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ちょっとアレな〇〇は好きですか?

真面目な弓道部の先輩は好きですか?2

作者: 渡り鳥

 どうも、夢乃かなたです。

 今回の物語は、一作目「真面目な先輩からの告白」の続編となりますので、前作の方をまだ読まれていない方は、まずそちらの方を読んでいただけると幸いです。

 それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

 今日は待ちに待ったクリスマスイヴ。

 そして、放課後は不破悠人ふわゆうととのデートの日。


 そんなとても大事な日に私は──風邪をひいてしまったらしい。


 校内順位を落とさないための勉強、そして弓道部での部長としての責務に疲れてしまったのだろう。


 まぁ私も人間なんだ。

 そりゃ疲れたら体調でも崩すだろう。

 人類は未だに病気を克服することはできないのだから、風邪を引くこともあるさ。


 そう、仕方がないのだ。


 ──しかし。


 なんで私はこんな日に……。



「なんで不破と出掛けるという日に、風邪なんて拗らせてるんだろうか……」



 自分の愚かしさに、思わず声に出して頭を抱えてしまう。



「ここまで来るのに、どれだけ勇気を振り絞ったと思っているんだッ!」



 不破くんに告白し、部員たちから生暖かい視線を向けられながらも頑張って話しかけてきた。

 今まで手を出してこなかった化粧やファッションの勉強までした。


 全ては今日のデートで不破と付き合うという目的のために、だ。


 それなのに──



「私はどこまで詰めが甘いんだ……。これまでの努力が水の泡じゃないか……」



 私は布団に突っ伏しながら、うーうーと唸る。


 端から見たら、さぞかし不審に思われるだろうが……そんなこと知ったことかっ!

 私にだってそういう気分になるときくらいさ!



「とにかく、今日はゆっくり体を休めよう。どうせこんな調子で会ってしまったら不破に迷惑をかけてしまうだろうしな」



 正直、とてもやるせない気持ちでいっぱいだが。


 本当は行きたいんだけど。とてもとても会いたいのだけど。


 私は後ろ髪を引かれる思いに苛まれながらも、ベッドで仰向けになって瞼を閉じた。



* * * * *



 ──ピンポーン。



「……んんっ!」


 どのくらい寝てたのだろう。

 まだ寝足りない感が否めないけど、それでも寝る前よりは楽になった気がする。


 ──ピンポーン。



「あー、そういえばこの音で起きたんだったな。……誰だろうか」



 郵便か?

 セールスとかだったら嫌だな。


 若干回復したけど、それでもフラフラと覚束ない足取りのままドアを開けた。



「あ、あのっ! 突東條(とうじょう)先輩の家に来てしまってすみま──」



 ──バタン。


 目の前に広がった光景があまりにも突飛だったために、思わず開いたドアを閉めてしまった。



「えっ!? ちょ、東條先輩ッ!?」



 待て待て待て、ちょっと待て。


 えっ、なんだ?

 どういうことだ?


 なんでなんでなんで?


 いやいや、落ち着け。

 落ち着くんだ私。

 まずは状況の整理をしなければ。


 朝起きたら歩けないほど体調が悪くて、デートに行く約束をした不破に断りを入れ、少しでも早く治すために寝たはずだ。

 そしてインターホンが鳴り、面倒ながらも仕方なく玄関のドアを開けたら不破が居た。


 うん、なるほど。

 全然意味がわからない。



「東條せんぱーい、とりあえず開けて下さいよー。渡すものを渡さずにこのまま帰ったら、弓道部のみんなに怒られちゃうんですからー」



 私が考えを整理していることを知らない不破は、なおも私に呼びかけてくる。


 でも、少しだけ静かに待っていてほしい。

 ご近所さんに不審に思われるから。


 ……って、そうじゃない。

 問題はそこじゃない。

 不破がなんで来たのか考えるよりも、考えるべきところがあるだろう。


 私は一度も着替えておらず、今さっきまで寝ていた。

 つまり、何のお洒落もしていない部屋着で、寝起きの髪に寝起きの顔。


 ダメだろう、これは。

 とても好きな人に見せられる状態じゃない。



「聞いてますかー、東條せんぱーい。…………まさか、倒れてるんじゃ……」



 あ、ヤバい。

 とにかく返事をしないと。



「いや、大丈夫だ。今開けるから心配しないでくれ」



 そう言ってドアを開けると、安堵の息を吐く不破の姿が視界に入った。



「大丈夫ですか? これ、部員のみんなで出し合って買ったお見舞いの品です。ゼリーとか額に貼るための冷却ジェルシートとか色々ありますよ」


「そうか……ありがとう。復帰したらみんなにもお礼をしないとな……」



 不破や弓道部のみんなの優しさに目頭が熱くなるのを感じ、誤魔化すように咳払いを一つ。



「なんだ、その……心配をかけたみたいで申し訳なかったな。この通り一度寝たらマシになったようだから、多分大丈夫だ」


「そうですか。ちなみに親御さんはいらっしゃるのですか?」


「ん? なんだ薮から棒に。両親は共に仕事に行っている。母は心配して休もうとしてくれたが、流石にたかが風邪程度で休んでもらうのは申し訳ないからな。安静にしていれば治るだろうし、問題ないと判断した」


「はぁ……本当に、東條先輩って人は……。まあいいです。そういうところ、嫌いじゃないですしね。……とりあえず上がらせてもらってもいいですか?」



 は?

 いや、えっ……?


 なぜか呆れられた上に、私の家に上がる?

 なんでだ?



「いやいや、私なら大丈夫だか──」 


「そんなに目を充血させて、バランス悪そうに立ってる病人を見ておいて、このまま帰れるほど薄情でもないですよ。まして、それが告白してくれた女の子なら尚更です。とりあえずベッドで寝ててください。せめて親御さんが帰ってくるまでは近くにいさせてくださいよ」



 私の言葉を遮るように、それでいて矢継ぎ早にそう言うと、不破は私の手を取って玄関をくぐる。



「本当に大丈夫だから、少し待って……くれ──」


 返事をしながらその場を離れようとした瞬間、「あれ?」と言う間もなく景色がぐらついた。

 あ、これはダメなやつだ。


 ──そう思った瞬間。


 不破は私の手を引いて、私がその場で倒れてしまわないよう抱き抱えるように私を支えてくれた。


 そして、心配そうに私を呼ぶ不破の顔を見たことを最後に、私の視界は真っ暗になった。



* * * * *



「…………ん」


「あ、起きました?」



 目を開けると、さっきまでいた玄関の景色ではなく、自分の部屋の天井が見えた。



「本当に心配しましたよ。あのまま帰らなくてよかったです」



 声のした方を見ると、不破がホッと胸を撫で下ろしている姿が目に入った。


 どうやら私は気を失ってしまったらしい。

 しかもここで寝転んでいるということは、不破が私をここまで運んでくれたようだ。


 ……ダメだ。

 どうやって運んだのは考えると顔が真っ赤になりそう。



「最初は救急車を呼ぶべきか迷ったので、救急安心センターに相談したのですが、先輩の状態を聞かれるままに説明していたら、病院の案内を受けました。それで、病院に行くなら親御さんのどちらかに帰ってきてもらった方がいいと判断し、勝手ながら家の電話をお借りして東條先輩のお母さんへ連絡させていただきました。お母さんはすぐに帰ったくるそうですよ」



 なるほど、緊急時にそこまで冷静に対応できるとは流石だな。

 高校生でそこまで機転が利いているとか……好意が上限を突破しそうでヤバい。


 私が潤んだ瞳で不破を見ていると、何を思ったのかふわりと柔らかく笑った。


 それがとても温かくて、眩しくて、それ以上見ることができずに目を逸らしてしまったのは仕方がないのではないだろうか。



「何はともあれ、意識が戻ってくれてよかったです。何か食べられますか? 今あるものですぐに食べられるのはゼリーくらいですが……。台所を借りてもいいならお粥でもつくりますけど?」



 この子はどこまで頼れる存在であれば満足するのだろうか。

 ちょっとこれは骨抜きにされそうで恐い。



「いや、ゼリーで大丈夫だ。母の職場は家からそう遠くはないから、きっとお粥を作っている最中に母と出くわすことになるだろう。そうなれば不破も気まずいことになるかもしれないしな」



 色々とごっちゃになっている感情を悟られるのも癪なので、からかうようにそう言ってやった。


 これで誤魔化せるだろうと思ったのだが、私の思惑とは違い、安堵した様子見せて私の額に手を伸ばしてきた。



「そう返せる程度には回復したってことですね。…………うん、意識を失っていた時よりはマシになってるみたいです。これなら大丈夫そうですね」


「……君は存外、意地悪なのだな。それでいて優しいのだから、少々ズルいと思う。その優しさはとても好ましいが……できることならば──いや、なんでもない」



 病気のせいなのか、不破が頼りになる存在だと改めて認識してしまったからなのか、どうにも余計なことを口走ってしまいそうになる。

 危ない危ない。


 不破には不思議な包容力みたいなものがあって、だからこそこの安堵感からついつい甘えたくなる時が──ってダメだダメだ。

 余計なことは考えるな。

 不破を直視できなくなってしまうのは今後に差し支える。


 頭を抱えたくなるのを抑え、とはいえ不破に今の自分の顔を見られたくなかったために、布団を目元まで被った。


 そんな私の様子に首を傾げる不破だったが、すぐに推測することをやめたのか今日持ってきた買い物袋をガサガサと物色し始める。


 そして──



「東條先輩は……自分に厳し過ぎなんですよ。まあ、そこも魅力的ではあるんですが、たまには周りに頼ってもいいんですよ? そんなことで幻滅するような人は、少なくとも弓道部にいません。だから……本当に困った時には、部員を頼ってくださいね」



 声色を柔らかくし、諭すようにそんなことを言いながら冷却ジェルシートを開封し、私の額に貼る。


 そんな不破の声と言葉に、私は不覚にも涙が込み上げてきそうになった。


 だからだろう。

 私は今までずっと気になって、でもどうしても聞けなかったことを口にしてしまった。



「どうして、君は……そんなにも優しくしてくれるんだ?」



 不破とはまだ二年にも満たないくらいしか付き合いがない。

 そして、まともに話すことができた期間はもっと短い。


 私は部長になる前も、そして今も、周りの人たちに敬遠されている。

 嫌われているわけではないのだろうが、それでも決して気安く話しかけられることはなかった。


 だが、不破だけは違った。

 他の人たちと同じように、私にも接せてくれた。


 わからないことやアドバイスを求める際も私を避けることはなかったし、私一人では困難であろうことも察して手伝ってくれた。

 口下手な私の言葉を理解し、他の人たちにそれとなく伝えてくれていたこともあった。


 敬遠され、寂しさと悲しさで胸中を埋め尽くされかけていた私。

 そんな私に歩み寄ってくれたのが不破だったのだ。


 でも、入部当初から私が周りに馴染めていないことは知ったはずである。

 それに私自身、とっつきにくい雰囲気を出していたはずなのだ。


それなのに──



「うーん、そうですねー……」



 きっと面倒なことを言っているのだろう。

 不破は困ったように笑って、言葉を続けた。



「最初はなんとなく話しかけてましたね。別に何かされたわけでもないので、まあ他の人と同じように接していただけなんですが……そうしているうちに気付いちゃったんですよね。」


「気付いたとは、何に?」



 つい、私は口を挟んでしまったが、それに気を悪くした様子もなく、私に「怒りませんか?」と頬をかきながら確認してきた。


 私としては続きが気になっているために、すぐさま「ああ、約束する」と返して先を促す。


 それに安心したのか、不破は軽く笑みを浮かべて言葉を紡いだ。



「東條先輩って人に何かを教えるのが苦手じゃないですか。それでも、なんとか俺にわかるように必死に考えながら教えてくれるのを見て、思ったんですよ。東條先輩は、ものすごく不器用な人なんだなって。そして……こうも思ったんです。とても優しい人なんだなって。だから、もっともっと色々なこの人のことが知りたいって」


 不破の照れ臭そうに笑う不破の表情が、私の悩みを吹き飛ばしてくれた。


 そして同時に──私は、改めて思い知った。

 どうしようもないほどに、思い知らされた。



「うぁ……」



 ああ、これはダメだ。

 私は、本当の本当に、どうしようもないほどに、不破を好きになってしまった。


 自分でもチョロいと思うけれど、それも仕方ないではないか。


 人との付き合い方に苦悩、葛藤して、それでもうまくできなかった私のことを知ってくれていた。

 いつもいつも弱っている時に優しくしてくれた。


 そんなの──反則ではないか。


 私は慌てて不破から顔を背けて何か対応しようと試みようとした時、布団から出ている手が温かい感触とともに包まれた。



「俺は東條先輩のためなら、全力で力添えしますよ? 他の誰でもない東條先輩のためになれるなら頑張れます」



 だから俺を頼ってください、と続けて微笑んだ。


 これで期待するなという方が無理な話だろう。

 どんどん私の期待値と想いは高まっていき、視線が合わさった瞬間、心が騒いだのがわかった。


 何かを言わなければと思うも、声にならない。

 思考がまとまらない。


 口を開けては閉じを繰り返している私は間抜けそのものだろうが、不破はそんな私を見ても柔らかく笑うのみ。


 私はそれが堪らなく悔しくて、小さく唸っていた。


 ──その時。


 外から車のエンジン音と、石と石が擦れる音が聞こえた。


 その音を聞いた不破は、ゆっくりと立ち上がって口を開く。 



「さて、東條先輩のお母さんも帰ってきたし、そろそろ帰りますね」



 言われた途端、急に寂しさのようなものが胸中を渦巻く。

 しかし、すぐに思い直してベッドから体を起こして今日のお礼を口にした。



「……今日はありがとう。不破が居てくれて、助かった」


「気にしないでくださいよ。俺がしたくてしているだけなので」


「そう言うわけにもいかないだろう。私の体調が治ったら、何かお礼をさせてほしい」



 そう言うと、不破が何か言葉を返そうと口を開いて、噤む。

 そして、少しだけ悩む素振りをして──



「それじゃあ、体調が回復したら今度こそデートをしましょうか。その時に伝えたいことがあるので、聞いてくれると嬉しいです」 


「それって──」



 頭に浮かんだ言葉を口にしようとすると、不破が慌てて止めてきた。



「それより先を言うのは待ってください。どうせなら体調の優れず、ベッドで寝ている状態ではなく、ちゃんとデートをした上で伝えさせてくださいね。放課後のわずかな時間とはいえ、東條先輩とデートするのを楽しみにしていたんですから」


「そうだな。私も楽しみにしていたし、不破がそう言うのであればそれに従おう」


「ありがとうございます。それじゃあ、俺は東條先輩のお母さんに挨拶だけして帰りますね。今日はゆっくり休んでくださいよ」



 不破はそう言い残し、私の部屋を後にした。


 少し残念だったけど──まあいいか。

 元気になれば聞かせてくれると言うし、その時まで楽しみにしていよう。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 今回は、この作品について少し触れようかと思います。

 実はこの作品は私の最初の物語であっただけに、色々と盛り込んだものになるつもりだったのです。 

 あれも入れたいです、これも入れたい、それならあれも──と際限なく詰め込みたくなり、そしてふと我に返った時、「あ、これは今の私では書ききれないな」と。

 まあそんな感じで、色々と断念することになったわけです。

 だから、当初思い描いていたものとは違ってしまっていて、今回のこの看病編は本来存在しなかったはずなんですけど、「デート編はもっともっと上達してから書くべきだな」と思いまして、今回の物語が生まれました。

 楽しんでいただけたのならいいのですが、いかがでしたでしょうか?

 時間はかかるかもしれませんが、まだまだ物語を書いていきたいと思っておりますので、今後もよろしくしていただけますと私も嬉しく思います。

 最後に、この物語のためにお時間をいただきましたこと、感謝いたします。

 またお会いできる日を心待ちにしておりますので、その際はよろしくお願いいたします。

 それでは、また。

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