言葉を話す属性
一つの国を救ってから数日が経った。あれ以来エニー近辺に"マリー"が出現することが無くなりエニーは本当の意味で平和に戻っていた。国の復興や国長としての立場等で忙しく寝る暇も無いタイムだが徐々に国が元に戻っていく光景を見てとても満足しているようだ。
スイレンもディーナ達と別れてからは国を救った評価もあり依頼が殺到している。多忙の日々だが嬉しい悲鳴をあげている。
ヴァレアはまた忙しい日々に戻るかと思っていたが「協会から呼び出しがかかった。私もさすがに自由になり過ぎた結果だな。依頼が欲しいなら協会に来い、お前は来そうにないがな」
と、言ってしばらくは"リンドウ"の仕事を休むようだった。ディーナもその事に疑問を抱いていなかった。「当然でしょ」とも言っていた。
そしてディーナは……
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数日が経った夜、Dina'shideoutに戻っていつも通りの生活に戻っていたディーナとフェリス。ディーナいつものデスクに足を組みながらかけ椅子に腰掛けて雑誌を読んでいた。フェリスは毎日の習慣に新聞を読んでいた。
ディーナは「新聞を読んだら今の世の中は大体分かるから読むのはオススメだよ」と提案していた。「新聞って、日付を確認するものじゃないの?いっぱい文字が書いてるのは知ってるけど読んだことない」「用途自体は間違ってないけど基本は日付はオマケみたいな感じだから」
不可思議な事を言っていたフェリスだが子供は新聞をあまり読まないと解釈して気にしなかった。
新聞を読んでいたフェリスは「あっ、お姉ちゃん、タイムさんが新聞に載ってるよ」
新聞をディーナに見せてタイムが載っている場所を指さした。
「へぇ、タイムちゃん国が軌道に乗ったんだ。国同士の貿易にも力を入れてて、それの宣伝みたいな感じだね」内容はインタビューと同時に国は復興作業と同時に様々な国に貿易を行う事も書かれていた。
「お姉ちゃん、いつタイムさんに会えるかな?」「会いに行きたいけど、タイムちゃんはまだ色んな行事を取り組まないといけないからもう少し先かな」
「そうなんだ、楽しみだなタイムさんに会うの」とても愛くるしい笑顔のフェリス。しかし、ディーナは口には出さなかったが「それに私もお財布がピンチだから」
国を救った功績はディーナにもあるのだが意外にもそこまで依頼は来ていない。と言うより依頼を断りすぎてあまり依頼が来ないと言った所である。国から帰った後は電話が鳴り止まない程依頼が殺到して来たが手がまだ治療していないと事を理由に断っていた。
そのうちあまりにも電話がうるさすぎて電話線を切っていた(手を怪我していなくても長期の依頼をこなしたことによりやる気があまり無い事も関係している)。
そのため電話線を戻して事務所を復帰したが依頼は来ないままだった。懐は寒いが「どうにかなるでしょ」と思い気にしていない。
フェリスはまた新聞を読み始め、ディーナも雑誌を読んでいたが突然フェリスが「あっ!忘れてた!」と、珍しく声を張った。
「ど、どうしたの?」あんな声を出したフェリスを見たのは初めてだったディーナも驚いていた。「明日ゴミ出しだったの忘れてたの」「ゴミ出し?明日の朝でもいいんじゃないの?」
「フェリスね、朝が起きれないことがあるの。だから今日中だったらいつ置いてもいいから置いてるんだけど……」
困った様子でどうすればいいか悩むフェリスに「私が置いてくるよ」と言って立ち上がったディーナだが「いい、フェリスが置いてくる。お姉ちゃんはここで待ってて」
「でも夜も遅いし、辺りはそんなに明るくないよ。それでも大丈夫?」少し間があったが「だ、大丈夫。フェリスだってそれぐらいのことは大丈夫だと思う。お姉ちゃんが頑張ってくれるから、フェリスも頑張れるよ」
フェリスは二つのゴミ袋を持って玄関に向かって「じゃあ、行ってくるね」少し震えていたが扉を開けて夜の外に出ていった。
「フェリスが夜の外に出ていくか。ちょっと前までは考えられなかったね、外に出て行く時はいっつも私の傍から離れないし、夜は怖いって言っていたのに。フェリスもどんどん成長してるんだね。今度はお使いでも頼んでみようかな」
フェリスの成長を感じて微笑むディーナだが「まぁゴミ出しって言ってもこの家のすぐ隣なんだけどね」と、苦笑いを浮かべた。
一方のフェリスは少し重たいゴミ袋を持ってゴミ出しまで歩いていた。一歩一歩は短いが夜の中で確実に歩を進める。
今日の夜は月も雲に隠れて出ていない。この辺りは街灯も少なく薄暗い。フェリスにとってはこの光景はとても怖いものだった。
「お月さんも出てない、どうして今日に限って出てきてないの?怖い……速く行きたいけど重くてあんまり進めないよ」このまま戻ってしまおうかと思っているフェリスに「パタパタパタ……」鳥が羽ばたく音が聞こえた。
夜に鳥が飛ぶ所を見たことがないフェリスは辺りをキョロキョロと見渡した。「と、鳥さん?でも夜だから飛んでないはずだけど……」羽ばたく音はどんどんと近づいてきていた。「えっ、と、鳥さん、どこ?」
完全にその場に止まってしまったフェリスは恐怖で足が震えだしていた。見渡しても何もいない状況にパニックになりかねなかった。すると、羽ばたく音は鳴り止み静かな夜に戻った。
一安心してほっと胸を撫で下ろした。フェリスは進もうとした時「お嬢さん、大丈夫かい?」どこからか声が聞こえた。誰もいない場所から声が聞こえた恐怖でフェリスは大声で「キャーーーーー!!」と、叫んだ。
その声は事務所で再び雑誌を読んでいたディーナにも聞こえていた。「フェリス?」雑誌をデスクに置いて急いで事務所の扉を開けて「どうしたのフェリス!?」すぐにフェリスの元に行くと「何よ!重そうだから手伝おうとしただけなのに、失礼な子ね」
そこに居たのはしゃがみこんで何も見えないようにしているフェリスと黒いカラスのような言葉を話す鳥がいた。その鳥を見かけたディーナは「あれ、あなたがいるってことは」どうやら見覚えがある鳥のようだ。
すると、ディーナの目の前から一人の女性が歩いてきた。「話す鳥を目撃するのは初めてか?まぁ当然か、"マリー"がいるこの世界でも不可思議な現象の一つだからな」
女性は右腕を伸ばすと、鳥が腕に止まった。「余計なお世話をかけるな、他者に不用意に話しかける必要はないだろ」「こんな夜道を一人で歩く女の子を見つけたらからかいたくもなるってものよ。ウチなりの善意って奴よ。叫ばれるのは予想外だけど」「それぐらい想定に入れろ」
普通に鳥と会話する女性にディーナは少し驚いた表情を見せて「エーデル!どうしたのよこんな所に?」ディーナは彼女の事を知っているようだ。「久しぶりだなディーナ。元気そうでなによりだ」女性もディーナの事を知っていた。
ディーナが来たことにより安心したのかフェリスは顔を上げて「お、お姉ちゃんの、お友達?」知らない人が来たことに怯えるフェリス。「友達……う~ん、難しい関係だね、私達って」自分達の関係性を考えるディーナ。女性はフェリスをじっと見つめて「妹か?」「独特なファッションね、ウチは嫌いじゃないけど」フェリスの事に興味を持つ女性と鳥。「まぁ色々説明するから事務所に来て」
女性と鳥を事務所に招待してフェリスと一緒にゴミを出した。
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「と言うわけで、フェリスこの人はエーデル。私の友達と言うより仕事仲間みたいな関係かな。昔は二人で依頼をこなしたりしてたんだけどココ最近は連絡も取り合って無かったから私も会うのは結構久しぶりなの」
彼女の名はエーデル。灰色の髪色に髪は短いが前髪はギリギリ目が見えるほど長い。全身は黒づくめの衣服で体は大きな風でも吹けば吹き飛ばされるような貧弱な体をしていた。首には黒色の服とは対照に白色に輝く宝石がはめ込まれたネックレスをしていた。
「そしてそっちの鳥はスワイ。世にも珍しい喋る鳥……じゃないのよ。スワイはエーデルの属性で創造した属性の生き物。珍しいどころかこの世にたった一匹の希少な存在よ」
スワイと呼ばれる鳥、属性によって生み出されたと言われているが普通の生物と呼んでも遜色は無い、ただ黒い属性の生物である。
「創造はしていない。ただ勝手に無意識の内に居ただけだ」「トゲのある言い方ね、まぁウチはエーデルの保護者って感じでよろしく」
保護者と聞いてなんの反応もしないエーデルはディーナに「それで、そいつは?」フェリスの事を詳しく聞きたいようだ。
「この子はフェリス、依頼の最中に見かけた子でね。ずっと一人だったけど今は私と一緒に住んでるの、あんまり物事とか知らないからその時は優しく教えてあげて」フェリスについて話すと「一緒に住んでる?ディーナちゃんが養ってるてのはにわかに信じ難いね~そんな金どこにも無いでしょ」「うるさいわね、一応アテはあるよ」
フェリスの事をずっと見つめるエーデルは「その目は?」目のことを聞くとディーナは「その目は、一言で言うならフェリスとお母さんとの約束かな」
その事を聞くとエーデルは腕に止まっていたスワイを飛ばせてフェリスの元に来た。まだ怯えるフェリスはエーデルに何をされるか分からずにただ言葉を失っていた。
フェリスの前まで来たエーデルはフェリスの目元まで膝を曲げていきなりフェリスを優しく抱きしめた。突然の行動にディーナとスワイは驚いて「えぇ!!」と二人して声を出した。
いきなり抱きしめられたフェリスもどうしたらいいか分からずに困っていたがこんな言葉をかけられた。
「すまないな、さっきは驚かせてしまって。そうか、母との約束か。どおりで親近感が湧くと思ったらそういう事か。安心しろ、私も母に関することを追っていてな。それに私も一人だったからその気持ちは分かるさ」
エーデルの優しい語りかけに徐々に怯えは消えていって「え、エーデルさんも、一人だったの?」「ああ、一人で生きるしかなかったからな」「一人で……」すると、フェリスもエーデルを抱きしめて「フェリスね、フェリスだけが一人ぼっちだと思っていたの。でも、エーデルさんはフェリスと一緒だった、なんでこんなにも嬉しいって思うんだろ」
フェリスに新しい感情が芽生えた瞬間だった。これまではディーナと共にあるだけで良かったがヴァレアやタイムとの出会い、そして同じ境遇のエーデルの言葉に、初めて共感出来る存在に心を許した瞬間だった。
「まぁ自分で考えることも必要だ。その感情は大切にな」エーデルはフェリスから離れて立ち上がった。「可愛いところあるじゃない。一緒に居て長いけどあんたのあんな顔初めて見たわ」少し恥ずかしかったのか頬を少し赤く染めるエーデル。
ディーナもフェリスの頭を撫でて「エーデルの言う通り、色んな感情を覚えておくのも大切だからね」フェリスも嬉しそうに笑顔になった。
「そういえばなんでここに来たの?何か理由があるんでしょ?」改めて事務所に来た理由を聞くことにしたディーナ。「ああ、ここに来たのは、ある依頼を持ってきた」「依頼?」
これはエーデルのある目的のための依頼である。




