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カエデ  作者: アザレア
属性の灯火
19/86

錆びたチェーンと確かな成長

廃墟の近くにある町まで歩いてきた三人と一匹。


「着いた、この町が"マリー"の被害にあってるのね」町の様子を伺おうと歩きながらキョロキョロと見渡たすと、町に建つ家がボロボロに引き裂かれて、地面には生々しい血の跡、町に歩く人々のほとんどは浮かない顔。


「なるほど、"マリー"がいるのも納得。数回"マリー"の襲撃があればこの町はもう……」状況を見る限り明らかに"マリー"が来ていた痕跡が大量にあり、悲劇が物語っていた。


ずっと手を繋いでいるフェリスも胸に手を当てて何度も深呼吸をしている。エニーに最初に来た時と状況が似ていたためか負の感情がどんどんとフェリスに押し寄せてきた。それでもなんとか涙を堪えているフェリスにディーナが心配して「大丈夫?ここはこの前のエニーと同じような場所、悲しい声は聞こえるけど耳をふさいではいけないよ。世界を知るにはこの声は聞かなきゃいけないから」フェリスの目線まで膝を曲げながら言った。


フェリスは大きく深呼吸をして「大丈夫だよ。お姉ちゃんが息を大きく吸って吐いたら落ち着けるって言ったから、フェリスも落ち着くためにやってみたら本当に落ち着いた。泣いてばっかりじゃいけないよね、しっかり歩いて行かないと」一度経験している事で泣かないようにして、ディーナの目を見ながら話した。


涙声ではあったがそれでも泣かなかったフェリスに驚いたディーナは、優しく微笑んで頭を撫でた。確かな成長を感じて嬉しく思っているディーナ。


すると、後ろからエーデルも来て「町には来たがこの町には用がない。被害があっただけで目的は廃墟だ。行くぞ」ディーナ達を差し置いて一人で先に進み出すエーデル。


スワイは「エーデルの言う通りこの町はただの通り道、ウチらが"マリー"を討伐すればこの町を平和になる。これこそ一石二鳥ってやつよ」「鳥だけに?」スワイは黙ってエーデルについて行った。「そんな冷たくならなくてもいいじゃない」


ディーナも立ち上がって「行こ、エーデルに置いていかれるよ」フェリスの手を繋いだ。「うん」繋ぎながら歩く二人、エーデルと合流して廃墟に向かおうとした時「"マリー"が来たぞ!逃げろ!!」住人の誰かが大声で"マリー"襲撃を伝えた。


慌てふためく人々、"マリー"が来ることを恐れ家に避難していく。中には慌てすぎて転んでしまって歩けない少女もいた。少女は膝をスり血が流れている。


転んでしまった少女の目の前にはディーナ達がいた。ディーナは来るべき"マリー"に向けて銃を握って準備を万全にしていた。「フェリスは物陰に隠れて。私がいいって言うまでは出てきちゃダメだからね」フェリスの手を離して隠れるように促した。


「う、うん。お姉ちゃん頑張ってね」フェリスは走って建物の物陰に隠れてひっそりとディーナ達を見届けていた。


エーデルは少女に近づいて手を差し伸べる……ようなことはせずに、少女を素通りして先に進み始めた。少し進んだ先で止まって奥を見据えた。「小娘邪魔だ、死にたくないなら逃げろ」振り向きもせずに、少女の状態を確認せずに言った。エーデルにとって少女は眼中に無いようだ。


膝から血が出てまともに逃げることが出来ない少女はなんとか立ち上がって足を引きずりながら逃げようとするとディーナが少女の有無を言わずに少女をお姫様抱っこした。「この怪我では走れないでしょ?私に任せて」ディーナは少女を守ろうとしていた。「ありがとう、ございます」体制に若干恥ずかしくなっている少女。


少女を助けずに"マリー"が来るのを待つエーデルに近づくディーナ。無情のエーデルに怒るのではなく「何か見える?」「ああ、前を見ればすぐに分かるさ」状況を確認した。


ディーナは目を細めてよく見るとそこには、二足歩行で歩く獣がいた。獣は巨大で人間よりも二倍も三倍も大きい。長く黒い毛並みを持ち、毛並みの至る所に人間の血のような赤い液体が染み付いている。

頭部はフードのような布が被ってあり確認することは出来ないが二本の角がフードから飛び出していた。


獣は一直線にエーデルとディーナの二人に近づいてきていた。「"マリー"だよね?見たところ動物型、二足歩行の獣で角が生えてるのは初めて見るかも」「ああ、私もだ。顔が分からない奴も見たことがない。

だが、探す手間が省けた。あいつが狙いの"マリー"だ」


今回の依頼の"マリー"の正体は動物型、二足歩行の"マリー"だ。「あれが狙い?ネックレスなんて持ってる?」"マリー"の全身を見てもそれらしいものは見当たらない。しかし"マリー"は右手を胸元に当てている。


「"マリー"の右手をよく見てみろ、何か持っているだろ」ディーナは"マリー"の右手をよく見ると、金属のチェーンが見える。チェーンは錆びて元の色は分からないが、赤く染まった部分は見えていた。


「あれがネックレスに見える……見えなくないね。チェーンの部分とかは錆びてるから色は分からない、赤の色は人の血ね。貴方の持っているネックレス同じかは確信出来ないけど、可能性があるからあの"マリー"を討伐するのね」持っているのは確かだがチェーンの部分しか見えていない。ネックレスかどうかも分かっていないがエーデルはニヤリと笑った。


「持っているだけでも、可能性が低くても、私の思い出を奪った"マリー"を生かす訳がないだろ」「まぁ、"マリー"を退治するって考えなら何も言わないけど」


"マリー"はどんどんこちらに近づくにつれてディーナは気づいた。"マリー"の左手には血が流れ落ちている人間を、女性を掴んでいることを。「逃げ遅れたのね、あの人はもう……君は目を閉じて」そう言うとディーナは少女の目を手で覆った。

「"マリー"が来たんだ。人が殺されてもおかしくはないだろ」他人が殺されようとも感情を動かさないエーデル。


"マリー"はディーナのエーデルを見続けながら近づいてくると、掴んでいる女性を物を投げるように二人にほおり投げた。ディーナは横にステップして、エーデルは一歩も動かずに体を捻らせて女性を避けた。


避けられた女性は地面に叩きつけられ、転がり続けて、倒れ込んだまま動かない。倒れた女性から血が流れその場には血溜まりになった。

ディーナは振り返って女性を見たがエーデルは振り向かずに真っ直ぐ"マリー"を見ていた。


「手を出すなよディーナ、あいつは私の"マリー"で殺すのは私だ」「そのつもりだよ。フェリスとこの子の安全を確保する、"マリー"は任せたよ」この場はエーデルに頼んでディーナは物陰に隠れているフェリスの元に走った。


ディーナが走り出すと同時に"マリー"も走り出した。口元に手を当て考える素振りを見せるエーデル。「この"マリー"、どうやら私やディーナじゃなくてあの娘を狙っているのか。何も出来ない奴を狙っているのかは知らないが……」口元に当てていた手で指を鳴らすと、エーデルの後ろの地面に複数の亜空間が出現しそこから闇の棘が生えてきた。


天高く聳え立つ闇の棘、"マリー"を先に進ませないように棘を維持している。「私を無視するつもりか?悪いが、相手されないのは嫌いなんだ」棘が出てきて進めない"マリー"は原因をエーデルと突き止めたようで、走ってくる勢いで鋭い爪を立てて素早い動きでエーデルを切り裂こうとした。


体を裂かれる前にしゃがんで鋭い爪避けたエーデルは"マリー"との距離を置くために"マリー"の股の間を走って通り抜けた。一定の距離を置いたエーデルは右腕を振り上げる動作をすると、"マリー"の近くに亜空間が出現して空間から細い棘が"マリー"を刺した。細い棘のためか"マリー"の体を貫通することは出来なかった。


間髪入れずに振り上げた手を振り下ろすともう一つの亜空間が出現してまたしても細い棘が"マリー"を刺した。こちらも貫通は出来なかった。「硬いな、普通の"マリー"なら穿てるがこいつは無理だな」


痛みを感じているか分からない"マリー"だが振り返ってエーデルを睨みつけると左手をゆっくりと振り上げて、一気に振り下ろして地面を叩くと衝撃波が地面に響き地割れが起き、エーデルを奈落の底に落とそうとした。


地面が割れていきエーデルの足元も割れかけていた時「スワイ!!」と、大声で呼ぶと上空からスワイが急いで飛んできて「ほら、掴まりな!」スワイは鳥の脚を前に突き出すとエーデルは飛んで脚を掴んだ。


エーデルが飛んだ瞬間地面が割れて奈落が見えた。一歩遅れていたらエーデルは奈落に突き落とされる所であった。


「ふぅ、間一髪だったじゃん、ウチがいないと死んでたでしょ?」「そのまま飛んでおけよ」だが"マリー"はその巨大を活かして腕を伸ばしエーデルの足を掴みかけたがスワイが更に上空高くに飛び届かなくなってしまった。「ヒヤヒヤするねぇ。打開策ある?」「黙って見ていろ、一瞬で終わらせる」


そう言うとエーデルは手を広げて亜空間を出現させると、手裏剣ような刃が付いた闇の物体が出てきて手に取った。「風車、引き裂け」物体を"マリー"に向けて飛ばすと、縦回転しながらどんどんと大きくなっていき"マリー"の胴体程の大きさになり、"マリー"の体を回転しながら刃は切り裂いていく。


"マリー"は後ずさりして刃から離れるが糸でも繋がっているように"マリー"から離れずに接近して体を切り裂いていく。黒い靄が体から流れ始める"マリー"。すると、苛立ちを隠せない"マリー"が「ああああああああぁぁぁ!!!」と、周りの耳をつんざく声を上げた。"マリー"は闇の物体を手を傷つくことも躊躇わずに掴んでエーデル目掛けて投げ飛ばした。


エーデルは腕を突き出して手広げるとエーデルの前に物体が入るほど大きな亜空間を出現させ「私の物を私に返してどうする?意味は無いぞ」飛んでくる物体はそのまま亜空間に入っていき入った瞬間に亜空間は消え去った。


「ごめん、エーデル、そろそろ限界……」ずっとエーデルを掴みながら飛んでいるスワイも苦しい表情を浮かべていた。「とどめを刺すか」そう言うと、エーデルの足元に亜空間が出現して、先程よりも太い棘を空間から出てきて勢い良く"マリー"に向けて飛んで行った。


傷ついた"マリー"は避ける事が出来ずに飛んでくる棘が胴体に突き刺さった。刺さった場所から黒い靄が流れ落ち、膝をつく"マリー"。


あと一押しで倒せると考えたエーデルはスワイの脚から手を離して、亜空間から飛び出ている棘の上に立った。人がギリギリ立てるほどの半径であったがエーデルは危なげなく立ち、そのまま歩き始めた。


動かない"マリー"に斜め上から歩いてくるエーデルはここに来る道中に倒した"マリー"と同じように手を広げると亜空間が出現して棘を引き出した。"マリー"の元まで行き棘を構えて首元目掛けて「私の思い出を、返してもらおうか」棘を突き刺そうと押し込む瞬間、エーデルの目には"マリー"の姿が見えなくなっていた。


瞬きの間に姿を消した"マリー"、乗っている棘を見ると先端部分からエーデルが乗っている手前まで折れていた。辺りを見渡すエーデルにスワイが「エーデル、あっちよ」飛んでいる方向を見ると建物から建物に飛び乗って逃げる"マリー"の姿が。体には折れた棘が突き刺さってあり、どうやら自力で抜け出せないと判断して棘を無理やり折って逃亡を図ったようだ。


「私の属性を折ったのか……馬鹿力が過ぎるぞ。地面を叩きつけただけで割れる、どうやら一筋縄では行かなそうだ。それに本気になればあの逃げ足の速さも行けるか……一度でも攻撃を受ければ私の体は持たないだろうな」エーデルは乗っている棘から下りて地上に立った。スワイもエーデルの肩に乗り「で、どうする追いかける?今なら追いつくと思うけど」"マリー"を追う提案をするスワイだが「今はいい。討伐するのには変わりない、体制を整えてから行くぞ。恐らく住処の廃墟にでも行ったのだろう、目的地が分かっているのなら急ぐ必要も無い」


エーデルは指を鳴らすと"マリー"を通せんぼしていた闇の棘を引っ込めてディーナの元に歩いた。


物陰に隠れていたフェリスと少女を守る為に傍から離れずにいたディーナ。「終わったの?」エーデルが戻ってきて、言葉をかけた。「逃げられた、結局廃墟に行かないといけない」


「そう……」明らかに浮かない顔をしているディーナに疑問を持ち「どうした、何かあったか?」と、聞くと重い口を開けて「ちょっと、助けた子がね。投げ飛ばされた人の、その、遺体を見て何かを思い出したみたいでね。叫んで、ずっと泣いてる。私は安全確保のためにここを離れる訳には行かないから、今はフェリスと一緒にいる。貴方が来てから様子を見よっかなって」


「あの娘、人の死体を見るのは初めてなのか?それでパニックになって」「いや、そんな感じじゃない。多分だけど、貴方と同じ境遇なのかもしれない。目の前で誰かが殺されて、それと同じだったから、過去のトラウマが蘇ったんじゃないかな」


ディーナの言葉を聞いて、少し目を見開いて驚く表情をしたエーデル。自分と同じ境遇と聞いて何か感じることがあったのか、小走りで物陰に隠れていたフェリスと娘の元に行ったエーデルはその光景を見て「ディーナ、見てみろ」ディーナを手招いた。


不思議そうな表情をしてエーデルの元に行ってフェリス達を見ると、フェリスが少女に抱きついて「大丈夫、大丈夫。怖くない、怖くない、守ってくれるから。怖くないよ」耳元でずっと少女を宥めるフェリスの姿があった。


フェリスと少女の背丈はほとんど変わらない所を見ると歳はさほど変わらないようだ。人の死体を見るのはフェリスも初めてのこと、本来であれば少女と同じようにパニックになってもおかしくない。だが少女の叫ぶ姿、泣いている姿を見て、何かしてあげたい、自分が落ち着かないといけない、少女を、守らないと。


フェリスは泣く少女を優しく抱きしめた少女が落ち着くまでずっと、優しい言葉で宥めていた。自分と同じかもしれない、理由はそれだけで良かった。少女が泣き止むのなら助けになりたい、フェリスはその想いで少女を抱きしめたのだ。


フェリスの声や優しく抱きしめる抱擁感で少女はどんどん落ち着きを取り戻し、疲れてしまったのか眠りについてしまった。


「なんだ、私の思っていた人物像では無かったな。一人でも強い子じゃないか」「パニック状態の子供を落ち着かせるのは大変だからね。あの子がいて良かった」

エーデルとスワイがフェリスに好感を持ちエーデルは微笑みを見せた。


ディーナはフェリスの確かな成長を目の当たりにして、驚いていた。自分の知らない所でこんなにも精神的に成長して、人を落ち着かさせるようになったフェリスに、涙目になってしまったディーナ。「ずっと子供だと思ってたけど、そうよね、フェリスも成長するよね」我が子の成長を見て涙を流す親のようになるディーナ。


涙目になって泣くのを我慢している姿を見てしまったエーデルは「何で泣いてる?」気づかれたディーナはすぐに手で涙を拭って「泣いてない泣いてない。ドライアイだから目が乾くねぇ、あはははは」それっぽく誤魔化したディーナであった。


「とりあえず今日は休もうよ。流石の私でも歩き疲れちゃった、フェリスとこの子を休ませないと」「まぁいいだろ、私も力を溜めないといけないからな」

こうして"マリー"から間接的にではあるが町を守ったエーデル。一行は疲れを癒すために宿屋に向かった。全員はすぐに眠りについて明日に備えた、"マリー"討伐が本格化するのは明日からだ。

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