嵐の前の静けさ
大型"マリー"を討伐した翌日、洞窟の調査を行うために会議室に集まっている"リンドウ"と国長。
地図を開いて場所を確認するスイレン。「昨夜の人型"マリー"、あの"マリー"は国に来たのは初めて、人型"マリー"を統一していたボスでしょうか?」
「恐らくはな、おおよそ部下が誰一人として戻らない事に何か感じたのだろう。こちらとしては都合が良いがな、纏めている奴を早々に討伐できたのだから」
推測を立てて国には人型"マリー"が来ないと判断しているヴァレア。
「ですがボスを倒した所で人型が来ないとは確証出来ません。早急に残る"マリー"を対処しなければ、行き場を失った"マリー"がエニーに襲撃する場合も」
「残党共なんてお前達にとっては取るに足らないだろ。仮に襲撃に来ても私がエニーに残る。完全に脅威が去るまでは"リンドウ"の仕事だ」
ヴァレアとスイレンが"マリー"について話している間ディーナはただ一点を見つめてボーッとしていた。
そんな姿を見てヴァレアは「おいディーナ、お前も洞窟に向けて準備をしてろ。何を見てる?」
話しかけられてようやくヴァレアの方を見て「ちょっとね。あんな姿見たら見惚れちゃってね」
ヴァレアとスイレンは揃ってディーナの見ている方を見るとフェリスとタイムが楽しく談笑している姿が。
「フェリスさんこちらをご賞味ください。エニー名物のクッキーです、苺をベースに製造して甘酸っぱくてとても美味しいですよ」
「はい、モグモグ・・・美味しいです!一つでとてもお腹いっぱいになりますが、癖になる味がします。一週間に一つ食べたいですね」
「一つでお腹が?フェリスさんはとても少食なんですね。まだまだエニーにはとても紹介しきれてない魅力があります。まだ国は危険な状態ではありますが"マリー"が去ったらまた国の紹介をさせてくださいね」
「はい!よろしくお願いします!」
このようなやり取りをずっと見ていたディーナは優しい笑顔を見せてただ傍観していた。
「私以外の人とあんなに仲良くしてるのは初めて。フェリスにとって初めての友達なってくれると思ったら自然と顔が緩んじゃったのよ。タイムも優しくて良かった」
「ですが、今は・・・」「スイレン今はいい。タイムも年頃の娘、フェリスとは少し歳は離れていると思うが国長になって休みもなく働き詰めだったろう。少しでも息抜きになればそれでいい」
微笑みを見せるヴァレアにディーナ「言って貴方もタイムと歳はそんなに変わらないでしょ」
ディーナもヴァレア達の会議に参加して「今日は洞窟に探検?ワクワクだね洞窟なんて特に。お宝発見する気持ちで行ってくるね」
「"マリー"の宝なんて必要か?」「人間が欲しいお宝があると信じてる。そして一攫千金して大金持ちの仲間入りよ」
「借金返済でそれは無くなるけどな」「私貴女にどれだけの借金があるのか私も知らないんだけど」「利子が増幅して今は・・・」
明らかに話が脱線していく様子を見たスイレンは「ちょ、お二人共洞窟にはお宝なんて無いです一攫千金も出来ません。今はどうやって洞窟にいる"マリー"を討伐するかを考えましょう」
真面目に対応するスイレンにディーナは「夢のある話じゃない、真面目過ぎるのも視野が狭くなっちゃうよ」「そ、そういうものでしょうか」「そういうものだよ。柔軟に物事に取り込む事はとても・・・」ディーナが何かを伝えようとした時突然会議室の扉が勢いよく開いた。
そこには兵士がかなり焦りながら「で、伝令!国に多数の"マリー"が急接近中です!五分後には国を襲撃する速度でこちらに向かってきます!!」
その場にいた全員が兵士の方を向き一瞬にして警戒態勢に入った。ヴァレアは兵士に「"マリー"の種類は?」と聞くと「動物型です。多種類の生物の形をしており犬や熊等の"マリー"が接近しています」
ディーナは動物型と聞いて「本格的にこの国を潰そうと来てる感じね。昨日で"マリー"の戦況も大きく変わっただろうし一気に畳かけようって裁断かしら、安直ね、脳無しの考えと一緒ね」
ディーナの推測にスイレンも賛同して「異形型、人型のボスが居なくなった影響でしょうか。数を送れば我々でも歯が立たないかそもそも討伐されたのが"リンドウ"の仕業だと思っていない、その可能性もあります。いずれにせよ、ここで大きく戦力を阻害出来るのは好都合です」
"マリー"が何故襲撃してきたかの考察をしていた二人だが迅速に動いたのはヴァレアだった。
「タイム、住民に避難を呼びかけろ。私達が戻るまでは一歩も外に出すな。呼び掛けはお前自身がしろ、そっちの方が住民も速やかに動く。兵士達も国中に張り巡らせておけ、一匹も"マリー"の侵入を防げるとは限らない、厳重に警備を固めろ、ここが正念場になるぞ」的確な指示を送りタイムに呼びかけた。
「分かりました、直ちに実行します!」タイムは速やかに伝令兵を連れて部屋から出ていった。
「相変わらず判断に無駄がないね。それでこそ最強の"リンドウ"ね」「言っている場合か、この場で奴らを全滅させる」
「それでどうする?あんまり悠々としてる暇は無いけど、突撃しろって言われたら行ってくるよ」
「ディーナ、洞窟に行け。人型の残党、動物型の主格もそこにいるはずだ、部下の"マリー"達をこちらに向かわせているのなら洞窟は手薄になっているはずだ、全てを確実に仕留めろ」「りょーかい、腕がなるね」
「私とスイレンで"マリー"を迎え撃つ。この国に一歩たりとも侵入させはしない」「ヴァレアさんと一緒なら百人力です。必ずやり遂げて見せます!」「良し、準備が出来次第、すぐに行くぞ」
全ての作戦が固まり、各々部屋から出て戦闘の準備をする中でディーナはフェリスの元に。フェリスは突然の事にあたふたしてどうすればいいか分からずにいた。
ディーナはフェリスの肩に手を置いて「フェリスはここに居て。ここなら絶対に安心だから、私達の帰りを待っててね」安心出来るディーナの声を聞いて一度深呼吸をして「うん、フェリス、待ってる。お姉ちゃん、頑張って。悪い"マリー"をやっつけてタイムさんの国を守ってあげて」
フェリスの言葉に勇気づけられたディーナ「任せて、すぐに終わらせてくるから」微笑みを見せてフェリスから離れて部屋から出ていった。一人になったフェリスは小さな声で「お姉ちゃんに、頑張ってって、よくやく言えた」
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国の外に待ち構えたヴァレアとスイレン。国は避難勧告を出し警備も厳戒態勢に。
嵐の前の静けさなのか辺り一体は沈黙に包まれていた。ヴァレアは腕を組んでただ"マリー"が来るのを待ち、スイレンは両剣を持ち属性である水を手に湧き出して状態を確認していた。
この沈黙の中でスイレンはある心配をしていた。
「ディーナさん大丈夫でしょうか?単身で"マリー"の巣に突入するのと同義だと思うのですが」ディーナの身を案じていたがヴァレアが「あいつは頑丈が取り柄だからな。心配するほどではない」「しかし・・・」「もっと気楽に考えろ、あいつは、強い」
ヴァレアが発した強いという言葉、それは最強の"リンドウ"であるヴァレアが彼女を認めていると同じ言葉だ。ディーナの強さは昨日の"マリー"との一戦で分かっていたが、ヴァレアから信頼されていることスイレンは知った。これ以上スイレンは何も言わなかったがどこか清々しい気持ちだった。
少し時間が経ち目を閉じていたヴァレアが目を開けて「来るぞ」と一言。二人の目の前には大群で真っ直ぐ国に近づいてくる動物型の"マリー"。犬、熊、猪に鹿のような見た目の"マリー"もいる。
「流石の数ですね。確かに一国をも潰しかねないですね」中腰になり両剣を持ち構えたスイレン。「油断するな、烏合の衆とは言え数は多いぞ」「お任せ下さい、スイレン参ります!」
国を背負った防衛戦が始まった。




