4 (6)
「はい、それじゃあ私の自己紹介は終わりとして、まぁ今日からしばらくよろしくの」
川崎の復帰が年明けからということで、年末まで担任の代行を務めることになったのは例の白髪のおじいさん。60歳を超えたぐらいの年齢だろうか? 還暦を迎えているにしては若々しい動きを見せる人だけど。
このおじいさん先生が教室に入って来た時、机に伏せていた顔を上げた江藤はおそらく喜んでいるはずだろう。後姿からなんとなくそう感じた。
それにしてもやられたものだ。江藤の演技や計算もそうだけど、あのおじいさんもグルになってことを進めていたというのだからたいしたものだ。
長年勤めている学校が悪い方に変わっていくことが気持ち悪かったのだろう。今日はいつになく活き活きとした顔つきで、その仕草は年齢を感じさせない。策士が2人いなかったら、私は今頃どうなっていたのか。
そうそう。江藤に言われて色々と思い返してみたら、結構匂わせるところがあったんだよね。もし意識を向けていたら、からくりに気付けていたのかもしれない。まぁ今となっては別にどうでもいいんだけどね。
でも1つだけ気になったことはあった。江藤自身も驚いたことといえば、会長がガラスを割ったあの日のことだ。
会長が何故ガラスを割ったのか、ではなくて、何故こちらに駆けつけることができたのか、ということだ。
教室の離れた2年生の人間が何故あの騒動に気付くことができたのか。教室移動のある教科の時間だったとか? いや、他の生徒はいなかった。まぁ、いいか。気にするほどのことでもないしね。
「よーし。それじゃあ席替えでもするかね。適当にクジ作るから順番に引いてってくれ」
1学期になかった席替えをこの中途半端な時期に行うとは、さすがベテランはやることが違う。というか代理が勝手なことをしていいのだろうか……。
クラスの皆が順番にクジを引いているうちに先生は黒板に座席表を書いていく。小学生の頃は席替えごときで一喜一憂できたものだけど、今は最前列にさえならなければどこでもいい。
小さな紙に書かれた番号と黒板の数字を照らし合わせると、私の席が窓際になったことが確認できた。それも一番後ろ。
「あ、優華! 私の前じゃん!」
「よかったぁ。でも、授業中のお喋りは駄目よ」
「えぇ、ケチだなぁ」
江藤は教壇のまん前というある意味最高の位置を掴み取ったようだ。不満そうな顔に見えるけれど、授業に集中しているアイツにはまぁ悪くない場所だろう。
席替えごときでなんだか清々しい気分になったので窓を開けてみた。これから寒くなるから、今のうちに開けておこうなんて意味のわからないことを思ってみたり。
少し冷たい風に吹かれて窓の外を見ると、向かい側の校舎の窓にいつもならこの時間には見られないものが見えた。
窓際で肘をついて窓の外をボーっと眺める我が校の生徒会長の綺麗なお顔。授業中に外を見ているなんて何だか意外な感じがする。なるほどね。謎が解けたよ。
向かい側の窓際にいる私に気付いた会長は、視線が重なった瞬間にそっと微笑みを浮かべた。優しい笑顔に負けないように、私も同じように微笑んでみた。
〜fin
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
読んでくださっている方々を満足させられるような小説を書くことは難しいですね。
僕の伝えたいことが伝わっていたら嬉しいです。
また他の作品を執筆しますので、もしよければ目を通してみてください。
本当にありがとうございました。