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竜公爵と約束の乙女  作者: 紫月ゆう
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3. 北都メルトア

 王国最大の広さを誇るオルレアン公爵領は、隣国との境となる山脈を背に広大な森と湖を擁する自然豊かな領地である。

 また、開拓が進んだ平野部には大きな川が流れ、国内有数の穀倉地帯となっている。


 その公爵領のなかにあって、王国第二の規模を誇る都市が北都メルトアだ。

 歴史ある建造物が威厳を与えながらも華やかな活気に溢れ、伝説に彩られた有名な都でもある。



 エリシアが王都にあるサークライス伯爵家から見た竜騎士団は、この都の所有だ。

 青竜(せいりゅう)であれば北都というように、竜の鱗色は、要所にある竜騎士団によって決まっている。例えば、南の公爵領にある南都アルビノンが所有する騎士団の竜は、赤竜(せきりゅう)だ。


 大地から生を得る竜は、生まれる土地の影響を色濃く受け継ぐ。そのため北都の竜が青色なのは、水が豊かな証拠だと云われている。



(竜が生まれる土地には、神脈が通っているって、本に書いてあったような……。それのことかしら)



 目に映る景色のなかの所々に、うっすらとした霧のようなものが浮かんでいる。それは、太陽の光を受けると控えめに光を反射する。

 公爵が治める領地の中に入れば、霧の発生率が格段に増えていた。


 公爵邸に向かう道すがら、馬車の中から見ていた不思議な現象の答えはみつけた気がする。…………が。



           ◇◇◇



「今日で何日目かしら。……むしろ、会いたくてたまらないわ」


 エリシア・サークライスが、王都からここ北都のオルレアン公爵家に到着して、一週間が経過していた。


 だが、今のところ公爵には会えていない。

 北都に着くまで、悩んでいたあれやこれやが、もうどうでもよくなってくる。



 屋敷に着いた時から使用人たちには好意的に迎えられ、人のよさそうな執事に至っては、初めから「奥様」と呼ばれている。

 歓迎されていると感じられるからこそ……、関係を築く前にしておかないといけないことがあるのだ。


 エリシアとしては、結婚そのものについて、今一度、公爵と話し合いたい。


(公爵様に理由を聞いてもらえさえすれば、解ってもらえると思うのだけど……)


 執事からは、「遠方の視察と領地の見回りに出ておられまして……」と聞いている。

 花嫁が到着するというこのタイミングで、と驚いたが、竜騎士団を連れていると聞けば、何かしらの問題が起きているのかもしれない。ここは待つしかない……。




 北都に着いてからは、広すぎる公爵邸や庭を散歩したり、読書などで時間を潰していたが……。さすがに街の様子も見てみたくなる。


「サリー、街を見学してみたいのだけど、いいかしら?」


 貴族令嬢が街に出かける機会は限られている。

 エリシアも教会や孤児院に、たまに出かけるくらいだった。なので、このお願いには渋られると思っていたのだが……。



「はい、ぜひ! すぐに準備しますね!」

 侍女のサリーが、エリシアのために用意された居心地のいい部屋を、勢いよく飛び出していく。



「……」全く問題ないらしい。

 あっという間に外出の準備が整えられ、公爵家の馬車に乗せられた。


「いってらっしゃいませ、奥様」

「……い、いってきます」


 相変わらず私を「奥様」と呼ぶ執事のハリスに見送られ、エリシアを乗せた馬車はメルトアの街に向けて出発したのだった。




 丘の上に建つ公爵家から出発した馬車は、緩やかな丘を下っていく。街までは、そんなに時間はかからない。


 街の外側に整然と並ぶのは、裕福な商人や町人が住む広い屋敷。それに、竜舎と宿舎を備えた、竜騎士団の本部である大きな建物だ。


 街全体の造りは騎士団を所有する街らしく堅固な建物が目立つが、様々な商品を扱う大小の店も軒を列ね、とても活気がある。

 石が敷き詰められた道路上を馬車や荷馬車が行き交い、その間を商人や町民たちが思い思いの速度で歩いていた。




 街の中心にある広場で馬車を降りたエリシアは、そこに暮らす人たちを見て、感じたことを正直に口にする。


「とても綺麗な街ね。住んでいる方たちも溌剌としているし、楽しく生活できているみたい」


「はい。そう言っていただけると公爵様もお喜びになります」

 付き添ってくれている侍女のサリーも誇らしそうだ。


「……実は私も、街の様子を確認したかったので、今日ご一緒できてよかったです。……久しぶりに降りてきましたが、噂で聞いていたとおり、凄いことになっていますね! エリシア様がメルトアに来てくれたおかげです」


 そう言って周囲を見回した後で、サリーがニコニコと笑う。



「……凄いこと? ……私のせいで、何か起こっているの?」


「はい。ご存知ないのですか? それでは、……あぁ、あれをご覧ください」


 サリーが、漂うように浮いている霧のようなものを指差す。エリシアが公爵領で幾度となく目にしてきたあれだ。


「あれがどうかしたの? 神脈が通っている土地だからでしょう?」


「そのとおりです。……ですがあれは、普段であれば目に見えないのです。魔法使いであれば別ですけど」


「えっ! そうなの? 神脈のある土地は、さすがに違うと思っていたのだけど……」


「もしもご存知ないようなら、このことは公爵様にお聞きしたらよいと思いますよ。公爵領の民にとっては当たり前のことでも、王都でお育ちになられたエリシア様が知らなくて当然ですから。口伝えで教えられるものも多いですしね」


 公爵領について勉強不足だったかとエリシアは後悔したが、サリーは特に気を悪くした風でもない。さりげなくフォローしてくれる、サリーの優しい気遣いをありがたく思った。



 結婚の申し込みを断ろうとしている公爵に、北都の当たり前を尋ねることは「ハードル高すぎ!」と感じるけれど、純粋に興味はある。


(教えてくれたら、……嬉しいな)

 また、人に頼らずに勉強してきたエリシアにとって、質問に答えてくれる人は貴重な存在であった。



「ありがとう、サリー。公爵様に尋ねてみるわ。……じゃぁ、街を案内してくれる?」


「はい、喜んで!」



 女性ふたり、連れだって街を歩きだす。サリーの説明は分かりやすくて面白かった。


 今は、街自体がお祭り気分で浮かれているとのことで、たくさん出ている露店を覗いてみたりもした。

 食欲を誘ういい匂いもしていたが、さすがに立ち食いは諦め、椅子や机を道路脇に並べて営業している店で、二人は休憩することにした。

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