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カエデ  作者: アザレア
属性の灯火
17/86

討伐の理由

「依頼って、貴方が?」「ああ、私と来て欲しい場所がある」


エーデルがディーナに会いに来たのは依頼をこなしてもらいたいがためだった。

「来て欲しいって"マリー"系の仕事とは思えないんだけど、楽しい場所なら大歓迎だけどね」「ある意味では楽しいさ、命は賭けるけどな」「やっぱり"マリー"じゃない」


エーデルは袋を取り出してディーナが座っている目前のデスクに袋を置いた。「前金だ、これで断れないだろ」不敵の笑みを浮かべるエーデル。


袋を手に取り中身を見るディーナ。中には一般の依頼をこなす額よりも数倍はあった。「ずるい事するね。お金を見せたら私が受けるとでも思った?」「万年金欠だろ、この店が流行っていないのも知っているからな」「どんなリサーチしてるのよ」


するとディーナは袋に入っているお金を半分程取り出し「昔のよしみからここまでのお金を取る気にはなれないよ。依頼は受けるけどこの中に入っている半分ぐらいでいいよ」


眉を上にあげ少し驚く顔を見せるエーデルに対してスワイは「気前がいいね~ディーナちゃん。それじゃありがたく返して貰おうじゃない、ウチらだってそんなに余裕がある訳じゃないしね」


スワイは嘴でディーナの持っている袋を掴んでエーデルの手に置いた。「変わったな、数年前まで金に目がなかったのにな」「今は生活出来る分だけあれば充分、それ以上は求める必要は無いってことが分かったからね」


ディーナの言葉を聞いてエーデルは袋を持つ手を背に隠すと一瞬で袋が無くなっていた。「まぁこちらとしてはありがたいがな、半分の報酬だけで動かせるからな」「優良物件って感じよ。さて、報酬を受け取ったなら、お客さん今日はどんな依頼を?」一瞬で仕事モードになったディーナ。


「私と共に来て欲しい場所があるとさっき言った。私と廃墟に来い」「廃墟?"マリー"でも住み着いてるの?」「噂の範囲だがな。廃墟が近くにある近隣の街に"マリー"の被害が出ている、"マリー"はその廃墟を根城にしている、その廃墟に行けば"マリー"は私達の前に現れるだろうな」


詳細を聞いたディーナは頭を傾げて「その感じだと貴方にその街から依頼が来たの?貴方がそう言った依頼は受けるとは思わないけど」エーデルの行動に少し疑問を抱いたディーナだが「エーデル個人の依頼に決まってるでしょ。街助けるほど暇じゃないのよエーデルは」スワイがエーデル個人の依頼だと言った。


「そもそもエーデルに"マリー"の依頼なんて来るはずないでしょ、来たところで自分の利益にしかならない事には手を出さないんだから、それにディーナちゃんと違ってエーデルは……」淡々と話すスワイにエーデルは嘴を掴んで「まだ私が話している、黙っていろ」スワイを睨みつける。


掴んだ手を離したエーデルに「ご、ごめんって、そんなに怒らないでよ」と、謝罪した。「個人の依頼ね、てことは貴方の目的にその"マリー"が関係しているのね」目的と言う言葉を聞いたエーデルは静かに首にかけているネックレスを手に持ち、ずっと見つめた。


そのまま胸元にネックレスを押し当て今回の依頼について話した。「目撃者の証言によれば、その"マリー"は手に何か持ったまま人間を襲っているようだ、それは何かは分からないが小さな金属のチェーンが少し見えたそうだ。形状的にネックレスの可能性がある。もし私が身に付けているこのネックレスと酷似しているのだったら、その"マリー"をこの手で殺す」


さっきまでとは違い目に見えて殺意が湧いているエーデル。穏やかな雰囲気を見せてくれたエーデルの変わった姿にフェリスはとても驚き同時に恐怖も感じた。


「やっぱり、まだ貴方と同じネックレスを持つ"マリー"を追っているのね」ディーナはエーデルの目的を知っているようだ。「当然だ、それが私の生きている理由だ」


「フェリス、エーデルがなんで特定の"マリー"を探しているのか分かる?」恐怖を感じているフェリスを気遣ってディーナはエーデルの目的について話を進めた。

「えっ……なんで?」困惑するフェリス。


エーデルは重い口を開けて「……私は過去に"マリー"によって母が殺された。この目の前で、亡骸を。まだ属性の使い方も知らなかった、幼い私は何も出来ないまま。

母から貰った揃いの宝石のネックレス、これが私の全てだ。悔いても取り返せない、だから思い出だけは守り通す。

だが、ある日宝石がはめ込まれたネックレスを持つ"マリー"がいると聞いた。崩壊した私の家に足を運び家を捜索しても母のネックレスは無い。家族だけではなく、その思い出までも奪いさろうとする"マリー"を、許すわけにはいかない」


エーデルの目的、それは母の仇、母の思い出を奪った"マリー"を討伐することだった。長年ネックレスやそれに近しい物を持つ"マリー"を討伐し同じネックレスを持つ"マリー"を探し回っていた。その過程でディーナと出会い理由は違えど"マリー"を討伐する事には変わらないために仕事を何度かしていたようだ。


「だが今回の"マリー"は少し事情が異なる。もう一人"リンドウ"が欲しかった所だったからな」

「確かにそれだとしたら貴方一人の方が良いと思ったけど、なんで今になって私に?」「詳しく話したいが、少々夜も遅い。明日また話すさ」


そう言ってずっと立ちっぱなしだったエーデルはいきなりソファに座って、腕を組み顔を俯けた。


「ちょ、エーデル?」返事がなく、あるのは寝息を立てている声だけだった。「寝てる……どこかの誰かさんにそっくりだね」苦笑いを浮かべるディーナ。


「こうなったエーデルは自分から起きるまで起きないから、明日まで諦めるしかないよ」スワイもエーデルの隣に止まった。「ディーナちゃんも早く寝なよ、明日はちょっと忙しくなるかもよ」「そうだね、備えておいたほうがいいね」スワイも立ったまま目を閉じて眠りについた。


「それじゃフェリスも今日はもうお休みね。私も明日中には帰ると思うからお留守番を……」どこかフェリスに違和感を持ったディーナ。というのもエーデルの話を聞いた後にずっとエーデルの事を見つめていたフェリス。エーデルは目元が見えないフェリスの視線には気づいていなかったようで見つめられているとは思っていなかったようだ。


何か思うことがあるのか、それとも出会った時よりも恐怖を感じているのか分からないディーナ。「お姉ちゃん、フェリスも、ついて行っていい?」"マリー"の依頼に初めてついて行きたいと言ったフェリス。


「どうしたの?エーデルが気になるの?」「うん、フェリスが思ってるだけかもしれないけど、エーデルさんはとっても、悲しい人で、どうしても他人事には思えないの。お姉ちゃんのお仕事は危険がいっぱいって知ってるけど、もっとエーデルさんを分かりたいから」


ディーナ以外の人にここまで興味を持つことが初めてのフェリス。同じ境遇の人が初めてで親近感が湧いたのか、それとも単にエーデルの生き様に惹かれたのか分からなかったディーナだが、エーデルに何かを感じたことは確かだった。


ディーナは少し考える素振りを見せて「分かった。ただし"マリー"がいる所には近づない。危険だと思ったら私達をほおってもいいから逃げること、それがついてくる条件。出来る?」自分の身を最優先で考えることを条件にしたディーナに「う、うん。フェリス、やってみるよ」


ディーナの条件を守ることを約束したフェリスにディーナは微笑み「それじゃ、今日はもう寝なきゃ。明日は早いからね」と言ってフェリスの頭を撫でた。ついてきてもいいと分かったフェリスは笑顔を見せて「うん!ありがとうお姉ちゃん!」笑顔のフェリスにディーナは笑顔で返した。


するとフェリスは大きな欠伸をして「ふわぁ~フェリスも眠たくなってきちゃった」「夜も遅いからね。夜更かしはダメだよ」「うん、じゃあフェリスは寝ちゃうね。おやすみなさい、お姉ちゃん」フェリスは二階に行って寝床についた。


フェリスが二階に行ったことを見届けた後にディーナは小声で「悲しい人ね……やっぱり、フェリスにも分かっちゃうのかな。彼女は悲しい、と言うよりも自分を追い込みすぎている。余裕なんて一滴たりともない。エーデルをどう見るかはフェリス次第だけど、私から見たらエーデルは……いや、本人を前に言うことじゃないね」言葉を濁したディーナ。ディーナもエーデルに思うことはあるようだ。


雑誌を手に取り顔に覆い隠したディーナも眠りについた。翌日の、始まりの事件に向けて。

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