闇属性
翌日、エーデルの依頼を遂行しようととある廃墟に向かうディーナ達。フェリスもついて行くことに関しては特に問題無いと言って同行を許可したエーデル。スワイは少し反対気味だったがディーナの説得により納得はしていた。
前回の依頼地であるエニーとは違いそこまで距離は遠くないために廃墟まで歩いて行っていた。ただ歩いて行ける距離ではあるがフェリスにとっては長距離であることは変わらないため「はぁ……はぁ……」と、息を切らしてながら歩いていた。
歩いている最中に息を切らしているフェリスに気づいたディーナはフェリスの前でしゃがんで「ちょっと私の背中で休憩しようか」「で、でもお姉ちゃんは今から大変なお仕事が……」自分からついて行きたいと言った手前どうしても申し訳なさがあるフェリスだが「大丈夫、私は頑丈だからね」
ディーナの言葉にフェリスも甘えることにしてディーナの背中に体を寄り添った。フェリスを抱えたまま歩くディーナに羽を羽ばたかせながら進んでいるスワイは「優しいねぇディーナちゃん。その心意気を他にも分けてあげたらいいのに」少しからかい気味に言った。
「私も丸くなったのよ。フェリスは特別だけど他の人にもある程度は優しくしてるつもりだよ、私なりにだけどね」「まぁ元から他人には一歩引いた感じだったから、より一層人付き合いが上手くなったって所よね」
「こういう仕事柄だから必然的に付き合うも上手くなるのよ」
ディーナと話しながら全員の頭上で飛び続けていたスワイはエーデルの隣まで飛んで「エーデルももう少しディーナちゃんを見習ったら?コミュニケーション不足は後々面倒なことになっていくよ」エーデルにも人ともう少し付き合いをしろと言ったが
「必要以上に他者と接して何の得がある?目的の邪魔になる奴らに時間をかけるなんて論外だ」
とにかく目的の遂行のために他者との関わりをしないようにしているエーデルだがディーナは「それじゃ私に時間をかけるのは無駄じゃないってこと?」その理屈であればディーナの事務所に行き依頼を持ってくる時間は無駄ではないことになる。ディーナはそう言うとエーデルは少し笑い「はっ、役に立たない"リンドウ"共よりもお前の方がマシということだ」
「マシって、言い方は悪いねぇ」すると、スワイは今度はエーデルの隣まで飛んで来て耳元で「ああ言ってるけど褒めてるのよ、内心じゃディーナちゃんに会うのを楽しみにしてたのよ。会うのが近づくとあんまり笑わないエーデルがちょっとほくそ笑んだりしてたし……」
エーデルに聞こえない程の声だったがいつの間にかスワイの後ろについていたエーデルはスワイの首を掴んで「何か言ったか?私の機嫌が損なわない事を言っててたか?」ディーナは顔を後ろに振り向くと顔は笑っていたが明らかに怒っているエーデルがいた。
「ん~どうなんだろ。私は微笑ましい話だと思うよ、そんなに機嫌を悪くする要素は無かったと思うけどなぁ」当たり障りのない事を言うディーナに「そうか、ならこのお喋りな鳥の首を復元出来ないほどへし折っても構わないな?」「やめといたほうがいいと言うか、私に聞いてそれはどうなのよ?」
自分の言った言葉を冷静に考えたエーデルはスワイの首を離して「私が話を聞いていなくてよかったな。二度と声を発せないようにしたのにな」咳き込むスワイ。「確信を、持ってから、首を掴みなさいよ」
スワイのこの発言にディーナは言葉にしなかったが「首を掴みのは怒らないんだ。でもスワイって属性だから骨とかあるのかな……あんまり深く知らない方がいいこともあるか」スワイの体の構造を聞かなかったディーナであった。
----------
しばらく歩いたディーナ達、フェリスもディーナの手を繋ぎながら歩いていた。目的地まではもう少し歩くようだがここでようやくディーナは「ところで、私が必要な理由をまだ聞いてなかった。なんでなの?」自分に依頼した事をまだ聞いていなかったディーナ。
「あぁ、そう言えばそうだったな。簡潔に言うなら私の追っている"マリー"の他にもう一匹いるという情報を獲ている」「どっちも強大?」「さあ、ただ……」
突然立ち止まったエーデル。ディーナとフェリスも立ち止まり「エーデル?」訪ねても返事をしなかった。
すると、咄嗟に後ろを振り返ったフェリスが「後ろに、"マリー"がっ」怯えた様子で指を指した。ディーナも振り返ると勢いよくエーデルに走ってくる人型"マリー"が鋭利な爪を立てて襲いかかろうとしていた。
「まだ話している最中でしょうが」フェリスの手を掴みながら片方の手に銃を握ったディーナ。しかし、発砲する前にエーデルが"マリー"に目もくれず一言「刺し穿て」指をパチンと鳴らした。
すると、"マリー"の真後ろからブラックホールのよう真っ暗な丸い亜空間が出現し、そこから黒い先端が尖った棘が"マリー"の胴体を突き刺した。
突き刺した棘は即座に亜空間に引っ込み空間は無くなった。胴体に穴が空いた"マリー"は倒れ込み、体を引きづりながらエーデルに近づいていた。エーデルはまだ生きている"マリー"に近づいていく。近づきながら腕を前に突き出して手を開くとエーデルの手に先程の黒い亜空間が出現した。
亜空間から黒い棘が出てきたと同時に棘を掴み亜空間から引っこ抜いた。全長は長く槍のような形だ。
"マリー"の目の前まで近づいて尖った棘を"マリー"の顔まで見せつけて「幸運だな、醒めない夢に堕ちて行けるのだから」エーデルは顔面に棘を突き刺した。
突き刺された顔面は黒い靄が流れ出し完全に息を引き取った。棘を引き抜き指を鳴らすと再び亜空間がエーデルの手元に出現し棘を亜空間に入れるとそのまま棘は吸い込まれるように亜空間に入っていった。完全に棘が吸い込まれたと同時に亜空間は消えていった。
"マリー"討伐を見届けたディーナは銃を懐にしまい「いつ見ても不思議な属性ね」属性に感心している。
「お、お姉ちゃん、エーデルさんの、属性って……」あまりにも不可思議な現象にフェリスは困惑し、手を掴むディーナの手をギュッと握った。「フェリスも色んな属性を見てきたと思うけど、私的にはエーデルが本当の闇属性の使い手なのかもしれないね」
「エーデルさんが闇属性、でも、フェリスのと全然違うよ」同じ闇属性だがフェリスの目が見えずとも見える闇属性とは全く別物のエーデル。
「前にヴァレアが言ってること覚えてる?」「えっと、属性の事だよね?……闇属性は都合のいいだったよね?」「うんそれ。闇属性って本当に幅広くてね、フェリスのような察知系の属性も私のような特殊な闇属性もあるのよ」
ディーナはこちらに近づいてくるエーデルを見て「エーデルは見ての通り闇属性。それも、自分の意のままに闇を使う。造形物や武器、空間から攻撃する棘……あんな風に闇を使いこなせるのは世界でも、エーデルただ一人だけ。数多ある属性の中でもトップクラスに強力な属性ね」
彼女の属性は闇属性。闇属性は他の属性と違い明確に強み等がハッキリしないことが多い。と言うのも分類が不明な場合のほとんどは闇属性に入る(例外もある)。闇属性は攻撃出来る事はあるが"マリー"に有効出ない場合もあり"リンドウ"の中では闇属性は敬遠されることもある。
その中でエーデルの闇属性の力は他の闇属性を圧倒する力を持っており、攻撃は自ら動くことはせずに戦えたり、闇の空間を作り出し物の出し入れも出来る。ディーナの言う通り、戦闘力や利便性どれをとってもトップクラスの闇属性である。
ディーナの言葉を聞いて一つの疑問を抱くフェリス。「そんなに強い属性なのにお姉ちゃんに頼るの?それに、どうしてあんなに悲しく思うのかも分からないの」強い属性を持っているのにも関わらずディーナに依頼する理由と悲しい理由が分からないフェリス。
恐らく何かに気づき始めているフェリスに「それは、エーデルはちょっと変わっててね。今は……」話している最中にエーデルが戻ってきて「どうした、何か話していたのか?」聞こえていたのか内容を聞こうとしていた。
「いや、大した話はしてないよ」聞かれるのマズイ内容なのか話をはぐらかした。「ほぅ、フェリスとの話は私は興味があるがプライベートの話を聞くのは流石に失礼だな。部はわきまえるさ」そう言うとディーナ達を通り越して目的地へ歩いて行った。
「まぁまた機会があれば話すよ。エーデルについて行かないとね」「う、うん。お姉ちゃんが話したいタイミングでいいからね」二人は手を繋ぎながらエーデルの後を追った。
合流したディーナはふとキョロキョロと見渡すと「そう言えばスワイは?」いつの間にか姿を消していたスワイ。「アイツなら偵察として近くの町に行かせたが遅いな。何をしてるんだ?」
するとフェリスが指をさして「あっ、戻ってきたよ」先を見ると空から飛んできたスワイが戻ってきた。「遅かったな、様子はどうだった?」エーデルの肩に止まったスワイは「一通り見てきたけど割と深刻って感じ。町が壊滅するのも時間の問題じゃないかな。つまり、"マリー"が徘徊している証拠になっている、そこは期待していいんじゃない?」
スワイの報告を聞いてニヤリと笑ったエーデルは「そうか、なら行くか。標的がいるのならディーナを連れて来た意味もあるからな」「話の途中だったけど、"マリー"はどっちも強力?」
途中で"マリー"に出くわしたため話の続きを聞いたディーナ。「分からないと言っただろ。ただもう一匹は、どうにも"マリー"にしては様子がおかしかったらしい」「どういうこと?」「直に見ていないから分からないが、生物では無く、機械じみた"マリー"だったらしいぞ」「機械……"マリー"が?」
こうして廃墟に向かう途中の町まで歩いていくディーナ達一行。町の様子は果たしてどうなっているのか……




