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八話 Side:クロード

第1王子、クロード視点です

 この国の第1王子である私――クロードの婚約者は、エルラルド侯爵令嬢、アリアである。 いや、こんなことを言うとおそらくアリアは「婚約する可能性が高いけど、まだ婚約発表していない関係だ!」と言うのだろう。


 たしかに私たち2人は正式な婚約はしていない。 だが、国の第1王子と、その王子と婚約してもなんらおかしくない身分である侯爵令嬢が、この年齢になって揃って誰とも婚約していないのだ。 婚約者最有力候補だといわれても当然だろう。


 それに加え、毎月のように2人で会っているのだ。 今ではほとんどの貴族は、私たちがいずれ婚約すると確信を持っている。 それは、王家もエルラルド侯爵家も同じだと思われる。


 まあ、当人であるアリアは全く気付いていないようだが。


 ちなみに、彼女の兄エドワードもまだ婚約をしていない。 彼曰く、「幼い頃の初恋が忘れられない」らしい。 いつも冷静な彼らしくなく、初めて聞いた時は驚いたものだ。


 噂に気付いていないとは言ったが彼女は別に、愚鈍であるとかいうわけではない。 むしろ、優秀な部類だ。 中等部での試験でもいつも2位から5位くらいを彷徨っていた。


 私がトップを譲ったことは今のところ無いが、アリアが本気を出したらどの程度なのかは予想がつかない。 現に、彼女がなぜか異様なやる気を見している"異文化"の分野では、私は全く勝てる気がしない。


 もちろん将来この国をまとめる者としてある程度、いやそこそこ深いところまで自分も異文化を理解しているはずだ。 けれど彼女はそのさらに上を行くのだ。


 学園のテストには、どの教科にも必ず、教師からの挑戦状かと思うような難問がある。 優秀な者が集まる特別クラスですら、1人解けるかどうかというレベルだ。


 それなのに彼女は、その特定の分野の難問だけは必ず正解しているのだ。


 なぜこの分野に執着しているのかは、全く予想がつかない。 いつか聞いてみたいとは思う。






 そんな彼女と私が初めて出会ったのは互いにまだ幼い、6歳の頃だった。


 未来の王として教育を受けてきた私は、自分で言うのもなんだがその頃から周りの子息令嬢よりも、大人びていた。 だから、自分に挨拶にくる令嬢やその親達の笑顔の裏にある欲に気付いてしまっていた。


 それに気付く程度には大人びていても、あの頃の私はまだそれに笑顔で上手く対応できる術は持ち合わせていなかった。 そのような者達が近づいてきた時には、できるだけ早く会話を終わらせ、そっとその場から離れていた。



 アリアとの茶会があると知った時、また同じような令嬢が来るのだろうと思った。


 けれどその予想は完全に裏切られた。


 違和感を感じたのは挨拶を終えた頃だった。 笑顔であるのは他と変わらないのだが、その瞳に欲だとか喜びだとかそういうものが全く見えなかった。 あえて言うなら無関心、むしろ若干の負の感情すら感じられた。


 彼女との会話は、私にとってはかなり新鮮なものだった。 媚びることも、さりげなく自身を売り込むこともしない、いたって普通な――貴族同士の他意のない茶会であれば、平凡すぎて誰も覚えていないような――会話だったのだ。


 多くの令嬢からのアプローチに辟易としていた私は、彼女が婚約者なら、ストレスも少ないかもしれないとかなり自分勝手なことを考えた。 思考を行動に移すだけの行動力があった私は、最後に令嬢の名前を確認しその足で陛下に婚約したいと伝えに行った。


 第1王子である私が望んだのだ、しかも相手は身分も問題のない侯爵令嬢、私たちの婚約の準備はとんとん拍子に進んだ。


 アリアが訳のわからないことを言い出すまでは。





 相手からもう一度茶会をしたいとの申し出があったと聞き、一度くらいならまあいいかと話に応じた。 婚約者になった途端、彼女の態度が変わるのではないかという不安を少し抱えながら。


 けれど、私の不安は良い意味でも悪い意味でも無い、明後日の方向に裏切られた。


 婚約の件、と切り出した私に対して


「婚約の発表は、もう少し先にしませんか」


 とアリアは返してきたのだ


  完全に予想の斜め上を行く言葉に一瞬回答に迷ったが、なんとか持ち直して理由を尋ねる。するとアリアは婚約発表を延期する利点について、こちらが分かるほど必死に訴えてきた。


 まるで彼女が婚約を無かったことにしたがっているかのように。


 自分以外の相手がいるのか、と疑い尋ねた質問に対する否定も嘘をついているようには見えない。 全く理解出来なかったが、彼女が必死なのがおかしくてつい折れてしまった。






 それから私たちの――主に私が彼女を理解することを目的とする――茶会もどきが、月に一度ほど開かれるようになった。


 そうしているうちに、彼女のしっかりした一面や猫と戯れ眠ってしまうような、抜けている部分に触れているうちに、どうやら私はアリアに絆されてしまったようだ。


 彼女のときどきの奇行も、今では可愛いとさえ思ってしまう。








 そして今、彼女は。


 壇上で挨拶をしている私ではなく、1人の女子生徒を熱心に見ているようだ。


 皆が私に注目しているため、1人だけ顔の向いている方向が違って目立つことこの上ない。


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