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カエデ  作者: アザレア
若き国の依頼
15/86

一国の平和

ディーナが洞窟の"マリー"を倒している間国に進行する無数の動物型"マリー"を国に一歩たりとも侵入させずに防衛していた。

スイレンとヴァレアの周りに"マリー"の残骸が大量にあり、全て二人で討伐したのだ。刀で斬られた、水の中で溺死、砕けるはずの氷翔剣がまだ残っている"マリー"等様々な攻撃方法で討伐していた。


だが流石の数の多さに疲労の色が隠せないスイレンは息を切らしながら、震える足で必死に立っていた。体や足には傷があり、特に足は牙で噛まれ深い傷を負っていた。


一方のヴァレアは無傷の上息一つ切らしていない。どれだけの数がいてもヴァレアの前では他愛もなかったようだ。


全ての動物型の群れを倒した事を確認したスイレンは傷ついた足でディーナのいる洞窟に向かおうとしていた。すかさずヴァレアに止められ「無理するな、その傷で行った所で邪魔になるだけだ」「ですが、ディーナさんがもし危ない状況であれば私が助けに行かなくてはいけません」一人で向かったディーナの安否を確かめるためにも洞窟に歩を進めようとするスイレン。


しかしヴァレアはスイレンの手を引っ張り「必要ない。ここで待っていろ。私も迎えになど行かない」非情の決断を下すヴァレアに「ヴァレアさん!同じ"リンドウ"として仲間を見捨てるつもりですか!」怒りを顕にする。「そう言う意味じゃない。前を見ろ」ヴァレアの方ばかり見ていたスイレンは、パッと前を見るとまだ遠いがそこにはディーナがこちらに向かって歩いてきていた。少しよろめきながらではあるがディーナもヴァレアとスイレンに気づき大きく手を振った。


ディーナの身を案じていたスイレンは一安心したのかその場に座り込んでしまった。「今後は周りが見えるように冷静になるのが課題だな」「ヴァレアさんが冷静過ぎるだけですよ。でも、無事で良かったです」


ゆっくりではあったがディーナは二人に合流して数多くの"マリー"の残骸を見て「こっちも大変だったようだね。でもこれでエニー地域の"マリー"は全滅ってことでいいかな?」「これ以上の数が押し寄せてこない。お前がこっちに戻ってきた。この二つの条件が当てはまるということは、エニーの脅威は去った。依頼完了だ」


ディーナは脅威が去ったと聞いて「イェイ」と笑顔を向けて拳を作りガッツポーズをした。

スイレンは肩の力が抜けて吐息をついた。

ヴァレアは二人の様子を見て目を閉じて微笑みを見せた。


「それよりもスイレン大丈夫?足を怪我して立ってたって事だよね、無理をしたらダメじゃない」「ディーナさんこそその手は一体何があったんのですか?普通じゃありえない状態になっていますよ」

足を噛まれたスイレンと手が黒焦げ寸前のディーナは互いに心配をしていた。


「洞窟で何があったかは聞きたいがまずは治療が優先だな。知り合いの医者に頼んでもいいが来るのに時間がかかりすぎる、エニーの医者に治療をしてもらえ。それにあいつだったらお前達の身体に興味を持つかもしれないしな」最後の言葉が独り言のように呟いた。それを聞いていたディーナは「どんな医者と知り合いなのよ」


ヴァレアはスイレンの有無を確認せずに手を掴んで身体を背に乗せておんぶをした。「ヴァレアさん大丈夫ですよ、自分で歩けます」下ろして欲しいと頼んだが「無理をするな、悪化して"リンドウ"の活動に支障がでたらどうする。気遣いは無用だ」ヴァレアの優しさに少し頬を赤く染め「で、では、お願いします」内気な乙女のようになっていたスイレンだった。


「ねぇ、私は?」「自分で歩け」


----------


三人はエニーの本部に戻り会議室に戻ってきた。会議室にはフェリスとタイムが三人の帰りを待っていた。戻ってきたと同時にタイムは「皆さん!ご無事でしたか。"マリー"はどうなりましたか?」かなり心配していたのか額には汗をかいていたタイムにヴァレアは「この地域に"マリー"の存在は確認できない。"マリー"は全滅した、エニーはもう大丈夫だ」


優しく微笑んだヴァレア。そして"マリー"の全滅をやり遂げた事を告げるとその場に固まってしまった。「タイムちゃん?」ディーナが不思議そうに顔を傾げるとタイムの目から涙が止まらなくなって、手で顔を覆って「良かった……良かった……ママ、エニーは、やっと元に、戻ったよ……」止まらない涙を抑えるのがやっと、ようやく終わりを迎えた事に涙を流したのだろう。


「大きな依頼を終わった後は清々しいね」「そうですね、一つの平和が訪れる瞬間ですから」ディーナとスイレンは見合わせて笑顔を向けていた。


「ヴァレアさんもういいですよ。そこの椅子にでも私を置いてください」流石にここまで来たらもういいと思い腰を下ろして欲しいと頼むと「自分を物みたいに言うなよ」と言いつつ椅子に座らせた。


すると、フェリスがタタタッと走ってディーナに抱きついた。抱きついたフェリスの頭を撫でて「ただいま、待ってて偉いね」フェリスにだけに見せる微笑みの顔を見せたディーナ。「お帰り、お姉ちゃんはきっと帰ってくるって信じてたよ」少し涙声になっていたが絶対に離さないフェリス。


「フェリスさんディーナさんの事が心配で仕方なかったのですね。大切な人ですもんね、気持ちは分かります」「う~んほぼ毎日このやり取りしてるけど二人きりじゃない時はちょっと恥ずかしいかな」


しばらくして、タイムも泣き止んでフェリスもディーナの身体に抱きついたままだが顔は離していた。


「す、すいません、涙が自然に出てきてしまって」「国が守られたんだ、気にするな」冷静なヴァレアだが常に優しい姿に少し笑ってしまったタイムだがディーナとスイレンの怪我を見て「お二人共その怪我は!?すぐに医療班を呼んできます!」


慌ててタイムは部屋から出て医者を呼びに行った。「落ち着きのない奴だな」フェリスもディーナの手を掴んで「お姉ちゃんの手、怪我してるの?フェリス見えないから分からなかった……」ディーナの怪我に気づけなくて落ち込み始めるフェリスに「別に大した怪我じゃないから大丈夫。手がちょっと焦げただけだから」「それ、大丈夫なの?」「治して貰えば大丈夫だよ、心配してくれてありがとね」


この会話を聞いていたスイレンは二人に聞こえない程度の声で「焦げた手で大した怪我では無いのでは?」「あいつなりに気を遣ったんだろ」


----------


医療班が来て二人を治療している時にディーナは自分が戦った"マリー"の事を話していた。


「言葉を話す"マリー"か、私もあまり出くわしたことは無いが数少なくいるようだ」「なんだ目撃例があるんだ。私が人類初めて発見だと思ったんだけどなぁ」

「対話を試みたのはお前が初めてだろ、私は会話する前に討伐しているからな」「容赦無さすぎでしょ」


足を治療しながらスイレンも会話に参加し「しかし、人型の"マリー"は何故あのタイミングで国に攻め込んだのでしょうか?それに人型が根城にしていたのは洞窟のはず、動物型との争いはしなかったのですか?」今回の"マリー"の動きに不審に思ったスイレン。


するとヴァレアがこんな考察を。

「これは私の考えだが、異形型が討伐されたことにより"マリー"の中でも異変を感じたのだろう。異形型と言う邪魔な存在が消えたことに勘づいた人型の長はここぞとばかりにエニーに攻め込んだ。領土が広がれば戦力が増えるとか考えていたのだろう。

そして人型も討伐され、残された動物型の"マリー"達は総戦力で攻めた。長だけは参加せずにな、洞窟の広さは"マリー"達が住むには充分だった。だが森は異形型住み着いていたために人型と共存するしか無かった。人型も異形型も居なくなったらさぞい心地が良くなったのだろうな。討伐されれば何も関係ないがな」


タイムも会議室に戻ってきていて一つの疑問が「"マリー"達はなんで国を落とそうとしていたんですか?」

「領土拡大のためだろうな。この地域は草原が広がっていて他の"マリー"も居ない。住処にするにはこれ以上の無い条件、"マリー"にとって人間は邪魔な存在だからな。だからこの国を狙ったんだろう。まぁ私の考察に過ぎないがな」


「そんな理由で……"マリー"なんて早くこの世から居なくなってしまえばいいのに」怒りを滲ませるタイム。「そのために私達がいるのよタイムちゃん。"マリー"根絶を目指して"リンドウ"がいるからね」「"マリー"ある所に"リンドウ"ありです。また国に"マリー"が来たらいつでも呼んでください」


二人の言葉に怒りを忘れて笑ったタイム。「もう夜も遅いです。ディーナさんとスイレンさんの治療が終わり次第今日は皆さん休んでください。宿は昨日の場所をお使いください。今日は本当にお疲れ様でした」深々とお辞儀をした。ヴァレアは椅子に座っていたが立ち上がって「先に戻っている。シャワーを浴びたいしな」早々に部屋から出ていった。


「ヴァレアさんも疲れてるのでしょうか?疲れ知らずな人だと思ってたのですが」「いや~お腹すいてるだけでしょ。シャワーは建前だと思うけどね」


----------


翌日、依頼を終わらせた三人に感謝を伝えるために本部に呼んだタイム。ディーナは両手に包帯を巻いて、スイレンは両足に包帯を巻いていたが治療は完了していて数日後には完治するようだ。


三人とフェリスの前に立って「"リンドウ"の御三方、今回は"マリー"を討伐して、エニーを守っていただいて本当にありがとうございました。国の長として心より感謝申し上げます」しばらくお辞儀をして顔を下げたタイム。


顔を上げて「これから国の復興作業に入って行き国としては忙しくなりますが、皆さんが少しでも困ったことがあるのならば微力ながらもお手伝いしますので気兼ねなくエニーに来てください。歓迎致します」と、伝えると「あくまで私達は依頼主と"リンドウ"って立場だから、あんまり期待しちゃダメだよ」


ディーナの言葉にタイムは少し落ち込んで「えっ、そ、そうですね。一個人的な意見でした」「まぁでも、タイムちゃんみたいな良い子をほっておく事も出来ないから、私は友達でいいよ。相談事がならいつでも乗るよ」


優しい言葉をかけたディーナに「ディーナさん、私もディーナさんと良好な関係でいたいです」ディーナは笑顔を向けた。


「落としてから上げる手法か」「その言い方やめてくれない?」


すると、ディーナはフェリスの肩に手を置いて「それにフェリスと仲良くしてくれたんだから、また来たいよ。フェリスはどう?」フェリスの初めて友達になってくれたタイムにまた会わせたいようだ。


「フェリスは、また、タイムさんと遊びたい。ここにまた来たいよ。もっと、お国のことを紹介して欲しいから。ダメかな?」タイムもフェリスと仲良くなってとても楽しい時間を過ごした。その事もありフェリスともっと話したいと思っているタイムは「フェリスさん、また遊びましょう」フェリスの元に行って両手で手を掴んだ。


「……はい!嬉しいです!」同じくタイムの手を掴んだ。微笑ましい光景に全員自然と笑みがこぼれていた。


「それでは皆さんに報酬金を渡します。こちらをお受け取りください」フェリスの手を離してずっと腰に袋を持っていたタイムは袋から多額の報酬金を取り出した。人数分あり、一人一人に手渡すようだ。


スイレンに報酬金を渡した。「ありがとうございます。エニーが早く復興出来るように願っています」

ヴァレアにも報酬金を渡した。「"マリー"関係ならいつでも呼べ。必ず助けてやる」

そして、ディーナにも「タイムちゃんありがとうね、それじゃあ貰い……」ディーナは自分から報酬金を受け取ろうとするとヴァレアがすかさず奪い取った。


ヴァレアは報酬金をある程度抜いてディーナに渡した。「ちょ、これ半分ぐらいしかないじゃない!なんでよ、私頑張ったでしょ!?」理由を聞くと「働きは認める、だが借金返済はまた別だ。取り分があるだけまだマシだと思え」真っ当な反論をされた。


「今回だけは見逃してよ!"マリー"をいっぱい討伐したでしょ?それを踏まえての判断をしてよ!私結構大活躍してたでしょ!」「自分で活躍したなんて言うな。"マリー"の討伐踏まえての報酬金だ。だから残ってるんだろ、討伐を何もしていなかったら全て没収していた。正当な結果だ」

「おかしい!絶対におかしい!今回だけは絶っっっっ対おかしい!!」


二人の討論を見ていたスイレンは笑みを浮かべて「こういう仲の良さもあるんですね。これもまた平和が戻ってきた象徴ですね」


「面白いお二人ですね」「うん、フェリスの自慢のお姉ちゃんとお友達だから」フェリスとタイムもお互い見合せて笑っていた。


この後、二人の討論は続いたが結果はディーナが負け報酬金は半分だった事はまた別の話。


一章 「若き国の依頼」 完

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで拝読いたしました。 いろいろなマリーとその特徴、それらへの対応策など、敵のバリエーションがあることで話の広がりを感じ、楽しく読めました。 今後もいろいろなマリーが出てくるのが楽し…
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