湧き出る恐怖
ディーナ達が大型"マリー"を討伐している頃にエニーではヴァレアがエニーの兵士達の訓練の指揮をしていた。
「そんな遅い動きで"マリー"を倒せると思っているのか、もっと迅速に行動をしろ!それでもこの国の兵士か!!」
「はい!!」
完全に主導権を握ったヴァレアは兵士達に激励を行っていた。兵士達の訓練はヴァレアが属性で作った人型の"マリー"の氷。三体作りこの三体を砕くまでは訓練は終わらせないらしい。
氷の"マリー"はただの氷では無くしっかりと人型の"マリー"のように動く。人型の"マリー"は動きは遅いが鋭利な爪で引き裂かれたら人間であれば大怪我を負ってしまう。
"リンドウ"では無い人間が"マリー"を討伐は可能ではあるがどれだけ弱い"マリー"でも複数人で行くことが推奨される。
兵士達は各々持つ武器で氷の"マリー"に向かって戦って力をつけている。ヴァレアは活気づく兵士達を見て「そのまま勢いを保て、だったらなんとか"マリー"を倒せるかもな」そう言ってヴァレアは訓練所を後にした。
訓練所は本部の地下にあり、階段を上がり作戦会議室に戻ってきた。タイムとフェリスは会議室にはいなかった。テーブルにはこの地域の地図が置かれておりヴァレアは一人で地図を見ていた。
口元を手で抑えて考える素振りを見せた。
「森に"マリー"がいることは不確定ではある。だが頻繁に"マリー"が現れるようになったのはごく最近、この国が原因では恐らく無い。となれば"マリー"達に何かあったのか?
仮に洞窟が"マリー"の巣になっていたとしたら奴らは森も支配するはずだ。あの二人が帰ってきて次第にはなるが森に"マリー"がいるのであればその"マリー"は別の種族の"マリー"、人型と動物型が共存するとは思えない、この"マリー"達の派閥があるというのか・・・いや、今はこの国をどう守るかを考えた方がいいか」
ヴァレアはこの状況を分析して、次に何をするかを考えていた。
すると、会議室にタイムとフェリスが入ってきた。
「どうでしたエニーの観光は?案内役をしたのは初めてでしたが私はこの国の魅力を伝えることが出来たのでしょうか?」
「た、タイムさんの案内はとっても良かったです。フェリスはあんまり国の事とかも分からないけど、でもタイムさんが、国が大好きなのは伝わってきました」
どうやらさっきまでフェリスをタイムがエニーの案内をしていたようだ。
「ま、まぁ、ずっとこの国で育ってきたので、好きなのかもしれませんね」少し照れた表情でこめかみをかいた。
ヴァレアはタイムに近づき「どうだった、目で見て国に何か変化があったか?」「いえ、いつも通りの国の風景でした。変わったと言えば住民の笑顔が少なくなっていることです」
ヴァレアは観光案内と同時に本部で仕事漬けだったタイムを外に連れ出して街の様子を伺うように指示を出していた。国長であるタイムであれば国の様子が少しでも変わっていれば違和感を感じるはずと踏んでいた。
「となればこの国は一切の変化が起きずに"マリー"の襲撃を受けていると言うことになるか」
「はい、原因が分からないままに私達は日々危険に見舞われ続けています。せめて、国民だけでも安全が確保出来れば・・・」
どんどんと沈んでいくタイムにヴァレアは「国の長がいなくなれば必然的に国は崩壊して行く。国を守るのは国民だけではなく自分の身を守ることも大切だ」
国のあり方にはその国を仕切る人が必要とヴァレアはタイムに言った。
「ヴァレアさん・・・そうですね、すいません。まだその自覚が無くて」「まだ時間もそう経っていない。これから分かって行けばいい」
続けてヴァレア「それにある程度の仮説は出来た」「仮説?」「ああ、この国に"マリー"が襲来する理由。それは今あいつらが調査に向かっている森に・・・」
ヴァレアがある仮説を説明しようとした時に突然「緊急事態です。"マリー"が国に侵入しました。住民の皆さんは速やかに避難してください」
アナウンスが流れてきて"マリー"が来た事を住民に知らせた。
フェリスは突然の事にオドオドしていた。
昨日のアナウンスとほとんど一緒だった事に恐らく毎回このアナウンスだと思ったヴァレアは「"マリー"が侵入して来ていると言うのに危機感が無いな。今すぐにでも言っている奴の元に行きたいが、それどころではないか」
「ヴァレアさん、お願いしていいですか?」「そのために私は来た」
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アナウンスが流れたことで外に出ていた住民達は慌てふためいていた。とにかく逃げないと行けないと考えている住民は走って住宅街に逃げ込んでいる。
すると一人の少女が走っている中で転んで足を怪我してしまった。すると、"マリー"の群れが既にエニーに入り込んで来ており辺りを見渡していた。
昨日は動物型の"マリー"であったが今日は人型の"マリー"。さらに知恵のついた"マリー"のためか群れ全員に石で出来た鎌の様なものを持っていた。
群れで動く"マリー"に恐怖を感じたのか動くことが出来なくなっていた。すると、一匹の"マリー"が倒れている少女を見つけ近づいてきた。
恐怖に打ち勝つことが出来ない少女は近づいてくる"マリー"に逃げ出すことが出来ずにただ涙を流すしか出来なかった。
"マリー"は少女の元に行きそのまま鎌を振りかぶり少女を斬り付けようとした。
目を閉じて抗いもせずにただ身を任せる少女に"マリー"は鎌を振り下ろそうとしたその時、群青色の剣の形をした氷が飛んできて"マリー"を突き刺した。
高速で飛んできた氷の剣に突き刺された"マリー"は何が起こったのか分からないのか鎌を落として剣を抜こうとしたがさらに二本の氷の剣が飛んできて"マリー"を突き刺した。
三本の氷の剣に突き刺された"マリー"は「あっ・・・あっ」声にならない声を発しながら息絶えた。
息絶え倒れた瞬間に氷の剣は三つ同時に砕け散った。
少女は襲われないと思い目を開けると既に死んでいる"マリー"に驚き「えっ、えっ」何が起こったか分からずにただ震えて声を発していた。
群れで動いてはずの"マリー"の進行も止まっていた。"マリー"達の目の前にはヴァレアが歩いてきていた。
しかしヴァレアは"マリー"達に目も向けずに襲われそうになっていた少女の元に行き右膝を地面に付けて少女に手を伸ばして「立てるか?」
少女はヴァレアの手を掴んで立ち上がろうとしたが足を怪我しているためか立ち上がることが出来ない。首を振って「い、痛い・・・」まだ恐怖が残っているのか喉が締め付けられる気持ちだったが振り絞った声で足の痛みを知らせた。
ヴァレアは少女の手を離して足の怪我を見て「少し動くな」そう言うと怪我の箇所に手を当てた。すると怪我をした場所がどんどんと氷が貼られていった。
完全に怪我の箇所に氷を貼った。「どうだ、痛むか?」と聞くと少女は首を振って「痛くない、すごい」「止血をして痛みを凍らせただけだ」擦り傷のような怪我だったが血を凍らせて痛みを無くしたという。
「ありが・・・後ろっ!」少女が感謝を伝えようとした時ヴァレアの背中を二体の"マリー"が鎌を振り上げていた。
"マリー"が鎌を振り下ろそうとした時に"マリー"の背中に先程の群青色の氷の剣が突き刺さった。
さらに突き刺さった瞬間に"マリー"の目の前に氷の剣が出現し"マリー"の顔面に突き刺した。
即死した二体の"マリー"はその場に倒れた。
突き刺さっていた氷の剣もいつの間にか砕けていた。
少女から振り返って"マリー"達を見たヴァレアは小刻み動きながらこちらに近づく"マリー"を見て「動くな、的は的らしく止まってろ」
そう言うとヴァレアの足元から冷気が宿り"マリー"達のいる地面を氷漬けにした。凍った地面に足がついていた"マリー"は足が氷で覆われて動けなくなっていた。
いくら上半身が動かそうと足の氷が溶けることも砕けることも無く、ただどうすることも出来なくなっている"マリー"。鎌を氷に刺した"マリー"もいたが刃先からどんどんと氷に覆われて鎌を持っていた手にも氷が侵食して行き最後には全身氷漬けになった"マリー"もいる。
その場にいる"マリー"全員が身動きが取れなくなった事を確認したヴァレアは氷の剣を無数に出現させて「行け」の一言で氷の剣は"マリー"達に一斉に飛んで行った。
一匹あたり三本か四本の氷の剣が"マリー"を串刺しにして行き、悲鳴を上げていた"マリー"達だったが次第に静かになっていき最後の一本の氷の剣が飛んで行った頃にはその場は沈黙に包まれた。
瞬く間に"マリー"の群れを討伐したヴァレア。その光景を見ていた少女は圧倒的な実力を見せたヴァレアに絶句し、ヴァレアの氷の属性で動くことが出来るはずの足だったが全く動くことが出来ずにただ呆然としていた。
"マリー"達が息絶えた事だと思い氷の地面を溶かして普通の状態に戻した。
倒した"マリー"には目もくれずに少女の方に振り返り再度手を伸ばしたヴァレアだが少女は手を伸ばさずに「怖い・・・」と小さく呟き、急いで立ち上がりヴァレアから遠く離れていった。
まだ年端もいかない少女、"マリー"を圧倒し殲滅させた光景は"マリー"よりもヴァレアの方に恐怖を持ってしまったのだ。恐怖心を持った少女はヴァレアは恐れの対象になっていた。
走り去った少女を静かに見守って表情一つ変えずに本部に向かうため振り返ると森の調査を終えたディーナとスイレンがいた。
「戻ったかお前達」「えっと・・・そういうこともあるからね」「そ、そうですよ。"マリー"を討伐したのですからもっと喜んでもいいでは?」
どうやら少女に怖がられて逃げらた所を見ていた二人は気を使った。
「別に気にしてない。あの年頃の少女にとっては"マリー"も化け物でそれを討伐する私も化け物に見えたのだろう。よくあることだ。本部に戻るぞ、森の報告を聞かせてもらう」
一人本部に歩いていくヴァレア。自分が化け物に見えたと答えたヴァレアにスイレンは「人を守っているだけなのに恐れられてしまうなんて、皮肉、なのでしょうか?」浮かない顔をしてヴァレアに同情した。
「仕方の無い、で片付けるのはちょっと違うかな。何よりヴァレアだからってのもあるよ。だって彼女は・・・」
何かを言葉にしようとした時に「早く来い、日が暮れるぞ」ヴァレアが戻ってきた。
「この話はまた今度ね」「はい、そうですね」
三人は本部に向かい各自の成果を報告することにした。




