が食えるかは知らんがな」完全にスワイを食す気のエーデル。
「じょ、冗談よ!ウチは従順なエーデルの家来よ!」必死に誤魔化すスワイに亜空間を無くして振り返ってスワイをほおって歩き始めた。
「じゃあな。またどこかで会うだろうが、その時まで達者でやれよ。ディーナ、フェリス」後ろを向きながら手を挙げて手を振ったエーデル。「ちょっと置いてかないで!」急いで後を追うスワイ。
エーデルとスワイと別れた二人。ディーナはフェリスの肩に手を置いて「良かったねフェリス。エーデルと友達になれて」「エーデルさん優しかった。悲しい人だって決めつけていたけど……フェリスが思ってた人じゃなかった。心が暖かい人だったから、友達になれて嬉しい」
無邪気な笑顔を向けるフェリスの顔を見てディーナの笑顔になった。
「それじゃ、帰ろっか」「うん!」二人は手を繋いで事務所に帰って行った。
「フェリスを連れていくのはちょっと反対気味ではあったけど、こんな笑顔見せられたら、良かったって思うかな」
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とある町、住宅に一人でいる少女、スズカは親の帰りを待っていた。あれ以来友達の時計の事が気がかりで仕方の無いスズカ。
一人で危険地帯に行ったこともあり親にはこっぴどく叱られて外出禁止を命じられてしまった。
一人で家にいるスズカは「はぁ、エリアの時計どこにあるんだろ……」友達の名はエリアと言った。
すると「ピンポーン」家のインターホンが鳴った。「誰だろ?」スズカが玄関まで行き、扉を開けてもそこには誰もいなかった。「イタズラ……あれ?」ふと下を見るとそこにはある懐中時計が。チェーンは錆びて、時計の秒針は動いておらず壊れていたが、スズカは見た瞬間に気づいた。
「エリアの、時計」手に取って、胸にギュッと握りしめて、静かに涙を零した。「お帰り……会いたかったよ」ようやく再開出来た友達の時計を放す事をしなかった。
「でも誰が……」キョロキョロと見渡しても誰がなんのために置いていったのかは分からなかった。
だが、町にはエーデルとスワイが。時計を拾っていたエーデルが時計を持っていなかった。不可解な行動をしたエーデルにスワイは疑問に思い「どうして置いていったの?こういうことするのは初めてじゃないの?」
スワイの質問にエーデルは「……誰かの形見を持ちたい、その気持ちを一瞬でも理解してしまった。私の手には不要な物だ、あるべき場所に返した。それだけの事だ」
エーデルは歩き始めた、いつかの思い出を取り戻すために。
二章 「属性の灯火」完




