二つ名
先に"マリー"の元に行ったヴァレアを追って向かったディーナ達。
「そにしても積極的に"マリー"に立ち向かうなんて珍しいですね。ヴァレアさんはどちらかと言うと前線に立つ人ではなくて状況を分析して指示を送る指揮感のような人ですよね?」スイレンはヴァレアの行動に疑問を持っていた。
「う〜ん確かにそうね。私も付き合いは長い方だけど二人で"マリー"を退治しに行った時も大抵は私任せ。街とかの依頼だったら住人の避難だったりビルとか守るために氷で防御壁を作って"マリー"や私の攻撃から守ってくれるからね。頭の回転は速いし指示も的確だから前線よりも銃後の方が適人だと思ってるんじゃない?」
「では何故今回は?」「まぁ考えられることとしては・・・腹立ったんじゃないかな?タイミング的に」
と、このような雑談をしながら悠長に歩く二人とディーナにくっついたまま離れないフェリス。
かなりゆっくり歩く三人に対して急いで行きたいが歩く三人に合わせて走ったり止まったりするタイム。
「皆さん!大型"マリー"が迫ってきているのにあまりにも緊張感が無さすぎです!どうするんですか、ヴァレアさんが負けてしまったら今度はお二人が戦わないと行けないのですよ!」
不安がどんどんと怒りに変わっていきとうとう我慢の限界が来て"リンドウ"の二人に怒りをぶつけた。
ディーナは人差し指を唇に置いて「確かにヴァレアが負ける可能性もあるのね。そんな想像一切したことないから考えても無かった。とりあえずマガジンだけ変える準備だけしとくね」
そう言って歩きながら銃を一丁取り出してマガジンを出して新しいマガジンを取りだしたが「次は何を使ったらいいかな?雷の出勤率がかなり高いから今度は火か闇かな、火もさっき使ったから闇かな」属性を使い分けるディーナのマガジンに興味津々のスイレン。
「それに属性の弾が込められているのですか?」「うん、そう」「見た目ではほとんど普通のマガジンですが弾自体は変わらないですか?」
スイレンの興味の眼差しにマガジンをしまったディーナは握りこぶしを作って「見てて」と言うと拳から電気が一瞬まとわり消えた瞬間にディーナが手を広げるとそこには弾丸が作られていた。
「これが属性弾の製造方法。これを複数個作って一つのマガジンに込めるって感じ。一個作るぐらいだったらなんてこと無いんだけど何個も作るってなったら疲れちゃうのよね。だから事前に作っておいてすぐにでも撃てるようにマガジンに込めるって感じかな」
属性の弾を自ら作る、このような事が出来るのはディーナの他にはいない。
「すごい、これが属性弾。さっきのは雷属性の弾ですか?」「そう、作る一瞬にその属性の特色みたいなのが出ちゃうの。別に私に害が無いから何も問題がないけどね」
「お二人共!」ダラダラと会話しながら話す二人についに痺れを切らしたタイム。「いい加減にしてください。国の重大事変なんです、皆さんがやられてしまったら国はおしまいです。皆さんにとっては数多ある依頼の一つかもしれませんが、私にとっては国を守る命懸けの攻防になるんです・・・」
怒りや呆れ、色んな感情が込み上げて今にも泣き出しそうになった。
そんなタイムに申し訳なさを感じ「そうね、流石にヴァレアが行ったからって完全に安全になる訳じゃないよね。ごめん、私もすぐに戦えるようにする」スイレンも「タイムさん申し訳ありません。気が緩んで"マリー"の襲撃に対応出来ないなんて"リンドウ"の恥です。そうならないためにも常に気を緩めてはいけません。教えていただきありがとうございます」
二人はタイムに謝罪と感謝を伝えた。
そして歩き続けた先に国の外まで来た四人。さらに少し歩くとそこには草原に腕を組みながら佇むヴァレアの姿が。
長い髪をなびかせてただ"マリー"を待つヴァレアに声をかけようとタイムが声を出そうとしたがディーナが手でタイムの口を抑えて「今はダメ、そっとしておいて」と、小さな声で言った。
タイムが再度ヴァレアの方を見ると前方には巨大な"マリー"の姿が映った。報告通り、人型で約20m程あり体は所々が朽ち果てていて、朽ち果てた部分には黒い靄のようなものが湧き出ていた。
人目見ただけで国が破壊されかねない程の恐怖を覚えたタイムは萎縮し固まってしまった。フェリスも異様な存在にディーナの後ろに隠れて「お姉ちゃん・・・怖い」と、小さく言葉にし震えていた。
国に真っ直ぐ近づいていく"マリー"に目を閉じていたヴァレアはゆっくりと目を開けて「やっと来たかノロマが。時間を無駄にさせるな」"マリー"に対して挑発した。
さほどヴァレアとの距離が無い"マリー"は挑発が聞こえたのか歩く速度がどんどんと速くなって行きヴァレアに近づいていく。
遂には巨大な体を持ちながらもかなりの速度で走って来てその勢いでヴァレアに拳を振り下ろした。巨大な手で地面を殴ったのだろうかヴァレアの周りには砂埃が舞い散りディーナ達の目にはヴァレアの姿が見えなくなった。
地面に衝撃が走りよろめくタイム。「ヴァレアさんっ!」「離れて、巻き込まれるよ」ヴァレアに近づこうとしたタイムの手を引っ張り一定の距離を離れたディーナ達。
「ディーナさん、でもヴァレアさんがあのままじゃ」もうやられてしまったのでは無いかと心配するタイムだがディーナの口からはこんなことを。「なんで私やスイレンがヴァレアの事をあんまり心配しないか、分かる?」「えっ・・・」
ディーナの質問に答える前にそれは起きていた。
どういう訳か地面を殴ったまま全く動かない"マリー"。次第に砂埃が消えていきヴァレアの姿も見えると"マリー"の腕が地面から徐々に凍っていく姿があった。
凍った地面と同化するように腕も凍って行くため動くことが出来なくなっていた。一切動かかったヴァレアが鞘を持ち刀の柄を握り、その場"マリー"の肩に目掛けて飛び凍っている腕を抜刀し肩を斬り上げた。
斬られた箇所からは血のような赤色ではなく朽ち果てた部分から出ているような黒い靄がかなりの量が湧き出た。
凍った腕を切り落とされようやく動けるようになった"マリー"だが反撃はせずに斬られた箇所を手で押えて靄の流出を防いだ。
空中で斬り上げたヴァレアは地上に降り立ち、血振るいを行い刀を一回転させ納刀した。
腕を切り落とされたことに激怒した"マリー"は「ウオオオォォォ!!!」ここ一帯に鳴り響くような怒号。あまりの雄叫びに周囲は響き渡った。それを何食わぬ顔で見ていたヴァレアにさらに激怒したのか怒り任せにまたしてもヴァレアに突っ込み靄を抑えていた手で殴り掛かろうとした。勢いも相まって一撃がかなりの威力になっている。
しかし、ヴァレアは冷静に右手の二本の指ですくい上げるように動かすと殴り掛かろうとした場所にその"マリー"と同じ大きさの氷の防御壁が一瞬にして出てきた。その氷の防御壁を渾身の一撃で殴ったが防御壁にはヒビも何もつかずにいた。
ヴァレアは防御壁にビクともしなかったことにため息をついて「話にならんな」と、呆れるとヴァレアの左右に氷翔剣が縦に一本ずつ並んでいき左右に五本、計十本の氷翔剣が縦に並んだ。
「行け」ヴァレアの合図と共に氷翔剣が連続で発射した。発射された氷翔剣は全て"マリー"の胴体に命中しよろめく"マリー"。
さらに左右に氷翔剣を五本並べて"マリー"の両膝にそれぞれ五本の氷翔剣を発射させて膝に突き刺した。
胴体に続き膝にも氷翔剣を刺された"マリー"は流石に立つことも出来ずに両膝を折り曲げて地面に付けて両手も地面に付けた。その巨大な体が突然地面に付けた事により少しの地震が起こった。
その揺れもものともせずに再度鞘を持ち柄を握った。「動くなよ」そして"マリー"に向かってかなりの速度で突進し"マリー"の両手の間を抜けさらに股の間を抜けて通り抜けた後に抜刀し、突進の勢いを急ブレーキのように止めた。
一切動かなくなった"マリー"。"マリー"に振り返り、血振るいを行いさらに一回転させてゆっくりと刀を鞘に納める一瞬「終わりだ」と、口にした。
そして、鞘に納める音がしたと同時に"マリー"の顔が十字に斬られ、大量の黒い靄が放出されながら四つに分断された顔が地面に落ちて行き、首から上が無くなった"マリー"は腕で支えることも出来ずに崩れ落ちた。
大型"マリー"をものの数分で討伐したヴァレアを見ていたディーナは「流石って所ね」感心し、スイレンは「一部の隙もなく、瞬時に討伐、完璧の一言です」ディーナと同様にヴァレアの強さを感心した。
フェリスは言葉を失っており、タイムはその圧倒的強さに腰を抜かししりもちをついていた。
「さっきの話の続きだけど、分かってくれた?あの大型"マリー"も強力なはずだけどヴァレアにかかればあっという間。私でももっと時間がかかるよ。
斬撃が遅れて来るなんて他の人が出来るわけない、出来るってことは時の流れよりも刀を速く振るしかない。
属性が強力であればあるほど身体能力は高くなるって言われてるけど、ヴァレアの身体能力は私から見れば人を超越しているレベルだよ。だって時を超えてるんだから」
「身体能力もそうですがその属性の力も他の"リンドウ"を圧倒します。あの一瞬で氷の防御壁を、さらに強度も高いです。ヴァレアさんの氷翔剣も氷の属性を持つ"リンドウ"でも絶対に出来ません、繊細で丁寧、技量の高さもヴァレアさんならでは。飴細工を一瞬で何個も作るのと同じようなものです」
ヴァレアがディーナ達の元に歩いてくる。タイムはこちらに来るヴァレアに感謝の言葉を考えていたが一瞬にして頭が真っ白になり立ち上がることも出来ない程の衝撃を目の当たりにした。
そして、ディーナが最後にヴァレアのある一つを説明した。
「"リンドウ"には名を挙げていけば二つ名を持つ。もちろんヴァレアにもあるけど彼女だけは別格。それぞれ属性になぞられた二つ名だけどヴァレアはその強さや力を"マリー"達に知らしめ蹂躙する姿を見て人々はこう言った、"最強のリンドウ"。これが、彼女が私と同じ特別な枠組みの一人だってことをね」
ヴァレアがディーナ達の元に来て「何を話していた?」少し聞こえていたようで会話の内容を知りたいようだ。
「いや、別に大した話じゃないよ」「そうか、ならいいが」ディーナとの話を区切るとタイムの方に行きまだしりもちをついているタイムに手を伸ばした。
タイムはヴァレアの手を取りまだ少し震える足を無理やり立たせて「ご、ごめんなさい。まさかヴァレアさんがあんなに強いとは・・・有名だけで片付けてしまうのはあまりにも失礼でした」
「そんなことでわざわざ謝るな。国を背負って立つ者が簡単に謝罪をしていいものでは無い、私はただ"リンドウ"として"マリー"を討伐しただけだ」
ヴァレアは国の方に歩いて行き「早く戻るぞ。食事が冷めてしまう」
少し早歩きになるヴァレア。「あっ、ヴァレアさん」ヴァレアについて行くタイム。
二人の後を追うようにディーナとフェリスとスイレンは歩き始めた。「あの"マリー"は恐らく人型を統治していたボスって認識でもいいかな?」「はい、部下がヴァレアさんが倒したので戻ってこない状況に何か違和感を感じて来たと予想します。ヴァレアさんもそれには気がついているはずです」
「そうね、異形型と人型を討伐完了してるから残った"マリー"は・・・」「動物型、この"マリー"を倒せば終わるはずです」「明日も頑張りましょ、スイレン」
"リンドウ"の活躍により"マリー"を討伐しているのは確かだがまだ平和が戻った訳ではない。今後は動物型の"マリー"を探す。この目的を立てることにしたディーナだった。




